三浦詩音(Azami)×NOBUYA(ROTTENGRAFFTY)「ナシをアリにする」ミクスチャーバンドに大切なもの

Azamiが新作CD「LEAP」を1月23日にリリースした。ハードコアサウンドに歌謡曲を思わせるメロディを乗せたキャッチーな楽曲と、叙情的で心を揺さぶるライブパフォーマンスで観客を魅了しているAzami。前作「DAWN」以来1年ぶりの作品となる「LEAP」には、キャッチーさは残しつつもよりヘビーな楽曲群が収められている。

音楽ナタリーでは本作の発売を記念して、三浦詩音(Vo)とROTTENGRAFFTYのNOBUYA(Vo)の対談を実施。2人に「LEAP」についてはもちろん、日本的なメロディに惹かれる理由やミクスチャーバンドとして大切なことなどを語り合ってもらった。

取材・文 / 矢島大地 撮影 / 山崎玲士

Azamiはいそうでいなかったバンド(NOBUYA)

──お二人は以前から交流を持たれていたんですか?

NOBUYA そうやな。最初に会ったのは2017年やったかな?

三浦詩音(Azami)

三浦詩音 そうですね。でもそれ以前に、NOBUYAさんがTwitterでAzamiのミュージックビデオのリンクを投稿してくれているのを見たのがきっかけだったんですよ。それでウチのレーベルのボスがNOBUYAさんと同世代の仲間だと知っていたので、ライブに連れて行ってもらってご挨拶したのが最初でしたね。それに、僕は高校生時代からROTTENGRAFFTYが大好きだったので。

NOBUYA 初めて聞いた(笑)。俺がAzamiの名前を知ったのは、友人でめちゃくちゃ音楽好きなヤツがいて、そいつが教えてくれたからなんですよね。それと近いタイミングで、Azamiのレーベルのボスが古い友人やったから音源をもらったんですよ。それで聴いてみたらカッコよかったので、TwitterでMVのリンクをシェアしたんです。

──詩音さんも昔からロットンが大好きだったし、NOBUYAさんもAzamiを即座に気に入ったと。もちろん音楽性はそれぞれ異なるわけですけど、歌謡的な要素をミクスチャーな音楽性の中でどう聴かせるかに重心があるという点は共通していると感じるんですね。お互いの音楽性に関しては、どういう印象を持っているんですか?

NOBUYA Azamiって、いそうでいなかったバンドなんですよ。例えばメタリックなリフでサビがキャッチーになるとか、ラップしまくってからサビがキャッチーになるとか、そういうバンドはいっぱい見てきて。でもAzamiって、ジャパコアの要素を多く含んだ楽曲の中でサビが超キャッチーになるんですよ。それの手法をやってるバンドは今までにいなかったんですよね。

──従来のジャパコアマナーからすれば御法度とも言われかねない楽曲展開になっていますよね。

NOBUYA そうそう! 僕らの時代で言ったら、ジャパコアの中でキャッチーなメロディを聴かせるなんてことは許してもらえなかったわけですよ。でもAzamiの世代では、僕らでは許されなかったことがOKになったんやなって。そういう時代の流れも感じたし、そこが面白かったんですよね。

詩音 ああ、うれしいです。僕からしても、ロットンはロットンでしかできないことをやっていると思うんですよ。これとこれをミックスしても成立するの?っていうものを、歌や楽曲の力で成立させている。そういう部分は僕らも持っているんじゃないかなという気がしています。

NOBUYA Azamiの音楽って“洋”の部分が一切ないよね。ハードコアって言ってもNYハードコアじゃなくて、ジャパコアの先輩たちが作ってきた世界観を受け継いでる。サビの歌い上げる部分も歌謡的で。そこでAzamiがやっていることを一歩引いて見たら、全部日本で生まれたもののミクスチャーなんですよね。やっぱりミクスチャーってどうしても洋楽からの影響を消化してきたものだと思うけど、Azamiは、全部日本のものから抽出してるから面白いよね。

詩音 確かに、日本人にしかできないことをやってるバンドだとは思いますね。やっぱり日本語しか話せないですし、伝えたいことがあるなら日本で育ってきた自分の体になじんだもので伝えたいと思っています。ロットンも、ラウドやハードコアの界隈にいながらいわゆる“ヴィジュアル系”と言われる日本特有のバンドに通ずるものを持っているじゃないですか。実際NOBUYAさんはもともとヴィジュアル系のバンドをやられていたわけで、その艶っぽい感じが歌と曲に反映されているのがすごいです。

──いわゆる“ヴィジュアル系”という呼称が生まれた1990年代の世代で考えると、やっぱりルーツは歌謡曲から連なるJ-POPにありましたよね。

NOBUYA そうなんですよね。僕の1つ上の世代で言うとL'Arc-en-Cielや黒夢がいて、そのさらに上の世代にはX JAPANやBUCK-TICKがいた。で、その上の世代を考えたら、ぶち当たるのって西城秀樹だったりジュリー(沢田研二)なんですよ。それって、聴いてたらけっこうわかりやすくて。ビブラートを何回まわしするとか、そういうこだわりの部分に出てるんですよ。で、その世代の人たちもKissやMetallicaを聴いてたと思うんですよ。つまりヴィジュアル系と言われていた人たちもいろんな音楽を聴いたうえで日本のロックに落とし込むことをしていたからこそ、彼らが鳴らす音が新しくなって、受け継がれてきたと思ってて。それを下の世代の俺らなりに咀嚼していくのも楽しかったし、そのうえで自分たちにしかできないことはなんなのかっていう模索はメンバー全員でずっとしてきた。

ジャンルの架け橋になりたい(詩音)

詩音 世代的には、ジャンルで括れないものを作りたいっていう気持ちも強かったんですか?

NOBUYA それは強かったと思う。いわゆるヴィジュアル系のシーンも好きやったけど、ヴィジュアル系のバンドをやっつけにきてるハードコアの先輩も同じ空間にはかなりいたし。だから、どこか1つのシーンだけで固まることがなく、お互いにバチバチやってたと思うねん。そこで育てられてきてるから、それぞれのシーン同士のバイオレンスな感じの中でいろんなものを混ぜたいって思っていたバンドは多かった気がするね。

──パンクもラウドもヴィジュアル系も頑固な音楽性と精神性があると思いますけど、だからこそぶつかり合って、誘爆し合って混ざっていったと。YouTubeやサブスクリプションサービスの恩恵を享受してきた今の世代では当然のようにミクスチャーな感覚を持ったバンドが増えていますけど、それ以前に、自由なジャンル越境が起こっていた世代ですよね。

NOBUYA(ROTTENGRAFFTY)

NOBUYA そうだと思う。俺らのときはもっと「やっつけてやろう」っていう気持ちの中でぶつかり合って、混ざっていった感じでしたね。そのバイオレンスな感じを語り継ごうとは思ってないですけど、受け継がれてきたものに対するリスペクトは大事にしたいと思ってて。

詩音 でも、音楽に壁はないけど、どうしてもジャンルの壁っていうのはいつまでもあるなあと思っちゃうんですよ。で、それがあるうえで、僕らみたいに「ハードコアも歌も大事にしたい」と思うバンドがいれば、各世代と各ジャンルの架け橋になれるんじゃないかと。僕らの世代は音楽をすごく自由に聴いてこれたし、ジャンルとジャンルをつないで架け橋になれる可能性がたくさんあると思うんですよ。知らない音楽、知らないシーンをお客さんに伝えていけるような、そういうバンドになりたいですね。

NOBUYA そういう気持ちは俺らにもあるし、すごく共感する。ジャンルなんて関係ないけど、でもやっぱり壁は高いから。まあ俺は、ライブで「ジャンルの壁なんてぶっ壊す」って言ってるバンドには少し疑問があるけどね(笑)。

詩音 え、それはどうしてですか(笑)。

NOBUYA だって、どうして音楽のジャンルが生まれてるかって言ったら、それぞれのシーンごとにピュアな正義があるからやんか。だから壁はあると思うし、その壁をぶっ壊してやる!なんてステージで言ってしまうことで大事なものに傷を付けられた気になるヤツもいると思う。もちろんジャンルとジャンルがつながって面白いものが生まれていくわけで、そこにはリスペクトがないといけないよね。僕らが毎年年末にやっている「ポルノ超特急」っていうイベントにもいろんなジャンルの人を呼んでるけど、ステージで簡単に「ジャンルの壁を壊す」と言うよりも、イベントや対バン、姿勢でちゃんと見せていくべきやと思う。日本のロックバンドとして闘っているのは、ジャンル関係なく通ずる部分やと思うし。

日本の音楽独特の陰湿さに惹かれる(詩音)

──お二人にとっての“日本のロックバンド”のプライドはどういう部分だと思いますか?

詩音 僕らの世代は洋楽も邦楽も隔たりなく聴けるようになってますし、自然に海外も視野に入れて活動しているバンドが多い。僕自身も中国とフィリピンとスペインと日本の血が混ざっていて、英語が自然に聞こえてくる環境でも育った。だからこそ、それぞれが育ったルーツや国を誇ることが一番カッコいいんだっていう気持ちが強いし、僕の場合はそれが日本なんです。もちろん言葉は大事ですけど、それを超越するライブの熱量とか感覚もあると思う。例えばCapsizeっていうバンドを海外から招聘して対バンしたときも、言葉は通じないのに「Awesome!」って言ってくれたこともあったんですね。言語がどうとかよりも、やっぱり自分たちのルーツとか信念を貫いてライブをやっていくことが最終的には一番伝わるんだって実感しました。

NOBUYA それに、海外のロックに比べたら技術や見せ方は劣ってるかもしれないけど、やっぱり日本のバンドには日本のバンドにしかない強烈なメッセージと信念があると思う。このネット社会やサブスクの環境で言ったら、音源や楽曲が海外の人にすぐ届く可能性がある。だけどそれ以上に、これだけ汗まみれで闘っている日本のロックバンドの中で一番になりたいっていう気持ちはかなり強く持ってるかな。

詩音 これは言葉が合っているのかはわからないんですけど、やっぱり日本の音楽とかバンドには、独特の陰湿さがあると思うんですよ(笑)。

NOBUYA ははははは、わかるわかる。

詩音 ドロッとした感じ、禍々しい感じというか。ダークだったり、ラウドだったりする音楽はいろんなところにありますけど、ドロドロした怖さとか泣きの部分っていうのは日本特有だと思うんですよね。それに僕らもロットンも、そのドロッとした部分に惹かれてる気がして。

NOBUYA そうかも。俺らはギターのKAZUOMIがメインのコンポーザーなんやけど、曲が上がってきてから、じゃあどの曲を推そう?ってなったときには……確かに、メジャーコードの曲は選ばないね。これは今、話してて改めて気付いたんやけど(笑)。それよりも、噛みしめるようなメロディだったり刹那感だったりが自分たちの真ん中、って潜在的に自覚してるのかもしれない。

Azami「LEAP」
2019年1月23日発売 / MAD TRIP TRAX
Azami「LEAP」

[CD] 1944円
MADCD-1007

Amazon.co.jp

収録曲
  1. DAWN
  2. Signal
  3. リップサービス
  4. マニピュレート
  5. Prayer
  6. Over
  7. Torch
Azami(アザミ)
Azami
三浦詩音(Vo)、加藤航(B)、関普円(G, Cho)、中川智伸(G)、河野大夢(Dr)の5人からなるハードコアバンド。2013年に埼玉県越谷市で結成された。2015年10月に1stミニアルバム「Lilac」を発表。レコ発ツアーを行いながら、Crystal LakeやMEANINGといった先輩バンドのツアーにもゲストとして出演し、全国でその名を広める。2016年には「SUMMER SONIC 2016」「Bloodaxe Festival2016」に出演。2017年8月にミニアルバム「DAWN」を発表し、2018年には「百万石音楽祭」「SUMMER CAMP 2018」など大型フェスにも出演する。2019年1月にミニアルバム「LEAP」を発表した。
ROTTENGRAFFTY(ロットングラフティ)
ROTTENGRAFFTY
NOBUYA(Vo)、N∀OKI(Vo)、KAZUOMI(G, Programming)、侑威地(B)、HIROSHI(Dr)により1999年に京都で結成されたロックバンド。パンクやラウドロック、打ち込みなどさまざまな要素を取り入れたミクスチャーロックサウンドが魅力で、関西を中心に精力的なライブ活動を行う。2001年2月にミニアルバム「RADICAL PEACE×RADICAL GENOCIDE」をリリース。2003年3月発売のミニアルバム「SYNCHRONICITIZM」ではIKUZONE(Dragon Ash)をプロデューサーに迎え、楽曲に更なる厚みを加えた。同年11月にシングル「悪巧み~Merry Christmas Mr.Lawrence」でメジャーデビュー。その後も数々の作品を生み出し、2006年にJ(LUNA SEA)が立ち上げた新レーベル「INFERNO RECORDS」に移籍。シングル「マンダーラ」をリリースした。その後、2010年に約4年ぶりとなるアルバム「This World」を発表し、ロックファンに健在ぶりをアピール。2011年にはベストアルバム「SILVER」「GOLD」を発表、レコ発ツアーは各地でソールドアウトとなる。2013年にリリースした5thアルバム「Walk」がバンド史上最高セールスを記録。約8カ月にわたる全国ツアーも大成功に収めた。2018年2月に6thアルバム「PLAY」を発表。2019年に結成20周年を迎える。