雨宮天「Blue Christmas for You」インタビュー|世界を真っ青に染め上げる、雨宮流のクリスマスソング (3/3)

「冬の王道J-POP」に挑戦

──カップリング曲「スノウフレイク」も、表題曲とは別の種類の驚きがありました。雨宮さんがこんなにもオーソドックスなJ-POPを歌うとは。

「企画シングルを楽しく作るぞ!」という気持ちになった私が、クリスマスソング以外でまだやったことがないことはなんだろうと考えたとき、「王道のJ-POPでは?」と思いまして。カップリングはコンペだったんですけど、リリース時期的におそらくは「冬の王道J-POP」みたいなお題で集めてくださった中から、私が気に入った楽曲を選ばせてもらいました。だから、私にとってはカップリングも新たな挑戦になりましたね。

──失恋を題材にしたミディアムバラードで、実はカップリングのほうが挑戦の難易度としては高かったのでは?

おっしゃる通りで、大変でした。どうしたらこの「スノウフレイク」を聴き応えのある曲として成立させながら、私らしさを出せるのか、最初は見当もつかなくて。私は今までいろんなキャラクターを演じてきたけれど、いわゆる一般人を演じることをしてこなかったんですよ。

──一般人。

言い方が難しいですね。もっとトゲのない、優しい言葉はありませんか?

──大衆、パンピー……。

トゲ、増えていません?(笑) とにかく、日常の中にある恋愛模様とかを歌うのが王道J-POPの1つの形だとするなら、私が演じるべきは一般的な感覚を持った、普通の人になるわけで。でも、私にとってはそれが一番難しいんだと思い知ったんですよ。例えばいたずらっ子とか悪役とか、なんらかのキャラ付けがあったほうがイメージも演技もしやすいけど、それがない人って、どうやって演じたらいいのかわからなかったんです。

雨宮天

──まさに「一般人」とおっしゃったように、これは悪い意味に受け取ってほしくないのですが、ステレオタイプな歌詞ですよね。「クリスマス、街には恋人たち。でも私は1人。あ、なんか雪降ってきたし……」みたいな。

そうそう、そうなんです。本当に言い方が難しいんですけど、「一般的」だったり「普通」だったりすればするほど、私の理解の範疇を超えてしまうんですよね。当然、共感もできなくて。だって、雪の降る街でいつまでも立ち止まっていてもしょうがないし、だったら友達を誘って飲みに行ったほうがいいと私は思ってしまうんですよ。私は今できることをやろうとするから、あまりにも未練がましいと、むしろ説教を垂れたくなってしまうというか、それぐらい生き方に違いが……。

──ステレオタイプなラブソングを歌うこと自体が雨宮さんにとっては異常事態だし、だからこそ挑戦たり得ると思ったのですが、やはり相当苦労されたんですね。

実は、最初にいただいた歌詞はもうちょっと抽象的で、描かれている女性もより湿っぽいというか、これも言い方が難しいんですけど、広く一般に共有されている感じの“女性らしさ”が漂っていたんです。そうなるとお手上げで、これは私の理解力の問題でもあるんですが、抽象的な表現も苦手だから「つまりどういうこと?」みたいな。でも、私から作詞の辻井りとさんにイメージをお伝えして、改めて上げてくださった歌詞を読んで「これなら私にもわかるかも」と。

──私にもわかる。

仮に共感できなくても、理解できれば演じられるんです。要は「スノウフレイク」の主人公のような女性もいることは理解できる。そういう歌詞に軌道修正していただいて、とても感謝しています。

──当初は「抽象的」だったと聞いて少し驚いたのですが、完成形の歌詞は映像的というか、情景が浮かんできますよね。

そう。いろんなシチュエーションとかも具体的にしていただいて、きっとそのおかげで理解できるようになったんですよね。とはいえ、歌は歌でまた苦戦しました。声の年齢感とか温度感がよくわからなかったので、よくわからないままレコーディングを進めていくしかなくて。テイクを重ねる過程でこの曲にふさわしいテンション感が徐々につかめてきて、「この感じだ」と思ったら、1番Aメロからまた歌い直すみたいな。

──言葉では説明しづらいテンションですよね。例えば雨宮さんが作詞作曲した悲恋ソング「風燭のイデア」(「Ten to Bluer」収録曲)は殺伐としていて、そういう意味ではわかりやすい。悲恋の度合いが過剰といいますか。

そうなんですよね(笑)。歌謡曲クラスの悲恋になってくると演じやすいんですけど、「スノウフレイク」にはそこまでの過剰さはない。だからこそ難しくて、思わぬところで自分の弱点が見えました。30代になって、これからも年齢を重ねていきながらまだまだ声優をやっていくのであれば、言葉では簡単に言い表せない思いを抱えたキャラクターを演じる機会も増えると思うんですよ。10年やってきてまた新たな課題が見つかったという意味で、1つ収穫があったといえます。

みんなと信頼関係ができているから、もう大丈夫

──「スノウフレイク」の作曲は鈴木エレカさんとめんまさん、編曲はめんまさんですが、鈴木さんは過去に「GLORIA」(2018年7月発売の2ndアルバム「The Only BLUE」収録曲)と「メリーゴーランド」(2019年7月発売の8thシングル「VIPER」カップリング曲)の作詞作曲を手がけた方ですね。

そうなんです。実は楽曲会議で「カップリングは、誰かお願いしたい人いる?」と聞かれたとき、私は鈴木エレカさんの名前を出したんですよ。でも最終的に、王道J-POPを狙うなら、エレカさんも参加していただく形でコンペをするのがいいんじゃないかというところに着地して。そのコンペで、たまたま私がダントツで高得点を付けたのがエレカさんの曲だったんです。だから運命的というか、奇跡的というか……もしかしたらエレカさんが私の好みを完全に把握していて、私がエレカさんの手のひらで踊らされているだけかもしれないんですけど(笑)。

──「GLORIA」は洋楽的で、「メリーゴーランド」は歌謡曲的で、「スノウフレイク」はJ-POP的で、多彩な作家だと思いました。

だから、今後もすごく楽しみです。それぞれ個性の違う3曲を書いていただいて、じゃあ次はどんな曲でご一緒できるのかと想像すると。

──いいですね。創作意欲が刺激される制作といいますか。

うんうん。チーム内でも話し合いがいっぱいできるし、その場でいろんな意見が交わされて、その場でどんどん方向転換もできる、めちゃくちゃ柔軟な現場なんですよ。そういうところにも10年を感じるし、もし、もうちょっと早い時期にこのシングルを作っていたらストレスで胃をやられていたと思うから、今、このチームで作れてよかったです。

雨宮天

──10周年のタイミングにぴったりなシングルだと思います。従来の雨宮天のパブリックイメージとはかけ離れているからこそ「10年かけてこんなに遠くまで来ちゃいました」みたいな。

もう、やれることはひと通りやったという自負もあるし、青き民もスタッフさんもそう思ってくれているだろうから、「じゃあ、ちょっと変なことをやってみよう」ができますね。おかしな言い方かもしれないけれど、もはや失敗できるところまで来たというか。例えばこのクリスマスシングルが大失敗しても、また次は違うことをやればいいと思えるんですよ。失敗しないようにそろりそろりと、石橋を叩いて渡るところは通り過ぎたんだなって。

──昔はけっこう叩いていたんですか?

挑戦はしつつも、守るべきものは守るみたいな。かつ、ある程度は受け取り手の様子をうかがっていたと思うんですよね。でも、今はいい意味で無責任になれているというか。もちろんやると決めたら本気でやるのは昔から変わっていないけれど、もっと軽い気持ちで新しいことに挑戦できている感じです。

──音源を聴いたり、こうして直接お話を聞いたりしていると、「雨宮天作品集1-導火線-」(2023年3月発売の1st EP)で1つブレイクスルーがあったのかなって(参照:雨宮天「雨宮天作品集1-導火線-」インタビュー)。

はいはいはい。ある意味、受け取り手のことを試したわけですからね。「次はこんなことやっちゃうけど、大丈夫そう?」みたいな感じで。その結果、受け取ってくれたというか、受け取らせることができた。だってね、自分で全曲作詞作曲した歌謡曲EPなんて、「なにやってんだ?」って感じですもんね(笑)。

──声優がね。

そうそう、声優がね。だから楽しいです。ここまで振り落とされずについてきてくれた青き民とはかなり強固な信頼関係が築けている実感があるし、まさに「導火線」とか、最近の私の活動に興味を持ってくださった方とも良好な関係を築けていけるはずなので。今回のシングルに関しては、ここまでお話ししてきた通り好き勝手やらせてもらっているんですが、同時にファンサになったらいいとも思っているんですよ。欲張りすぎかもしれないし、自分で言うのもおこがましいけれど、「かわいい」をすごくがんばったので。

──かつての雨宮さんは、「かわいい」を求められてもシカトしていましたよね。

はい。さかのぼればさかのぼるほど、そうした要望は切って捨てていました(笑)。でも今は、繰り返しになりますけどみんなと信頼関係ができているから、もう大丈夫だなって。

聴きたければ聴いてください

──ところで、雨宮さんは「10周年」みたいな、アニバーサリー的なものに対して意識的ですか?

いや、全然ですね。もともと日付とか年数を覚えていられるタイプじゃなくて、自分の誕生日とか年齢すらもよくわからなくなっちゃうんですよ。だから、さっき年齢の話になったときも、自分が今31歳なのか32歳なのかわからなくて「30代」と言い続けていたという(笑)。

──戸松さんも似たようなことをおっしゃっていました。

戸松さんと私、ちょっと似ているのかな? なんだかうれしいな。

──去年の話ですが、戸松さんは33歳なのに、年齢を聞かれるとつい「30です」と言いそうになってしまうそうで。それはサバを読んでいるのではなく、30代を迎えてから「3年も経っていることに気付いていない」から(参照:戸松遥「Alter Echo」インタビュー)。

戸松さんらしいですね(笑)。私も自分の年齢が言えないぐらいだから、アニバーサリー的なものにも無頓着なんですけど、青き民たちが祝ってくれるおかげで気付けるというか。そこで初めて「楽しいな」「おめでたいな」と思える。そんな感じかもしれないですね。

──では、先のことは考えるタイプですか? 例えば11年目以降のこととか。

今となっては、あんまり考えなくなったかもしれません。あ、でも、現時点でけっこう具体的な目標はあって、EPはまた出したいです。たぶん当時のインタビューでもお話ししたと思うんですけど、「雨宮天作品集“1”」とナンバリングしたからには、2、3と続けていきたいなと。1枚目は歌謡曲だったので、2枚目はまた別のベクトルで、自分がそのとき夢中になっていたり心惹かれていたりするものをテーマに、1枚目とは全然違う挑戦ができたらいいですね。

──「雨宮天作品集2」、待っています。

はい。いや、でも待たれるとちょっとね、ドキドキ怖い気持ちが……。

──訂正します。作りたければ作ってください。

それだと助かります。聴きたければ聴いてください(笑)。

雨宮天

プロフィール

雨宮天(アマミヤソラ)

8月28日生まれの声優 / アーティスト。2011年に開催された第2回ミュージックレインスーパー声優オーディションに合格し、翌年に声優デビューする。主な出演作に「アカメが斬る!」「東京喰種 トーキョーグール」「七つの大罪」「この素晴らしい世界に祝福を!」「彼女、お借りします」など。2014年8月に1stシングル「Skyreach」でアーティストデビュー。熱心な歌謡曲ファンであり、2017年から歌謡曲カバーライブ「音楽で彩るリサイタル」を不定期で開催。2021年10月には初のカバーアルバム「COVERS -Sora Amamiya favorite songs-」を発表した。アーティストデビュー5周年を迎えた2022年1月にはベストアルバム2枚を同時リリース。2023年3月に自身で全収録曲の作詞作曲を手がけたEP「雨宮天作品集1 -導火線-」を発表し、11月に神奈川・大磯プリンスホテル メインバンケットホールで初のディナーショーを行った。2024年3月にアーティストデビュー10周年を飾るアルバム「Ten to Bluer」をリリースし、5月からライブツアー「LAWSON presents 雨宮天 Live Tour 2024 "Ten to Bluer Sky"」を開催。12月にクリスマスシングル「Blue Christmas for You」をリリースした。また、同じミュージックレインに所属する麻倉もも、夏川椎菜とともに声優ユニット・TrySailのメンバーとしても活動している。