ナタリー PowerPush - banvox

1人から生まれる音楽

最初の1年で450曲作った

──音楽制作を始めるまでは何か楽器はやっていたんですか?

やっていません。でもDJには興味があったので、安い中古のターンテーブルなどを買って日本語ラップのミックスCDを作ったりはしていました。打ち込みも独学だったんで、曲を作り始めた当初は大変でしたね。特に僕が使っているFL Studioはまだ日本語マニュアルもなかったから。

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──ヒップホップの影響が強いということは、制作にサンプリングの手法は取り入れているんですか?

エフェクトでガンガン加工したオーディオデータを素材として使うこともありますけど、ヒップホップ的なサンプリングはやっていないですね。フレーズとかも自分で作れたほうが面白いって思っているし、ビートもMIDIで打ち込んでいます。とにかくFL Studioを手に入れてからは本当にひたすら曲を作りました。最初の1年で450曲くらい作りましたね。

──450曲!? トラック制作って“曲にする”っていうのが最初の大きな関門だったりしますよね? フレーズばっかりいっぱいできて、それを曲にしていくのが大変っていうか、やり方がわからないというか。

そうですね(笑)。だから初めのうちは「まずは曲を完成させることに意味がある」って考えながらひたすら作っていました。「こういう曲にしよう」とも考えずに、ただ曲として完成させることだけを考えて。だから人に聴かせられないようなクオリティのものも何百曲もありますよ。

──そうやって作った曲を発表するようなことは?

ネットにちょくちょくアップしたりはしていました。

──1人で作っていると客観的な視点が持てないから、「これはリリースできる」「これはネットにアップできる」みたいな判断って難しいと思うんですけど。その辺りはどう判断していますか?

自分がノれるかノれないかですかね。聴いていて楽しいものになっていなければダメです。やっぱり初めのうちはそれで悩んでいましたけど、「Intense Electro Disco」を出して、自分の判断を信じても大丈夫だって思うようになりました。リリース後すぐにすごい反応があって、それで自分の環境も変わったから。

──ヒットが自信につながったんですね。

そうですね。それまでも新しい曲ができたら仲のいいトラックメーカーのsekitovaくんが聴いてくれて、それで「いいね」とか言ってくれるんですけど、それでも自信を持つまでには至らなくて。今でも「本当にこれで大丈夫か?」って自問自答ばっかりしていますけど、そういった自問自答があるからいい作品をリリースできていると思っています。

ティム・ヒーリーが「やばいじゃん!」って

──banvoxさんは2012年にイギリスのレーベルSurfer Rosa Recordsから「INSTINCT DAZZLING STARLIGHT EP」を発表しましたが、海外でリリースすることになった経緯は?

「Intense Electro Disco」が国内で……といっても本当に一部でですけど、ヒットしたっていう実感があったんです。リリースして最初の1週間とかで、全然無名だった僕のTwitterのフォロワーが1500人増えて、いろいろなメディアでも取り上げてもらって。でも「物足りないな」「なんか違うな」って思ったんです。

──違うっていうのは?

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限定的なところではなく、もっと大勢の人が聴いてくれるところに向けて曲をリリースしたくて。だから次に出すなら海外で出したほうが面白いんじゃないかって思ったんです。やっぱり海外の曲を聴いてきたってこともありましたし、より広いところに向けられますからね。それで「Intense Electro Disco」を発表してから3カ月後くらいに、新しく作った曲をSurfer Rosa Recordsを主宰しているティム・ヒーリーに投げてみたんです。

──ティム・ヒーリーはCoburnなどの活動でも知られるエレクトロハウスのプロデューサーですね。

そしたらティムから「やばいじゃん! リリースしよう!!」「これはすごい! スタイリッシュでカッコいい!」って熱いメールが英語で返ってきて。それがすごくうれしかったですね。メールの画面を印刷して部屋に飾っていますもん(笑)。それでリリースが決定して、ティムもプロモーションですごく動き回ってくれました。海外で僕の曲が広がったのは、彼の力が大きいですね。

メジャーと専属契約するのは違う

──海外で楽曲が受け入れられた要因って、自覚していたりしますか?

まあ……でも秘密にしておきます。僕、あんまり自分の曲の核心みたいなところを語るのが好きじゃなくて。

──そうなんですね。では、海外でのヒットも自信につながりましたか?

はい。海外でリリースした楽曲が話題になって、それがきっかけになって日本のメジャーレーベル7社くらいから専属契約のお話をいただきました。でもすぐに契約しないで、返事を保留にしたんですね。メジャーと契約するのは違うなあって思って。

──なぜそう思ったんですか?

やっぱり極力他人の影響を受けたくなかったから、できるだけ1人でやりたいんです。あと、メジャーと契約することで自分の見え方が変わるのが嫌だったし。だから契約の返事は保留していたんですけど、それでもリミックスの仕事をいくつかいただくようになって、2013年はほとんど仕事しかできない状態になってしまったんです。

配信シングル「Love Strong」 / 2014年2月26日発売 / 300円
「Love Strong」

iTunes Storeにて配信中!

収録曲
  1. Love Strong (feat. Layars)
  2. Watch Me Dance (feat. KLP)
banvox(ばんぼっくす)
banvox

東京を拠点に活動するトラックメーカー。2010年に音楽制作をスタートさせ、2011年にMaltine Recordsよりミニアルバム「Intense Electro Disco」をリリースしてデビュー。2012年にイギリスの音楽レーベルであるSurfer Rosa Recordsより「INSTINCT DAZZLING STARLIGHT EP」を発表すると、各配信サイトのチャートで上位を記録した。その後もCTS、東京女子流、Foreign Beggarsといったさまざまなアーティストにリミックスを提供するなどして才能を発揮している。2014年1月には、2曲入りシングル「Connection」を発表。また同日に発表されたiTunes Storeの「ニューアーティスト 2014」にも選出され注目を集めた。2月に2曲入りシングル「Love Strong」をリリースしたほか、3月以降に他アーティストが「Connection」をリミックスした作品や新曲のリリースを予定している。