ASIAN KUNG-FU GENERATIONの“伝統芸能”、パワーポップへの飽くなき探究心

ASIAN KUNG-FU GENERATIONがニューシングル「出町柳パラレルユニバース」を9月28日にリリースした。

表題曲「出町柳パラレルユニバース」は、森見登美彦の小説をアニメ化した劇場作品「四畳半タイムマシンブルース」の主題歌として制作された新曲。森見原作のアニメ主題歌をアジカンが担当するのはこれが3回目であり、彼らは“らしさ全開”のパワーポップチューンを同アニメ作品に提供した。シングルにはこの曲のほか、パワーポップブームの火付け役でもあるバンドWeezerの「I Just Threw Out The Love Of My Dreams」のカバー、喜多建介(G, Vo)と後藤正文(Vo, G)の共作による「追浜フィーリンダウン」、表題曲の歌詞を変えた「柳小路パラレルユニバース」が収録されており、シングル全体を通してアジカン得意のパワーポップを追求したような作品に仕上がっている。本特集ではメンバー4人に、バンドが長い時間をかけて追求してきたパワーポップというジャンルへのこだわりや、憧れの存在でもあり盟友でもあるWeezerへの思いなどを聞いた。

取材・文 / 森朋之撮影 / 吉場正和
衣装協力 / STOF、Lui’s/EX/store TOKYO、CIAOPANIC-TYPY吉祥寺店

フェスのスタッフに最大限のリスペクトを

──今年は「RISING SUN ROCK FESTIVAL」「SUMMER SONIC」などのフェスへの出演がありましたが、3年ぶりの夏フェスはいかがでしたか?

後藤正文(Vo, G) よかったですよ。フェスができること自体、ホントに素敵なことなので。

伊地知潔(Dr) 「SUMMER SONIC」でひさびさに海外のアーティストと一緒のステージに立てたのがうれしかったですね。ステージの袖からライブを観れるのは、僕にとってご褒美みたいなものですから。コロナで中止になってしまったけど僕らも海外でツアーをする予定があったから、サマソニで海外アーティストから刺激を受けて「海外でもしっかり音を鳴らせるバンドでいたい」と改めて思いました。

山田貴洋(B, Vo) サマソニの会場では「この雰囲気がまた戻ってきたんだな」と思いましたね。お客さんにとっては「以前と同じ」という感じではないかもしれませんが、僕にとっては感慨深いものがありました。フェスに呼んでもらえることもありがたいなと。

喜多建介(G, Vo) 大阪のサマソニでKula Shakerのライブを観たときは感動したし、「ここまで来るのに3年かかったんだな」としみじみ思いました。お客さんの中には泣いてる方もいて、もらい泣きしそうになりましたね。

左から後藤正文(Vo, G)、喜多建介(G, Vo)。

左から後藤正文(Vo, G)、喜多建介(G, Vo)。

後藤 フェスでもワンマンでもそうだけど、同じ場所に居合わせて音楽を共有するのは特別なことなんですよね。「声が出せないから楽しめない」ということも全然なくて。「以前と違って面白くない」という人もいるかもしれないけど、ライブをやるだけで悪魔みたいな扱いを受けるような時期もあったし、それに比べたらかなり戻ってきたのかな。僕が特に印象に残っているのは、「RISING SUN」でスタッフの方がめちゃくちゃ笑顔でアジカンのステージを観ていてくれたこと。その姿を見て、こっちもグッときちゃって。そりゃそうですよね、3年ぶりなんだから。やってる側のリアルとスタッフ側のリアルは全然違いますし、何も開催できなかった時期のことを考えると、ここまでたどり着いたことがすごいことだなと。イベントのスタッフさんたちには最大級のリスペクトを送りたいです。

──まったく同感です。サマソニで海外のバンドのライブも観られました?

後藤 Kula ShakerとPrimal Screamは少し観ました。Primal Screamの「Movin' On Up」のイントロが始まった瞬間にダッシュして(笑)。ボビー・ギレスピーはもう60歳なんだけど、めちゃくちゃカッコよかった。ミック・ジャガーの領域に入りつつあるんじゃないかな。一方ではMåneskinみたいな新しいアイコンも登場して。ロックも新陳代謝が進んでいるんだなと感じました。そんな中で僕らがこの年齢になってもサマソニに出させてもらえるのはありがたいことですよね。

左から山田貴洋(B, Vo)、伊地知潔(Dr)。

左から山田貴洋(B, Vo)、伊地知潔(Dr)。

“ラルラルラ3部作”の完成

──「この年齢になっても」とおっしゃっていましたが、シングルの収録曲は全体を通してアジカン流のパワーポップが楽しめる作品であり、そこで鳴っているサウンドに若々しさを感じました。

後藤 そう言ってもらえるとうれしいですね。何をもって若々しく感じるのかは僕らもわからないけど、今回は好きなことをやりました。アジカンの表現するパワーポップ、ギターロックは伝統芸能みたいなところがあって、人によっては「まだやるか」と思う人もいるかもしれないけど、これも決して簡単に作れるものではないんですよ。簡単にやってるように聞こえるかもしれないけど、この感じを出せるようになるまでにかなり時間がかかったから。

伊地知 うん。

後藤 それを踏まえて、今回はひたすら楽しく演奏した4曲を収録しています。

──最新アルバム「プラネットフォークス」の制作とは違うテンションだったんですか?

後藤 そうですね。あまり考え込まないというか、出てきたアイデアを試しながら、「それいいじゃん!」というニュアンスで作れたのがこのシングルですね。

後藤正文(Vo, G)

後藤正文(Vo, G)

──表題曲「出町柳パラレルユニバース」はアニメ「四畳半タイムマシンブルース」主題歌として制作されたものです。アジカンはこれまでも森見登美彦さん原作によるアニメの主題歌として「迷子犬と雨のビート」と「荒野を歩け」を提供しているので、今回は3度目のタイアップということになりますね。

後藤 今回もお話をもらえてうれしかったですね。これで違うアーティストが主題歌をやったら「俺らもいよいよだな……」と思わないといけないから(笑)。

伊地知 「アジカン以外誰がやるんだ」という気持ちがありますからね。「出町柳パラレルユニバース」はこれまで提供してきた「迷子犬と雨のビート」「荒野を歩け」とつながっているんですよ。

後藤 「荒野を歩け」の「歌えよ 踊れよ ラルラルラ」が「出町柳パラレルユニバース」の「君らしく踊ればいいじゃない」につながっていたり。「迷子犬と雨のビート」にも「ラルラルラ」というフレーズが出てくるので、“ラルラルラ3部作”と呼んでいます(笑)。

海外ベーシストの“何もしない感”

──「荒野を歩け」も「迷子犬と雨のビート」もファンに強く支持されている楽曲ですよね。この2曲に匹敵する曲を書かなければというプレッシャーはなかったですか?

後藤 もちろんプレッシャーはありました。これまで提供してきた2曲は今振り返ってみてもいい曲だと感じるし、新曲を提供するからには映画を観た人に「今回もいい曲だな」と思ってもらいたいですから。パワーポップおじさんとしてはその期待にちゃんと応えたいなと(笑)。

──結果として「出町柳パラレルユニバース」は「これがアジカンのパワーポップだ」と示すような1曲になっていると思います。この雰囲気、ほかのバンドでは出せないですよね。

後藤 好きがゆえに上達したところもありますからね。コピーしようとするとよくわかると思うのですが、「出町柳パラレルユニバース」のコード進行はかなり変なんですよ。僕らがバンドを始めた頃にWeezerの1stアルバム(「Opposite Sides of the Same Good Ol' Fence」)の曲をカバーして、「このコード進行、何? 面白いな」みたいなことを感じていたときの感覚に似ているというか。当時面白がってた感覚を持ち続けて、それを自分たちなりに広げ続けたからこそ、今回の「出町柳パラレルユニバース」が完成したのかなと感じています。ぜひバンドキッズにも演奏してもらいたいですね。

──基本的にはシンプルなバンドサウンドですからね。

山田 こういうパワーポップの曲は、凝ったことをしないほうがいいんですよ。

後藤 山ちゃんが張り切っちゃうと、俺が「ベース動きすぎ」とか言い出しちゃうからね(笑)。特にこの曲は、海外のベーシストの“何もしない感”を出してもらいたくて。基本的にルート音を弾いて、ずっとビートのいいところにいるっていう。それも簡単に聞こえて、実践するのは簡単じゃないんですよ。

山田 そういう演奏の奥深さには、そのベーシストにしか出せないニュアンスもありますから。それを追求したのがこの曲のベースラインだと思います。

山田貴洋(B, Vo)

山田貴洋(B, Vo)

喜多 そういえばこの曲はデモの原型にギターを乗せたら、珍しくゴッチが「すごくいいよ」って言ってくれたんですよ。あんなに褒められたのはひさびさだったな(笑)。

後藤 よかった(笑)。原曲をみんなに聴いてもらったとき、珍しく潔が褒めてくれたんですよ。「これ、みんなが一番喜ぶヤツじゃない?」って。ただ潔は自分が言ったことをすぐ忘れちゃうので、もう覚えていないんじゃないかな。「藤沢ルーザー」のときも最初はすごく盛り上がってたのに、歌録りのときはもう冷めてたし(笑)。

伊地知 原曲を初めて聴いたときのことはもうあまり覚えてないけど(笑)、「出町柳」は今でも「いい曲だ」と思っています。この曲、いろんな奇跡が重なって生まれた曲なんですよ。「サーフ ブンガク カマクラ」(2008年発表の5thアルバム。「一発録りでパワーポップを演奏する」というコンセプトのもと制作された)の続編を作ろうとしているときのセッションが元になって生まれた曲で、ちょうどそのタイミングでアニメの主題歌の話をもらって。曲調的にもピッタリだったし、すごくいい曲に仕上がって満足しています。

あの頃のWeezerみたいなシングルを

──2曲目にはWeezer「I Just Threw Out The Love Of My Dreams」のカバーが収録されています。選曲としてはややマニアックな印象を受けました。

後藤 そうですか? 俺たち“Weezerギークス”にとっては王道ですよ。

喜多 (笑)。一般的な代表曲ではないけどね。

後藤 「Island In The Sun」や「Say It Ain't So」のほうがよかったかな(笑)。「I Just Threw Out The Love Of My Dreams」は、「The Good Life」(1996年10月発売のシングル)のカップリング曲なんですよ。当時のWeezerのシングルは全部買っていて、B面もめちゃくちゃいい。「Mykel And Carli」とか「Jamie」もB面でいい曲。

喜多 いいよね、「Mykel And Carli」。

喜多建介(G, Vo)

喜多建介(G, Vo)

後藤 あの頃のWeezerみたいに「シングルに入ってる曲が全部いい」という感じにあやかりたくて、この曲を選曲しました。Oasisも2ndアルバムまではシングルのカップリングが全部よかったと思っていて。あの頃のことを思い出しながら作りました。もっと言えば「I Just Threw Out The Love Of My Dreams」のカバーは「サーフ ブンガク カマクラ」の流れも汲んでいて、続編を制作するならば「Pinkerton」(Weezerが1996年に発表した2ndアルバム)の雰囲気があるといいなと思ってるんです。

──「I Just Threw Out The Love Of My Dreams」のカバーからは原曲へのリスペクトをものすごく感じました。基本的にはそのまま演奏してますよね?

後藤 そうですね。僕はカバーするとき、普通に演奏すればいいと思ってるんですよ。アジカンが演奏すればアジカンの感じが自然と出るし、僕らはWeezerの曲をやりたくてカバーしてるんだから、変にアレンジするのは違うかなと。自分たちのプレイと、ゲストで参加してもらったAAAMYYYのMoogの音色に十分“らしさ”は出ていると思います。