アマネトリルが目指すサウンド
──「タイムトラベルミュージック」収録曲の中で、アマネトリルの方向性が見えた楽曲と言うと?
Yujin 起点になったのは「エンプティーダンス」かな。
Masahiro そうかもね。2人ともギターを弾くので、どうしても手グセで曲を作っちゃうことが多かったんですよ。アマネトリルとして制作を始めたとき、「まず手グセで作るのをやめよう」という話をしたんです。「いつもだったらこっちのコードに行くな」って感じではなくて、いったん立ち止まって、コードの構成をじっくり練って。
Yujin メロディもけっこう綿密に考えましたね。
Masahiro ギターソロもインプロビゼーションっぽくやるのではなくて、きちんとフレーズを作り込んでから当てはめて。ソロでやってたときとはまったく違うやり方です。
Yujin うん。新しい要素を盛り込むこともできるし、それはトライするべきことかなと。
Masahiro Yujinは音楽理論もしっかりしているので、一緒に制作していると、今まで知らなかったコードを教えてもらえたりするんですよ。同じコードでも押さえ方が違えば響きも変わるし、ギタリストとしてのアプローチも増えましたね。
Yujin Masahiroはサウンド全体を組み立てる力がすごくあって、曲を作ってる段階から、ドラムの質感などを考えていて。
Masahiro 協力してくれるスタッフ、参加してくれるミュージシャンに対して、自分たちがやろうとしていることを正確に伝えたいんですよね。過去には自分がうまく伝えられなかったせいで、思い描いた通りに仕上がらないこともあって。それは僕の実力不足が原因だし、アマネトリルでは「こういう曲にしたい」ということを明確に示したうえでコミュニケーションを取りたかったんです。
──打ち込みメインではなく、生楽器を生かしたサウンドメイクも、アマネトリルの特徴ですよね。
Masahiro そうですね。予算の問題もあるし、今はコンピューターの中ですべて完結できるので、けっこう悩んだんですけど、結論としては「やっぱり生バンドでやろう」と。ライブやレコーディングに参加しているミュージシャンは、お互いのバンドのメンバーなんですよ。ベースのザック・クロクサルはYujinがニューヨークで知り合った人だし、ドラム(入倉リョウ)、キーボード(土屋佳代)は僕のサポートをしてくれている人たちで。それらが融合して新しい音になるのも、すごく楽しいんですよね。70年代からある、伊豆スタジオで合宿レコーディングしたので、さらに音にエネルギーが入りました。
Yujin 僕はダンスミュージックも大好きだし、打ち込みが嫌みたいなことはぜんぜんないんです。ただ、音楽の成り立ちによって「絶対に生楽器のほうがいい」ということがあって、今回の楽曲はそうだったということですね。プリプロのときも、60年代のアンプをモデリングしたサウンド作りをしていたので、だったら本物を鳴らして録ったほうがいいなと。
Masahiro ギターテックの方にフェンダーの65年製ツインリバーブを用意してもらったり、全体を通して、ビンテージサウンドになっていると思います。当時の機材でないと出せない音は確実にありますが、完全に昔の音にするのではなくて、現代的な要素を加えることも意識しました。
東鳴子温泉で作られた“音楽酒”の名は
──そのほかの収録曲についても聞かせてください。1曲目の「ファンファーレは街へ」はポップに振り切ったナンバーです。
Yujin 全体を通して、ポップであることはすごく意識してましたね。コードの構成やアレンジは凝ってるんだけど、サビのメロディはキャッチーにしたいので。曲を聴いてくれた人の脳みそにメロディを埋め込んで(笑)、口ずさんでほしいんですよね。
Masahiro Yujinはブルースが根底にあると言いつつ、ソロのときから実はキャッチーですからね。「ファンファーレは街へ」は最初から「ポップでキャッチーな曲にしよう」と思ってたんです。「ライブのオープニングに似合う曲にする」「アルバムの1曲目に入れる」と決めて作ったので。
──「鳴子東線」はノスタルジックな雰囲気のミディアムチューン。この曲だけ手触りが違いますね。
Masahiro アマネトリルというユニット名の由来になっている曲なんです。僕らのマネージャーが日本酒好きで、今年の新年会のときに「天音」というお酒を持って来てくれて。
Yujin 宮城県の東鳴子温泉の旅館と酒蔵がコラボして作ったお酒で、熟成してるときに音楽を聴かせているらしくて。しかもフリージャズを。
Masahiro ちょっと不思議な話ですけど、旅館の奥さんが作曲家で、日本酒に聴かせるためにオリジナル曲を書いたそうです。いわば“音楽酒”なんですが、飲んでみるとすごくおいしくて。
Yujin 飲みやすくてキレがあって、後味もよくて……食レポみたいになってますけど(笑)。
Masahiro (笑)。そのときに「“天音(アマネ)”というユニット名、いいかも」と思ったんですよね。そこにギター奏法の“トリル”を加えて、アマネトリルになって。すぐに東鳴子温泉に行って、温泉旅館の方に挨拶させてもらったんですが、その道中で書いた歌詞をもとにして作ったのが「鳴子東線」なんです。そういう名前の路線はなくて、実際には陸羽東線なんだけど、“都会暮らしの人が田舎に帰る”という歌にできたらいいなと。
──実体験がもとになっているんですね。
Masahiro この曲はそうですね。フィクションの要素が強い曲もあるし、まったくのノンフィクションもあって。聴いてくれた人にそれぞれの受け止め方をしてもらいたいし、そのためにもっといろんな表現を突き詰めていきたいですね。
──そして「Tu Tura Li Lat」は四つ打ちのビートとファンキーなギターが絡み合うダンスチューンです。ここ数年のトレンドにも沿っている曲なのかな、と。
Masahiro まさに「四つ打ちの曲を作ろう」がテーマだったんですよ。
Yujin ライブで盛り上がる曲にしたいという気持ちもありました。ファンクも好きですからね。トレンドを意識したというより、もともと好きだったものの1つという感じですね。
Masahiro Jamiroquaiとかの影響もあるかも。歯切れのいいギターカッティングも際立ってますよね。
Yujin ありがとう(笑)。マドンナとかカイリー・ミノーグのようなポップスターのライブのイメージもありましたね、個人的には。彼女たちのライブバンドはすごくカッコよくて、アレンジも原曲と違ってたりするんです。CDでは打ち込みでも、ライブでは生のグルーヴがしっかり出ていたり。
──都会的な洗練を感じさせる「DAIWA」、スケールの大きさを備えた「blue hour」など、楽曲ごとに独創的なアイデアが込められているのも印象的でした。
Masahiro 曲のアイデアは常に出てくるんですよ(笑)。もともとセッションが好きだし、例えばYujinが何気なくギターを弾いてるときも、「今のいいね」ってボイスメモに取って、それをもとに曲を作ることもあって。まさに「DAIWA」はYujinのエレキのリフがきっかけになっていて、そこにコードを付けながら形にしていったんです。「blue hour」のアウトロのギターソロは一発録りなんですよ。
Yujin オーバーダビングをしないで、その場で出てきたものをそのまま録音して。
Masahiro さっきも言ったように、基本的にはしっかり練りながら作ってるんですけど、「この熱量をそのまま閉じ込めよう」という判断をすることもあるっていう。
──「タイムトラベルミュージック」はアマネトリルの音楽性、制作に対するスタンスがしっかり示された作品だと思います。この先はどんな活動になりそうですか?
Masahiro 曲が書けて歌える2人のユニットなんですが、1つの形にこだわるのではなくて、いろんな挑戦をしたいんですよね。オリジナル曲のリリースやライブはもちろん、楽曲提供やプロデュースにも挑戦したいし。
Yujin ユニット名の由来も日本酒だし、音楽以外のコラボレーションもやってみたいですね。
Masahiro ライブもバンド形態だけではなくて、僕のアコギ、Yujinのエレキだけで成立させるスタイルもあって。トライ&エラーを繰り返しながら進んでいきたいと思います。
- アマネトリル「タイムトラベルミュージック」
- 2018年11月30日発売 / エーエムシー
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[CD] 2160円
AMC-071
- 収録曲
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- ファンファーレは街へ
- エンプティーダンス
- DAIWA
- 鳴子東線
- Tu Tura Li Lat
- blue hour
- ライブ情報
アマネトリル 1st Album「タイムトラベルミュージック」発売記念ワンマンライブ -
- 2018年11月30日(金) 東京都 GEMINI Theater
- アマネトリル
- 2018年1月結成。ラジオDJやコンポーザー、イベントのプロデューサーなどの経験を持つシンガーソングライターのMasahiro(Vo, G)と、アメリカ・ボストンにあるバークリー音楽大学で学士号を取得し、ニューヨークを拠点にしていたYujin(Vo, G)の2名で活動している。シティポップ、AORなどの影響を受けた1970年代を彷彿とさせつつも洗練されたサウンドアレンジと楽曲作りを目指している。11月30日に1stアルバム「タイムトラベルミュージック」をリリースし、東京・二子玉川 GEMINI Theaterにてレコ発ワンマンライブを開催する。