back numberの7thアルバム「ユーモア」がリリースされた。
「MAGIC」から約4年ぶりのフルアルバムとなる本作には、シングル曲「エメラルド」「怪盗」「水平線」「黄色」「ベルベットの詩」「アイラブユー」など、喜怒哀楽が色濃く表れた全12曲を収録。メンバーが信頼を寄せる柿澤秀吉、亀田誠治、小林武史、島田昌典、sugarbeans、蔦谷好位置をサウンドプロデューサーに迎え、これまで以上に幅広い音楽性を獲得している。
音楽ナタリーでは清水依与吏(Vo, G)、小島和也(B)、栗原寿(Dr)にインタビュー。アルバムの全体像、「ユーモア」というタイトルの由来、全収録曲について語ってもらった。
最終ページではTwitterハッシュタグプロジェクト「#いつもそばにbacknumberがいた」との連動企画を展開。バンドと縁のある田邊駿一(BLUE ENCOUNT)、はっとり(マカロニえんぴつ)、吉田右京(マルシィ)、LEO(BE:FIRST)の後輩アーティスト4人にback numberへのメッセージや音楽にまつわるエピソードをしたためてもらった。
取材・文 / 森朋之撮影(P1~2) / 須田卓馬
きついとき、しんどいときにユーモアを持つこと
──ニューアルバム「ユーモア」が完成しました。感情の起伏を描いた歌詞、豊かなバンドサウンドを堪能できる素晴らしい作品ですね。
清水依与吏(Vo, G) ありがとうございます。1曲1曲に思い入れがありすぎて、曲順を決めるのが大変で。途中でわかんなくなっちゃったんですよ(笑)。なので、そう言ってもらえるのはすごくうれしいです。
小島和也(B) 自分たちとしても「いいアルバムを作れた」という実感がありますね。前作(「MAGIC」)をリリースした直後、すぐに制作に入ったので、聴いていて“昔”っていう感覚になる曲もあるんですけどね。
清水 「エメラルド」(2020年10月リリース)って、このアルバムに入るのか!とか(笑)。新曲も3年くらい前に作ってたりしますから。
小島 すでにファンクラブツアー(「one room party vol.6」)でやった曲もありますね。
清水 「赤い花火」とかね。
栗原寿(Dr) うん。とにかくいいものができたと思ってるし、早く皆さんに聴いてほしくて。人によって好きなところが違うだろうし、感想を知りたいです。
──アルバムタイトルの「ユーモア」は、いつ頃決めたんですか?
清水 けっこう前ですね。「SCENT OF HUMOR TOUR 2022」(2022年4月から9月にかけて行われた全国アリーナツアー)を回る前なので(参照:back numberアリーナツアーファイナルWOWOW放送&配信記念|ロックバンドとしての矜持を見せつけた最終公演をレポート)。
小島 決めたのは去年(2021年)じゃない?
清水 うん。アルバムの制作期間でいうと、ちょうど真ん中くらいの時期かな。この数年を語るうえでコロナは無視できないし、もちろん自分もいろんなことを考えていて……「生きていくうえで一番大事なことはなんですか?」と聞かれたら、以前は「優しさ」って答えてたんですよ。お互いに思いやりがないと生きていけないし、それさえちゃんと持っていれば、争いなんて起きないんじゃないかと。でも、その考えがかなり揺れたんですよね。もちろん優しさは大前提なんだけど、それだけでは足りない気がしたというか。そのときに「そうか、自分に必要なのはユーモアなんだ」と思ったんですよね。コロナの時期って、しんどかったじゃないですか。今も完全に終わったわけではないけど、始まった頃は何がどうなるかもまったくわからなくて。その時期に「こういうときユーモアを持てたらいいだろうな」と思ってたし、その言葉がずっと頭の中にあったんです。
──大変なときこそ、ユーモアが大事だと。
清水 そう。だいぶ前の話ですけど、中学生くらいのときにスキージャンプの原田雅彦さんをテレビで観てたら、飛ぶ直前まで周りの人に手を振ったり、笑顔で「どうも」って挨拶したんですよ。その直後にバシッとジャンプを決めた。その姿を見て、すごくカッコいいなと。俺は全然そういう感じじゃなくて、すぐ余裕がなくなるんです。きついとき、しんどいときにユーモアを持てる人に憧れてるし、そういう人間になりたいと思ってるんでしょうね。
──back numberはもともとユーモアのあるバンドだと思いますけどね。ライブでも、取り繕ったところが全然なくて。
清水 「こうありたい」というバンド像に少しずつ近付けてるのかも。以前は素の自分たちみたいなものをなかなか出せなかったので。「one room party」(ファンクラブ限定ライブイベント)に教えてもらったことも大きいですね。リラックスしてステージに立てているし、その雰囲気をツアーでも出せるようになってきたというか。ただ、弾き語りライブ(アルバム「ユーモア」リリース後に予定されている弾き語りライブ「依与吏の部屋」)はどうかな……。
小島 さっきも撮影のときに話してたんですよ。俺らもステージに上がって応援しようかって(笑)。
栗原 隣でね(笑)。
清水 それ、ジョンとヨーコの世界観だよ(笑)。客席にいてください。
「アイラブユー」は「ヒロイン」に近い
──では、アルバムの収録曲について聞かせてください。1曲目の「秘密のキス」は切なく、力強いメロディが印象的なミディアムチューンです。最初の4行(「太陽がいくつあったって 君がいないならもう rainy day 突然の英語のせいで 切実さが伝わらないね」)を聴いた時点で、つい笑っちゃいました。
清水 確かに! 自分で書いた歌詞に照れて、すぐにツッコんでますからね(笑)。シングルはシリアスな曲が多かったから、そこでやれなかったことをやろうと思って。最後に作った曲を1曲目に持ってこられたのもよかったですね。
栗原 イントロが始まった瞬間に開いていく感じがあって。アルバムのオープニングにふさわしい楽曲だと思います。
小島 曲を作り始めた段階で「1曲目にしたいね」って話してたんですよ。その後、二転三転どころじゃないほど変更したんだけど(笑)、結局、「秘密のキス」が1曲目に戻ってきて。じっくり時間をかけて作れたし、僕らとしても納得のいく楽曲になりましたね。
清水 スタジオで「ああでもない、こうでもない」ってやってたからね。2人に付き合ってもらって、歌の練習もしました。作ってすぐ(録音)もいいんですけど、この曲はしっかり自分の中に入れた状態で録音したかったので。
栗原 デモ音源のドラムの音がよくて、レコーディングの音作りもこだわってましたね。当日にドラムのヘッド(ドラムの打面や裏面に用いられる皮)を買いに行ったり。妥協せず、やれることをやろうと。
清水 自分の頭の中に鳴ってる音があったから、できるだけそれに近付けたかったんです。
──メンバーの皆さんのアレンジ力、サウンドメイクの向上を実感できる楽曲ですよね。2曲目の「怪盗」もアレンジが斬新でした。この曲、ラテンのテイストが入ってますよね?
栗原 リズムの感じはそうですね。
清水 歌詞ができてない段階、まだどういう曲になるか見えてない状態で、小林武史さんにプロデュースをお願いしたんですよ。アレンジしてもらって、Aメロのピアノを聴いたときに「これだ!」と思って、歌詞の物語が浮かんできて。音に引っ張られた感覚はかなりありましたね。
小島 この曲、エレキベースとシンセベースが両方入っているんですよ。アレンジが上がってきたときは「すごいアレンジだけど、大丈夫か?」みたいなところもありました。
清水 ベーシストだから気付くことだよね。俺らは「カッコいいじゃん!」って盛り上がってたんだけど、ふと和也を見たら「こ、これを弾くの……?」ってガタガタ震えてて(笑)。
小島 がんばりました(笑)。
栗原 確かにレコーディングは大変でしたね。ドラムのアクセントがズレたら軽快さが出ないし、かなり綿密にやってました。結果として新しいback numberが表現できたし、ライブ映えする曲になりました。
清水 うん。耳から入ってきた感覚には嘘をつけないし、「カッコいい」と思ったら、それを形にしたくて。少しでも違和感があったら、取り除かないと気が済まないんですよ。
──続く「アイラブユー」はNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」の主題歌です。
清水 もちろん朝ドラがキーワードなんですけど、曲を作っていたときは「ちょっと地味かな」と思ってたんです。でも、リリースされたあとは「そんなことないな」と感じ始めて。穏やかな曲だからこそ、長く聴いてもらえるかもしれないなと。僕らも毎朝ドラマを観ていて、すごく馴染んでいるなと思うし、何回聴いても全然飽きないんですよ。あと、ライブで歌うと印象が変わるというか、できあがったばかりの段階ではどんな曲なのかつかみ切れなかったんだけど、ステージでやると「あ、こんな歌だったのか」と。ちょっと「ヒロイン」に近いところもありますね。
小島 すごく演奏しやすいですね、「アイラブユー」は。依与吏の歌を聴きながら、シンプルにまっすぐ演奏するのが正解というか。
栗原 3人でアレンジしていた段階で、テンポ感だったり、“跳ねるか、跳ねないか”についてもかなり検証したんですよ。
清水 そうだった! 最初は壮大な感じの曲をイメージしてたんだけど、3人でやってるうちに「そうじゃないかも」と思って。レコーディングの間際になって、「跳ねたバージョンを作ったから、もう1回やらせて」ってメンバーと共有したんです。そこでしっかり確認できたから、演奏しやすさにつながってるんでしょうね。
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「添い寝チャンスは突然に」の“寿ごめんねバージョン”