ASIAN KUNG-FU GENERATION「サーフ ブンガク カマクラ(完全版)」特集|15年の時を経て、描かれた湘南物語の続き (2/2)

湘南の作品だと、サザンのことは入れたくなっちゃいます

──「石上ヒルズ」の歌詞に「スマホの端まで」というワードがありますが、15年前はまだスマホが浸透していなかったですよね。歌詞は今の時代のものとして書かれたんでしょうか?

後藤 当時の風景に戻る歌詞だと焼き直しになってしまうし、今の湘南を書かないと広がりが出ない。言葉には特に新しい要素を入れたいなと思いました。15年前の歌詞は、その年代だからこその言葉を避けたところがあるんですよ。その前の「ワールド ワールド ワールド」が時代感のある歌詞だったこともあって。それで、新曲5曲は2020年代に書いたことが伝わる言葉遣いにしたほうが、昔の曲が今の雰囲気に引き寄せられていくと思ったんです。

──「西方コーストストーリー」の歌詞にはサザンオールスターズのオマージュがふんだんにちりばめられています。「サーフ ブンガク カマクラ」だからこそ歌詞で遊べる感覚があったんですか?

後藤 そうですね。親がサザン好きだったこともあり、よく家で流れていて、子供ながらに「本当にいい曲だな」と思う曲がたくさんありました。桑田さんのソロも好きですし。湘南の作品だとやっぱりサザンのことは入れたくなっちゃいますよね。「西方コーストストーリー」の歌詞にある「あの人の幻を見てみたい」というのは桑田さんのことですね。あと、「この夏を諦められないだけ」という歌詞もサザンの「夏をあきらめて」から取っています。研ナオコさんもカバーした大名曲ですね。

喜多 「和田塚ワンダーズ」はタイトルが先にあって、野球チーム名みたいだから「絶対ふざけた曲になるんだろうな」と思っていたんですけど、一番泣ける曲になったのがびっくりしましたね。

──そうですよね。「和田塚ワンダーズ」はこの15年間があったからこその重みや濃さを感じました。

後藤 自分たちが歳を重ねたという描写がありますよね。この曲は歌い出しの「派手に泣いて良いぜ それはだって命の在処だよ」という歌詞が書けた時点で「よし!」と思いました。人生は一度しかないわけで、派手に泣くみたいな感情の発露は生きてる証だからいいんだよ、という気持ちになったのは歳を取ったからかもしれないです。この曲は本当に歌詞がいいなあって思います。ビニール傘を1本買うのがいいんだよね。

──その後「互いの肩」とあるので、2人いるのに傘は1本という。

後藤 そうそう。相合傘ですよね。ビニール傘はコンビニで買ったんだろうね。

喜多 メンバーがこの歌詞のよさを口にしないもんだからゴッチが自分で言っちゃってる(笑)。

全員 (笑)。

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「鎌倉グッドバイ」がエンドロールみたいな印象になった

──「和田塚ワンダーズ」の歌詞についてはどうですか?

伊地知 15年前の「サーフ」は「由比ヶ浜カイト」のあと「鎌倉グッドバイ」で終わっていたけど、その間に「和田塚ワンダーズ」が入ることで、壮大な泣きの三段落ちみたいになっているのがいいなって思います。曲順は駅順に沿わなきゃいけないわけだけど、ゴッチはその流れまで意識して「和田塚ワンダーズ」を書いたの?

後藤 「和田塚ワンダーズ」は半カートン(アルバムに先駆けて配信される、新曲5曲とインスト1曲をまとめたEP「サーフ ブンガク カマクラ(半カートン)」)になったときに最後の曲になるということは意識したね。それで3拍子の大きいスケールの曲にしようと思った。

喜多 また「和田塚ワンダーズ」の潔のドラムの処理がいいんだよね。スタジオのどこで録るのがいいかけっこうこだわってたよね? それがいい形で反映されてるんだろうなって。

伊地知 ありがとうございます(笑)。

山田 「和田塚ワンダーズ」が入ったことで、見事に最後「鎌倉グッドバイ」がエンドロールみたいな印象になったよね。

喜多 確かに。「和田塚ワンダーズ」で一旦締めて、「鎌倉グッドバイ」がエンドロールって感じだね。

山田 この終盤の流れはグッときますね。「鎌倉グッドバイ」の最後の「ファー」という音、建さんがかなりこだわってたよね。

喜多 ゴッチに「もう1回『ファー』やりたい」って言ってね。余韻が大事だから。

後藤 俺が最後の一部分を消して送ったら怒ってたよね(笑)。「あの『ファー』はもう1回あったほうがいい」って。もう一度聴き直したら「確かにそうだな」と思ったけど。あの部分は、あとから自分のスタジオで即興演奏をして音を足したんですよ。昔だったらあとから音を足すなんて、スタジオを押さえたりわちゃわちゃしてすんなりできなかったけど、今はできるようになりましたね。今回、歌も自分で録ったんですよ。ただ、歌はワンオペはあまりやらないほうがいいなと思いました。1人でできるのはいいことでもあるけど、チームである以上、それぞれの役割を作ることも大事なわけで。僕の歌のいい部分を楽しく選んでくれる人がいるなら、その人に預けてみるのも大切なことだなと。ただ、「サーフ」に関してはDIYに引き寄せてもいいのかなと思って、自分で録ってみたんですけど。僕はほかのアーティストのエンジニアの仕事もしているので、そういう場を重ねてきてよかったなと思いました。

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いつか「サーフ ブンガク カマクラ2」はありなんじゃないかな

──6年越しで「サーフ ブンガク カマクラ(完全版)」が完成したわけですが、今後についてはどんなことを考えていますか?

後藤 15年前に「サーフ」を作ったときも、その前に「ワールド ワールド ワールド」を作ったばかりだったこともあってやり切った感じがすごくあったんですけど、今回は今回で別の方向でやり切った感じがあります。必殺技を1回出したわけなので、これからどんな新しいことができるかをしっかり考えるタームなんじゃないですかね。それなりに大変だと思うけど、やる気はあるので、深刻にならずに抜けのいいものを作っていきたいです。「完全版」のツアーもあるので、ライブをやっているうちに何か生まれてくるとは思いますけどね。人生1回きりだし、ボーッとしてたらすぐ50代、60代になる。いつまで元気なのかわからないし、やれるときにやりたいことをやらなきゃなって思います。ただ、体力が落ちても勉強はし続けられるので、そこは年老いていくことへの唯一の希望かな。桑田さんしかり、スピッツしかり、先人はいるので、カッコよくバンドを続けていきたいなという気持ちは尽きないですね。

山田 “この4人の音だけで録る”という面ではひとつたどり着いた形ではあると思うので、ここからさらにいいバンドサウンドを追求していければいいなと思いますね。

伊地知 達成感はありますね。ツアーが終わる頃、また次の展開がゴッチからメールで送られてくるのかなって。僕としては、湘南江の島駅から大船駅まで湘南モノレールという線が走っているので、いつか「サーフ ブンガク カマクラ2」を作るのはありなんじゃないかなと思ってます(笑)。

喜多 すぐにそれをやったら「節操ない」って言われるよね(笑)。

後藤 それをやるならもうパワーポップはいいかな(笑)。メタルとかやりたいですね。

伊地知 Weezerの「Van Weezer」みたいなね(笑)。

後藤 往年のメタルの人たちが書いてた、地獄で骨が燃えてるみたいな世界観。歌詞に「業火」って出てきたりね。

喜多 (笑)。確実に次の作品はまた新しい季節に入ると思うので、まずはひさびさの4人だけで回るツアーを味わい尽くしたいです。

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ツアー情報

ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2023「サーフ ブンガク カマクラ」

  • 2023年9月29日(金)福岡県 Zepp Fukuoka
    <出演者>
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  • 2023年10月1日(日)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
    <出演者>
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  • 2023年10月4日(水)大阪府 BIGCAT
    <出演者>
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  • 2023年10月5日(木)大阪府 なんばHatch
    <出演者>
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  • 2023年10月8日(日)宮城県 SENDAI GIGS
    <出演者>
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  • 2023年10月15日(日)北海道 サッポロファクトリーホール
    <出演者>
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  • 2023年10月18日(水)愛知県 Zepp Nagoya
    <出演者>
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  • 2023年10月21日(土)広島県 広島CLUB QUATTRO
    <出演者>
    ASIAN KUNG-FU GENERATION / and more
  • 2023年10月22日(日)広島県 広島CLUB QUATTRO
    <出演者>
    ASIAN KUNG-FU GENERATION
  • 2023年11月2日(木)東京都 日本青年館ホール
    <出演者>
    ASIAN KUNG-FU GENERATION
  • 2023年11月3日(金・祝)東京都 日本青年館ホール
    <出演者>
    ASIAN KUNG-FU GENERATION
  • 2023年11月19日(日)東京都 立川ステージガーデン
    <出演者>
    ASIAN KUNG-FU GENERATION
  • 2023年11月22日(水)神奈川県 鎌倉芸術館 大ホール
    <出演者>
    ASIAN KUNG-FU GENERATION
  • 2023年11月23日(木・祝)神奈川県 鎌倉芸術館 大ホール
    <出演者>
    ASIAN KUNG-FU GENERATION

プロフィール

ASIAN KUNG-FU GENERATION(アジアンカンフージェネレーション)

1996年に同じ大学に在籍していた後藤正文(Vo, G)、喜多建介(G, Vo)、山田貴洋(B, Vo)、伊地知潔(Dr)の4人で結成。渋谷、下北沢を中心にライブ活動を行い、エモーショナルでポップな旋律と重厚なギターサウンドで知名度を獲得する。2003年にはインディーズで発表したミニアルバム「崩壊アンプリファー」を再リリースし、メジャーデビュー。2004年には2ndアルバム「ソルファ」でオリコン週間ランキング初登場1位を獲得し、初の東京·日本武道館ワンマンライブを行った。2010年には映画「ソラニン」の主題歌として書き下ろし曲「ソラニン」を提供し、大きな話題を呼ぶ。2003年から自主企画によるイベント「NANO-MUGEN FES.」を開催。海外アーティストや若手の注目アーティストを招いたり、コンピレーションアルバムを企画したりと、幅広いジャンルの音楽をファンに紹介する試みも積極的に行っている。2015年にヨーロッパツアー、南米ツアーを実施した。2018年3月にベストアルバムを3作同時リリース。2021年に結成25周年を迎え、2022年3月に10thアルバム「プラネットフォークス」を発表した。同年9月にアニメ「四畳半タイムマシンブルース」の主題歌「出町柳パラレルユニバース」、2023年2月にアニメ「BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS」のオープニングテーマ「宿縁」を収録したシングルをリリース。7月に江ノ電の15駅をモチーフにしたアルバム「サーフ ブンガク カマクラ(完全版)」を発表した。本作を携えて9月よりライブツアーを開催する。