音楽ナタリー Power Push - 暁月凛「コノ手デ」発売記念特集

暁月凛、“神”湊貴大と語らう

作詞するとき、凛ちゃんのTwitterをめっちゃ見た

──楽曲とボーカルスタイルの相性もそうですけど、作り手と歌い手の思惑が見事にシンクロしていますね。

暁月 今日初めてお話ししたのに、ATフィールドがない感じがします。

──えっ、話したことなかったんですか?

 ちょっとご挨拶しただけ。

暁月 「コノ手デ」の楽曲制作に関しては、コミュニケーションはゼロですね。それなのに、自分とシンクロする曲と歌詞をいただけて、「これだー!」みたいな。

 オファーをいただいたときも、「アニメの内容と、暁月凛というアーティストにあった曲を」程度のざっくりしたオーダーで。それに対して僕なりの答えを投げたらばっちりだったので、たぶんお互いが歩み寄った結果、いい感じになったんじゃないかと。

暁月 2人のドMが(笑)。

 歩み寄るという点では、特に作詞をするにあたっては、凛ちゃんのTwitterの発言とかをあさりました。

暁月凛

暁月 えー、恥ずかしい。痛いポエムとかも書いたりするんですけど……。

 めっちゃ見ました。

暁月 うわー!

 そうやって、どういう世界観を持っているアーティストなのかっていうのをすごい調べました。もちろん、この曲の歌詞は「青エク」というアニメの世界観に沿っているんですけど、例えば最後のサビの「まだきっと未完成で 全てが拙いけど 追い風を味方につけ 誰より輝くよ」っていう一節は、かなり凛ちゃんに寄せています。

暁月 そこもすごく自分とシンクロしていて、今の私はまさに未完成でつたないんですよ。それでも私は「つたないけど、戦ってやる」みたいに思っているところがあって、そんな心に秘めた意志まで具現化してくださった。

 まさにTwitterを見ながら、そうだといいなと思って書きましたし、そういう一節を入れたほうが気持ちが乗るんじゃないかなって。曲の後半、つまりテレビで流れる1分30秒に収まらない部分の歌詞は、そうやってアーティスト色を強めにしています。

「青エク」ファンの妄想がはかどる歌詞

──お話を伺う限り、かなりテクニカルな作詞をなさっていますよね?

 そうですね。情熱でガーって書くというよりは、わりと理詰めで、計算して書くタイプだと思います。それは歌詞も曲も同じですね。そのせいか、特に歌詞については「わかりづらい」とか「難解だ」って言われてしまって……。

暁月 そうなんですか? 確かに湊さんの歌詞は文学的、哲学的ですけど、わかりづらいということはないような……ストーリー性があって、修辞に関しても、変に扇情的だったり表層的だったりしない、ちゃんと裏付けのある言葉を選んでらっしゃって。

 そう言ってもらえるとすごくうれしいです。ただ、難解だと言われるのも事実なので、「コノ手デ」は、意識的にめちゃめちゃわかりやすく書いたんですよ。

暁月 それはすぐわかりました! 普段よりストレートな言葉を使われていますね。

 さっきの話とちょっと被るんですけど、「コノ手デ」の歌詞はアニメ関係者、アーティスト、作家=自分、そしてリスナーの4者全員が納得できるものにしないといけない。そう考えると、難解だと言われるところを削り落として、「青エク」ファンの方が「これは誰々のことじゃないか」って想像できたり、凛ちゃんも自分の歌として歌ってもらえるようにしなければと。

暁月 私も「青エク」の想像というか妄想はしてますよ。この歌詞の中で、きっと雪男(「青エク」の主人公・奥村燐の兄で準主人公の奥村雪男)は……。

 そう、そう。実際、雪男視点で詞を書いてるんです。一番好きなキャラクターが雪男なので。

暁月 私もそうです! 雪男って最高ですよね! キャラクター的に、人間性に一番深みがある。素直で汚れ1つないのに、傷だらけで。

湊貴大

 雪男は葛藤の人なんですよね。

暁月 そう! わかってらっしゃる。

 その葛藤を曲にしてるので、凛ちゃんの解釈で合ってると思います。

暁月 2番のBメロの「-何が欲しい?- -それはきっと“自分自身”-」とか、完全に雪男ですよね。

 はい。

暁月 今回アニメ化される範囲内で、たぶん雪男は自分の行いに対して疑問を抱くことになると思うんです。そこで「自分はなぜ戦っているのか? 誰のために戦っているのか? 自分は何者なんだろう?」って自問する心情を表しているんじゃないかって。

 そうやって雪男に寄り添いつつ、実は僕自身もそうなんですね。僕も音楽をやっていて「お前には自分がない」って言われることがあって。

暁月 ええっ、なんでですか?

 一緒にやるアーティストによってスタイルを変えてしまうというか、その人にどれだけ合わせられるかで勝負することが多いんですよ。で、「結局あなた自身は何がやりたいの?」って言われたときにうまく答えられないことがたまにあって。そういうときはまず“自分自身”を見つけることが大事なのかもしれないなっていう僕の思いと、きっと凛ちゃん自身もそういうふうに感じることが来るだろうという予測と、凛ちゃんが今言ったような雪男の気持ちを全部ひっくるめての一節です。

暁月 先手を打ってくださっているなんて……ありがとうございます!

ニューシングル「コノ手デ」 / 2017年2月15日発売 / Sony Music Records
初回限定盤 [CD+DVD] / 1599円 / SRCL-9298~9
通常盤 [CD] / 1200円 / SRCL-9300
期間生産限定盤 [CD] / 1300円 / SRCL-9301
初回限定盤 / 通常盤 CD収録曲
  1. コノ手デ
  2. 星を辿る道
  3. コノ手デ -Instrumental-
  4. 星を辿る道 -Instrumental-
初回限定盤 DVD収録内容
  • 「コノ手デ」Music Video
期間生産限定盤 CD収録曲
  1. コノ手デ
  2. コノ手デ -TV edit-
  3. コノ手デ -Instrumental-
暁月凛(アカツキリン)
暁月凛

3月29日生まれの女性シンガー。2016年3月にテレビアニメ「金田一少年の事件簿R(リターンズ)」のエンディングテーマ「決意の翼」でメジャーデビューを果たし、2017年2月にテレビアニメ「青の祓魔師 京都不浄王篇」のエンディングテーマ「コノ手デ」を2ndシングルとしてリリースした。

湊貴大(ミナトタカヒロ)

男性シンガーソングライター、サウンドプロデューサー。2008年よりminatoとしてVOCALOIDを使用した楽曲を動画サイトに発表、代表曲の「magnet」は2010年のJOYSOUND総合年間ランキング4位となりネットユーザーを中心に人気を博す。また別名義であるトゥライとして“歌ってみた”動画を投稿、100万再生の動画を複数生み出した。その後数年間はVALSHEのサウンドプロデュースを手掛けアニメ「名探偵コナン」の主題歌などを担当、2015年11月にアルバム「ブラックボックス」をリリースしシンガーソングライターとしてメジャーデビュー。現在はボーカリストとしての活動と並行し様々なアーティストへの楽曲提供に精力的に取り組んでいる。