高垣彩陽さん、私に力を貸してください!
──今お話に出た「悪役」も含めて、「Blue Christmas for You」はいい大人が真剣にふざけているのが伝わってきます。
うんうん。私と、私の信頼するチームのみんなで目一杯ふざけたシングルになっているなって。それができたのも14枚目のシングルだから、つまり今までの積み重ねがあったからこそですね。だから楽しい10周年、楽しい30代の催しの1つのような感じです。でも正直、全然楽しくない瞬間もあって。まさに自分でリクエストして作ってもらった悪役ゾーンの入り口で、オペラのような歌い方をするところがあるじゃないですか。私はそういう歌い方をしたことがなくて、できる限りのことはやったけれど、その日のテイクはまったく気に入らなかったんです。だから後日、カップリングの「スノウフレイク」をレコーディングする日に、そこだけ録り直させてもらったんですよ。
──オペラっぽいパートは「高垣彩陽さんならわかるけど、雨宮さんもこういう歌い方できるんだ?」と驚きました。
え、うれしい! 私はレコーディングのとき、高垣さんの歌を聴きながら「もうちょっと喉を開く感じかな?」と考えたり「高垣さん、私に力を貸してください!」と祈ったりしていて(笑)。
──お手本になる先輩がいてよかったですね。
本当にそうで、「高垣さんになれ! なれ!」と念じながら何回もトライさせてもらいました。真剣にふざけるということは、手を抜いちゃいけないということですよね。でも、「Blue Christmas for You」のレコーディング当日に録ったテイクは半端な感じがして、それが世に出るのがどうしても嫌だったんです。そこはこだわりたくて、最終的には自分でもOKを出せるテイクにできたなと。
──雨宮さんは、クラシックに触れていたというお話はされていましたが、オペラへの言及はなかったと記憶しています。
そう、オペラはちゃんと聴いたことがなくて。どうしたらいいかわからないところからのスタートだったので、かなり苦戦しました。
──それを聞いてちょっと安心しました。オペラまで楽々歌えたらできすぎだと思ったので。
デビューしてからずっと掲げ続けている“挑戦”を、今回のシングルでもちゃんとしています。
──逆に言うと、譜割は微調整したとのことでしたが、ハッピーなパートは難なく歌えたんですか?
そうですね。キャピキャピと楽しそうに歌うことって、キャラソンの現場で求められることが多いんです。だから、そこで学んできた手法が役に立ったと思います。ただ、「Blue Christmas for You」は歌詞がかなり“私”なので、自分自身の「キャピ」を出す必要があって。レコーディングの段階ではジャケットもMVも撮っていなかったんですが「どうせならサンタの衣装を着てやろう」という話は出ていたので、青いサンタに扮している自分を想像して、それを演じる感じでした。かつ、悪役ゾーンとの落差を付けたかったので、1番Bメロの「焼き立てのブッシュ・ド・ノエルに」のあたりでちょっとだけいたずらっぽさを入れる程度で、あとは若々しく、かわいらしく、もう「やってやる!」みたいな……いや、「やってやる!」はおかしいな。
──「クリスマスだ、やってやる!」って、妙な勢いは感じますが。
「やっちゃうぞ」ぐらいかな(笑)。
──ちなみに、悪役ゾーンが終わった直後、「なんてことは ないけれど」という歌詞のあとに「ひひ」と笑い声を添えていますが、これはアドリブですか?
はい。そこは、仮歌の段階では「なんてことは ないけれど ふふ」という歌詞になっていて、「ふふ」にもメロディが付いていたんですよ。でも、普段の私だったらそういう言葉はセリフにしちゃうし、それが自分の得意分野だから「ここはメロディを歌わなくてもいいですか?」と確認して、アドリブでやらせてもらいましたね。
──いたずらっぽい、いい「ひひ」ですね。
一応「ふふ」も録ったんですけど、「ひひ」のほうがやんちゃ感があると思って。ついでに言うと、ここのブロックの「ときめきは青天井」という歌詞は、もともとは「真っ青に震えてる」みたいな感じだったんですよ。
──クリスマスなのにかわいそう……。
いたずらされた人が怖くて震えているという(笑)。それだとちょっといたずらがすぎるので、私から案を出させてもらいまして。結果的に「やめられないの 悪戯心」「ときめきは青天井」の2行だけは、私の作詞になりました。
青くできるものはなんでも青くしたほうがよかろう
──ジャケットのアートワークも、10年かけて定着させた“青”みたいなところがあるように思います。
私、感動しました。ジャケットの撮影現場に入ったら、目に映るすべての青が寸分たがわぬ“雨宮ブルー”で。
──色見本で指定しているんですよね。「この青がいい」って。
そうですそうです。昔、まだデビューしたての頃とかは、青の色味を巡ってなん悶着もあったんですよ。なかなか理想の青にならなくて。でも、今回は文句の付けようのない青が目の前に広がっていて、そこにも10年の歩みを感じましたね。今や撮影チームも衣装さんも私の好きな青を完璧に把握してくれていて、微妙に濃淡がズレたりすると申し訳なさそうにしてくれますもん。「ちょっと今日の青はね、薄いと思うんだけど」って。私は何も言っていないのに(笑)。
──面白い気の使われ方ですね。
私としては「いやいや、合格ラインです! いつもありがとうございます!」みたいな。そういう独特な会話が交わされる現場なので、楽しいですね。そろえようとせずともそろっている足並みとでもいいましょうか。しかも今回の撮影に関していえば、こんなにもキャピることは普段ないから、それも楽しかったです。
──キリッとしている感じが多いですもんね。
そう。なので今回は「私は22歳だ」と思って撮影に臨みました(笑)。自己評価なんですけど、たぶん24歳ぐらいにはなった気がするので、隅々まで見てほしいですね。
──MVでもキャピってますね。
MVは正直、けっこう不安だったんです。というのも、ここでも私が意見を出して、歌詞に沿ったMVを撮ってもらうことになったんですけど、そうなると3役必要なんですよ。つまりプレゼントを運ぶ青いサンタの私と、プレゼントを待つ子供的なポジションの私と、悪役の私ですね。青サンタと悪役はいいとして、果たして子供はいけるのかと(笑)。少なくとも幼い印象が求められるから「絵面的に大丈夫なんですかね?」と心配していて。でもそこは、メイクさんと衣装さんの力でなんとかなったんじゃないかな。
──サンタの雨宮さんと子供的な雨宮さんで、ちゃんと年齢差があるように見えます。
うれしい。メイクさんと衣装さんにも伝えておきますね。同じ人間だけど、MVの中では別人であることをわかってもらわなきゃいけないので、それが叶ってよかったです。MVの監督は「PARADOX」のときにお世話になった方で、ストーリー性もあって観ていて楽しくなる、理想的な形に仕上げてくださいました。
──おっしゃる通り歌詞のまんまのMVで「この青サンタ、街で悪さしてきたんだろうな」みたいな背景も想像できます。
いたずらサンタなので(笑)。今気付いたんですけど、今年は「JACKPOT JOKER」(2024年3月発売の4thアルバム「Ten to Bluer」リード曲)でもいたずらっ子を演じているんですよね(参照:雨宮天「Ten to Bluer」インタビュー)。今まで見せてこなかった一面を、ここぞとばかりに見せているかもしれない。
──サンタの雨宮さんは、子供的な雨宮さんの部屋を青く染めて帰っていきましたね。枕元の靴下も、バカでかい青いやつにすり替えて。
本当に青の主張が強くて(笑)。子供的な私の髪留めの色も青に変わっていたりするんですけど、それは監督からの指示じゃなくて、メイクさんが考えてやってくれたんですよ。だからチームワークがあらゆるところで、細部に至るまで発揮されていますね。「青くできるものはなんでも青くしたほうがよかろう」と、私のスタンスと志をちゃんとみんなわかってくれている、幸せな現場です。
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