遠距離恋愛の果てに破局を迎えたカップルの歌
──最後の曲「ぽつり、愛」はしっとりとしたバラードで、ハイカロリーな「マリアに乾杯」からの落差がすごいです。
我ながら「なんか、いいバラードできたな」と思っちゃいました(笑)。
──この曲は、中森明菜や山本リンダのようなリスペクト先が特定できませんでした。
たぶんその感覚が正しいです。「ぽつり、愛」は、私が第3回「リサイタル」でカバーした徳永英明さんの「レイニー ブルー」と高橋真梨子さんの「for you...」に対して、角田さんが「あのつぶやくような歌い方がすごくよかったから、今回のEPでもやったらいいと思う」と言ってくださったことがきっかけで作り始めているんですよ。なのでAメロは高橋真梨子さんのつぶやくような声色をイメージしながら作っていったんですけど、なんか明るくなっちゃって。もともと私は暗い曲が好きだし、サビで悲壮感を漂わせたいと思ったときに、ちょうど聴いていたのが明菜さんの「難破船」だったんです。だから、この曲はいろんな歌手の要素が混ぜこぜになっているんですよ。
──「ぽつり、愛」も悲恋の歌で、具体的には遠距離恋愛を歌っていますね。
さっき悲恋エピソードの聞き込み調査をしたと言いましたけど、実はこの歌詞はスタッフさんのお友達で、遠距離恋愛の果てに破局を迎えてしまったカップルの実話がもとになっているんです。例えば太田裕美さんの「木綿のハンカチーフ」も都会に出てしまった男性と、その帰りを故郷で待ち続ける女性の歌ですし、遠距離恋愛の悲哀は歌謡曲に合うと思って。スタッフさんのお友達のエピソードを軸にしながら、私の友達にも「遠距離恋愛中の女性って、どんな気持ちだと思う?」と追加の聞き込みをして、そこから「受話器を通るあなたの声 急ぐように聞こえて」とか、どんどん疑心暗鬼になっていくような歌詞が生まれました。
──「受話器」も歌謡曲ワードですよね。そして電話機本体は、きっとダイヤル式で。
そう、ダイヤル式がいいですよね。この「受話器」もルンルンで歌詞に入れました。
──雨宮さんは、サビの歌詞にある「小さな部屋で独り愛をつぶやいた」ような経験などは?
小さな部屋……。
──あ、広い部屋にお住まいですか?
そうですね……なんて、嫌な感じになっちゃった(笑)。いや、私も愛をつぶやけるものならつぶきたいです。だいたい家に帰ると「ちくしょう!」とか、怒りや悔しさを叫んでしまうので。
──予想はしていましたが、全然「ぽつり、愛」じゃないですね。
「ぽつり、愛」というタイトルは私じゃなくて、さっきの悲恋エピソードをくれた方とは別のスタッフさんが考えてくださったんですよ。もともとは「つぶやき」という、そのまんまの仮タイトルを付けていたんですけど、いつの間にかそこから離れられなくなっちゃって。レコーディングが終わったあとも長時間かけてみんなで案を出し合ったもののいまいちしっくりこなくて、さらに数日経ってから、そのスタッフさんがふと「『ぽつり』って、どうですか?」と。私も風情のあるいい言葉だと思ったので「、愛」を付けて採用させてもらいました。だからこのEPは、雨宮天が全曲の作詞作曲をしたと謳っていますけど、雨宮チームみんなの力を借りてできあがった、チームワークの結晶なんです。
歌謡曲の好きな部分だけを詰め込むことができた
──最初のほうで5曲ともクセが強いと言いましたが、そのクセの方向性がバラバラで。
本当ですね。私も自分で話しながら改めて思いましたけど、曲によって作り方もさまざまで、つまりひたすらインプットすることもあれば、ご本家を召喚することもあるし、聞き込みをすることもあるから、歌謡曲というテーマがある中でこれだけバリエーションを出せたのかなって。でも、最初はバリエーションが出せなくて、「歌謡曲ってなんなんだ?」という迷路からしばらく抜け出せなかったんですよ。例えば歌謡曲にありがちなコード進行にメロを付けるやり方で作ったりもしたけど、何かが違う。結局、私の「歌謡曲が好き」は、あの歌手のあの曲のあの歌い方が好きということだから、その具体的な「好き」を詰め込めばいいんだと気付いて、それがご本家を召喚するという手法にもつながったんですよ。
──なるほど。制作の過程でボツになった曲もあるんですか?
はい。もう2曲作ったんですけど、ボツにしましたね。それとは別に、過去に作っておいたストックみたいなものも、結局みんなボツにして。でも結果的に、歌謡曲の好きな部分だけを詰め込むことができたと思います。
──本家をベースにしているとはいえ、おそらく雨宮さんの中で咀嚼される過程でオリジナリティも付与されていると思います。先ほど中森明菜と山本リンダの名前を挙げましたが、単なるコピーには聞こえませんでしたから。
おお、歌謡曲そのものやそれを歌う歌手の方々に対するリスペクトと、オリジナリティの両方を感じてもらえたら、こんなにうれしいことはないです。
──さて、4月と5月には第4回の「リサイタル」が予定されていますね。
「リサイタル」のコンセプトは一貫していて、すなわち「私の、私による、私のためのイベント」なので、とにかく私が気持ちよく歌うだけです。ただ、「リサイタル」はカバー曲を中心に歌っていくんですけど、東京と大阪で2公演ずつ、計4公演あるので、その中でEPの収録曲もちょこちょこ披露していく予定ではあります。
──ちなみに、EPのタイトルで「雨宮天作品集1」とわざわざナンバリングしているということは……。
匂わせちゃいました(笑)。今回、がっつり歌謡曲を作らせてもらったので、またテーマを変えたりして2、3と続けられたらいいなと、まだ妄想段階ですけど、勝手に思っています。
──でも、「作品集1」からして妄想スタートですよね。
確かにそうですね。じゃあいろんな妄想をして、どんどん口に出していけば、そのうち叶うかもしれない。妄想は語ったもん勝ちですね。
ライブ情報
LAWSON presents 第四回 雨宮天 音楽で彩るリサイタル
- 2023年4月29日(土)大阪府 Zepp Namba(OSAKA)
- 2023年5月7日(日)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
プロフィール
雨宮天(アマミヤソラ)
1993年8月28日生まれの声優 / アーティスト。2011年に開催された第2回ミュージックレインスーパー声優オーディションに合格し、翌年に声優デビューする。主な出演作に「アカメが斬る!」「東京喰種 トーキョーグール」「七つの大罪」「この素晴らしい世界に祝福を!」「彼女、お借りします」など。2014年8月に1stシングル「Skyreach」でアーティストデビュー。熱心な歌謡曲ファンであり、2017年から歌謡曲カバーライブ「音楽で彩るリサイタル」を不定期で開催し、2021年10月には初のカバーアルバム「COVERS -Sora Amamiya favorite songs-」を発表した。アーティストデビュー5周年を迎えた2022年1月にはベストアルバム「雨宮天 BEST ALBUM - BLUE -」「雨宮天 BEST ALBUM - RED -」を同時リリース。2月よりワンマンツアー「LAWSON presents 雨宮天 BEST LIVE TOUR -SKY-」を開催した。2023年3月に自身で全収録曲の作詞作曲を手がけたEP「雨宮天作品集1 -導火線-」を発表。4回目の「音楽で彩るリサイタル」を4月に大阪・Zepp Namba(OSAKA)、5月に東京・Zepp DiverCity(TOKYO)で行う。また、同じミュージックレインに所属する麻倉もも、夏川椎菜とともに声優ユニット・TrySailのメンバーとしても活動している。
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