音楽ナタリー Power Push - 暁月凛「コノ手デ」発売記念特集

暁月凛、“神”湊貴大と語らう

私の人生が小説になった瞬間

──今回、形としては暁月さんサイドから湊さんへ楽曲提供のオファーをされたわけですが、それが叶った瞬間はどんな感じでした?

暁月 「ぶはー!!!」ってひっくり返りました。もう、奇跡。私、高校生のときに使ってたTwitterのアカウントで「いつかminatoさんと世界の真理について語りたいな(まあ、ありえないか)」ってつぶやいたことがありまして。つまり「ありえない」ことが現実に起こって、その瞬間に私の人生は小説になりました。

 ははは(笑)。その小説の中で少しでも活躍できれば幸いです。

暁月凛

暁月 ひょっとしたら、自分が普段スタッフさんにさんざん言ってるからかもしれないですね。「湊さんていう神がいるんですよ」「湊さんの音楽最高ですよ」って。

──言霊というものがありますからね。

 引き寄せられちゃったのかもしれませんね。僕も、自分はリアリストだと思っていたんですけど、ちょっと運命じみたものを感じていまして。まず、凛ちゃんという、僕の音楽を心から気に入ってくれているアーティストに曲を提供できることなんてなかなかないし、しかも表題曲「コノ手デ」をアニメ「青の祓魔師 京都不浄王篇」(以下:青エク)のエンディングテーマに採用していただけるという。

──お二人共原作マンガの大ファンだそうですね。

暁月 はい。

 たぶん、最初の数巻を除いて全部初版で単行本を買ってるし、もちろんアニメの第1期も観てます。だから今回のタイアップは、もしかしたら僕と凛ちゃんの原作への思いがアニメの制作サイドの方々に届いた結果なんじゃないかって。

暁月 思いがシンクロしちゃいましたね。

「コノ手デ」を制作する直前まで、音楽をやめようと思っていた

──では、その表題曲「コノ手デ」の作曲について伺います。湊さんはご自身のTwitterで、この曲を書いて「音楽を辞めなくてよかった」「まだ出来るのかもしれない」という気持ちになったとつぶやかれていましたが、その真意は?

 僕は2016年の4月から休養に入っていて、実は休養前には、一旦ここで仕事としての音楽活動はやめようって考えていたんですね。さっき苦しみの話をしましたけど、趣味でやる音楽は別として、やっぱり仕事の音楽は、どうしても自分を苦しめることのほうが多くて。音楽が好きだから、余計に。

暁月 そうですよね。美しいものを作るためには自分を苦しめなきゃいけなくて、でも美しいものを作れないのも苦しい。だからどうしても苦しみの一択ですよね。

 まさにその状況に陥っていて。だから今回のオファーをいただいたときは、モチベーションという意味ではどん底の状態だったので、「作れるかな?」っていう不安のほうが圧倒的に大きかったんですね。でも、作ってみたら、「あ、できたかもしれない」って手応えを感じて。

──具体的に、どんなことを考えて作曲されたんですか?

湊貴大

 凛ちゃんのデビューシングルの表題曲「決意の翼」はパワフルなロックだったので、その路線は大きく崩さないようにしつつ、そこに自分ならではの色をどう付けようかと考えたとき、たぶんパワー系よりもメロディアス系のほうがマッチするんじゃないかと。

暁月 はいはいはいはいはいはい。

 音階的には、サビの頭なんかはちょっと難しいというか、変な半音を入れたりしてるんですけど。

暁月 いや、とっても歌いやすかったです。

 ならよかった(笑)。ただ、デモの段階ではまだ確信まで至らなくて、齋藤真也さんにアレンジしていただいたり、凛ちゃん自身の仮歌が乗ったり、徐々に完成に近付いていくにつれ、だんだん自分の中の苦しみが喜びで塗り替えられていき、マスタリングまで終わった音源を聴いて「ああ、やめなくてよかった」と。それはもちろん自分だけの力じゃなくて、楽曲に関わってくださった皆さん全員のおかげなんですけど、まだ0から1を生み出す力っていうのは尽きてなかったのかなって。

私が望んだ世界を表現するために

──完成音源の、暁月さんのボーカルについてはいかがでした?

 もうボーカルは、仮歌を聴いた段階でなんの問題もないと思っていて。

暁月 いやいやいや、まだまだこれからなんですけど。

 本当に問題ない。さっき僕は「コノ手デ」はメロディアスな曲だと言ったんですけど、別の言い方をすれば複雑な曲でもあって、それを危惧していた部分もあったんです。でも、彼女のまっすぐで力強い歌声を聴いたときに「あ、これは相性いいぞ」って。

暁月 私も、まだデビューしてCDを1枚しか出してないんですけど、いろいろと迷ってる中で、「コノ手デ」はまさに神の導きのような曲で(笑)。もう聴いた瞬間に、「これは私が望んだ世界だ」って思って、私はその世界で心の闇と痛みを美しく表現しなければいけないなと。

左から暁月凛、湊貴大。

 その感情が乗ってるのが仮歌のときからビシビシ伝わってきていて、むしろ本歌より仮歌のほうが強かったんじゃないかと思うくらい。本歌では作品として美しく仕上げるために、ちょっとセーブしたんじゃないかって。

暁月 おっしゃる通り。仮歌のときは単純に、どうすればこの曲をうまく歌えるか、声の強さを表現できるか、そんなことしか考えてなかったんです。でも、この曲に必要なのは強さだけではないというか、声にいろんな表情を付けて起承転結を設けたほうがこの世界に合うんじゃないかと、あえてAメロBメロでは声量を抑えました。

──テンションマックスの状態から少し落ち着いて、曲を噛み砕いたうえで感情を乗せ直した。

 たぶん、曲に合わせてくれたんです。すごくうれしいし、おかげでもともとよかったのがさらによくなりました。

暁月 というより、自然とそうなったというか、きっと私の思い描く世界も湊さんと一緒だったんですよ。

ニューシングル「コノ手デ」 / 2017年2月15日発売 / Sony Music Records
初回限定盤 [CD+DVD] / 1599円 / SRCL-9298~9
通常盤 [CD] / 1200円 / SRCL-9300
期間生産限定盤 [CD] / 1300円 / SRCL-9301
初回限定盤 / 通常盤 CD収録曲
  1. コノ手デ
  2. 星を辿る道
  3. コノ手デ -Instrumental-
  4. 星を辿る道 -Instrumental-
初回限定盤 DVD収録内容
  • 「コノ手デ」Music Video
期間生産限定盤 CD収録曲
  1. コノ手デ
  2. コノ手デ -TV edit-
  3. コノ手デ -Instrumental-
暁月凛(アカツキリン)
暁月凛

3月29日生まれの女性シンガー。2016年3月にテレビアニメ「金田一少年の事件簿R(リターンズ)」のエンディングテーマ「決意の翼」でメジャーデビューを果たし、2017年2月にテレビアニメ「青の祓魔師 京都不浄王篇」のエンディングテーマ「コノ手デ」を2ndシングルとしてリリースした。

湊貴大(ミナトタカヒロ)

男性シンガーソングライター、サウンドプロデューサー。2008年よりminatoとしてVOCALOIDを使用した楽曲を動画サイトに発表、代表曲の「magnet」は2010年のJOYSOUND総合年間ランキング4位となりネットユーザーを中心に人気を博す。また別名義であるトゥライとして“歌ってみた”動画を投稿、100万再生の動画を複数生み出した。その後数年間はVALSHEのサウンドプロデュースを手掛けアニメ「名探偵コナン」の主題歌などを担当、2015年11月にアルバム「ブラックボックス」をリリースしシンガーソングライターとしてメジャーデビュー。現在はボーカリストとしての活動と並行し様々なアーティストへの楽曲提供に精力的に取り組んでいる。