Aimerがあてのない旅路で見つけた大切なものとは?「王様ランキング」EDテーマに込めた思いを語る (2/2)

「Aimerはこう」というイメージにすがりついていたくない

──カップリング曲「空噪wired」は作曲が百田留衣さん、編曲が玉井さんと百田さんという、やはりagehaspringsのチームですが、「あてもなく」とは何もかも違いますね。

おっしゃる通りだと思います。

──「空噪wired」はアシッドジャズ的なダンスナンバーで、歌詞にも「AM4:00」とあるように、Aimerさんが初期の3枚のアルバム(2012年10月発売の1stアルバム「Sleepless Nights」、2014年6月発売の2ndアルバム「Midnight Sun」、2015年7月発売の3rdアルバム「DAWN」)で歌った「AM」シリーズの流れを感じました。

まさに、歌詞に「AM4:00」というワードを入れたのは、今おっしゃった「AM」シリーズにちょっと絡めたかったという意図もあって。そこに触れていただけると思っていなかったのですごくうれしいんですけど、実は「空噪wired」では、「AM4:00」(「DAWN」収録曲)で使っているのと同じ楽器の音をちらっと入れているんですよ。ちょっとしたお遊びとして。

──それは気付かなかったので、この取材が終わったら聴き比べてみます。

ぜひ。今回のシングルでは、ノンタイアップのカップリング曲を作るのがひさしぶりだったこともあり、カップリングだからこそできる音楽を思いっ切りやろうと。だから、この「空噪wired」も曲調といい、歌詞といい、歌い方といい、曲のモチーフといい、10年前の自分だったら歌うことなど考えられないような曲を作ってみるというのが裏テーマとしてありました。

──なるほど。

10年以上活動してきて、最初の頃から聴いてくださっている方とは「Aimerという人はどういう音楽をやるのか」という点において、一種の信頼関係が築けているという手応えを、厚かましくも感じているんです。ただ、たくさんのアーティストがいる中で「Aimerはこう」というイメージを抱いてもらえるのはすごくうれしいし、ありがたいことだと思う反面、そこにすがりついていたくない自分もいて。この先の10年を見据えたとき、これまでやってきた音楽を大事にしながらも、これからやれる音楽を取りこぼしたくない。あらゆる可能性をひと通り探ってみることが、これからの私に必要なことなんじゃないかと今考えていて、それを今回のカップリングで実践したいと思ったんです。

Aimer

──Aimerさんはこれまでも、例えば「RE:I AM」でロックナンバーを歌い、「ONE」(2017年10月発売の13thシングル「ONE / 花の唄 / 六等星の夜 Magic Blue ver.」表題曲)でダンスナンバーを歌ったように、変化に対して肯定的な姿勢は一貫しているのでは?

そうとも言えるんですが、今までは、それこそあてもなく、目の前の制作に一生懸命で先を見る余裕もなくて。その時々に出会ったコンポーザーの方々に導かれるように、ある意味、受動的だったと言ってもいいかもしれない。でもこれからは、ただ変化を享受するだけではなくて、自分から能動的に変わっていかないといけないんじゃないか。今までの自分のままでいるほうが楽だし、居心地もいいけれど、やっぱり音楽家として新しいことをやり続けたいんです。ただ、もしこの曲がすごく人気が出たとしても、この先、こういう曲をまた歌うかどうかわかりません。

──ええー。

そのくらい「空噪wired」は、もう言ってしまえば、自前のカラオケ曲みたいなものなんです。歌詞も「有線のイヤホンが絡まるのが嫌だ」と言っているだけで。

──(笑)。

そういう卑近な、どうでもいいことを広げて歌詞にするということ自体、今までやってこなかったんです。題材も含めてあまり深く考えずに、言葉選びにしてもちょっと遊んでみたというか、サウンドの一部として捉えられるようなものを目指していて。そんなふうに音と戯れるような曲にトライしてみるのも、ライブを見据えるという意味でもいいかもしれない。そう思って制作しました。

──ボーカルも若干イラついているというかラフというか、「あてもなく」とはまるで違いますね。

真逆と言っていいぐらい、違いますね。「残響散歌」でジャジーな曲調に取り組んだときにお褒めの言葉をたくさんいただいたこともあり、アッパーでジャジーな曲をやるなら今かなって。ただ、けっこうエキセントリックな曲ですし、そこも「あてもなく」とは真逆で、サウンド的に暴れているというか個性を主張しているので、もし自分もそこに乗っかったら崩壊する気がしたんです。なので抑えるべきところは抑えるように心がけつつ、基本的にはライブで歌うのと同じような感覚で歌いました。

1つひとつのトライアルが、いつかの自分に生きてくる

──もう1つのカップリング曲「Life is a song」ではキクイケタロウさんという新しい作曲家を迎えていますが、この曲も新機軸ですよね。トラックはヒップホップで、歌もポエトリーラップに近い。

音楽的には「空噪wired」と同じで、今までやっていなかったことをやろうという発想から出発しているんですけど、テーマ的には「あてもなく」に通じるものにしようと自分では意識していて。すなわち、人生とは1つの歌のようなものだと。「あてもなく」が世代問わずいろんな人に届いてほしいと思いながら作った曲だとしたら、「Life is a song」はもうちょっと自分に近い人たち、シンプルにいえば音楽が好きな人たちと曲の肌触りも含めて共有できたらいいなと思いながら、かつ「空噪wired」と同様にライブを見越して作った曲ですね。

──「Life is a song」って、なかなか大きなタイトルですが、Aimerさんが言うと説得力がありますね。

「Life is a song」というタイトルは自分でもすごく気に入っていて。故人も含めて、いろんなミュージシャンが残してくれた曲を聴いていると、その人の人生そのものが表れているような曲に出会って、心を動かされることがあったりするんです。あるいは「この曲は、私のことを歌ってくれている」と感じて、それを大事に抱えながら生きていく人も、私も含めているんじゃないか。そういう音楽への敬意も込めて付けたタイトルです。

──ボーカルも、いい具合に肩の力が抜けていますね。

仮にこの曲をハキハキと滑舌よく、アグレッシブに歌ったら、たぶんおかしなことになっちゃいそうで。だから「空噪wired」と同じようにトーンは抑えめに、いかに脱力しながら歌うかを意識しました。最近は以前よりも……以前というのは本当に長いスパンで見たときの“以前”なんですが、当時と比べると、その曲にふさわしい歌の形だったりグルーヴだったりを捉えやすくなってきている感覚があって。それもあってか、レコーディングは比較的スムーズでした。

──僕はカップリングの2曲を聴いてだいぶびっくりしたんですが、10年以上活動しながら聴く人をびっくりさせるというのは、容易なことではないと思います。

そう思ってくださったなら、やった甲斐がありました。ファンの皆さんとの信頼関係があってこそできたことであり、やらなきゃいけなかったことだと今は思っています。

──「次は何を出してくるんだろう?」みたいな期待も大きくなりました。

例えばデビューシングル(2011年9月発売の「六等星の夜 / 悲しみはオーロラに / TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR」)から聴いてくださっている方もいれば、あてのない道のりの途中にいる私を見つけてくださった方もいて。そういうことを、10周年を迎えて少し経ったあたりから改めて認識しながら音楽を作ることが増えたんですね。その中で、さっき言ったように自分が居心地のいい場所にい続けることが必ずしもプラスではないというか、今回のカップリングでやったような1つひとつのトライアルが10年後、あるいは20年後かもしれないけれど、いつかの自分に生きてくるんじゃないか。そんな予感をこれまで以上に感じていますし、きっとこれからもそれは変わらないと思います。

ライブでは感情を隠すことなく、全部出しきって帰ってほしい

──カップリングの2曲はライブを見据えて作ったというお話がありましたが、現在、Aimerさんはアリーナツアー「Aimer Arena Tour 2023 -nuit immersive-」の最中で、先日、神奈川・横浜アリーナ公演を終えたところです(※取材は4月下旬に実施)。ここまでのツアーの感想をいただいても?

今回のツアーにはテーマがいくつかあるんですけど、1つは音にこだわることで。ちょうど1人の音楽家として音にこだわりたいという衝動を抑えきれなくなったタイミングで、そのこだわりをいろんな形で叶えてくれる要素がそろったんですよ。新しいサウンドシステムだったりストリングスセクションだったり、あるいは偶発的な要素としては、ひさしぶりにお客さんの声出しが可能になったり。かつ、アリーナワンマンは10周年を迎えた一昨年(「Aimer 10th Anniversary Live in SAITAMA SUPER ARENA "night world"」)と、去年(「Aimer 10th Anniversary Final "Cycle de 10 ans"」)もやっているんですが、自分の中では今回のアリーナツアーこそが、1つのタームの本当の締めくくりという位置付けでもあって。自分で自分の欲求を満たしつつ、それでいて足を運んでくださる方にも、今まで届けられなかったものをちゃんと届けられているという手応えがあるので、すごく好きですね、今回のツアーは。

「Aimer Arena Tour 2023 -nuit immersive-」愛知・日本ガイシホール公演の様子。

「Aimer Arena Tour 2023 -nuit immersive-」愛知・日本ガイシホール公演の様子。

「Aimer Arena Tour 2023 -nuit immersive-」愛知・日本ガイシホール公演の様子。

「Aimer Arena Tour 2023 -nuit immersive-」愛知・日本ガイシホール公演の様子。

──あまりにもうれしそうにお話しされるので「よかったですね」という言葉しか出てきません。

よかったです(笑)。ライブが始まる直前まではごちゃごちゃ考えてしまうんですけど、いざ始まったら、いかに瞬間瞬間を楽しんで、笑えているかどうかが重要というか。楽しむことがこんなにも重要視される空間はほかにないとすら思いますし、私もバンドメンバーもスタッフも、そして何より来てくださった皆さんが笑顔になれるようなステージを作れているという実感があります。

──ちなみに先ほどおっしゃったサウンドシステムって、どういうものですか?

簡単にいえば、会場のどの席にいても同じバランスで音が聞こえるんです。そういうサウンドシステムがあることを知り、今回のツアーから導入していただきまして。広い会場だとそれだけで音もぼやけやすいし、席によって音の聞こえ方も変わってしまうんですけど、その悩みを解消してくれたという点で、一番大きなこだわりを叶えてくれたかもしれません。それから今回、初めてストリングスの皆さんと一緒にツアーを回っていて、それによって当然サウンドの厚みも増しますし、しかもストリングスアレンジをゼロから作っているんですよ。要はどの曲もこのツアー限りのアレンジになっていて、イントロだけだとなんの曲かわからない曲もけっこうあるんじゃないかな。だから、このサウンドシステムとこの編成じゃなければ届けられない音になっているし、そういう意味ではすごく音に没入できるライブにもなっていると思います。

──それ、すごくいいですね。

今までいろんなスタイルでいろんなステージに立ってきましたけど、10周年のタイミングでかなり派手というか、「残響散歌」という楽曲に象徴されるような、ドーンと花火を打ち上げるようなライブをやり遂げたんですね。そこから今、またアリーナという大きなステージで、ある意味で内に向かうような、原点に立ち返って音にこだわったライブができるというのは、とてもうれしいことです。

──シングルのリリース後に大阪城ホール公演が控えていますが、そこでもお客さんに笑っていてほしいというスタンスは変わらないわけですよね。

あるいは逆に、涙を流してくださってもいいんです。私はデビュー当時から相反する2つのことを曲に込めたいと思っていたし、今でもそれを大事にしていて。今回の「あてもなく」にしても極めてシンプルな、ありふれた言葉をたくさん使っているけれど、「笑っていて」は、相手が笑っていないから言える言葉でもあるわけで。人生とはあてのないもので、しかも人間はほかの生物よりもずっと複雑な道のりを歩かなきゃいけないし、その中でいろんな感情に支配されてしまうかもしれない。それでも、笑うことは人間にしかできないのだから、今、笑っていられることが大事なんじゃないかと。

──はい。

そのうえで、ライブという空間では、皆さんが抱えているいろんな感情をありのままにさらけ出してくれたら、それが一番うれしいんです。昔のライブは盛り上がる場面がほとんどなかったので、誰もが同じトーンで、もしかしたら涙を流すことが多かったかもしれないけど、今は曲ごとの感情の起伏や振れ幅も激しくなっていて。私自身もいろんな感情に襲われますし、皆さんもライブでは感情を隠すことなく、ごまかすことなく、全部出しきって帰ってほしいな。

プロフィール

Aimer(エメ)

シンガーソングライター。幼少期よりピアノやギターでの作曲や英語での作詞を始め、15歳のとき声が一切出なくなるというアクシデントを経験し、それがきっかけとなり独特の歌声を獲得する。2011年から音楽活動を本格化させ、同年9月にシングル「六等星の夜 / 悲しみはオーロラに / TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR」でメジャーデビューを果たした。2021年よりSACRA MUSICに所属する。2022年1月にテレビアニメ「鬼滅の刃」遊郭編のオープニングテーマおよびエンディングテーマを収録したシングル「残響散歌 / 朝が来る」をリリース。2022年12月には「第73回NHK紅白歌合戦」に出場し、「残響散歌」を披露した。2023年3月よりアリーナツアー「Aimer Arena Tour 2023 -nuit immersive-」を開催。3月にアニメ「NieR:Automata Ver1.1a」のオープニングテーマ「escalate」、5月にアニメ「王様ランキング 勇気の宝箱」のエンディングテーマをシングルとしてリリースした。