三浦詩音(Azami)×NOBUYA(ROTTENGRAFFTY)「ナシをアリにする」ミクスチャーバンドに大切なもの

ステージで輝くバンドが一番カッコいい(NOBUYA)

──メロディに必ず泣きと叙情が宿るのは両バンドの共通項だと思うんですけど、それはどういう本能なんだと思います?

NOBUYA それがわからないんですよね。なんでしょうね?

詩音 でも「金色グラフティー」なんてまさに、三味線っぽい音色も入ってくるし、切ないメロディですよね。それもやっぱり日本の歌謡曲とかJ-POPを聴いてきたから出てくるんですかね。僕も昔は民謡とか三味線をやっていたので、ああいう旋律に惹かれるところはあると思うんですけど……あと、Azamiで言ったら5人とも人間性が悲しいんじゃないですかね。表向きはパーティーピーポーでも、家帰ったら全員体育座り、みたいな(笑)。

NOBUYA ははははははは!(笑) いやいや、Azamiは近年接してきたバンドの中で一番突っ込みが激しかったで? 「僕です! よろしくお願いします!!」みたいな感じで俺のとこ来たやん(笑)。

詩音 奥底にあるものはけっこう暗いんですよ(笑)。

NOBUYA それに、俺らの場合はもう1人のボーカル(N∀OKI)のほうが親しみやすい感じで、みんなまずはそっちに話に行くことが多いと思う。俺はそれを遠巻きに見てるんやけど、詩音たちはいきなり俺のほうに突っ込んできたもん(笑)。

詩音 はははは(笑)。自分が育って来たシーンが、いわゆる怖そうに見える人たちがたくさんいるところだったんですよ(笑)。だからこそ、怖そうだったり近付きにくかったりする方って、ただ怖いんじゃなくて一本筋が通っている人が多いし、実は愛情深いって体感してきたので。

NOBUYA そうやね。やっぱりパンクやラウドのシーンって、怖さが9割あったとしてもその奥にデカい愛を持ってる人が多いから。

──愛するもののために怒ったり怒鳴ったり闘ったりしている音楽ですよね。

NOBUYA まさにそうやと思う。まあ、表向きバイオレンスなところがあるのはそうやと思うし、それは今の時代に合わないものなのもわかってるんですけど。でも、僕はステージでは輝くバンドが本当にカッコいいと思うんですよ。その考え方は絶対に時代に合ってないけど、改めて表明したいところですね。

詩音 Azamiもそういう考えですね。欲望にも愛にもあまりにも正直で、それがステージでの表現になるというか。それが人間っぽいと思うし、直情的な音楽で叫んだり吠えてたりしている人には人間臭くて人懐っこい人が多いなあって思うんですよ。

自分の弱さを受け入れるために叫んだり歌ったりしているのかも(詩音)

──まさに、両バンドのメロディや泣き感って、人を求めて泣いている赤子のような人懐っこさに近いと思うことが多いんですよね。

NOBUYA それ、すごいわかるわ。やっぱりね、やればやるほど、自分が何を歌いたいか、なんのために吠えてるのかって考えることが増えていくんですよ。そう考えたら、「1人じゃないからね」とか、「共に行こうぜ」とか、そういうところに行き着くことが増えてきて。経験して、出会いを重ねて、そのうえでそういうことを素直に歌えるようになってきたというか。何に対して怒ってんねんってワケがわからないまま吠えることもたくさんあったけど、それと同時に、「1人で生きるのはやっぱり寂しいから、俺の部屋に集まってよ」っていう気持ちは常に持ってたと思うし、だからこそ「俺を見つけてくれ」と怒り続けてた気もして。で、そこに集まってくれた仲間に「お前は1人じゃないぞ」ってなぜか上から言うっていう(笑)。

詩音 (笑)。でも、僕は今のところ怒りから歌が出てくることが多いかも。特に今回の「LEAP」という作品は怒りで書いた曲が多い気がしますね。

NOBUYA ははははは(笑)。

──歌詞を書いたり歌ったりするのは、自分の情けなさや不甲斐なさを自分で受け入れていく行為に近いんですか?

詩音 ああ、そうだと思います。やっぱり自分の中のカッコ悪さを受け入れるのは誰でも苦しいと思うんです。自分が情けないとかダサいと感じたときって、身の毛がよだつくらい苦しいじゃないですか。「どうして決められないんだ?」とか、「どうして楽をしようとしてるんだ?」とか。そういう弱さを自分で受け入れるために叫んだり歌ったりしているのかもしれないですね。特に「LEAP」ではそういう歌が多くなった気はしています。

ウワー!と吐き出していた頃の自分を取り戻せた(詩音)

──「LEAP」は、よりストロングスタイルなハードコアとキャッチーなメロディのなじみ方がすごくスムーズな楽曲が増えた作品だと感じました。叫びとメロのコントラストが面白さになっていたのが前作までだとしたら、その両方が一線上で気持ちよく接続されるようになってきたなあと。

詩音 そうかもしれないですね。前作の「DAWN」って、自分たちのキャッチーな側面がモロに出てきた作品だと思うんです。それを、よりヘビーな楽曲の中で改めて出せたのが今作かなと。「DAWN」以前はもっと怒ってたし、もっと獰猛な楽曲が多かった。その頃の自分たちと「DAWN」以降を掛け合わせることができたっていう感覚かもしれないですね。とにかくウワー!と吐き出していた頃の自分も今また取り戻せたという。

NOBUYA 取り戻せた?

三浦詩音(Azami)

詩音 そうですね、自分に向き合ったり対話することが多くなったからだと思いますね。今までは、自分のことから目を背けがちだったと思うんですよ。だけど、作品を出してライブをやればやるほど、自分の足りなさとか不甲斐なさが見えてきて。だからこそ、これまでならワケもわからず怒っていたものも、それがどんな怒りなのかが自分の中でハッキリしてきたと思う。自分に向けて怒っている、だからこそ人に対して何を怒っているのかも見えてくるというか。それが曲や歌にも出ているのかもしれないです。

NOBUYA やっぱり、俺も怒りはいまだにあるよ。それも結局「俺はここにいる。なんで見つけてくれへんねん」っていう怒りだと思ってて。特に5年くらい前は怒りが強かったし、あとは周囲に対する感謝くらいしかエネルギーがなかったと思う。でも、例えば2018年は全国52カ所のツアーもやって、武道館公演もやり、そういう激動の活動の中で「全部楽しまないともったいない」っていう気持ちがようやく生まれてきたところ。自分が一番楽しまないと、目の前の人も楽しくないんやなって。これが人に対する愛情なのかはわからないけどね。

詩音 ああ……僕は、怒りの奥には愛情が必ずあると思うんですよ。だって、本当に嫌いな人間に対しては、怒る必要もないですよね。なんで怒るかって、その人やその事象が1%でも好きだからだと思うんですよ。そいつのことが好きだから「おい!」って言いたくなるし、自分をあきらめたくないから自分にも怒ってる。だから根底には必ず愛があると思うんですよね。好きな人に「最高に好きだ」と言えるのも、「お前に感謝している、お前が好きだからこそ、厳しいことも言うぞ」と言うのも、倒錯しているように見えるけど一緒のものとして歌ってきたのがパンクという音楽だと思います。

NOBUYA 確かに、そういう感情は両方持ってるよな。

──そういう倒錯したものを同じものとして表現しようとすると、人懐っこさもエグさもヘビーさも渾然一体となったミクスチャーになっていくのかもしれないですね。

NOBUYA 確かに、精神的にも相当ミクスチャーでグチャグチャなのかもね(笑)。さっき「これまでは怒りと感謝が原動力やった」って言いましたけど、バンドや音楽って、それを一緒に伝えられるからいいと思うんですよ。そういうまっすぐな感情を表現することで生きているというのは、自分にとっての誇りですね。

Azami「LEAP」
2019年1月23日発売 / MAD TRIP TRAX
Azami「LEAP」

[CD] 1944円
MADCD-1007

Amazon.co.jp

収録曲
  1. DAWN
  2. Signal
  3. リップサービス
  4. マニピュレート
  5. Prayer
  6. Over
  7. Torch
Azami(アザミ)
Azami
三浦詩音(Vo)、加藤航(B)、関普円(G, Cho)、中川智伸(G)、河野大夢(Dr)の5人からなるハードコアバンド。2013年に埼玉県越谷市で結成された。2015年10月に1stミニアルバム「Lilac」を発表。レコ発ツアーを行いながら、Crystal LakeやMEANINGといった先輩バンドのツアーにもゲストとして出演し、全国でその名を広める。2016年には「SUMMER SONIC 2016」「Bloodaxe Festival2016」に出演。2017年8月にミニアルバム「DAWN」を発表し、2018年には「百万石音楽祭」「SUMMER CAMP 2018」など大型フェスにも出演する。2019年1月にミニアルバム「LEAP」を発表した。
ROTTENGRAFFTY(ロットングラフティ)
ROTTENGRAFFTY
NOBUYA(Vo)、N∀OKI(Vo)、KAZUOMI(G, Programming)、侑威地(B)、HIROSHI(Dr)により1999年に京都で結成されたロックバンド。パンクやラウドロック、打ち込みなどさまざまな要素を取り入れたミクスチャーロックサウンドが魅力で、関西を中心に精力的なライブ活動を行う。2001年2月にミニアルバム「RADICAL PEACE×RADICAL GENOCIDE」をリリース。2003年3月発売のミニアルバム「SYNCHRONICITIZM」ではIKUZONE(Dragon Ash)をプロデューサーに迎え、楽曲に更なる厚みを加えた。同年11月にシングル「悪巧み~Merry Christmas Mr.Lawrence」でメジャーデビュー。その後も数々の作品を生み出し、2006年にJ(LUNA SEA)が立ち上げた新レーベル「INFERNO RECORDS」に移籍。シングル「マンダーラ」をリリースした。その後、2010年に約4年ぶりとなるアルバム「This World」を発表し、ロックファンに健在ぶりをアピール。2011年にはベストアルバム「SILVER」「GOLD」を発表、レコ発ツアーは各地でソールドアウトとなる。2013年にリリースした5thアルバム「Walk」がバンド史上最高セールスを記録。約8カ月にわたる全国ツアーも大成功に収めた。2018年2月に6thアルバム「PLAY」を発表。2019年に結成20周年を迎える。