雨宮天が全収録曲を自ら作詞作曲!歌謡曲への愛と情熱に満ちた「雨宮天作品集1 -導火線-」完成 (2/3)

中森明菜さんを脳内に召喚

──2曲目の「都会逃避行(ネオンエスケープ)」は……やはりいいルビが振ってありますが、僕はこの曲から中森明菜を感じました。

わあ、うれしい! そうなんですよ。さっき作曲の仕方を聞いていただきましたけど、このEPを作る過程で新しい作曲法を確立したんです。それは、私の大好きな歌手を脳内に召喚するというやり方で、ここでは明菜さんをお呼びして、明菜さんに歌ってもらったんです。そうすることでメロディや歌詞が浮かんできたり、「もし私が明菜さんに曲を提供するなら……」という妄想から曲ができあがることがわかって。「明菜さんの声が映えるメロディって、こんな感じかな?」「明菜さんだったら、このロングトーンでビブラートをかけるよな」とか、ずっと明菜さんのことを考えていましたね。

──こちらの歌詞も「愛」と「自由」にいずれも「うそ」とルビが振ってあったりして、主人公のメンタルが少し心配になってしまいます。

この曲の歌詞は「TRIGGER」よりも現実的な感じですね。主人公は20代後半の独身女性で、地方から東京に出てきてバリバリ働いていたんだけど「なんか、疲れちゃったな……」みたいな。

──でも、雨宮さんは東京生まれですよね。

そう、だからこれも妄想です(笑)。

──歌詞の1行目から「都会の夜空を窮屈に染める摩天楼」とありますが、「摩天楼」という言葉は最近は聞かなくなりましたね。

この曲に関しては、特に歌謡曲的なワードをちりばめたくて。「摩天楼」以外にも「夢を馳せた少女」の「少女」とかもそうで、昔は何かと「少女」と歌われていたと思うんですけど……。

──中森明菜だったら「少女A」とか。

そうそう。私も歌謡曲のメロディに乗せて「少女」と歌いたくて。あと、まさに「都会逃避行(ネオンエスケープ)」というタイトルがそうなんですけど、長めの熟語に謎の横文字ルビを振るというのもやってみたかったことの1つで。これは中原めいこさんの「君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。」の歌詞にある「果実大恋愛(フルーツ・スキャンダル)」をイメージしているんです。そんなふうに、私が歌謡曲でやりたいことを詰め込んだ曲になっていますね。

──サウンド面に関しても、イントロを聴いた瞬間、40年ぐらい時間が巻き戻ったような感覚に陥ります。

ギターの音色とかもあの時代特有のものですよね。だから「都会逃避行(ネオンエスケープ)」はわかりやすく歌謡曲らしく作っていて、「ああ、雨宮のやりたいこと、わかるよ」と言ってもらえる曲かなと思います。

──雨宮さんのボーカルも、普段とは違う影がありますね。

その影を生んでくれたのは、私の頭の中の明菜さんだと思います。「明菜さんだったら、きっとこんなふうに歌うんだろうな」と妄想しながら歌っているので。

──雨宮さんは声優として歌うことを大事にしていて、その声優とは幅広い役柄を演じられる声優のことだと以前おっしゃっていました(参照:雨宮天「PARADOX」インタビュー)。今回のEPでもそのスキルが発揮されていると思いますが、歌謡曲が雨宮さんのボーカルスタイルに与えた影響って、何かあります?

歌謡曲から受けた影響だらけだと思います。例えば低音を響かせたいとか、テンポを揺らしまくりたいとか。70、80年代の曲を聴いていると「スタジオ音源なのに、こんなに自由にやっちゃっていいんだ!?」とびっくりするくらいテンポを揺らしていたり、音程もビシっと真ん中に当てるんじゃなくて、ちょっと下をなぞったり、逆に上をかすめたりしていて。それが歌唱表現として魅力的に感じるから、私も大いにやらせてもらっていますね。だから、こんなことまで言っていいのかわかりませんけど、多少音程が合っていなくても直さないまま完パケする曲も多いんです。「ちょっとフラットしちゃってるけど、この曲に付けたいニュアンスとしてはむしろそれが正解」と自分で判断して。

雨宮天

「悲恋エピソードはありませんか?」と聞き込み調査

──続く「初紅葉」は、演歌ですね。

やっちゃいました。私は小中学生の頃から石川さゆりさんの「津軽海峡・冬景色」や「天城越え」、坂本冬美さんの「夜桜お七」なんかを、八神純子さんの「みずいろの雨」のような歌謡曲と一緒にカラオケで歌っていて。第2回「リサイタル」でも八代亜紀さんの「雨の慕情」をカバーしていますし、好きなんですよ、演歌。

──歌詞のテイストも先の2曲とはまったく違っていて、ベタといえばベタなのですが、あえてベタを踏んでいるといいますか。

そうそう。メロとかも含めて、とにかくベタベタっていう。

──ディテールにしても、2番Aメロの「赤らびる私の頬を もみじだと微笑んだ」に続く「目尻が恋しい」で「目尻」にズームインするあたり、とてもいいですね。笑いジワが特徴的だったのか、とにかく印象に残っていたんだろうなって。

実はこの「目尻」に関してはけっこう悩みまして。笑顔を表現できそうな言葉を探していたときに「目尻」が思い浮かんだんですけど、「目尻とはいえ、“尻”だしな……」とか。

──「雨宮天が“尻”と歌っているぞ」とざわつくファンが出ないとも限らない?

自分の中では洗練された言葉選びをしているつもりだったので(笑)。でも、今「笑いジワ」と言ってくださいましたけど、まさに年上の男性を表したかったんですよ。「初紅葉」は初恋をこじらせた女の子の歌で、彼女は恋愛経験に乏しいがゆえに、年上の男性に優しくされてコロッといっちゃったんです。つまり、聴く人が目尻のシワ=加齢みたいな連想をしてくれるかもしれないという期待込みで、「目尻」にしました。

──1番Bメロの「染めるだけ染めて 青かったこころ」の「青」は、紅葉する前のもみじの葉の色であり、雨宮さんのイメージカラーでもありますね。

正直、そこは雨宮天の青という発想は全然なくて。私の中ではあくまで緑の葉っぱと、若さという意味での青をかけていたんです。だからスタッフさんに言われて初めて「ああ、なるほどね」みたいな。

──図らずもトリプルミーニングになっていたと。その「青かったこころ」も赤く染められ、「燃えたままで 凍えるだけ」という。

燃え上がった恋は全然散ってくれなくて、つらいし、報われない……ということをひたすら歌っていますね。

──「青かったこころ」を引っ張りますけど、ここは歌唱面でも高音のビブラートが素晴らしいですね。

めちゃくちゃうれしいです。演歌って、カラオケではたくさん歌ってきましたけど、正しい歌い方を教わったわけではないので、レコーディングでは私が好きな演歌歌手の方々の歌い方を意識していて。それこそ「青かったこころ」は八代亜紀さんを、Aメロのあたりは坂本冬美さんを思い浮かべたり。と同時に、さっきの「都会逃避行(ネオンエスケープ)」のように、好きな演歌歌手の方々に頭の中で「初紅葉」の歌詞とメロディを歌ってもらい、聞こえてきた歌い方を真似っこしてみる。そうすることで、少しは歌声に説得力を持たせられるんじゃないかと思ったんです。

──演歌を歌う際、あからさまにコブシをきかせたりビブラートをかけたりするとモノマネやパロディになってしまいそうですが、雨宮さんの歌はそうなっていない。本気で演歌として聴かせようとしているのが伝わってきました。

正直、「初紅葉」はネタ的に受け取られてしまうかもしれないと危惧していた部分もあったし、とりあえずEPに入れてみんなの反応を見てみるという、実験的な枠でもあったんですけど、私としては本気で作っていて。なので、演歌としてある程度でも形になっていたとしたら、とてもうれしいです。

──5曲目の「ぽつり、愛」もそうなのですが、雨宮さんがラブソングを歌うのは極めて珍しいことですよね。

気付いてくださいましたか。私はこれまで闇を切り裂きながら戦い続ける曲ばかり歌ってきたんですけど、このEPを作るにあたって、歌謡曲って本当に恋愛の歌、しかも悲恋の歌ばかりなんだと再確認しまして。その恋愛要素を歌詞に盛り込むのが、一番苦労したポイントだったんです。私は、例えば本やマンガでも恋愛モノにはあまり触れてこなかったので、恋愛のボキャブラリーに乏しかったんですよ。でも、それこそ歌謡曲がヒントをたくさんくれました。歌詞を読みながら「やっぱり不倫はしておいたほうがいいんだ?」とか。

──不倫はしておいたほうがいい。

あくまでフィクションとしてね(笑)。現実ではあってはならないことだけど、不倫をすると一気に“歌謡み”が出ることがわかったり。あと、スタッフさんや友達に「悲恋エピソードはありませんか?」と聞き込み調査をたくさんして。だからとにかく情報をかき集めて、そこから妄想でストーリーを練る。その繰り返しですね。

ポイって全部脱いで体ごと押し付けていく

──4曲目の「マリアに乾杯」は、歌詞から何からヤバいですね。

その反応がすでにうれしいです(笑)。

──先ほどの「都会逃避行(ネオンエスケープ)」が中森明菜だとしたら、この「マリアに乾杯」は山本リンダでしょうか。

正解です! という言い方は変かもしれないけど、そうなんです。

──艶っぽくて、大胆不敵な感じ。

うんうん。艶っぽいんだけど、スタイリッシュというよりは大味……というと言葉が悪いかもしれませんが、それをやりたかったんです。だから「マリアに乾杯」は、まずリンダさんの曲をたくさん聴いてインプットして。そのうえでリンダさんを脳内に召喚して歌ってもらいつつ、私がリンダさんに歌わせたい歌詞を詰め込みながら作っていきました。

雨宮天

──サビの「私からあなたへとぶつけた視線は導火線」って、めちゃくちゃ怖いです。視線を向けられたらバチバチバチってなって……。

爆発します(笑)。「マリアに乾杯」はリード曲ではないんですけど、この「導火線」が気に入ってEPのサブタイトルにしたんですよ。絶妙に危険な香りがするし、どことなく昭和を感じる言葉でもあって。そもそも「私からあなたへとぶつけた視線は導火線」という一文自体、きっとこの曲を作っていなかったら出てこなかったはずで。このEPの制作中は、自分の思いもよらない言葉が出てきて驚きましたね。

──サビの最後、「この世の全部飲み干すわ」からの「乾杯 乾杯 乾杯 乾杯」もイカれていると思いました。「飲み干すからって、乾杯するやつがあるか」と。

ここの歌詞はわりかしするすると出てきて。さっきも話したように、リンダさんに何を言ってもらいたいかを考えたら「この世の全部飲み干すわ」とか、「私の瞳を見てごらん」「私の虜にしてあげる」「いい子のワンちゃん」とか、どんどん言葉が湧いてきたんですよ。だから妄想でリンダさん語録を作ってしまった感もあり、それも含めていろんな意味で満足できた楽曲ではあります。

──そんな歌詞を歌い上げる雨宮さんのふてぶてしいボーカルも、強烈でした。

もう、ここまでリンダさんをリスペクトして作ったんだから、リンダさんに歌ってほしいくらいだけど、もちろん自分で歌うしかない。「じゃあ、どうしよう?」と思ったときに、あまりにもリンダさんを意識しすぎてへたっぴな真似っこみたいになっても嫌だし、でもリンダさん要素は絶対に入れたくて。自分の中でバランスを取れるポイントを探った結果、この歌い方に行き着きました。

──「TRIGGER」のボーカルも色気がありましたが、「マリアに乾杯」は先ほど「大味」とおっしゃった通り、色気の質がまったく違います。

フェザータッチでなぞるとかじゃなくて、ポイって全部脱いで体ごと押し付けていく感じ。そういうカロリーが高そうな、胸焼けしそうな色気を「マリアに乾杯」では目指しました。「もう、お腹いっぱい」みたいな(笑)。

──それでいて細部においては、2番の歌詞にある「大胆に」「繊細に」「純情で」「妖艶な」でそれぞれ声色を変えていたり、さすがですね。

ありがとうございます。そういう細かいニュアンスの変化を付ける技術は、私が声優活動で培ってきたものであり、私の強みなので「やってやろうじゃないの!」と。