新しくあるためには古いこともやらないと
岸田 「TOKYO feat. ermhoi」のドラムもカッコよかったね。
石若 これは速回しで録ったんです。
岸田 ピッチが上がってるよな。
石若 そう、めっちゃうまい人になってるんですよ。
岸田 昔、ジョン・ブライオンのソロアルバムにも速回し曲が入っていて。当時はこんなに叩ける人がいるんだと驚いたんですけど、のちに速回しだと知ってちょっとイラっとしたことがある(笑)。でも、こういうのをやると、速回しだと知らずに平然とコピーするキッズとかが出てくるやろ。そういうのいいよね。
石若 ですよね。「TOKYO」は半分くらいのゆっくりのテンポでドコドコ叩いたのを、あとで速くしたらああなったんです。自分でも「すごくうまい!」って思いました(笑)。
岸田 Led Zeppelinにも、ボーカルを録るときにテープを遅く回して、速さを戻したらロバート・プラントのキーが高くなるっていう曲があった。
石若 そういえば「ばらの花」を逆から再生した音源を聴いたことがあって、それもめちゃくちゃ好きだったんですよ。
──「ばらの花」はもともとギターソロが逆回転再生なんですよね。
岸田 下手なスライドギターが聴こえたやろ?
石若 はい(笑)。そういうアイデアも音楽的に生かせることがあるかなと思ったりしましたね。
岸田 もし俺が若い頃に「Answer to Remenber」みたいな作品を聴いていたら、ワケがわからんかったと思うんですよね。当時にはなかった新しいテクニックを使ってる。クリス・デイヴ以降のジャズの人とネオソウルの人がやり出した感じのビートとか、ほかにもフリージャズじゃない、モダンなジャズでスケールアウトするときの、例えば長谷川白紙くんとかがやってるようなああいう感覚とか。そういうものが、ちゃんとできる人の演奏で作られてるのってすごく今っぽいと思います。今のテクニックで作られた音楽ですよね。
石若 ありがとうございます。
岸田 俺も曲を作っていて新しくありたいとは思うんですけど、最近、新しくあるためには古いこともやっていないといけないと感じるんですよ。とびきり美しい和声を鳴らしたいと思ったときに、僕はそこまで追求できないけど、ピタゴラス調律(初期ルネサンス頃まで標準的に使われていた音律)までさかのぼったりするとかね。そういえば、Logic(DAWソフト)のピアノロール画面って調律が変えられるのよ。僕が教えている大学の講義で(参照:くるり岸田繁、京都精華大学ポピュラーカルチャー学部の客員教員に)、学校とかでそろってお辞儀をするときにピアノで弾くフレーズ“ドミソ・ソシレファ・ドミソ”を純正律とかベルグマイスターとか、いろんな調律に変えていたら、どれも超名曲に聴こえるという内容があったんです。「お辞儀しよう!」という気持ちになるくらい全然違うんですよ。
──なるほど。
岸田 例えば、古楽は西洋音楽でも響きがクラシックじゃない。そういう響きだったり、それを作ることで出てくるものって、前衛とか芸術実験みたいに語られがちだけど、それこそ石若くんだけじゃなくて、長谷川くんや君島くんたちが作るような新しい音楽を聴いていると、みんなそこに立ち戻っている感じがします。アイデア自体は古くて、新しい要素を面白い組み合わせで引用していると言うのかな。こういう音楽がどういう人に聴かれるかはわからんけど、そこで耳が作られる可能性があるっていうのはワクワクするんですよね。
「“若汁”をもっと出してくれ」
──そういえば以前、僕に石若さんが「くるりはもっとも自由に演奏できる現場のうちの1つだ」と話してくれたことがありましたが、これがどういう意味なのか改めて聞いてもいいですか?
石若 当然曲があってそれを演奏するんですけど、そのときいる誰かの影響によって、バンドが動く幅がデカいってことですね。例えば僕がどこかにアクセントを置いたことによって、それが曲に影響することって岸田さんや佐藤征史(B, Vo)さんも感じたと思うんですけど、それに対するのバンド全体の感度が高くて。だからアクセントを変えただけでバンドが一気に生き物みたいに変化することがあるんです。そういうことを積極的にできたり、そういうことが偶然起きたりするという意味で自由と言ったんじゃないかな。
岸田 これはよくも悪くもですけど、自由だと思いますし、適当とも言います(笑)。そもそも人は毎日違うからね。俺らはうまくいったことをもう1回繰り返すのにはあまり意味を見出せない人たちの集まりなので、いつも「次は違うふうにやっていこう」みたいなことは考えているのかもしれないですね。例えば石若くんが、こっちが弱拍だと思っているところにアクセントを入れてきたとき、俺や佐藤さんはビートがひっくり返ってるとは思わないわけですよ。それはアクセントであって、シンコペートだとは思わない。8ビートのドラムがひたすら続くような曲で裏拍にアクセントが入ってきたら、ベースの長さだったり、こっちの歌の入り方は当然変わってきますよね。それが嫌な人もいるだろうし、俺もそこで違和感があったらそこで伝えると思います。でもアクセントとダイナミクスが変わったときには、そういう曲に作り替えようみたいな意識が俺らにはあって。それが自由ということだとしたら、相当自由なバンドだと思います。ライブのたびに曲のアレンジを大胆に変えてしまうボブ・ディランじゃないですけど。ファンには不親切かもしれない。
石若 最初のリハで岸田さんから「“若汁”をもっと出してくれ」って言われたことがありました。俺はくるりがすごく好きだから、CDと同じフィルインとかを叩きがちだったんです。でも、「そうじゃなくて石若のサウンドを出してくれ」とすごく言われて、そこでもいろんなチャレンジができるようになりました。
岸田 我々は石若くんとやっているからね。「答えはこれです」と提示はしないです。他力本願なんですよ。もし必要があったらちゃんと書いたり、指定しますけど。もちろん石若くんが曲を体に入れて臨んでくれたからというのはあるんですけど、そうであれば、「あとはあなたの好きな色に塗っていいよ」みたいな。そうしてくれたほうがこっちは楽しいんですよね。
※記事初出時、本文中に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。
ライブ情報
- "Answer to Remember" OHIROME GIG Vol.1
~石若駿 史上最大の祭り、よろしくワッツアップ~ -
2020年2月4日(火)東京都 LIQUIDROOM
<出演者> 石若駿 / MELRAW(Sax) / 中島朱葉(Sax) / 佐瀬悠輔(Tp) / 若井優也(Key) / 海堀弘太(Key) / TONY SUGGS(Key) / 君島大空(G) / MARTY HOLOUBEK(B) / 新井和輝(B / King Gnu) / 柳樂光隆(DJ) / and more
ゲスト:KID FRESINO / ermhoi / Jua / and more
2019年12月26日更新