ナタリー PowerPush - aoki laska
平松泰二と二人三脚で作った「it's you」
一度聴いたら忘れられない声と、寄り添うように鳴らされる、いつまでも耳に残る音。昨年ミニアルバム「about me」で一躍注目された女性シンガーソングライターaoki laskaが、待望の1stフルアルバム「it's you」をリリースした。
プロデュースおよび録音、ミックスは「about me」に続き、ポストロック / エレクトロニカの気鋭folk squatの平松泰二。今回は楽曲を共作することで、2人のコラボレーションはさらに緊密なものに。そのエレガントでポップでメランコリックでしなやかな歌の数々は、あまりにも美しく心地良い。aokiと平松に、2人の出会いから訊いた。
取材・文 / 小野島大 撮影 / 平沼久奈
すごい歌手に巡り会ったな
──おふたりが一緒にやることになったきっかけを教えていただけますか。
aoki laska 偶然で。「about me」をどこでどう録るかっていう会議をレーベルの事務所でやっていたら、別の件で平松さんがいらっしゃってて。私はfolk squatが好きでずっと聴いてたんですけど、スタッフに「この人、folk squatの人だよ」って紹介されて、ひえーっ!って(笑)。全く初対面だったんですよ。
平松泰二 aoki laskaって名前だけは聞いてたんですよ。それでどんな子かなとは思ってたんですけど、初めて会ったときは別件で来ていたんですが、そのままその会議にいていいよって言うので、なんとなく同席してて。
aoki そうしたら話の流れで、「エンジニアをやってもいいよ」っておっしゃってくださって。お任せします!って、その場で即決。
平松 機材は自分が持ってるし、録るだけだったらって軽い気持ちで引き受けたんです。
──そのときは、aokiさんにどういう印象を持ちました?
平松 もっとアーティストっぽいオーラがあるのかと思ったら、意外にオープンでさばけた感じの、今どきの子だなあと(笑)。話しやすいし。
aoki 本当にただのファンでしたからねえ。あわよくば一緒にやれればとか全く考えもしなくて。お話しできてうれしいぐらいの(笑)。
──その後、彼女の音を聴いてどう感じました?
平松 デモテープを聴いて、これは素晴らしいと。自分の歌を完全に確立してるという印象でしたね。 偶然とはいえ、これはすごい歌手に巡り会ったなと。すごく個性的な歌声だと思いましたね。
──一方aokiさんは、folk squatの音楽にはどういう印象を?
aoki デモテープを長倉さん(元YOMOYAの長倉亮介)と作るとき、どんな音にするかって訊かれて、自分のやりたいことがなかなか言葉で伝えられなかったことがあったんですよ。で、仕方ないので長倉さんにiTunesで片っ端から「こんな感じ? こんな感じ?」っていろいろ聴かせてもらって。その中にfolk squatがあったんです。「あ、これ、こういうのがやりたい」って言って。で、あとでレコード屋でCDを買ってきて聴きまくって。こういうサウンドが作れたらいいなって言ってたんです。
感情があふれているものを優先
──最初はエンジニアとボーカリストって関係だけだったんですよね。それが作業をやるうちにプロデュースまで発展して。
平松 そうです。デモテープを聴いたとき、将来的にプロデュースもできればいいなと思って。
──他人のプロデュースはaokiさんが初めてですよね。自分の音楽をやるときと、どう違いますか?
平松 自分の音楽のときは直感だけでどんどん作っていくんですけど、aokiさんの場合は彼女の声を想定して作るので。彼女の声をいかに生かすかを考えますね。
──「about me」のときはどんな流れで作ったんですか。
平松 彼女から、歌とピアノなりオルガンなりが入った2トラックの音が送られてくるので、それに音を重ねてってトラックを固めていく作業ですね。だから彼女の歌に注文をつけたり歌い方を変えてもらったりといったことは特にはなかったですね。歌は僕のスタジオに来てもらって録りましたけど。
──その際、どんなことに注意しました?
平松 そうですねえ……aokiさんの場合、1つの歌を録るにあたって、通しで最初から最後まで録っちゃったほうがいい。途切れ途切れに録って、パンチイン、パンチアウトとかやると、歌が死んじゃう。全部通しで3~4回歌ってもらって、あとで良いトラックを選ぶほうがいい。
aoki で、回数重ねていくと、どんどんダメになるという(笑)。
平松 録るときは3テイクまで、とか決めたもんね。
aoki 完成度とかは二の次で雰囲気を大事にして。感情があふれているものを選んで。
平松 「about me」の収録曲はライブでずっと歌ってきた曲ばかりなんですよ。だから1、2テイクで良いものが録れた。なので「about me」に関してはサクサク進んだんです。その時点で彼女の歌は完成されてたし。
aoki 最初は弾き語りのアルバムを作る予定だったんですよ。だからただ録るだけで、音を付け加えてもらえるとは思ってなくて。「群れ」とかは送られてきたとき「わーっ! folk squatの音だ」って。こんなになっちゃうんだって感動して。
──でもさっき平松さんが言ってたように、「about me」の曲は既に自分の中では完成されてたものなんですよね。それにまた音を付け加えられるのはどういう気持ちでした?
aoki 付け加えられた音がシンプルだったし、そのへんのセンスはもう信じてるから。これ違う!とか、そういうのは一切なかった。むしろすごく曲の世界が広がって、豊かになったんです。
弾けた感じが欲しかった
──ミニアルバムで手応えがあって、その流れでアルバムの制作に?
aoki ミニアルバムが出る直前のラジオに一緒に出て、その帰り道にフルアルバムの話をしてましたからね。具体的にこういう感じのテーマで、詞はこういう感じで、という案をいただいて。
──今作に関しては、曲作りから一緒に始めた?
平松 制作に入る前に半分以上の曲は彼女のほうで作ってあったので、今回は3曲を一緒に作った感じです。
──最初にデモテープを聴いたとき、既に完成された世界だと感じたんですよね。そこで何を付け加えられると思いました?
平松 うーん……基本的に彼女はピアノと歌だけの世界なんですけど、「about me」はちょっと地味だと思ったんですね。若干明るい……というか弾けた感じが欲しくて。もうちょっと元気でもいいんじゃないのって思ったんです。
aoki ああ、うん。
CD収録曲
- みてみて
- 物語
- kiss me now
- ひとつになりたい
- kiseki
- 耳のない猫
- 温かいかたまり
- また明日さよなら
- backfire (Aimee Mann cover)
- 流れる
aoki laska(あおきらすか)
神奈川県出身の女性シンガーソングライター。美しく浮遊するような歌声と、聴き手を包み込むようなサウンドでリスナーを魅了している。4歳からピアノとクラシックバレエを習い、大学中退後に滞在したニューヨークで歌を学び、同時期に曲作りも始める。23歳のときに自身で作詞作曲を手がけた自主制作盤「ひかりをじゆうを」を発表し、その頃から都内で弾き語りライブを行う。27歳のときに、YOMOYAの長倉亮介を介して元nhhmbaseの入井昇と出会い、彼らとともにデモ音源作りを開始。2011年冬に、folk squatの平松泰二プロデュースによる初の全国流通作品となるミニアルバム「about me」をリリースし好評を博す。2012年6月、再び平松とタッグを組んだ1stフルアルバム「it's you」を発表。