音楽ナタリー PowerPush - 津野米咲(赤い公園)×蔦谷好位置

爆発した才能

こんなにポップな曲はあるか?

津野 「ドライフラワー」と同じ日に録った「108」、あの曲って実はシングル候補だったんです。ディレクターが本当にあの曲が好きで。

蔦谷 俺も好き。

津野 自分でも「こんなにポップな曲はあるか?」って思ったんですよ。アレンジがすごく好きだからあんまり変えたくないけど、歌詞とメロディのポップさが、もっとセクションごとに滑らかにつながって、さらにグッとくる感じになるといいなって思って。それでアレンジをお任せする人を考えたときに、蔦谷さんのフックがある感じがいいなって。私としても一番好きな曲だし、お願いしようって。

蔦谷 「108」も「ドライフラワー」と同じでデモからあまりアレンジは変わっていないんですよね。俺が何をやったかって言うと、曲を立体的にして、魅力をより伝わりやすくしたって感じ。この曲、究極のラブソングですよ。歌詞ではいろいろ言ってますけど、結局楽しいことが好きだし、ドキドキするのが好きなんだなあって解釈をして。でも米咲から送られてきた最初のアレンジからはストイックな印象を受けたんで、少し“煩悩感”を入れたいなって。

左から津野米咲、蔦谷好位置。

津野 あー、確かに。最初はルーズなフレーズが1つもなかったんです。ライブでやることを前提に作っていたから、4人だけで演奏できるようにギターも1本しか入っていなかったし。蔦谷さんのアレンジでは、ドラムにゴーストノートが入ったじゃないですか? 私って自分が叩ける範囲のドラムしか作れないし、これまで歌川のドラムに関しても私が作った曲をやっているのしか観ていないから、歌川がゴーストノートを叩いているのを聴いて「何これ、超カッコいい!」「めっちゃうまいっぽい!」って(笑)。

蔦谷 あのドラムはね、映像が浮かんだんです。お坊さんがお経を上げるときって木魚をやるじゃないですか。それでドラマー出身の坊さんとかいたら面白いかな?って思って。木魚をすげえパラディドルで「パンスカパンスカ……」って。そこにラップっぽくお経が入ったら面白いんじゃないかって(笑)。そのイメージでスネアをああいう感じにしたんですよ。ファンキーお釈迦様(笑)。

津野 あははは(笑)。木魚でビデオ録りたい(笑)。あのルーズな感じが“かわいいワル”って感じでいいんですよね。

蔦谷 あとね、レコーディング前後にFacebookに米咲が「喜劇がどうの……」みたいなことを書いていたじゃない。

津野 「喜劇を生きるのだ」ですね。

蔦谷 そうそう。で、それがあったから、楽しいアルバムになるんだろうなあって思っていたんです。そしたら俺んところに送られてきたのがめちゃくちゃ暗い「ドライフラワー」だった(笑)。

津野 あははは(笑)。

蔦谷 それでもう禅問答みたくいろいろ考えちゃって(笑)。さらに「108」の歌詞を見てまた考えさせられて。結果“楽しい”ってことでいいんだなあと思いましたけど。

津野 そりゃ「ドライフラワー」暗いですよ。「108」もファンキーだとは言っても、それが誰もがわかるものかって言われたら違う。でも、私は暗い音楽も明るい音楽もやるのが楽しいんです。明るい幸せな曲を10~20曲っていうのもいいんだけど、私はそういう曲を20曲演奏されてもあんまり楽しくない。何を持って暗さを表現するのか、そういうのが楽しい。

蔦谷 いろんな感情があって、いろんな表現があると。

津野 うん。蔦谷さんもそうでしょ?

蔦谷 そうそう。この間「今年一番聴いてる曲、何かな?」って思って自分のiTunesを見たら、清竜人の「all my life」だったの。あれってさ、モッシュとかダイブとか起こるような曲じゃないじゃん? でも俺、心の中でめっちゃモッシュしているの。すっげえ心が躍るし、めちゃくちゃハッピーになるし、拳が上がるんですよ。俺の心の中には俺のスタンドがいて、スタンドがめっちゃ拳を上げているの。俺EDMとパンクも好きなんだけど、そういうものじゃなくてもアガる曲ってありますよね。「ドライフラワー」もそういう曲だった。

津野米咲

津野 私もめっちゃアガります。「うわーっ」ってなる。ちなみに私もこの間iTunesで最近一番聴いているの何かなって思ってみたら、℃-uteでしたね。好きすぎて。

蔦谷 米咲がすごいのが、あんまり音楽に対する壁がないんですよね。もちろん好きじゃないものはあると思うけど、ジャンルでそれがイヤだっていうのはないじゃない?

津野 ジャンルではないですね。「『ドナドナ』怖すぎ」とかはあるけど。「ドナドナ」はトラウマ。「ドナドナ」の美しさがまだわからないから、それを見つけていきたい。あの曲って、女の人が真っ暗な部屋でまな板に写真を置いて、それを包丁でぶっ刺してるイメージなの。

蔦谷 マジか(笑)。じゃあ「赤い靴」とかは?

津野 きれいさはわかる。

蔦谷 「ミーラードーラーシー」のところがきれいか。

津野 うん。でも「ドナドナ」はめっちゃ怖い。

まだ22歳だからわかんないよ!

蔦谷 しかし俺がプロデュースした曲じゃないけど、「TOKYO HARBOR」もカッコいいね。Dr. K。これ、KREVAさんは自分で歌詞を用意してきたの?

津野 最初打ち合わせして、KREVAさんが「この2人は、こういう関係で合ってる?」みたいにヒアリングしてくださって、私も「男性は悪気がないほうがいいです」みたいに答えて。だから打ち合わせのとき、KREVAさんが着いてすぐ恋バナみたいになりました(笑)。

蔦谷 ちゃんとストーリーになっていて、美しいラップで。

津野 この曲はデビュー前に作った曲なんです。今回KREVAさんのリリックを見て、歌詞を書く人間としても1本取られたって感じでした。東京湾を男女がドライブしているって歌詞で、私は女の子目線だけで書いていたので、説明不足なところがたくさんあったんです。なので男性で、かつ男性目線の歌詞を書いてくれる人がいいねってことでKREVAさんにお願いして。“東京湾”ってキーワード1つで、乗っている車が“営業車”だったってこととか、「冗談半分で残りの半分は本気」って歌詞とか……「もー、まだ22歳だからわかんないよ! カッコよすぎる!」って(笑)。

蔦谷 あはははは(笑)。

左から津野米咲、蔦谷好位置。

津野 サウンドに関しては、何も考えないでダルーンって弾けるくらいみんなで何度も練習しました。だから演奏はすごくいい感じに気だるくて。ちょっと大人っぽい感じが出せたかなって思うんだけど。でも結局KREVAさんが大人にしてくれましたね。「なんつってなつって」って……もう、うまい!

蔦谷 すごくいいです。

津野 オファーしてから、もしかしたらKREVAさんが一緒にやってくれるかもしんないってところでレコーディングを進めて。だから「KREVAさんの返事を待ってみよう」って感じで間奏の尺をちょっと長めにとっていたんです。それで結局やっていただけることになって。私もラップの方と一緒にやるの初めてだったから、間奏部分に音を足したほうがいいのか、抜いたほうがいいのか、そのままのほうがいいのかって判断が難しくて。キーボードとかならあとからでも足すことはできたんですけど、結局そのままにしました。

蔦谷 あとは「楽しい」とかも、本当楽しそうですよね。めっちゃみんなで「楽しい!」って言っているし。

津野 そうそう。青葉台スタジオでレコーディングしているとき、たまたま下の階で爆弾ジョニーが作業していたから、「楽しい!」って叫ぶところに参加してもらって。あと私たちの友達で功っていうハードコアバンドのボーカルのゲイがいて、まさしっていうんですけど。そのまーちゃんと、あと大東駿介くんと、大東くんのマネージャーを呼んで。さらに面白いから大東くんの隣にまーちゃんを並べて、仲いいライターさんも呼んで。みんなで「楽しい!」って録ったんだけど、楽しかった。

赤い公園 ニューアルバム「猛烈リトミック」/ 2014年9月24日発売 / Virgin Records
初回限定盤 [CD+DVD] 3780円 / TYCT-69023
通常盤 [CD] 3024円 / TYCT-60045
収録曲
  1. NOW ON AIR
  2. 絶対的な関係
  3. 108
  4. いちご
  5. 誰かが言ってた
  6. ドライフラワー
  7. TOKYO HARBOR
  8. ひつじ屋さん
  9. サイダー
  10. 楽しい
  11. 牢屋
  12. お留守番
  13. 風が知ってる
初回限定盤DVD 収録内容
  • ひつじ屋さん(Music Video)
  • NOW ON AIR(Music Video)
  • オフショット・ドキュメンタリー「情熱公園」
赤い公園 「マンマンツアー 2014 ~お風呂にする?ご飯にする?それとも、リトミックにする?~」
2014年10月24日(金)
福岡県 DRUM Be-1
2014年10月31日(金)
愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
2014年11月3日(月・祝)
大阪府 大阪 umeda AKASO
2014年11月23日(日)
東京都 EX THEATER ROPPONGI
  • 赤い公園(アカイコウエン)
    赤い公園

    佐藤千明(Vo)、津野米咲(G)、藤本ひかり(B)、歌川菜穂(Dr)からなる4人組。高校の軽音楽部の先輩後輩として出会い、2010年1月に結成される。さまざまなジャンルの音楽を内包したサウンドと、予測不能かつアグレッシブなライブパフォーマンスが魅力。東京・立川BABELを拠点に活動をスタートさせ、自主制作盤「はじめまして」「ブレーメンとあるく」を経て、ミニアルバム「透明なのか黒なのか」でメジャーデビューする。しかし津野の体調不良を受け、2012年10月より半年間活動を休止。2013年3月に活動再開を発表したのち、5月に東名阪で復活ツアーを開催し、8月に1stフルアルバム「公園デビュー」をリリースした。2014年2月にシングル「風が知ってる / ひつじ屋さん」、3月にシングル「絶対的な関係 / きっかけ / 遠く遠く」を発表。なお津野はソングライターとしても高く評価されており、SMAP「Joy!!」の作詞および作曲、南波志帆「ばらばらバトル」の作詞および編曲を手がけるなど活動の幅を広げている。2014年9月に亀田誠治、蔦谷好位置、嶋津央、蓮沼執太といった豪華プロデューサー陣を招いてメジャー2ndアルバム「猛烈リトミック」をリリース。アルバム収録曲「TOKYO HARBOR」でKREVAをフィーチャーしたことでも話題を集めている。

  • 蔦谷好位置(ツタヤコウイチ)

    クリエイター集団agehasprings所属の音楽プロデューサー。ロックバンドCANNABISのキーボーディストとしてメジャーデビューする。バンド解散後に音楽プロデューサーとしての活動を本格化させると、現在までにYUKI、Chara、いきものがかり、木村カエラ、エレファントカシマシ、チームしゃちほこなどの楽曲を手掛ける。作詞・作曲・編曲から演奏までをこなすプロデューサーとして、ロックバンドからアイドルまで幅広くプロデュースしている。Superfly「Box Emotions」やゆず「LAND」では「日本レコード大賞」の優秀アルバム賞を受賞した。また演奏力にも定評があり、NATSUMENやEntity of Rudeなどのキーボードプレイヤーとして活躍したほか、現在は仲井戸麗市(G)、中村達也(Dr)、KenKen(B)とともにthe dayのメンバーとしても活躍。さらに10月にスタートするJ-WAVEの新番組「THE HANGOUT」では木曜ナビゲーターに抜擢されるなど、その活動は多岐に渡る。