Awesome City Club|新体制初のアルバムで届ける 試練を乗り越え育てた思い

クラブやライブハウスへの愛

──ちなみに3人編成になったことで、曲作りの段階ではバンドサウンドを意識しなくなりましたか?

atagi 曲にもよりますが、基本的にはそうかもしれないです。特に今回は、ギター1本で作ってみることが多くなりました。すごくミニマルなところからスタートしたというか、究極的にはコードとメロディ、それから簡単なリフやリズムさえあれば、あとは「どんなアレンジが乗ってもいい」くらいの自由な気持ちで作っていたかもしれないです。

──「湾岸で会いましょう feat. PES」は、どのようにして生まれた曲ですか?

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atagi まずは「PESさんと一緒にやりたい」というところからスタートしました。アルバムの中にこういう曲がないと寂しいというか、ちょっとしたスパイス的な役割を担ってくれたと思います。自分がラップするリリックは自分で書いて、みたいな。そういう曲をやってみたかったんです。遊び心もたっぷりで、ここまで振り切ったパーティーソングが書けたのはPESさんのおかげですね。

──「人混み泳ぐ」や、「騒ぎまくっちゃって 僕らの距離は縮まる」「Awesome やっちゃって 僕らまたひとつになる」といったフレーズは、コロナ禍で人と人とが密になれないからこそ、あえて入れたのかなと思いました。失われてしまった思い出を書き換えてくれるような、そんなポジティブなパワーもありますよね。

PORIN 実はPESさんとも、「この時代にこういう曲ってどうなんですかね?」という話になったんです。でも、今おっしゃっていただいたように、「曲の中で夢見るくらいいいじゃん」って。結果的にそういうメッセージも含まれたと思います。

atagi あと、この曲の裏テーマとして「クラブやライブハウスへの愛」も含まれていて。歌詞に出てくる「東京コースト」は、PESさんとの出会いの場でもあり、僕らがワンマンなどやらせてもらっているSTUDIO COAST (東京・USEN STUDIO COAST)のことなんです。あの場所を特別に思っている人はたくさんいるだろうし、ちょっと前までありふれた日常だったことを、今このタイミングで歌にしておきたくて。「あの頃はよかったね」というような懐古主義的な気持ちとはちょっと違う、自分たちの大切な場所へのエールを込めた曲にもしたいなという気持ちがありました。

ありのままでいたいという決意表明

──今回、PORINさんは共作を含め4曲の歌詞を手がけています。中でも「僕らはこの街と生きていく」は、バンドに対する熱い思いがつづられていて、前作に収録された「Okey dokey」の続編的な意味合いもあるように思いました。

PORIN 「僕らはこの街と生きていく」というタイトルはけっこう前から考えていたのですが、それを今回使いたくて。そこから歌詞を考えていきました。バンドに対して「自分はドライなのかな」とずっと思っていたんですけど、意外と熱い気持ちがあることに自分でも驚いてます(笑)。

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──「花咲くその時 このままで ありのままでいたい」というラインは、これからのAwesome City Clubのあり方についての決意表明にも取れます。

PORIN ありがとうございます。今、バンドに新しい波が来ている感じがすごくあるんですよ。なんていうか、今までになかった心境が、自分の中に生まれている感じがしますね。今までがむしゃらに進んできたことで、なんとなく次のフェーズが見えてきたような。それはうれしい反面、怖さもあって。きっと、環境が大きく変わればうれしいことも悲しいこともあるんだろうなと。そんなときでも自分はありのままでいたいという決意表明を、ここで書いておきたかったんですよね。

──アルバム最後に収録された「夜汽車は走る」のアレンジは、モリシーさんですよね。

モリシー もともとこの曲は2年くらい前にあって。ツアーのときにアンコールでatagiが弾き語りで披露していた曲なんです。僕自身、すごく思い入れのある曲だったので、アレンジのイメージはすんなり湧いてきました。ナイロン弦のガットギターをフィーチャーし、最小限の楽器で柔らかい雰囲気を出して。atagiが缶ビール片手に電車に揺られている絵が浮かんできたらいいなと。彼はアレンジに関してけっこうシビアなタイプなんですけど(笑)、この曲に関しては珍しく一発でOKをもらいましたね。

PORIN モリシーらしい曲になったよね。

atagi うん、めちゃくちゃよかった。実はこの曲、自分でアレンジしてみようと取り組んでいた時期もあったんですけど、納得いかずに途中で放り出したままだったんです。でも、今のバンドの温度感なら形になるんじゃないかと思って彼に頼んだら、過不足のない絶妙なアレンジをしてくれました。

自然体なアルバム

──前作「Grow apart」では、半分近くの曲のアレンジをESME MORIさんが手がけていたのもあり、ある意味MORIさん色の強いサウンドでした。それに対し、本作「Grower」は本当にさまざまなタイプの音が入った、非常に振り幅の大きなアルバムになりましたよね。しかも、どの曲も非常に成熟しているというか。

atagi 自分たちでも、知らず知らずのうちに大人になっているんだなと思いました。自分たちの居心地のいい収まり場所みたいなものを、ちゃんと大事にしながら作れたアルバムなんじゃないかなと。「自分たちってこういうのが好きなんだよね」「こういう部分がしっくりきてるんだよ」みたいなアティチュードを、押し付けがましくなくサウンドに乗せられたというか。

モリシー そうだね。自然体なアルバムという感じがする。

PORIN 今までで一番スムーズに制作できたアルバムだったかもしれない。「勿忘」は気負いがあった分時間もかかったけど、それ以外はスッと生まれてくれた曲たちがそろっていて。最初から通して聴くとすごく大人っぽい雰囲気もあるし、この暗い世の中にうまくフィットするような、ほんの少しの希望も感じさせられるような作品に仕上がったと思っています。

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