宝野アリカのブレなさが、アリプロの精神的支柱
──インディーズ時代の楽曲「桜の花は狂い咲き」(1988年発売のアルバム「幻想庭園」に収録)などは、かなりニューウェイブに傾倒してらっしゃいましたよね?
宝野 あ、そうよね。
片倉 そうだね、ニューウェイブだよね。テクノと言うよりは。でも彼女が好きなようなニューウェイブを、僕が好きだったわけじゃないと思うんですよ。
宝野 そうそうそう。
片倉 もちろん嫌いでもないんですけど、「もっと違うものも作れる」っていう、そういう自負みたいなものがあったんですよね。
──それは、宝野さんと組むことで、その当時ご自分がやりたい音楽がやれそうだという手応えがあったということですか?
片倉 宝野さんのデモテープを聴いて、歌がすごくうまかったのと、あと彼女の詞ですね。当時から今みたいな詞を書いてたからびっくりして。「こんな小娘が……」って言うと口が悪いけどさ。
宝野 寺山修司みたいなね。そういう時代ですよ。
片倉 その頃はワープロじゃなくて手書きだったんだけど、この字がまたね、なんとも言えない、特徴的な字なんですよ。それで、もしかしたら彼女に歌ってもらったら、僕ももっと素敵な曲を書けるかなと思って。
宝野 最初に片倉さんに渡したデモテープは、松田聖子の「小麦色のマーメイド」だったかな。
──えっ、松田聖子と寺山修司を同時にやりたかったんですか?
宝野 いや、聖子ちゃんは単純に好きだったから。歌はね、高校時代は八神純子さんとか矢野顕子さんとか久保田早紀さんとかを、学校のコンサートなんかでピアノで弾き語りしてましたね。音楽の盛んな高校だったので。
片倉 ケイト・ブッシュとかもやってたよね。
宝野 そうだった。ケイト・ブッシュくらいかもね、共通の好きなアーティストって。バンドだと、私はP-MODELと、ハードロックをやってた頃の一風堂と、あとNOVELAが好きだった。
片倉 もう古すぎて若い子はわかんないよね(笑)。
──その頃はゴシックロリータ的な世界との結び付きは?
宝野 今でこそ認知されてますけど、当時は「ゴシックロリータ」なんて言葉もないですからね。でも、そんなような格好を私はしてたんですよ。どこにも売ってないから自分で作って。
片倉 頭にでっかいリボン付けてね。一緒に歩くのが恥ずかしいくらいだった。でもね、その宝野さんのゴシックロリータっていう発想がね、きっと僕らの音楽の精神的支柱になってたんですよ。僕にはそういう発想があるわけじゃないし。とにかく彼女はブレないから。
宝野 そうね、私のほうがブレないかもね。
片倉 歌詞、あるいはポップスに対する姿勢って言うかね、芸術魂みたいなものがぜんぜん変わってないんですよ。だからすごいし、すごいから僕も曲が書けるっていう、そんな25年だったかもしれないですね。もちろん、僕らは音楽家として常に進歩しようとしてるんだけど、芯の部分はたぶん変わってない。それは宝野さんのブレなさによるところが大きいんじゃないかな。
25歳なんて、まだまだガキじゃん
──それは今後も変わらず続いていく?
片倉 そうですね。25周年を迎えて、たくさん曲が書きたくなりました。と言うか、今年はあんまり書いてないから(笑)。
宝野 そうよね。いつもは今頃オリジナルアルバム用の新曲を書いてるから(笑)。
片倉 でも「書きたい」って思ってる自分がいるのは本当で。正直、25周年でベスト盤出して、ちょっと休んでもいいかなって思ってたの。でも、書きたいんだよね。
宝野 おおー。
──すでに具体的なアイデアも?
片倉 彼女が好きかどうかわからないですけど(笑)。なんかね、前回のアルバム(2016年発売の「A級戒厳令」)って、けっこうやりきった感あるんですよ。だから今度はそうならないものを作りたい、っていうのがまずあるんですよね。とにかく意欲はあるんで。そんなこと言ってるうちにすぐ30周年迎えちゃうのかな。ヤバいな。
宝野 私は、ちゃんこ鍋の曲とかも書きたい。
──ちゃんこ?
宝野 「美味礼讃」シリーズっていう食べ物をモチーフにした楽曲群があるんですけど、まだ5曲もないからベストアルバムにまとめられないんですよ。私もアイデアはあるし、早く書きたいなって。あとさ、「25周年」と言うと重い感じしますけど、芸術の世界で言ったら、例えば「草間彌生さんを見ろよ」とか思わない?
片倉 えー、草間さんと比べちゃうの(笑)。
宝野 「25歳なんて、まだまだガキじゃん」って気がする。だから、まだやりたいことあるんだと思いますね。
- ALI PROJECT「血と蜜~Anthology of Gothic Lolita & Horror」
- 2017年6月21日発売 / Lantis
-
[CD2枚組+Blu-ray]
4860円 / LACA-9514~5
- DISC 1
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- 私の薔薇を喰みなさい
- ALICE同罪イノセント
- ローズ家の双子達
- 百合の日々は追憶の中に潜み薫る
- 乙女の贖い
- 令嬢薔薇図鑑
- 薔薇美と百合寧の不思議なホテル
- Lolicate
- à la cuisine
- 少女と水蜜桃
- Royal Academy of Gothic Lolita
- 禁じられた遊び(strings Ver.)
- 聖少女領域(orchestra Ver.)
- 薔薇獄乙女(strings Ver.)
- Fräulein Rose
- 今宵、碧い森深く
- DISC 2
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- 凶夢伝染
- 雪華懺悔心中
- 夜見のたそがれの、うつろなる蒼き瞳の。
- 血の断章
- 六道輪廻サバイバル
- 禁書
- 少女蜜葬~Le sang et le miel
- 北京LOVERS
- 阿芙蓉寝台
- 蓮華幽恋
- 眼帯兎と包帯羊のMärchen
- 朗読する女中と小さな令嬢
- 女化生舞楽図
- 赤い蝋燭と金魚
- 秘密の花薗
- Blu-ray収録内容
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- 少女蜜葬~Le sang et le miel Music Clip
- Royal Academy of Gothic Lolita Music Clip
- 血と蜜~Anthology of Gothic Lolita & Horror -Shooting in France-
- ALI PROJECT TOUR 2017 血と蜜
~Gothic Lolita & Horror編 -
- 2017年6月25日(日)千葉県 舞浜アンフィシアター
- 2017年7月13日(木)愛知県 DIAMOND HALL
- 2017年7月14日(金)大阪府 なんばHatch
- ALI PROJECT(アリプロジェクト)
- ボーカルと作詞を務める宝野アリカと、作・編曲を担当する片倉三起也からなるユニット。1992年7月にALI PROJECTに改名しシングル「恋せよ乙女 -Love story of ZIPANG-」でメジャーデビューを果たす。官能的で妖艶なゴシック&ロリータの世界観と文学的な歌詞、現代音楽の影響も見られるサウンドで独自の音楽を追求し、コンスタントに作品を発表し続けている。ライブも精力的に行っており、「月光ソワレ」シリーズではオーケストラをバックに従えた幻想的なステージパフォーマンスが好評を博している。2017年3月には、独自のコンセプト“大和ロック”を追求したデビュー25周年記念シングル「卑弥呼外伝」を発表。6月にはベストアルバム「血と蜜~Anthology of Gothic Lolita & Horror」をリリースし、その後は千葉、名古屋、大阪の3都市を回るライブツアー「ALI PROJECT TOUR 2017 "GOTHIC Lolita & Horror" ver.」を行う。