握手会がない“会いにいけるアイドル”の現在地
──「元カレです」も前作に続いて純AKB48メンバーのみ……つまり“支店”グループの力を借りないシングルとなります。こうなると改めて“AKB48らしさ”というものが問われますよね。例えばグループを離れた期間もある本田さんは、どういうところに現在のAKB48の特徴を感じますか?
本田 うーん、難しい。確かに韓国に行かなかったら気付かなかったことは本当にたくさんあるんですけど……。個人的に感じた一番大きな違いというのは、AKB48ってコンサートとかイベントをたくさんやりますよね。それが当たり前だと思っていたんですけど、韓国は意外にファンの方と会う機会が少ないんですよね。基本は音楽番組の収録があって、サイン会もやるんですけど、それも日本ほど頻繁ではないですし。それでAKB48に戻ってみるとファンの方とのコミュニケーションを取る機会が多いから、そこは活動しているうえで励みになります。
──もともとAKB48は、「会いに行けるアイドル」というコンセプトでスタートしていますしね。
本田 あとAKB48の特徴として、メンバーのダンスを覚えるスピードが異常に速い!
向井地 そうなの? AKB48以外のグループに入ったことがないから、そんなのまったく気付かなかったな。
本田 韓国では、1曲にすごく時間をかけて練習していました。だけどAKB48は劇場公演やイベントで覚える曲の数が多いから、みんな自然と振りの覚えが速くなっているんでしょうね。吸収力があるというか、その場の対応力がすごいというか……。ある意味、すごくプロ集団だと思いますよ。
村山 エヘヘ。ひぃちゃんにそんなこと言われるとは……(笑)。
向井地 ダンスに特化したようなシングルが2曲が続いたことで、AKB48のイメージも変わってきていると思うんですよね。メンバーとしても「パフォーマンスでもAKB48を好きになってもらいたい」という気持ちが強くなっていますし。これまでのAKB48とは明らかに違うスタイル……それを象徴する曲のセンターがひぃちゃんということで、今はターニングポイントを迎えているのかもしれません。
本田 いやいや、そんな……。
村山 新しいファン層が増えているのも、大きなひぃちゃん効果だと思います。実際、YouTubeとかTikTokでも韓国語のコメントがすごく多くなっているんですよ。ひぃちゃんと一緒に写った写真を上げたり、ひぃちゃんについてSNSで書くと、ファンの方からの反応がめちゃくちゃ増えるんです。AKB48の名前も知らなかったけど、ひぃちゃんがいるグループということで初めてAKB48に触れる……というケースも海外の方は多いんですね。本当にすごいことだと思います。
──村山さんがAKB48に加入したのが2011年、向井地さんは2013年、本田さんは2014年です。気付いたら3人ともけっこうなキャリアになります。「AKB48を続けている理由」「辞めない理由」というと何になりますか?
村山 私の場合、理由ははっきりしています。それは劇場の存在です。AKB48劇場がメインというか、「劇場しかない!」くらいの勢いで捉えていますから。一時は劇場公演ができなくなったり無観客になったりもしたけど、少しずつ元の形に戻っていく中、改めてファンの方のありがたみを感じています。
向井地 うーん、素晴らしい!
村山 本当にAKB48=劇場だと思いますよ。劇場があるからこそ、私は今もここにいるんです。劇場では新チームの公演も始まりましたし、私も今までとは違うところを見せていきたいと考えています。
──本田さんはいかがですか? 例えば韓国から戻るタイミングでグループに戻らないという選択肢もあったはずですが。
本田 いや、「AKB48に戻らない」という選択肢はなかったですね。そもそも私はAKB48にいたからこそIZ*ONEに入れたわけだし、韓国に行くときも「もっと成長して、AKB48に必要とされる存在になりたい」とファンの方に伝えたんです。実際、向こうでは本当にいろんな経験をさせていただきました。そこで吸収したことをグループに還元したかったと同時に、待ってくれていた日本の方へ感謝の気持ちも伝えたかったんです。
──有言実行というわけですか。
本田 本当にAKB48のためになっているのか、正直、自分ではわからないのですが……。
村山 何言ってるの! ひぃちゃんがいなかったら、「元カレです」は成り立っていないよー。
向井地 「私がAKB48に残る理由」か……。私は2つありますね。1つはAKB48以上に面白いものは世の中にないということ。この前、「サヨナラ毛利さん」(日本テレビ系で放送中の冠番組「AKB48 サヨナラ毛利さん」)のライブ(「AKB48 LIVE SHOW ~AKBINGO! THE FINAL サヨナラ毛利さん~」)で、あんにんさん(入山杏奈)と、れなっち(加藤玲奈)が「I'm sure.」という曲を歌ったんですよ。これがですね……もう実によかった(笑)。私、2人の姿を観ていてグッときちゃったんですよね。楽曲の背景、グループの歴史、2人の関係性……そういうことを全部踏まえたうえで「今、この曲をやるんだ!?」という驚きがあったので。とにかく私はAKB48の曲が好きだし、メンバーが好きだし、歴史が好き。自分もここの一員でありながら、AKB48って最高だよなと思えるんです。
──では、もう1つの「続ける理由」とは?
向井地 私、AKB48に入った1週間後には日本武道館のステージに立っていたんです。それからすぐ日産スタジアムや東京ドームのステージにも立ちましたし。
本田 すごすぎます……。
向井地 そのときは入ったばかりの新人研究生だったから、当然、端っこのほうにいるわけじゃないですか。いつか自分もど真ん中のセンターに立った状態で、こういう大会場の景色を見たいという夢がそこでできたんです。それくらい当時の先輩たちはカッコよかったんですよ。あの光景を今いる後輩たちにも見せたいという気持ちもありますしね。
──なるほど。先ほど村山さんから「AKB48にとって、劇場公演は欠かせない」といった趣旨の発言がありました。それで言うと「握手会」もAKB48には欠かせない要素だと思うのですが、コロナ禍に入ってから開催できない状態が続いています。
本田 確かに握手会ができないのは残念なことではありますが、オンラインならではのメリットも最近は感じるようになっているんです。海外にいる人とも前より気軽にコミュニケーションを取れるようになりました。直接会えなくても、お話が気軽にできて、気持ちが伝わってくるのは、すごく幸せなことだなと思います。
向井地 中には、職場の休憩中に抜け出して参加してくれるファンの方もいるんです。大会場での握手会とは違って、すごく気軽に参加できるのがいいなと思いますね。むしろ前より距離が近くなったというか、ファンの方のプライベートを覗き見するような感覚もあるんです。家の中の様子がわかったりするし、リモートだと秘密の話とかもポロッとしてくれることがあって。
村山 ファンの人との距離の近さがAKB48の特徴でしたけど、そこに関してはコロナでさらに近くなったかもしれません。
向井地 そう考えると、やっぱりAKB48も時代に合わせて変わってきているんだと思います。昔はもっとバチバチと戦うような雰囲気でした。メンバーも個性派ぞろいで、カオスだった(笑)。選抜総選挙を含め、苦しいことも多かったですしね。でも、今はもっとチーム一丸となってまとまっているイメージ。みんなで同じ方向を向いて団体戦をやっている今のAKB48が私は好きだし、この一体感があるからこそ可能な「元カレです」だと考えているんです。幅広い層の方に聴いていただけたらなと思っています。
プロフィール
AKB48(エーケービーフォーティエイト)
秋元康プロデュースのもと、2005年に始動したアイドルグループ。劇場に足を運べばメンバーに会える「会いに行けるアイドル」をコンセプトに、秋葉原にある専用劇場(AKB48劇場)で公演を行っている。楽曲の作詞はすべて秋元康が担当。2006年2月にシングル「桜の花びらたち」をインディーズからリリースし、オリコンウィークリーチャートでトップ10入りを果たす。同年10月にはシングル「会いたかった」でメジャーデビュー。2007年春には初の全国ツアーも開催されたほか、同年末の「NHK紅白歌合戦」に初出場を果たすなど、着実に知名度を上げていった。2011年3月に20thシングル「桜の木になろう」をリリース。以降、5月に「Everyday、カチューシャ」、8月に「フライングゲット」、10月に「風は吹いている」とミリオンセールスを連発した。2011年オリコン年間シングルチャートで1位から5位をAKB48が独占する結果となり、“国民的アイドル”と呼ばれる地位を確立。2021年5月、AKB48最後の1期生・峯岸みなみが卒業。同時期にIZ*ONEでの活動を終えた本田仁美がAKB48に復帰した。9月に約10年9カ月ぶりのAKB48メンバーのみで構成された58thシングル「根も葉もRumor」をリリース。高難易度のダンスで話題を呼んだ。2022年5月に前作に続いてオールAKB48メンバーによる59thシングル「元カレです」を発表した。