ano×TAKU INOUEインタビュー|ソロデビューから日本武道館まで、5年で育まれた2人の信頼と成長 (4/4)

実際にライブを観てもらうのは大事だなって思いました

──最近の曲はあのさん自身が「こんなふうにしたい」というディレクションをしているようですが、今回の2曲についてあのさんはどんな意見を出したんですか?

「KILL LOVE」はYuzuru Kusugoさんっていう、はじめましての人に編曲をお願いしたんですけど、何回も何回もやり取りを重ねつつ、ライブにも来てもらって、「こんな感じで」っていう要望をけっこういっぱい言いました。「ピアノのリフはマストで入れたい」とか「イントロで一瞬ブレイクを入れたい」とか。それをいろいろ汲み取ってアレンジを考えてくれて、そこから何回も何回も微調整して完成させました。

──「KILL LOVE」は前のめりに突っ走るような演奏のパンクロックで、ライブでのあのさんの激情みたいなものが形になっているなと感じました。

そうですね。でも最初はもうちょっと“青春感”があったんですよ。それが個人的に納得いかなくて、「青春味はなくしてほしい」って伝えました。ライブに来てもらってから上がってきたアレンジはイメージに近いものになっていたので、実際にライブを観てもらうのは大事だなって思いました。

──安直な言い方かもしれませんが、「KILL LOVE」を聴いて「歌に魂がこもっている」と感じました。ボーカルのレコーディングを終えて、自分の中で「いいもの録れたな」という感覚がありましたか?

今回の2曲はどっちも、喉を壊してる時期に録ったから、「苦しかったな」っていうのは覚えてます。最近体調を崩してて、でももう時間がないから、そのタイミングで録るしかなくて。

ano

──あっ、7月に「オールナイトニッポン0」をお休みしてましたよね。

そう。だからけっこうしんどかった。喉がもう限界になるから、どっちの曲もあんまりテイクを重ねずに録ったんです。「KILL LOVE」のほうは歌い方がライブでの感じだから大丈夫だったけど。

──あのさんのディレクションの話に戻すと、「ミッドナイト全部大丈夫」のほうはどんな要望を出したんですか?

アレンジをしてくれたUCARY & THE VALENTINEさんは昔からの知り合いで、ずっと一緒にやりたかったんです。アレンジしてもらうなら曲的に一番マッチしそうなものができたタイミングがいいな、ということになって。それで今回、「ミッドナイト全部大丈夫」は絶対にマッチするって確信があったのでお願いしました。そこまで細かいことを言わなくても大丈夫だろうなって信頼があったんで、最初にざっくり「こういう感じ」と伝えただけなんですけど、それであげてもらったアレンジがすでにめっちゃよかったです。

──誰にアレンジをお願いするのかも、あのさんが自ら主導しているんですね。デモを作った段階で「自分の頭の中にあるイメージに近付けられるアレンジャーはこの人だろう」ということを考えるんですか?

うん。まさにですね。誰でもいいわけじゃないから、「KILL LOVE」のほうのアレンジをUCARYさんに頼んでたら、たぶんこうはならなかったはずだし。

未来の自分もきっと「間違ってない」って今の自分に言うと思う

──日本武道館公演の日をもってソロデビュー5周年という区切りを迎えましたが、次の5年をどうしたい、みたいなことは考えていますか?

考えてないです。

──やっぱりそうですよね(笑)。

あんまり実感がないだけかもしれないけど、そもそも5周年って「区切り」っていうほど大きいことなんですかね?ってちょっと思ったり(笑)。これからも長く続けたとしたら、5なんてちっぽけな数字だし。

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──確かに、ほかのアーティストだったら5年程度で「こんなに長くやってくれた」とは思われないかもしれません。でもあのさんの場合、自分の引き際について「いつやめてもいい」といろいろなところで公言している中で、音楽活動がますます精力的になっている今の状況に「ここまで続けてくれてありがとう」と思っているファンは多いと思いますよ。

思うのかな……? なんか長くやってるっていう自覚がなくて。「来年消える」って毎年言われながら5年経って、そう考えるとやっぱり数字なんか意味ないんじゃないかって思えてくる。結局は、どれだけ今を濃く生きるかだから。でも、その生き方に僕は全力で向き合ってきたから、この5年間は僕にとって大切なものになったし、今は「ただの数字じゃないな」と思えるぐらいにはなってきた。いつ突然終わってもおかしくないような状況もいろいろあるけど、音楽からは一切逃げなかったから今があるので。

──音楽家としてのあのさんに対する世間の評価は、この短い期間にかなり変わったと思っていて。7月にYouTubeで公開された「ハッピーラッキーチャッピー」とアニメ「タコピーの原罪」のコラボミュージックビデオの反応を見ても「このシンガーソングライターは天才だ」みたいな反応ばかりですし、あのさんが作詞・作曲を担当していることをより多くの人に知ってもらえたのではないかという気がします。

「あのちゃんのこと好きじゃなかったけど、曲めっちゃいいじゃん」とか「こんな曲作れるんじゃん」みたいな反応は正直複雑だけど(笑)、ちゃんと曲で好きになってもらえるって幸せなことだなって思うから、「ハッピーラッキーチャッピー」を評価していただいたことはすごくうれしかったですね。その評価は、それまでしっかり向き合ったから得られたこと。テレビの仕事もしつつで大変だったし、ここまで犠牲にしないとダメなんだっていう現実もあるけど、逃げなかった自分に感謝したいというか。

──今回のシングルはその「しっかり音楽と向き合った5年間」の集大成になったと思いますし、やっぱり多くのファンは「これを作ってくれてありがとう」という気持ちになるんじゃないですかね。

僕は“今”しか見れないタイプだから、今後はどうなるかとか、やっぱりあんまりわからないけど、5年前はこんなに音楽を好きになってるとも思ってなかったし、その事実だけでも、当時の自分に「間違ってなかったよ」って言える。これからも不安になったり迷ったりするはずだけど、今まで通りに生きていれば、未来の自分もきっと「間違ってない」って今の自分に言うと思います。

──そうですよね。ちなみに、これから新たにやってみたいことはあります?

もっともっと音楽を作りたいし、音楽にもっと近付きたい。音楽との距離を縮めたい。あとは……弾き語りライブとか? 今までやったことがないんですけど、やってみてもいいかなとか思ったりします。

──おお、それすごくいいですね! 期待してます。

期待されすぎても困る。やらないかも(笑)。

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プロフィール

ano(アノ)

2020年9月に「ano」名義でソロアーティストとしての音楽活動を開始し、「デリート」「Peek a boo」といった配信シングルをリリースした。2022年4月にNetflixアニメ「TIGER & BUNNY 2」のエンディングテーマ「AIDA」でTOY'S FACTORYよりメジャーデビュー。2022年11月にはアニメ「チェンソーマン」第7話エンディングテーマ「ちゅ、多様性。」が大きな話題になった。アーティスト活動の傍ら、映画やドラマ、バラエティ番組などさまざまなフィールドでマルチに活躍。2024年公開のアニメ映画「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」で声優に初挑戦し、主題歌「絶絶絶絶対聖域(ano feat. 幾田りら)」もヒットを記録。2025年6月に2ndアルバム「BONE BORN BOMB」をリリースし、9月に東京・日本武道館でのワンマンライブを成功させた。

TAKU INOUE(タクイノウエ)

サウンドプロデューサー / コンポーザー / DJ。「アイドルマスター」シリーズや任天堂とCygamesによるアクションRPGアプリ「ドラガリアロスト」などゲームの楽曲をはじめ、DAOKO、Eve、ナナヲアカリ、STU48、月ノ美兎、HOWL BE QUIETといったアーティストのサウンドプロデュースや楽曲提供を担当する。2021年にTOY'S FACTORY内のレーベル・VIAより「3時12分 / TAKU INOUE&星街すいせい」でメジャーデビュー。2022年に星街すいせいとのプロジェクト・Midnight Grand Orchestraを始動させ、7月に1stミニアルバム「Overture」を発表した。2025年6月にはソロ名義で2nd EP「FUTARI EP」をリリース。