BABYMETAL「THE OTHER ONE」特集|初心者でもわかるニューアルバム解説&WWEプロレスラーASUKA特別寄稿

BABYMETALが3月24日に初のコンセプトアルバム「THE OTHER ONE」をリリースした。

音楽ナタリーではBABYMETALの復活およびニューアルバムのリリースを記念した特集を展開。ライター・西廣智一によるBABYMETALの活動振り返りおよびコンセプトアルバムの徹底レビュー、そしてBABYMETAL好きのWWEプロレスラー・ASUKAによるプレイリスト&コメントを掲載する。世界を股にかけて活躍するBABYMETALの“今”を改めて知る機会になるはずだ。

レビュー文 / 西廣智一プレイリスト&コメント企画構成 / 田中和宏

コンセプトアルバム「THE OTHER ONE」徹底レビュー

BABYMETALの“正史”と“外伝”を知る

2021年1~4月開催の東京・日本武道館での「10 BABYMETAL BUDOKAN」を経て、同年10月10日をもってライブ活動を封印してから約半年後にあたる2022年4月1日、バーチャルワールド“METALVERSE(メタルバース)”を通じて我々の知らなかったBABYMETALを復元させる計画「THE OTHER ONE」が始動したことは、BABYMETALのファンならば記憶に新しいトピックだろう。そこから半年後に新たな発表があった。その内容は封印を解除するライブ「BABYMETAL RETURNS - THE OTHER ONE -」が2023年1月28、29日に開催されること、そして初のコンセプトアルバム「THE OTHER ONE」が3月24日にリリースされることだった。ついにBABYMETALが我々のもとへと帰還する。

BABYMETAL「THE OTHER ONE」ジャケット

BABYMETAL「THE OTHER ONE」ジャケット

BABYMETALは2010年の結成以降、活動を重ねるごとに日本国内のみならず、世界中から注目が寄せられる巨大なプロジェクトへと進化し続けていったことで、なかなかその歩みを止めることができなくなっていた。その影響により、「10 BABYMETAL BUDOKAN」以降の“空白の時間”は我々にとっても、そしてSU-METAL(Vo, Dance)とMOAMETAL(Scream, Dance)にとっても、BABYMETALという存在と向き合う貴重な機会になったことだろう。だからこそ、今年1月の「BABYMETAL RETURNS - THE OTHER ONE -」では改めてBABYMETALという“活動体”が我々に何をもたらすのかを、参加した者がそれぞれの中で答えを見出したはずだ(参照:BABYMETALが大歓声の中で復活!分身?クリスタル棺桶?衝撃展開で新世界へ)。

とはいえ、封印を解かれたBABYMETALが“METALVERSE”を通じて復元されていく様を、ライブ空間を通じて目撃しているような「BABYMETAL RETURNS - THE OTHER ONE -」は、ある種“いつも通りで、いつも通りじゃない”特殊な公演でもあった。奇しくもライブ前日に政府が新型コロナウイルスに対する基本的対処方針を改定し、感染防止に向けたイベントの人数上限を撤廃、マスク着用の状態であれば大声を出しての観覧も可能となるなど、いろんな奇跡も重なった2日間は、もしかしたら我々以上にSU-METALとMOAMETALが“METALVERSE”から自我=BABYMETALを取り戻す、そんな役割もあったのかもしれない。

そんな“BABYMETALを取り戻す”作業は、ニューアルバム「THE OTHER ONE」でも果敢に取り組まれている。「我々の知らなかったBABYMETALの楽曲を復元させたコンセプトアルバム」という意味合いを持つ本作では、“METALVERSE”を通じて展開された復元計画にて明らかになった、時空を超えて存在する10個のパラレルワールドが10曲の楽曲に投影。これまでの3枚のオリジナルアルバム、およびそれに伴う活動がBABYMETALの“正史”とするならば、「THE OTHER ONE」にまつわる物語の数々はスピンオフ的な“外伝”と受け取ることもできる。もちろん、“外伝”を吟味することで“正史”をより深く理解することもできるし、“正史”には見られなかった奇想天外な発見も存在することだろう。と同時に、この先に待ち受けている「3rdアルバム『METAL GALAXY』以降の“正史”」を作るうえで、この“外伝”の役割は非常に重要なものになるのではないだろうか。

BABYMETAL(Photo by Taku Fujii)

BABYMETAL(Photo by Taku Fujii)

「THE OTHER ONE」収録曲を解説

そんな重要作のオープニングを飾るのは、先の公演「BABYMETAL RETURNS - THE OTHER ONE -」でも冒頭に披露された「METAL KINGDOM」だ。この曲のテーマは“THRONE(=王位)”。最新のアーティスト写真やライブの冒頭でメンバーが腰掛けている玉座から立ち上がり、闇の世界から新たな物語の幕開けを告げる……そんな絵が想像できる歌詞と、神秘的かつドラマチックなメタルサウンドが織りなす、“再生”へ向けた第一歩にうってつけの1曲だ。

2曲目は“CAVALRY(=騎兵)”というテーマのもと復元(=制作)された「Divine Attack - 神撃 -」。初めてSU-METALが作詞に携わったこの曲は、新たな一歩を踏み出し、新たな戦いに向けて走り出すような、そんな疾走感の強い作風だ。「The time has come.」というフレーズからもBABYMETALの、そしてSU-METALの強い意志が伝わることだろう。この曲がアルバムからのリードトラック第1弾に選出されたのも、納得がいく。

3曲目「Mirror Mirror」のテーマは“MIRROR(=鏡)”。鏡を通じてリアルワールドとパラレルワールドを行き来する、あるいは鏡の向こうにいる“もう1人の自分”と対峙する。何が真実で何が幻想なのか……そういった事象に、複雑な展開を擁するプログレッシブメタル調のサウンドアレンジを前に惑わされるかもしれない。だからこそ、「幻想を越えて 自分さえも飛び越えて 新しい世界 いまここに」というフレーズが強く響く。

BABYMETAL(Photo by Taku Fujii)

BABYMETAL(Photo by Taku Fujii)

続く「MAYA」では“ILLUSION(=幻想、錯覚)”をテーマに、前曲「Mirror Mirror」からの脱却を試みる。1つひとつが独立したパラレルワールドを表現した楽曲群だが、この2曲に関してはストーリーの連続性も感じられる。いや、実はオープニングの「METAL KINGDOM」からすべての物語は地続きでつながっているのでは……とさえ思えてくるから不思議だ。ヘビーなリズムに乗せたキャッチーなコーラスと親しみやすいメロディ、そして英語のナレーションと有機性と無機質さが混在する作風も、楽曲のテーマにぴったりと言える。

アルバムの中盤に配置された「Time Wave」は、“TRANSITION(=移り変わり)”というテーマを持つ1曲。「時を超えて METALVERSE(セカイ)へ」というフレーズからもわかるように、前2曲の“真実 / 虚像”とは別軸の“過去 / 現在 / 未来”を歌うことで、“METALVERSE”内のBABYMETALがどんどんと広がりを見せていくことになる。ストレートな楽曲のテイストとSU-METALの伸びやかな歌声とが相まって、歌詞が伝えるメッセージを素直に受け取ることができるはずだ。

「Believing」でアルバムも折り返しに突入する。“INVERTED MIRROR REFLECTION(=鏡に反射する光)”をテーマに、ヘビーな音像と英詞で表現されたこの曲は、ここまで歌われてきた楽曲の時間軸をつないでいくような役割を果たす印象を受ける。リアルとパラレル、真実と虚像。あなたが信じるのはどちらだろう。

「METALIZM」では“SMOKE(=煙)”をテーマに、トライバルなリズムとエキゾチックなメロディラインが独特な世界観を作り上げる。フラッシーなギターフレーズとの相性も抜群で、パラレルワールドで展開される「THE OTHER ONE」の中では最も妖艶かつ虚像感の強い1曲かもしれない。

アルバムもいよいよ佳境に突入する。「Monochrome」では単色(=モノクローム)の世界で打ち上げられる花火を何色で描くのか、いや、何色でも描けるのではないか……そんな明るい未来を願う姿が表現される。パラレルワールドという“IFの世界”だからこそ、私たちは思いのままの未来を描けるはず……そんな前向きさが伝わる、クライマックスにふさわしい楽曲だ。

だからこそ、続く「Light and Darkness」では光と闇が表裏一体であるように、真実と虚像、過去と未来もすべて背中合わせではないのかと問いかける。エモーショナルなこの曲を通じて、光と闇が交差した先に何を見つけるのだろう。

BABYMETAL(Photo by Taku Fujii)

BABYMETAL(Photo by Taku Fujii)

アルバムの最後に配置されたのは「THE LEGEND」。BABYMETALの“正史”においてもたびたび登場する“COFFIN(=棺)”を通じて、SU-METALとMOAMETALは“METALVERSE”を飛び越え、新たな物語へと到達する。この10の“外伝”を経て迎える次の旅では、いったいどんなことが待ち受けているのだろう。そんなドラマチックな楽曲で「THE OTHER ONE」はエンディングを迎える。

シリアスなテイストで統一されたこのコンセプトアルバムは、“外伝”的作品ということもあってか、過去3作のような“おもちゃ箱”的要素は薄いかもしれない。しかし、活動10周年を経たこのタイミングだからこその、“大人になったBABYMETAL”の姿がここには確実に存在しており、その頼もしさがもたらす説得力の強さは過去イチとも言える。ここから始まる新章への通過点として、そして次章へのヒントとして、この10曲をじっくり味わってほしい。