ナタリー PowerPush - AZUMA HITOMI
la la larksと読み解く 1stアルバム「フォトン」の謎
「東京」という曲に対する思い
AZUMA 今回、「フォトン -reconstruction-」でla la larksにお願いしたのは、内村さんがエピックレコードの所属だったっていうつながりが大きいかもしれないです。la la larksはどんなバンドになるのかみんな気になってると思ったし、私もすごい気になってるんで。YouTubeに1曲だけ上がってて、それしか情報がなかったので。タイミング的に始まったばっかりのバンドだし、カバーとかをやってくれるかどうかちょっとわからないなと思いつつ、「東京」という曲をお願いしたらやってくれて、ありがたかったです。
三井 あ、HITOMIちゃんが最初にMDでくれた曲も「東京」っていうタイトルだったんですよ。僕らのバンドの。だからそれは最初、ちょっとビックリしました。だから最初は「まさか!?」って思いましたね。
クボタ ああ、そうか。またそれをやってるのかと思ったんだ(笑)。
三井 そうそう、でも、もし僕のバンドの「東京」だったらサビの出だしが「段ボールで眠る浮浪者」っていう歌ですからね。
一同 (笑)。
三井 そもそもHITOMIちゃんが中学生のときにそれを歌っていたのも、すごいんですけどね。まあ案の定、今回は全然違う世界観の曲でしたけど(笑)。
AZUMA でも、いろんなミュージシャンが「東京」っていうタイトルの曲をやってると思うんですけど、その中でも私にとってはTHE YOUTHの「東京」がすごく頭に残ってるんですよ。だから私もいつか「東京」っていう曲を書きたいなってずっと思ってたんです。
三井 いやあ、僕らの曲はもう、最終的に「ここは東京!」って連呼して終わるという曲ですけどね(笑)。
AZUMA だからこそ「東京」といったら上京してきたロックバンドの曲っていうイメージがあったんです。上京してきたバンドが、それこそ段ボールの浮浪者を見たりして、「バカヤロウ」という感じで拳を振り回しながらその街のことを歌う曲。でも私は東京で生まれ育ってポップミュージックをやっているので、じゃあどうやったら「東京」っていう曲を書けるんだろうって、やっぱりすごくTHE YOUTHの「東京」をすごく意識しました。私はやっぱり震災が起きてから、自分が東京で生まれ育って、これからもたぶん東京で生きていくっていうことにとても自覚的になったんです。そうした中で、例えば遠くに行っちゃった友達とか、遠距離恋愛をしてる相手とか、そういう大事な人たちを東京でいつも待っている。そういう気持ちが、もっとも私の東京らしいなって思いました。だから、会えなかった人に会えたときに、東京の空がきれいに見えるっていうことを一番歌いたいなって思ったんですよ。
la la larks版「東京」はいかに作られたか
江口 「東京」のアレンジをどうやって作ったか、くどくど説明してもいい?(笑)
AZUMA それ知りたいです。どうやって作られたのか。
三井 秘密が明かされるんですね(笑)。
江口 大丈夫です。全部ばらしても同じことは人にはできません!(笑) まず、原曲を聴いてテンポを変えようと思ったんですよね。HITOMIちゃんの歌をきゅっと早くして、それにあわせてだいたいのリズムパターンを打っていくんですよ。で、それができた段階でコードを付け直して。その段階でみんなに聞かせました。普段は最後まで自分でやって「じゃ、こんな感じで演奏してください」って渡すんだけど、皆様ご存じの通り、始まったばっかりのバンドだったんで、逆にメンバーからのアクションを知りたかったというのもあったんです。だからだいたいの大枠だけを作って、各メンバーに投げて、あとは「じゃ、スタジオで」っていう形にした。
AZUMA へえー。
江口 やっぱり自分が考えている部分が90パーセントを超えると、僕はあんまりバンドって呼びたくないんですよね。だから自分の提示する部分はあくまで20パーセントくらいで止めて、あとはみんながどういうふうに出てくるだろうって思いながら渡しました。思った以上のことが起こるので、面白かったですね。例えば「ターキーさんはこういうドラム叩くのかな」って思っているのと違うものが出てきたりして。それに対してケーマンさん(クボタ)がどう絡むのかとかも面白いし。そういうものをやれたっていうのはデカかったです。
クボタ まあ単純に面白かったです。原曲を聴かせていただいたあとに、江口のラフが送られてきたんだけど、原曲をまた壊すというか、変えていたので。
江口 もとの曲が「東京」なんだってわからないと嫌だなと思ったので、原曲の音符だけ拝借して、音は違うものにしてるんですよね。原曲をパッと聴いたとき、最初ちゃーんちゃーんちゃちゃーんちゃーん♪ってアコギのリフがあったんで、それを生かそうと思って。フレーズもじりでエレキに変えて入れたんですよ。
クボタ それに自分が何パターンか落とし込んで、送り返して聴いてもらう。そういうデータのやりとりで最終形に仕上がっていくんですけど、バンドだからそうなっていくんだなって思えて、やっぱり面白かったですね。原曲は、まず聞きやすかったですね。聞きやすいし、でも残るし。僕からすると凄い新鮮だった。若い人だし、全部自分でやっているわけじゃないですか。Ustreamの番組も見て「めちゃくちゃ面白い子だなあ」と思ってたんですが、それにまあ、自分が気持ちいいところを詰め込んだという感じです。
歌詞に隠された痛みと狂気
内村 私は、今回は特に歌うっていうお話じゃなかったので、みんなの作業が終わった後でコーラスを入れたんです。だから最初はずっと傍観してました。原曲はすごくいい曲だなあと思ったし、アレンジされたものも「おお、これはワクワクする」と思ったのでメインを歌いたいなあと思ってました。
一同 (笑)。
内村 と思う気持ちをグッと気持ちをこらえて、コーラスをする(笑)。原曲と、今回アレンジしたもので、感情の種類が変わっているような気がするんですよね。原曲のほうは、状況とか感情をしみじみと噛みしめている感じがある。でもアレンジされたものは、もっと感情的に、内に秘めている狂気とか、もう恋い焦がれて、ちょっとおかしくなるような感じがある。そこが私はすごく好きなんですよね(笑)。だからこういう曲、自分たちにも欲しいなあと思ったりしました。「いいなあ、いいなあ」とひたすら思ってましたね。歌詞もすごくいいなあと思って。一番好きなのは「胸をあわせた」って歌詞のところです。あそこ、好きです。
AZUMA おおー。サビですね。あそこは最後に歌詞を変えたところなんです。
内村 あ、そうなんですか。「胸をあわせた」っていうのは、ありそうでない言葉で、すごく好きです。小説とかならあるけど、歌詞だと私の中で記憶になかったので。なんだかすごく新鮮だったし、そこが一番なんか女っぽくて記憶に残りました。
AZUMA 「話したい飽きるくらい 声を聞かせて」っていう部分がサビで何回か出てくるんですけど、曲の最後のサビだけ、1行変えたいなと思ったんです。それで「夢じゃない痛いくらい 胸をあわせた」という歌詞に変えたんです。痛みみたいな感覚を、最後に少しだけ出して終わりたかったんです。だから「痛いくらい」っていうところで、ちょっと静かな狂気みたいなものを予感させてる。今回アレンジしていただいた「東京」は、そこから荒々しさとかソリッドな感じを強く出してもらえたんですよね。私が思う「東京」っていう曲から全然外れないというか、私の描いている情景を少し違ったところから見せてもらえているような気持ちになりました。原曲では狂気をほとんど見せずに終わるんですけど、今回アレンジしてもらって、そういうところがすごく鋭く際立ったなって思います。こんなふうに解釈していただけて、うれしいです。
江口 内村の一番目立ってるのは、「たい、たい」ってさ、「たい」が2回来るところだよね。「話したい」「たーい」っていうのが来る。今回、内村の声が認識できるのって、そこだけだよね(笑)。
内村 声だけでわかるのはそこぐらいです。
AZUMA 今回、la la larksがやっている曲だと思ってCD聴いてくれた人は「あれ? これ誰が歌ってるの?」みたいな感じになる気がします(笑)
江口 そう。「内村さんこんな声も出せるんだ」って言ってきたりしてね。
内村 私じゃないんですよね(笑)。私からそんな声が出たら、ビックリしちゃうんで。
AZUMA でも内村さんが歌ってないのに、やっぱり内村さんっぽいのがすごくビックリしました。ギターもドラムも同じように「ああ律郎さんだ、ああターキーさんだ」っていうふうにわかったんですけど、全体的に聴くとやっぱり内村さんの顔が浮かぶ。最初は「歌ってるのかな?」と思ってたんですけど、私のボーカルはそのまま残っているんですよね。それなのに内村さんがやっている感じがあるのがすごく不思議でした。
- ニューアルバム「フォトン」/ 2013年4月24日発売 / EPICレコードジャパン
- 「フォトン」
- 「フォトン」初回限定盤 [CD2枚組+DVD] 3990円 / ESCL-4045~7
- 「フォトン」通常盤[CD] 3059円 / ESCL-4048
CD収録曲
- にちよう陽
- 東京
- east
- かさぶたとチェリー
- 情けない顔で
- おなじゆめ
- walk
- 太陽をみていた
- 無人島
- ハリネズミ
- 破壊者アート
- きらきら
- ドライブ
初回限定盤特典CD収録曲
- にちよう陽 -さよポニぐる~ぶバージョン-
- 東京 -生演奏バージョン(コーラスあり)-
- east -YK Soul ver.-
- かさぶたとチェリー -パエリアウェスタンバージョン-
- 情けない顔で -HALMENS LIKE ver.-
- おなじゆめ -Galileo Galilei Remix-
- walk -きゃめるver.-
- 太陽をみていた -Banvox Remix-
- 無人島 -Yoshino Yoshikawa Remix-
- ハリネズミ -DJ JIMIHENDRIXXX (a.k.a. Keiichiro Shibuya) Remix-
- 破壊者アート -KASHIWA Daisuke Remix-
- きらきら -コバルト爆弾αΩ Remix-
- ドライブ -night flight remix-
初回限定盤DVD収録内容
- ハリネズミ -MUSIC VIDEO-
- きらきら -MUSIC VIDEO-
- 「じっけんじゅんびしつ」SPECIAL
AZUMA HITOMI (あずまひとみ)
1988年東京生まれのシンガーソングライター / サウンドクリエイター。小学校高学年より曲作りを始め、中学生でデスクトップミュージック制作を開始。大学進学後にライブを中心とした本格的な音楽活動をスタートさせる。2010年12月にネットレーベル「マルチネ・レコード」より初の配信音源をリリースし、2011年3月にアニメ「フラクタル」の主題歌「ハリネズミ」でメジャーデビュー。同年8月からはUstreamスタジオ2.5Dにて自主企画イベント「ひとりじっけんしつ」を定期開催するほか、2012年5月よりUstream番組「AZUMA HITOMIのじっけんじゅんびしつ」を主に自宅から配信中。2013年4月に初のフルアルバム「フォトン」をリリースした。そのライブパフォーマンスは1人でMac、エレキベース、アナログシンセ、ペダル鍵盤、自動キックマシーン、LED照明システムまでを操る形で実施。多数の機材に囲まれた独特のセッティングは「要塞のよう」と称される。
la la larks (らららーくす)
内村友美(Vo / ex. School Food Punishment)、江口亮(Key / Stereo Fabrication of Youth、MIM)、三井律郎(G / THE YOUTH、LOST IN TIME)、クボタケイスケ(B / sads)、ターキー(Dr / ex. GO!GO!7188)からなる5人組バンド。2012年結成。同年5月に初ライブを行い、以降は都内を中心にライブ活動を継続中。