3. レディーレ Prod. by 椎乃味醂 / Reol
切ないメロディと孤独な心情をつづった歌詞が奥深い余韻を残す「レディーレ」は、椎乃味醂のトラックメイキングとReolの歌によって原曲とはまったく違う表情を持つ曲に生まれ変わっている。淡々と情緒をつづっていくようなバンドサウンドの原曲は、ダブステップなどEDMを得意とする椎乃味醂の手によって、ビルドアップからボーカルチョップを用いたドロップへのド派手な展開が印象的なエレクトロナンバーに変身。2010年代のニコニコ動画で歌い手として頭角を現し、J-POPシーンに活動の幅を広げてきたReolはエレクトロサウンドの代表曲も多く、椎乃味醂との相性も抜群。音圧の高いクラブミュージックのサウンドを突き抜けてくるボーカルの強さを感じさせる歌唱になっている。
須田景凪 コメント
この曲を作っていた時期は水面下で須田景凪という名義をバルーン名義とは別に設けることを考えてました。もしかしたら自分にとってボーカロイドで出す最後の作品になってしまうかもしれないという覚悟をしながら、もし二度と帰ってこられないとしても悔いがないような曲にしようと思って書いた曲です。Reolもほぼ同じ時期に活動の幅を広げる選択をしたんですよね。当時のシーンの意味合いを同じ解像度で見ていた人だった。かつ、Reolは人間的にも音楽的にもストロングな一面を持ってる人なので、改めて彼女に歌ってもらうことによって複雑な心境の中で作ったこの曲の意味合いが変わるんじゃないかと楽しみにしてました。椎乃味醂くんの作るトラックは聴いただけでわかる哲学と情緒が伝わってくる強さがあると思います。彼独特のサウンドとReolの歌で、原曲の焦燥感みたいなものをより明確に表現してくれている印象がありました。
4. 雨とペトラ Prod. by 東京スカパラダイスオーケストラ / 高畑充希
東京スカパラダイスオーケストラと高畑充希という、ネットカルチャーとはまったく別の文脈の出自を持つアーティスト2組は、「雨とペトラ」大胆にリアレンジ。原曲は速い四つ打ちのビートとオクターブを重ねたv flowerの歌声でボーカロイドならではの表現の可能性に挑戦したような1曲。そのイントロの印象的なフレーズを生かしてスカに仕上げたアレンジはさすがの手腕。ミュージカルをルーツに持つ高畑充希の柔らかな吐息の表現力が印象的な歌声も、原曲の方向性とはまったくかけ離れた存在。しかし数々の歌モノを手がけてきた百戦錬磨のスカパラだからこそ、その歌声がバンドサウンドに自然と馴染む仕上がりになっている。
須田景凪 コメント
「雨とペトラ」はセルフカバーもせず、v flowerと楽曲のセットでいかに強度を高められるかを大事にして書いた曲でした。“歌う人”のイメージが強くなったことにもどかしい気持ちもあって、自分は音楽を作る人だというのを提示したかった曲なんです。カバーを誰にお願いするかはめちゃめちゃ悩んだんですけれど、まずこの曲にスカパラさんのサウンドが合うだろうと思って。そのうえで、誰も聴いたことのないようなものにしたいと考えました。高畑充希さんはミュージカルでも活躍されているのでストーリーのある曲を歌うのが上手な方だと思っていたんですけれど、この曲に関しては聴いてみるまで一番予想できなかった組み合わせで、化学反応みたいなのが起きたら面白いんじゃないかと思ってお願いしました。懐かしさとモダンさがすごく両立されているというか、原曲とはまた違うストーリー性を感じる曲に仕上がった印象があります。
5. パメラ / Chevon
めきめきと動員と注目を増しロックシーンの台風の目となっている札幌出身のスリーピースバンド、Chevon。谷絹茉優(Vo)の中性的なボーカル、細かい譜割りで起伏の激しい音程を跳ね回るようなメロディセンスが持ち味の彼らだが、その音楽性のルーツはボーカロイド楽曲。中でもバルーン / 須田景凪の影響は大きいはずだ。「パメラ」は須田景凪名義の活動が続く中で長らく封印していたバルーンの黄金律のようなものを、アボガド6の手がけるミュージックビデオとともに再び全開にしたような1曲。その中毒性の強さをChevonが妖艶なボーカルとアクの強いバンドアレンジでさらに増幅したような聴き応えだ。どことなく漂う和の風情もポイント。
須田景凪 コメント
須田景凪の名義での活動を始めて数年経った頃に、アボガド6さんと「ひさしぶりにボーカロイドの曲を作りたいね」という話をして、ちょうど「ボカコレ」の時期だったのでそれに向けて書いた曲でした。この曲は誰が歌っても馴染めるし、表現する人によって表情が変わるような曲だと思います。ChevonはJ-ROCKの中でも表現力も独自性も抜きん出ているところのあるバンドだと思っていて。「パメラ」は自分の中では艶がある曲なのですが、そういうところがピッタリなんじゃないかと思ってお願いしました。Chevonは世の中的にボーカルの(谷絹)茉優ちゃんの歌声が一番目立ってると思うんですけど、ギターやベースのフレーズもすごく特徴的なバンドで。2番のAメロだったり、2サビ前の間奏だったり、Chevonの色も押し出してくれているようなところもあって。何回聴いてもピッタリだなと思います。
6. WOLF / バルーン × ヒトリエ
この曲は企画アルバムの中で違った位置付けを持っている。ほかのアーティストが再解釈したバルーンの楽曲のカバーではなく、ボーカロイドが歌う「バルーン × ヒトリエ」名義の新曲だ。このコラボレーションにも大きな意味がある。須田がこの曲を作ったのは数年前。当時は今回の企画のことはおろか、リリースすることすら意図していなかったという。そのときに彼が込めたピュアな思いを形にするには、ヒトリエのシノダ(Vo, G)、イガラシ(B)、ゆーまお(Dr)の3人の演奏が必要だった、ということだ。言ってしまえばほかの5曲が「バルーンへのトリビュート」であるのに対して「バルーンからのトリビュート」とも言える楽曲になっている。
須田景凪 コメント
前にヒトリエさんと対談したとき(参照:バルーン(須田景凪) × ヒトリエ「WOLF」インタビュー)にも話しましたが、この楽曲が世に出るなら今しかないという思いがありました。ヒトリエが演奏してくれたからこそ世に出せる曲だと思います。レコーディングのときもずっと自分がイヤフォンで聴いていたヒトリエの音が目の前から聞こえてくるうれしさがありました。楽曲に対しての解釈をすごく考えてくれて、休憩時間にもいろんな会話をして。いろんなものを削って演奏に命を吹き込んでくれたのを顕著に感じました。ただ演奏にお招きしただけでなく、ヒトリエと一緒に作れた曲だと思います。そもそも大前提として今回のアルバムはカバーアルバムというよりもコラボレーションアルバムだと思っているので。そこに新曲を入れたいという気持ちもあったし、いろんなタイミングが重なった結果としてこの曲が実現した。最初からこういう構想を考えていたというよりも、一番きれいに収まる結果としてこうなった感じです。
完成した「Fall Apart」が持つ意味とは
もともとはバルーンという名義を作ってから10年ちょっと経って、キャリアを振り返ったときにボーナストラックみたいなものがあったらうれしいね、くらいの気持ちで始まった企画でした。でも、いざ完成したら予想以上に豪華なものになった。自分1人では絶対に生まれなかった価値観の幅広さを感じました。自分がやってきたことの答え合わせのようなものにもなったとも思いますし、この先、自分の背中を押してもらえるものになったように思います。
映像盤収録スタジオライブの見どころは
そもそもスタジオライブというものをずっとやりたかったというのもあるんですけれど、このアルバムの特典として、全曲を改めて自分で違う形で歌い直すほうが説得力が増すんじゃないかという考えがありました。原曲があって、カバーがあって、今の自分の新たな解釈が並ぶことによって、より曲の強度が増すんじゃないか、と。アレンジもよりミュージシャンライクなものになったと思います。例えば「パメラ」は原曲も早口でテンポが速いんですけれど、それをドラムンベースみたいな感じにしたいという発想からテンポをさらに上げてみたり。ただ原曲をアコースティックバージョンでやるということではなく、もし今自分が新たにトラックを作り直すとしたらこういうのも面白いよね、というアイデアをいろんな曲に入れられたんじゃないかなと思います。
公演情報
須田景凪 LIVE 2025“花霞”
2025年4月19日(土)東京都 日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)
須田景凪 presents“MINGLE -三面鏡-”
2025年7月26日(土)大阪府 Zeep Namba(OSAKA)
<出演者>
須田景凪 / Reol / Chevon
プロフィール
須田景凪(スダケイナ)
2013年より「バルーン」名義でニコニコ動画にてボカロPとしての活動を開始。代表曲「シャルル」はセルフカバーバージョンと合わせ、YouTubeでの再生数が1億5000万回を突破。JOYSOUNDの2017年発売曲年間カラオケ総合ランキングで1位、年代別カラオケランキングのうち10代部門で3年連続1位を獲得し、現代の若者にとって時代を象徴するヒットソングとなっている。2017年10月、自身の声で描いた楽曲を歌う「須田景凪」として活動を開始し、2021年2月にメジャー1stアルバム「Billow」を、2023年5月に2ndアルバム「Ghost Pop」をリリースした。2025年3月にdアニメストアCMタイアップソングの「ミラージュ」を、4月にバルーン名義の企画アルバム「Fall Apart」をリリース。4月19日に東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)にてワンマンライブ「須田景凪 LIVE 2025“花霞”」、7月26日に大阪・Zepp Namba(OSAKA)にて自主企画イベント「須田景凪 presents“MINGLE -三面鏡-”」を開催する。
須田景凪 / バルーン「Tabloid」 (@__tabloid) | X
須田景凪 / suda keina (@balloon0120) | Instagram