ナタリー PowerPush - banvox

1人から生まれる音楽

人と曲を作ることのよさがわかった

──そんなにリミックスの依頼が増えたんですね。

2013年は月に1~2本くらいやっていたと思います。そのうえ打ち合わせとかで人と会わなきゃいけないことも増えてきて……今まで引きこもりだったから、それでけっこう滅入ってしまって。そんな中でいろいろ考えているうちに「新しい曲をリリースしよう」って思ったんです。リミックスも制作中は楽しいんですけど、やっぱりオリジナルを作るほうが好きですから。

──打ち合わせが苦痛なんですか?

対話があまり好きじゃないんです。人と話していると会話に集中しちゃって、次のことを考えられなくなっちゃうんで。だからもし誰かをプロデュースすることになっても少し構えてしまうかもしれません(笑)。

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──でも、人と音楽を作る楽しさみたいなものもありますよね。

そうですね。今回リリースした「Love Strong」は、banvox名義のオリジナル作としては初めて人と一緒に曲を作った作品なんです。2曲入っていてどちらも女性ボーカルをフィーチャーしているんですけど、すごくよかったって思っています。

──そもそも人と一緒に物事を進めるのが嫌いなのに、ボーカルを起用した理由は?

僕って声にすごくこだわりがあって。

──かねてから声ネタを効果的に使っていますよね。

はい。でも今まで通りじゃつまらないし、これまでと違うbanvoxを見せたい……って考えていたら、歌を入れることを思いつきました。それで「この曲を誰に歌ってもらうか」って考えて、ひたすら声を探したんですね。

──いろいろな音源を聴いて?

はい。やっぱり音楽を作るには、音楽をたくさん聴かなきゃダメなんですよね。いろいろ聴いていってピンときたボーカルをメモって、候補を20人くらいに絞っていきました。その人たちにオファーをしつつ話を進めて。

──どちらの曲も、ボーカルのメロディも綺麗でしたね。

歌い方からメロディ、歌詞にいたるまで、歌に関わるところはすべてボーカリストの方に任せました。それでボーカルを乗っけてもらったトラックを聴いたら「すげえ!」って感動してしまって……これからも一緒にがんばれたらいいなって思いましたね。

──考え方がかなり変わりましたね(笑)。

そうですね、変わったと思います(笑)。人と曲を作ることのよさがわかったというか。

──ミックスも自分で?

はい。ミックスにはすごいこだわりがあって、これまで出してきたシングルとかも「マスタリングしないで」ってお願いしてきたくらいなんです。マスタリングされちゃうと別のものになっちゃうから。リミックスの仕事が苦手なのって、それも理由の1つなんです。いろいろな曲の中の1つとして自分のリミックスが収録されるから、当然マスタリングされてしまいますからね。

曲作りは自分との戦いですから

──これまでbanvoxさんはネット中心で音楽活動をしてきたわけですけど、ネットだとよくも悪くもリスナーの反応がダイレクトに届くと思います。これまで悪い反応はありませんでしたか?

ありましたよ。最初は若いってことでけっこうディスられたりして。だからその頃から年齢を非公表にしました。年齢より音楽で評価してほしくて。

──でも、banvoxさんが高校生くらいの年齢でFL Studioを手に入れたように、DAWソフトが簡単に手に入るようになって若いトラックメーカーがすごく増えていますよね。ボーカロイドのシーンを見てもそうだし。そういった今のシーンをどう感じていますか?

もちろん常に「負けてたまるか」とは思っていますよ。でもそんなに興味もないです。だからあんまり……いや、やっぱ怖いんで何も言わないです(笑)。

──何か思うところがありそうですね(笑)。

いや……(笑)。まあ、どうしてもみんなで固まって同じようなことをやりがちだなあとは思います。僕は曲を作るってことは自分との戦いだと思っているし、やりたいことを自由にやるってスタイルでやっていきたいですね。

──そういえば、さっきsekitovaさんと仲がいいって言っていましたよね?

そうですね。やっぱり僕と同じで“自分との戦い”をひたすら続けているようなところがあって。そういうストイックなところが曲からも伝わってくるんです。でも最初は彼のこと、あまり好きじゃなかったんですけど(笑)。

──そうだったんですね(笑)。

僕がネットで楽曲を発表し始めた頃、sekitovaくんがメッセージを送ってきて。そのとき彼はすでに曲を作っていて、僕よりも評価されていたんですよ。だから自分の中に嫉妬もあったんでしょうけど、何よりそういう人が最初から自分に話しかけてきたことが信用できなかった(笑)。その後も僕がSoundCloudとかに曲をアップするたびに彼は反応してきて。

──sekitovaさんはbanvoxさんの楽曲に本当に惹かれていたんでしょうね。

で、そういう彼のアプローチに僕も段々慣れていったんです。そしたらある日、sekitovaくんに「アフリカ系の音楽ユニットやろうよ」って誘われてやることになって。最初はギャグのつもりでやっていったんですけど、段々活動が本格的になっていて、今2人でやっているJamborideっていうユニットにつながっていきました。それをきっかけに、今ではずっと連絡を取り合っていますね。

自分とbanvoxって「バケルくん」みたい

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──ここまで話を聞いていると、さすがにヒップホップ好きだけあってB-BOYイズムが通っているっていうか。すごくストイックですよね。

やっぱり音楽しかないと思っているので、そこはがんばりたいんです。

──なんか息抜きとかありますか?

うーん……あ、マンガですかね。藤子不二雄とか。

──「ドラえもん」とか?

ええ。今のアニメの「ドラえもん」も録画して観ているし、昔の「ドラえもん」も観てます。あと好きなのは「バケルくん」とか「みきおとミキオ」とか。自分にとってbanvoxって「バケルくん」の人形みたいなイメージなんです。自分だけど自分じゃないものっていうか、自分じゃないものになれるっていうか。

──そうなんですね(笑)。確かに「バケルくん」のあの人形セットみたいなの、憧れます。大人、子供、動物って都合よく自分の姿を変えていけたらいいなって。

そうですよね。あとは藤子不二雄A先生の「まんが道」が大好きです。人間性とか生き方とかにすごく影響を受けていますね。

──それ、今日の話を聞いていて納得です(笑)。そういえば、1月に発表されたiTunes Storeが選ぶ「ニューアーティスト 2014」の中にbanvoxさんの名もありましたね。

うれしかったですね。親戚も喜んでいました。自分のおばあちゃんにもTwitterをフォローしてもらったりして(笑)。

──ここまで自問自答を繰り返しながら常に1人で結果を出してきて、そして今回、人と音楽を作ることのよさみたいなものを少なからず知って。それらを踏まえて、今後こうしていきたいっていうイメージはありますか?

やっぱり音楽を作っているからには、たくさんの人に聴いてほしいですね。

──それは売れたい、売れることに抵抗はないってことですか?

はい。「みんなが知っている」っていう存在になりたいと思っていますね。でもあくまで自分が自分と戦って納得できる曲を作って、その結果みんなに認められたいっていうか。そういうスタンスで活動できるようになりたいです。

配信シングル「Love Strong」 / 2014年2月26日発売 / 300円
「Love Strong」

iTunes Storeにて配信中!

収録曲
  1. Love Strong (feat. Layars)
  2. Watch Me Dance (feat. KLP)
banvox(ばんぼっくす)
banvox

東京を拠点に活動するトラックメーカー。2010年に音楽制作をスタートさせ、2011年にMaltine Recordsよりミニアルバム「Intense Electro Disco」をリリースしてデビュー。2012年にイギリスの音楽レーベルであるSurfer Rosa Recordsより「INSTINCT DAZZLING STARLIGHT EP」を発表すると、各配信サイトのチャートで上位を記録した。その後もCTS、東京女子流、Foreign Beggarsといったさまざまなアーティストにリミックスを提供するなどして才能を発揮している。2014年1月には、2曲入りシングル「Connection」を発表。また同日に発表されたiTunes Storeの「ニューアーティスト 2014」にも選出され注目を集めた。2月に2曲入りシングル「Love Strong」をリリースしたほか、3月以降に他アーティストが「Connection」をリミックスした作品や新曲のリリースを予定している。