back numberが7thアルバムを全曲解説 しんどいときこそ「ユーモア」を

「添い寝チャンスは突然に」の“寿ごめんねバージョン”

──「ゴールデンアワー」は生々しいバンド感が伝わってくるロックチューンですね。

小島 3人でスタジオに入って、マイクのセッティングをしているときに、依与吏がこの曲を演奏し始めて。それに寿が乗っかって、そのまま最後までやったんですよ。2人は「よし、できそうだな」って言ってたんですけど、「あの、僕はまだ何もやってないんですけど……」って(笑)。

清水依与吏(Vo, G)

清水 そうだった?(笑) 「ゴールデンアワー」はシンプルにカッコよくしたかったんです。たくさん曲を作ってきて、いろんな知識や技術も身に付いているとは思うんだけど、この曲に関しては音を足したり、気の効いたことをやるんじゃなくて、「これがカッコいいよね」ということだけをやりたかった。そういう曲をアルバムの前半に入れられたのもよかったのかな、と。

栗原 確かにシンプルな構成なんだけど、ベースソロには時間をかけました。何パターンも試したし、ベースが主役みたいなところもありますね。

清水 うん。ただ、俺がボーカル録りでフェイクを入れてしまったから、ベースソロと被ってるところがあって。和也が「おい! ベースが聞こえねえだろ!」って……。

小島 そんなことは言いません(笑)。それぞれの濃いところが出てる曲になりましたね。

──歌詞の主人公像も印象的でした。代わり映えのしない日々を送りながらも、強い気持ちを持ちながら生きている姿は、多くの人々の共感を呼ぶ気がします。

清水 そうですね。「銀の箱」という歌詞は、通勤の電車やバスのイメージなんですけど、「スーパースター」(2011年発売の2ndアルバム)に入っている「電車の窓から」にも「銀色の電車」というフレーズがあるんですよ。主人公像はきっと同じだし、当然、俺自身や和也、寿の人格も入っていて。きっとこの人は“マジメで損をする”みたいなことも経験しているだろうし、お調子者だったり、すぐ凹むタイプなんだろうなと。踏んだり蹴ったりの日々だけど、今でも強い意志を持っているというか。

──続いては「黄色」。女性同士の恋愛を想起させるMVも注目されました。

清水 性別で区切ってほしくないという思いもあるんですよね。MVはああいう感じでしたけど、男同士でもいいだろうし、自分たちはもっとフラットな恋愛の曲として捉えているので。好きな人の心が手に入らなくて、いろいろ思い悩んでる人をそのまま歌っているだけというか。シングルとしてリリースしたのは1年以上前で、アリーナツアー(「SCENT OF HUMOR TOUR 2022」)でもやったんだけど、いまだにみずみずしいんですよ、この曲。歌っていて気持ちいいし、ずっと新鮮な感覚もあって。不思議な曲ですね。

小島 この曲を演奏するとき、すごく緊張するんですよね。依与吏のブレスが聞こえてきた瞬間、グッと緊張感が高まるというか。

清水 なんでだろう? ギターを弾かないで、歌に集中してるからかな。

小島 それもあるだろうね。ベーシストとしては、Aメロ、Bメロは弾いてなくて、サビから入るんですけどね。

栗原 サビまでサボってんの?

小島 違うよ! 弾かないという“演奏”です。

清水 ハハハ(笑)。

──そして「添い寝チャンスは突然に」はわずか1分30秒のアッパーチューンです。

清水 はい。それ以外に語ることがないです(笑)。

──(笑)。曲名、歌詞の内容もそうですけど、ある意味「ユーモア」を象徴する楽曲ですよね。

小島 シングルのカップリングにも入れられないタイプの曲ですよね。

清水 うん。やっぱり「水平線」の存在がデカかったと思うんですよね。シリアスさの度合いがすごいし、かといって、まったく説教くさくなくて。だからこそ、本気でフザける曲も入れたかったというか。最初のデモが物足りなかったので、秀吉(柿澤秀吉)を呼びました。そしたら今度は寿がガタガタ震え始めて、「このビート、僕が叩くんですよね? めっちゃ速くないですか?」って(笑)。

栗原 秀吉が送ってくれたデモのタイトルは“寿ごめんねバージョン”でした(笑)。アレンジ自体はすごくカッコよかったし、あまり得意ではないビートと向き合わせてもらえたのもありがたくて。これからもっと練習して、来年のツアーまでにはなんとか……。

清水 もうレコーディングは終わってるけどね(笑)。

「ベルベットの詩」は“ベースソング”

──「Silent Journey in Tokyo」は横揺れのグルーヴが気持ちよくて。こういうサウンドも新機軸なのでは?

清水 そうかも。俺らもすごく気に入ってますね、この曲は。

小島和也(B)

小島 アレンジは依与吏ですね。デモの段階からかなりイメージができあがっていて、それをどう再現するかを考えて。

清水 ヒップホップのノリというか、同じフレーズを繰り返すパートがあって、だんだんゲシュタルト崩壊みたいになって(笑)。寿は白目を剥いて、和也は腕がつりそうになってました。メロディがどんどん変化するから、俺はとにかく歌の練習がしたくて、3人とも大変でした。

小島栗原 ハハハ(笑)。

清水 なんていうか、今までとは違うことがやりたかったんですよね。最初はツインギターでガーッと突き進むようなギターロックにしようと思ってたんだけど、「ずっとback numberを聴いてくれてる人は飽きるかもな」と。リズムの質感を変えて、コンガやピアノも自分で打ち込んで、今の形になっていきました。レコーディングではライブでもお世話になっている朝倉真司さんにパーカッションを叩いてもらって、アレンジ、録り音、歌を含めて、すごくいい感じになりましたね。歌詞はコロナ禍のしんどい時期に書いたんですよ。愛してる人とずっと同じ空間にいなくちゃいけない。本当は素晴らしいことのはずなのに、そこでもがき苦しんでいる人を描いてみたくて。

──あの時期の閉鎖感を想起させる歌詞ですよね。「エメラルド」の官能的なリリックも、発表直後から大きな話題を集めました。2022年のアリーナツアー(「SCENT OF HUMOR TOUR 2022」)でもすごいインパクトを放っていて。

清水 そうですよね。アルバム制作の最初の段階としては、「水平線」のMVをYouTubeにアップしたのが始まりなんですけど、「エメラルド」から始まった感じもあって。アルバムの1曲として聴くと、ちょっと印象が違うんですよね。

小島 こういうサウンドも、それまではやったことがなかったんですよ。プロデューサーの蔦谷好位置さんも「back numberっぽくないアレンジにしたい」と言っていて。「世界で一番カッコいいベースの音にしようぜ」って、音作りにもこだわりました。

清水 蔦谷さんらしい(笑)。そう言えば「back numberはシンセをかたくなに入れてないけど、嫌いなの?」って言われて、「違います! やり方がわからないだけです」と答えました。

小島 シンセもそうですけど、僕ら3人以外の音もたくさん入ってますからね。

栗原 ライブでどうしようか?という話もして。ツアーを通して演奏して、全員で「エメラルド」のスウィートスポットをつかんだ感覚があったんですよね。テンポはそこまで速くないんですけど、熱く盛り上がれる曲になりました。

──そして「ベルベットの詩」。「代わりはいないと 自分の声で歌おう」というラインにグッときました。

清水 作詞に一番苦戦した曲かもしれないですね。今振り返ってみると、やっぱり「水平線」の影響だったのかなと。たくさんの人に聴かれて、評価もしてもらったことで、「違うことをやらないと、被っちゃうな」というところもあって。でも、いくら書いてもしっくり来なかったんですよ。その後もいろいろ試したんだけど、最後は「思ったことをそのまま書こう」という感じになって。余計なことを考えず、すべてを取っ払って書いたのが「ベルベットの詩」の歌詞なんです。その後、「秘密のキス」「ゴールデンアワー」と書いていくうちに、どんどん素直にシンプルになって。

──なるほど。演奏、ボーカルのテイクも生々しいですよね。

清水 自分の中で「ベルベットの詩」は、“ベースソング”なんですよ。和也が細かく刻むようなラインを弾いてくれて、そこからアレンジの方向性が見えてきたので。

小島 そうだった。

清水 当然、ベースの音自体もデカくしたかったんですよね。ドラムにも弾け飛んでほしいし、ギターもエグい音でガンガン鳴らしたくて。そのバランスを取れるアレンジャーはやっぱり亀田誠治さんだろうな、と。

解釈は二極化?「赤い花火」

──10曲目の「赤い花火」は女性目線の失恋ソングで、「胸を焦がす魔法 あなたには強くかけたのに 誰が解いたの?」という部分もそうですが、心の痛みが強く伝わってきました。

清水 自分としては、歌詞の主人公の女性は核心まで歌ってるんですよ。でも、知り合いの男のバンドマンに聴いてもらったら、「あえて最後まで言わないパターンの歌詞だね」と言われて、「え、そう?」みたいな(笑)。逆に女性からは「この人はちゃんと最後まで言ってるんだね」という感想が多いんですよ。男女差みたいなものは関係ないかもしれないけど、その違いは面白いなと。

──確かに。ギラッとしたギターの音色と16ビート的なノリを組み合わせたアレンジもいいですね。

小島 サウンドプロデュースは秀吉ですね。最初に関わってもらったのは、この曲じゃなかったかな?

清水 うん。レコーディングの直前に「この音だとダメかもね」と思って、秀吉を連れてきました。その後、アリーナツアーにも参加してもらって。

──アリーナツアー「SCENT OF HUMOR TOUR 2022」で清水さんが秀吉さんを丁寧に紹介して、秀吉さんが男泣きする場面もありました。

栗原寿(Dr)

栗原 ファイナル公演(2022年9月8日の千葉・幕張メッセ国際展示場9~11ホール公演)ですね。

清水 あのときも言いましたけど、秀吉は遅かれ早かれ、評価されるべき人間だと思っているので。

──そして「ヒーロースーツ」はアルバムの中でも際立ってポップな楽曲で。戦隊モノをモチーフにした歌詞もユニークですね。

小島 もっと収録曲の前のほうに置こうか?という意見もあったんですよ。

清水 “1曲目説”もあったよね。sugarbeansさんがアレンジした吉澤嘉代子さんの楽曲を聴いて、「この人、絶対に歌詞を読んでからアレンジしてるだろ」と思ってたんですけど、本当にそうで。「ヒーロースーツ」も、歌詞を乗せた状態のデモを渡したんですよ。最初はめっちゃ戦隊モノみたいなアレンジで、「ヤバいのが来た!」と思って。「これもいいんだけど、もう少しこんな感じで……」と戻したら、すぐに次のテイクが送られてきて、それがほぼ完成されていたんです。セルフでこの域まで行くのは無理だし、これからも長くお付き合いしたいクリエイターですね。

小島 演奏するのはめっちゃ難しいんですけどね(笑)。sugarbeansさんと直接やりとりしながら、ベースラインの動き方を確認して。あと、僕と誕生日が同じ5月16日(笑)。

清水 実は昔、原宿のライブハウスで対バンしたこともあるんですよ。

──縁があるんですね! アルバムの最後は「水平線」。2020年8月にMVがYouTubeで公開され、大きな反響を集めました。清水さんにとってはどんな楽曲ですか?

清水 そうですね……。「水平線」が今の清水依与吏にしてくれた感じがあるんですよ。2019年の「NO MAGIC TOUR」の頃から、自分はどういう人間なのか?みたいなことをずっと考えて、模索してきて。まだうまく言葉にできないんですけど、「水平線」を作ったこと、ライブで演奏することで「これが今の自分だな」と思えるというか。すごく小さいことを歌ってるようで、実はとんでもなく大きなパワーを持っていて。歌ってると心地よさを感じるし、同時に背筋が伸びますね。

小島 ライブでやればやるほど、自分の色は入れないほうがいいなと思い始めて。普段は「こういう曲なんです。聴いてください」という気持ちで演奏しているんだけど、「水平線」はそうじゃないというか。

栗原 メンバー、サポートミュージシャン、会場に来てくれた皆さんと一緒に作り上げている感覚があるんですよね。1人ひとりの中に「水平線」があって、それが1つになっていくというか。だからこそ、こんなにも大きい曲になったんだと思います。

清水 和也と寿の話はすごく合点がいきますね。「水平線」の背景や成り立ちって、話せば話すほど野暮になる気がして。さっきみたいに「あなたにとってはどういう曲ですか?」と聞かれたら、言葉が出てくるというか。

──リスナーそれぞれの感情や経験と重なっているからこそ、これほど多くの人に共有されたんでしょうね。そして2023年3月から4月にかけては初の全国5大ドームツアー「back number "in your humor tour 2023"」が開催されます。

清水 そうなんですよ。すごいですよね。

小島 (笑)。まだ「やります」って発表しただけなので。

栗原 そうね(笑)。

清水 始まるまでは他人事なんですよ。実際にステージに立ったときに初めて、「これ、俺らがやるやつだ!」って思うんだろうな(笑)。