ano×TAKU INOUEインタビュー|ソロデビューから日本武道館まで、5年で育まれた2人の信頼と成長 (3/4)

anoソロインタビュー

傷を負ってしまった、あるいは傷付けてしまった自分を、この曲でだけは全肯定したかった

──「ミッドナイト全部大丈夫」は日本武道館ワンマンのアンコールで初披露されましたが、ここで歌うために作った曲だったのでしょうか?

「武道館で歌いたい」というよりは、2曲とも「武道館を終えたときにリリースするならこういう曲かな」と考えて作ったものです。でも「ミッドナイト全部大丈夫」は作りながら、360°お客さんに囲まれた空間で歌っているところを想像していました。

──アルバム「BONE BORN BOMB」が発売されてまだあまり時間が経っていませんが、今回の2曲はアルバムを作ったあとで頭を切り替えて制作に取り組んだんですか?

アルバムを作ってる最中に並行して作ってました。創作モードみたいになってたから、「アルバムのために作ろう」みたいな意識もなく、自然といっぱい曲を作ってて。ただ、そのときはもう「アルバムに入れるのはこれ」っていう曲はもう決めてたんです。「KILL LOVE」は入れていた可能性もなくはないけど。

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──でも、この2曲だけをまとめて出したのは正解だったんじゃないかなという気がします。その結果これまでの中で一番、あのさんの純度が高い1枚になってるというか……もちろん今までの曲が薄いっていう話ではないので、ちょっと言い方が難しいんですけど。

いや、わかります。

──曲調は対極的な2曲ですが、自分はこれらについて、どちらも聴いてくれているファンの姿をイメージして歌ってるのかな、と受け取りました。

「ミッドナイト全部大丈夫」について言うと、「大丈夫」って、僕的にはすごく安心できる言葉なんです。大丈夫じゃない自分が常にいるから、大丈夫になりたくてここまでやってきたし。ファンの人もきっと、いろんな問題を抱えて生きてて、大丈夫じゃない人もいるかもしれない。必要以上に自分を責めてしまう人もよく見かけるし。だから、みんなにどんな過去があるのかはわからないけど、この曲を聴いている瞬間は「大丈夫」って、そういう自分も許してあげられる時間になるといいなって思う。

──あのさんがすべて受け入れる、と。この曲の歌詞には生々しくて痛ましい描写が多いですが、それが「全部大丈夫」という全肯定に着地するのが印象に残りました。

全然大丈夫じゃないと思うんですよ。何も解決しない話なんですよ。自分だって公にできないようなこともいっぱい経験してきたけど、そういうときって自分自身が一番許せないんですよね。周りは「気にしなくていいよ」って言ったとしても、傷を負ってしまった、あるいは傷付けてしまった自分を許せない。でも、この曲でだけはそれを全肯定したかった。

──「KILL LOVE」はミュージックビデオも作っているんですよね?

うん。僕のほかにもう1人の女の子が出てきます。その女の子がもともと僕のことをめっちゃ好きでいてくれてたらしくて。「ロールモデルにしてます」みたいなことを言ってくれてうれしかったですね。すごく曲とも合ってるし。

──この取材の時点で自分はまだMVを観られていないので、見当外れなことを言っているかもしれないんですけど、この曲の「ギター 癖 ジャージ同じの 強くなれる気がした」という歌詞を聴いて、まさに「あのさんをロールモデルにしているファン」みたいな人物像を思い浮かべたんです。

ああ。

──例えば「タイアップもつかない君が好きでした」という歌詞も、ちょっと屈折してはいるけど、ファン目線でアーティストを見ている言葉だと思いますし。

そうですね。でも、僕のことを見てくれているファンもそうだろうけど、それだけでなく好きなバンドとかアーティストに対して、こういう感情を持つ人ってけっこういるじゃないですか。「メジャーに行く前までは好きだった」とか。僕は別に思ったことないんですけど。僕の場合、ほかの人と比べても「あの頃のあのちゃんが好きだった」みたいなことを言われがちなので、それをわかりやすく歌にしたところはあります。

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お祓いするのって、すごく嫌なんですよね。負けた気がしちゃって

──「ミッドナイト全部大丈夫」には「まぼろしだっていつかはとけるはずだわ」「呪いをかけておくれよ」という歌詞がありますが、日本武道館ワンマンのタイトル「呪いをかけて、まぼろしをといて。」はこの歌詞から付けられたんですか?

いや、武道館のタイトルが先にあって、「これをテーマにした曲を書きたい」と思って「ミッドナイト全部大丈夫」を作りました。

──あのさんにとって「呪い」とはなんのことで、「まぼろし」とはなんのことなんですか?

いろんな捉え方があっていいんですけど、基本的に「呪いがかかる」っていうのは、苦しんでいる状態を言うじゃないですか。でも僕は、自分を傷付けてくる人のことを呪いたいし、自分にかかってる呪いに対して呪うことだってできると思うんですよね。

──呪い返す、みたいな?

なんて言うんだろう……お祓いするのって、なんかすごく嫌なんですよね(笑)。負けた気がしちゃって。

──なるほど(笑)。

こっちも呪ってやりたいんですよ、自分にかけられた呪いに対して。

ano

──負けを受け入れるのでなく、苦しみごと上書きしてしまいたいと。僕は日本武道館ワンマンのタイトルを聞いたときに「どうして? 普通は『呪いを解いて』じゃないの?」と思ってたんですけど、そういうことだったんですね。

僕自身も呪いをかける側でいたいし、お客さんに対しても「呪いがのしかかって生きるのがつらいなら、呪いをかけなさい」という気持ちです。解いたって呪いはなくならないから。過去の過ちも、負ってしまった傷も、生まれ持った環境も、もう消えることはない。だったらその上から新しい呪いを、自分で自分にかければいいんじゃない?っていう。

──では「まぼろし」とは?

いろんな解釈をしてもらいたいから、あんまり具体的な話はしたくないんだけど……ここは「幻を解いてほしいな」っていう自分の願望。でも、解けないと思う。僕が僕である以上、解けないと思います……たぶんこれ、すごくわかりづらい曲ですよね。自分でもそう思います。「わかりやすくしてリリースすることが大切なんだな」というのはこの5年間で学んだことの1つなんですけど、この曲については「わかりづらくてもいいや」という気持ちで書きました。