Atomic Skipperインタビュー|「正解は1つじゃない」4人で演奏する意味を見出した新作「KAIJÛ」 (3/3)

流行り廃りが出てきそうな言葉は極力使わない

──「メイビー」「INORI」の歌詞には、随所で音楽やライブを想起させる描写がありますね。書くうえでどのような視点をお持ちになりましたか?

神門 「人間讃歌」の曲たちをライブで披露すると、その日のなきゃのの歌や直前のMCによって歌詞の解釈が変わるんです。それがすごく面白いなと思っていたので、「メイビー」と「INORI」では、サウンド面と同じく歌詞でも今のご時世っぽい言葉や流行り廃りが出てきそうな言葉は極力使わないようにしました。2021年の歌ではなく、どんな時代に聴いてもそのときの自分なりの解釈ができる言葉を選びたかったんです。これも1つの“改重”だと思っています。

──「INORI」の歌詞には“怪獣”というワードが出てきますね。

神門 この“怪獣”は自分の内面のことを書いたものですね。僕は固定観念にはまった曲作りをしたくないけど、音楽には大昔の頭のいい人たちが作った正解があるとも感じていて。となると、あと音楽をやるうえで必要なものは人間性なのかなと思ったんです。だからこそ俺の人間性が終わってたら俺らの音楽も終わっちゃうのかな……とネガティブな思考に陥る時間が増えて。

神門弘也(G, Cho)

神門弘也(G, Cho)

──先ほどおっしゃっていた「このバンドでやりたい曲ができない半年間」の頃の話でしょうか?

神門 そうです、そうです。自分に潜んでいる強迫観念を“怪獣”と捉えて書きました。「限りある正解の範囲内で 新しいを貪る まるで 怪獣になったみたいだ」という歌詞は、新しい音楽を聴けば聴くほど自分の首を絞めることはわかっているのに、どうしても新しいものを聴かないと曲作りが進まない自分が嫌でその思いを言葉にしました。4曲の中で唯一自分の個人的な気持ちをめちゃくちゃ色濃く書いた部分ですね。

──ポップなテイストのラブソング「幻になって」の、「バンドの歌詞」や「僕の歌」という歌詞を見ていると、この曲も神門さんご自身が主人公なのかなと感じました。

神門 あははは、そのあたりは濁しておきます(笑)。けっこう前からある曲だし、歌詞から書き始めた曲でもあるし、4曲の中で唯一ラブソングなので毛色が違いますよね。過去にリリースしたラブソングは2曲ともバラードなので、3曲目もバラードだと重いよな……と思ってアッパーなアレンジにしました。

久米 この曲はほかの3曲とは別で、レコーディングして、なきゃのの歌が重なって、コーラスを入れてミックスとマスタリングをしてようやく完成した感覚がありますね。レコーディングしている段階で、僕らは完成図がはっきり見えていなかったんですが、完成してからは聴けば聴くほどめっちゃいい曲だなと思っています。

松本 完成したものを聴いて「自分がレコーディングしたものがこう仕上がってるんだなあ」とすごく新鮮な感覚を覚えました。タイトルが決まったのも歌入れの直前だったし。ライブで演奏を重ねていったら、新しく見えてくるものがあるのかなと思ってます。

松本和希(Dr)

松本和希(Dr)

──中野さんはラブソングを歌うときに心がけていることは?

中野 やっぱり誰かのことを思いながら歌う瞬間が多いですね。そうするとどうしてもかわいくなってしまったりもするから……ロックバンドとしての芯の太さを残すためにもかわいくなりすぎないように気を付けてます。歌録りの直前で「幻になって」というタイトルを聞いて、そこで自分の中でゴールが見えましたね。タイトルを直前に聞いたことも、歌い方に影響していると思います。

神門 それにしても、自分の好きな女の子のことをほかの女の子に歌わせてそれをリリースしてると考えると、だいぶ俺ヤバいですよね……(笑)。

中野 わざわざ冷静に言語化しなくても(笑)。

神門 なきゃのが歌ってくれるから、個人的なものではなく普遍的な曲になってると思います(笑)。全曲そうやってみんなのブレーンやセンスが入ることでできた曲だし、僕は1人で圧倒的なものを作る天才ではないんですよね。メンバーそれぞれの人間味が感じられる音楽を残していけたらと思います。

過去の気持ちを掘り起こした「KAIJÛ」

──「優しい世界」はAtomic Skipperらしさを詰め込んだ、ライブで映える楽曲だと感じました。

神門 自分たちのライブの定番曲である「幸福論」をやらないライブのセットリストを作るなら、どんな曲が必要だろう?という発想から作ったんです。今回の曲たちは、過去曲の「幸福論」「ロックバンドなら」「スーパーノヴァ」を超えるというか、踏襲したものを作りたい気持ちが強くて。だから「メイビー」は「幸福論」と同じキーだし、「優しい世界」の歌詞は「幸福論」を意識させる書き方をしたんですよね。「KAIJÛ」で過去の気持ちを掘り起こしたというか。

──それこそ“改重”する楽曲であると。

神門 あとは「懐柔」ですね。自分の中にあるとげとげしたものをちゃんと手懐ける。「メイビー」と「INORI」は自分を成長させるための曲で、「優しい世界」は「そのままで大丈夫。後悔もあるかもしれないけど、そのままの姿が人間らしいんじゃない?」となきゃのに歌ってほしかったんですよね。なきゃのは「あのときああ言っておけばよかった」と引きずっちゃうことが多いから。

中野 「優しい世界」が歌っていて一番しっくりくるんですよね。この曲には自分の心情とリンクするところが多いし、私が歌うことに意味があると感じています。

──DVDには、Atomic Skipperのホームである磐田FMSTAGEでの初のワンマンライブの映像が収録されています。当日のライブはいかがでしたか?

中野 ワンマンはバンドにとっての夢であり目標だったので、それを叶えられたことに感動しましたね。ホームであるライブハウスでやれたからこそ、ライブ中は構えずにずっと衝動的にいられたし、そういうバンド人生を歩めたこともうれしいし、着実に歴史を積み重ねていけるバンドでよかったなと再確認できました。

久米 満員のフロアの奥から、FMの店長が細っそい目をしながら僕らを見てくれたのを発見したとき、「僕らが初めてFMでライブをしてからだいぶ時間が経ったけど、ずっと見守ってくれる人がいるのってめちゃくちゃ素敵だな」と泣きそうになって……和希の顔を見てごまかしました(笑)。

松本 ははは。ツアーファイナルでホームのライブハウスに帰ってこれて、しかもそこで初のワンマンができた感動が大きくて。その感動を直で受け取ってくれた皆さんが、同じくらいの熱量で返してくれてさらに感激して……そんなライブをDVDで残せて、本当にありがたいです。

神門 「自分の人生の主人公は自分なんだな」と改めて感じたライブでしたね。それは僕らに限らずこの世に生きている人みんなそうで。でもそれに気付いていない人も多いと思うんです。それをバンドを通して伝えていきたい。それをメンバーやFMSTAGEの人たち、支えてくれる皆さんに感じさせてもらって。僕らの音楽を聴いてくれるみんなを肯定することに妥協しない人間でいなきゃなと再認識しましたし、心のガソリンになりましたね。まだまだ音楽をやめられない。こっからもっともっといい曲を書きたいし、いいライブがしたいなと。

Atomic Skipper

Atomic Skipper

ツアー情報

Atomic Skipper 1st EP「KAIJÛ」Release Tour初日 “怪獣たちのいるところ”

  • 2022年1月15日(土)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
  • 2022年1月29日(土)神奈川県 F.A.D YOKOHAMA
  • 2022年2月11日(金)大阪府 LIVE HOUSE OSAKA BRONZE
  • 2022年2月13日(日)長野県 ALECX
  • 2022年2月25日(金)香川県 sound space RIZIN'
  • 2022年3月3日(木)愛知県 APOLLO BASE
  • 2022年3月18日(金)京都府 KYOTO MUSE
  • 2022年3月27日(日)兵庫県 MUSIC ZOO KOBE 太陽と虎
  • 2022年4月9日(土)新潟県 GOLDEN PIGS BLACK STAGE
  • 2022年4月10日(日)石川県 vanvanV4
  • 2022年4月14日(木)岡山県 CRAZYMAMA 2nd Room
  • 2022年4月15日(金)広島県 ALMIGHTY
  • 2022年4月17日(日)福岡県 Queblick
  • 2022年4月24日(日)東京都 Spotify O-Crest

プロフィール

Atomic Skipper(アトミックスキッパー)

中野未悠(Vo)、神門弘也(G, Cho)、久米利弥(B, Cho)、松本和希(Dr)からなる、2014年に静岡で結成されたロックバンド。2020年1月には初のミニアルバム「思春を越えて」、2021年4月には2ndミニアルバム「人間讃歌」を発売。2022年1月にCD+DVD作品「KAIJÛ」をリリースした。現在ツアー「Atomic Skipper TOUR 2022 "怪獣たちのいるところ"」を開催中。