et-アンド-がミニアルバム「toi et moi」をリリースした。
et-アンド-は野島樺乃(ex. SKE48)、栗本優音、モラレスきあら、山崎カノンの4人からなる女性ボーカルグループ。今年7月に&名義でデビューシングル「#tokyo」を配信リリースし、その後現在のグループ名に改名した。ミニアルバムのタイトル「toi et moi」はフランス語で「あなたと私」を意味する言葉で、「作品を手にとったあなたと私たちet-アンド-をつなぎ、『はじめまして』の気持ちや新しい出会いを届けたい」というメンバーの思いが込められている。アーバンで洗練された曲想、J-POPのメインストリームとは一線を隔したサウンド、“四者四様”の個性が炸裂するボーカルワークでグループの立ち位置を確立しつつある4人にとって、本作は名刺代わりとなる1枚だ。もはや「元SKE48のメンバーがいるユニット」という認識は捨てたほうがいいのかもしれない。
この特集ではメンバー自身が記念すべき初CD作品の「toi et moi」を全曲解説する企画を実施。さらに4人のボーカルの魅力、デビュー以降のグループの進化について話を聞いた。
取材・文 / 小野田衛撮影 / 藤木裕之
独自の世界観をメンバー自ら解説!
「toi et moi」セルフライナーノーツ
1. Newton
野島樺乃 歌い出しのパートは私が担当しているんですけど、いきなりメンバーの声でスタートするということで「toi et moi」の1曲目にふさわしいのではないかと思います。タイトルが物理学者のニュートンさんなのは、引力について書かれているから。運命、未来、希望……ポジティブな要素を自分で引き寄せるような、そんなメッセージであふれているナンバーです。
山崎カノン レコーディングのとき、「ささやくように歌って」とディレクションされたんですよ。でも静かに歌いすぎるとマイクに声が乗らないし、そのニュアンスを出すのにすごく苦労しました。「寝起きのイメージで」「もっとマイクに口を近付けて」と言われて試行錯誤しましたし、ライブで披露する際もそのことを思い出しながら歌っています。
栗本優音 私は樺乃のボーカルにハモリを入れることが多いんですよ。この曲はハモリパートのキーがすごく高くて、レコーディングでも苦戦しました。自分にとって裏声にならないギリギリの高さなんです。さらに厄介なのは、サビは高いのに、Bメロのキーが低いこと。レンジがとても広いので、ライブで喉を傷付けないように注意しています。
モラレスきあら この曲に限らず、優音の高音ハモリはet-アンド-というグループの強みになっているんじゃないかな。メンバーそれぞれ得意ジャンルが違っていて、優音は高いキーを、私は低いキーを担当することが多いんです。
2. Blue bird
栗本 私とカノンが作詞に挑戦しています。実はこの曲では4人別々に歌詞を提出していたんですよ。その中で「曲の世界観に合っているか?」「前後の組み合わせ的にスムーズか?」といった点をチェックして、私とカノンの詞で構成する形に収まりました。
山崎 最初に曲を聴いたとき、サビで一気に明るくなるような印象を受けたんです。なので、背中を押してもらえるようなイメージを頭に浮かべて歌詞を書きました。作詞で大変なのは譜割りという制約があること。言葉がリズムに乗るかどうか考える作業が本当に難しくて……。でも、いきなりそこで悩んでいたら前に進めないから、まずは自分が言いたいことをノートにダーッと書いてみて、そこからメロディに当てはめる作業をしていきました。
栗本 そもそも作詞なんてしたことがなかったから、私も戸惑うことばかりでしたね。この曲はコロナ禍で人と人が会えないことを歌っているんです。それと同時に遠距離恋愛で会えない恋人たちのこともイメージしました。
モラレス タイトルの「Blue bird」は、Twitterのロゴのことを指しています。「幸せの青い鳥」という表現がありますけど、SNSはときに誹謗中傷などの問題を抱えながら人々から笑顔を奪ってしまう。そういった問題に対して疑問を投げかけているのが裏のテーマです。この曲はすごく考えさせられる内容だし、そういったメッセージ性にも目を向けていただけたらありがたいですね。
3. #tokyo
野島 歌詞にある「ロブスターフライ」というフレーズの意味、わかりますか? これはメンバーをエビに例えているんです。私たちはそれぞれ生まれ育った場所も違うし、今までの活動歴やバックボーンもバラバラ。そんな4人が歌手になろうという夢を抱きながら東京という街に集まり、エビのように大きく跳ね上がろうとしているわけです。一聴すると「おしゃれで都会的だな」と感じるかもしれませんが、実はかなり熱い気持ちを歌った曲なんですよね。
栗本 4人のボーカルスタイルの違いが、わかりやすい形で現れているんじゃないかな。歌の面で個性を出していきたいというのは、グループとしての目標でもあるんです。
モラレス 私、この曲で生まれて初めてラップに挑戦したんです。プロデューサーの菊池一仁さんから「モラレス、ちょっとここ歌ってみてくれる?」と軽い調子で言われたのがラップパートで。歌ってみたら「おっ、いいじゃん」という反応をいただいて、ラップを担当する機会が増えていきました。この曲をレコーディングした当時はラップ未経験者だったから、何が正解だかわからず「これで合っているの?」と不安な気持ちだったことを覚えています。当時は憧れているヒップホップ系のアーティストさんも特にいなかったですし、お手本がなかったんですよ。そもそも自分たちの曲だから誰かを真似するわけにもいきませんし。
山崎 しかしそう考えると、きあらのラップスキルは急速な勢いで進化しているなって同じグループのメンバーながらビックリしますね。どうやって練習しているのか不思議に思って聞いたこともあるんですけど、きあらは「ノリとセンス!」ってしれっと答えるんですよ。もう敵わないなと思いましたね。ほかの人以上に練習しないと話にならない私からすると、そのクールな感じがカッコよすぎて(笑)。
モラレス いやいや、私だってラップに取り組むようになってからは練習していますよ(笑)。ヒップホップの楽曲を聴いて勉強するようにもなりましたし。でも、一番大きかったのは9月からマンスリーライブをやるようになったことかもしれない。やっぱりステージでパフォーマンスすることが一番成長につながるんだなと痛感しましたね。
4. Matryoshka
モラレス タイトルの「Matryoshka」は有名なロシアの人形のことで、サウンド自体もすごく独特な雰囲気。この曲の振り付けは4人でアイデアを出し合いながら決めていったんです。ロシア民謡の動画を参考にしつつ、パフォーマンス的にも異国情緒を出そうと工夫しました。
栗本 曲の途中で急にガラリと雰囲気が変わるんですよね。曲調がより不思議な雰囲気になるのでり、ライブで披露するときに世界観を作り上げるのが大変でした。
山崎 この不思議な楽曲の世界観をどうやったら上手に伝えることができるのか、そこを4人ですごく話し合いました。難しかったけど、面白くもありましたね。やりがいを感じました。あえて無表情なまま、淡々と行進していくところとか……。
野島 正直、歌うのがとても難しい曲なんです。メロディラインもそうだけど、歌詞にロシア語も入っている楽曲の世界観を表現するのがとにかく難しくて。普通にメロディラインをなぞるだけじゃ面白くないなとは考えていたんですよ。だから癖のある、妖艶な歌い方を心がけました。自分の中の表現の引き出しがこの楽曲でまた1つ増えた気がします。
5. BIBIBI
野島 私が作詞を担当させていただいています。et-アンド-の活動の中で、この曲の作詞が一番苦労したことかもしれません。みんなで盛り上がれるような曲調ですし、ライブではコール&レスポンスもしたかったんですよ。そういったことも視野に入れながら歌詞をまとめていきました。
栗本 きあらのラップパートで“サーカス感”が出ていることも、この曲のポイントかもしれません。そこは私たちもこだわって振り入れしました。
モラレス 「BIBIBI」のラップでは2つのことを意識しました。1つはサーカスが街にやって来たときのようにワイワイみんなで騒いでいるイメージ。もう1つは少しオラついているような悪い人のイメージ。その雰囲気を出すのにすごく苦労したんです。なにしろ実際の自分は今まで悪い人になったことがないですから(笑)。スタジオでは照明を暗く落として、椅子にふんぞり返ってみたりもしましたね。とにかく悪い人になりきることが大事だと思って、その雰囲気作りにかなり時間がかかりました。
6. Eenie, meenie, miney
野島 「これぞガールズグループの夏曲!」というさわやかなイメージです。実はet-アンド-の曲って4人で声をそろえて歌うケースがほとんどないんですけど、「Eenie, meenie, miney」のサビは珍しくユニゾンになっているんですよ。一体感があって好きですね。
山崎 徹底的に楽しい曲だから、ライブ中もメンバー同士で目を合わせながら自然と笑顔になっちゃうんです。それこそ女子会みたいにワチャワチャする感覚。
栗本 ただ一方で、私のセリフ部分では“真夏の孤独”を感じさせるような表現も出てくるんですよ。「みんなが楽しむ夏にふと感じる孤独。でも、君は1人じゃないんだよ」といったメッセージも込められていて。ただ明るいだけじゃなく、余韻も残るようなところがこの曲のポイントになっているんじゃないかと思います。
モラレス et-アンド-の曲はどれも深いし、いろんな解釈ができるんですよ。何回も聴いていただけると、そのたびに新しい発見があるはずです。