Aimer「escalate」インタビュー|人間の本質を突くアニメ「NieR:Automata Ver1.1a」オープニングテーマはいかにして生まれたのか (2/2)

瞑想と歌の共通点

──カップリングに収録されているNieR:Automata meets amazarashi コラボレーションソング「命にふさわしい」のカバーも奥深いテーマを持つ曲です。もとはamazarashiがRPGの「NieR:Automata」とのコラボレーション作品として発表した曲ですね。

amazarashiさんとは2018年にアジアツアーでご一緒して、異国の地でこの曲を聴きました。秋田ひろむさんの紡ぐ言葉、選ぶフレーズの1つひとつがすべて強烈で、それが肌にビリビリと伝わってくるようなライブだったんです。観ていると体のほうが先に反応して、勝手に涙が出てきたりもして。

──Aimerさんはどんなイメージを持ってこの曲を歌われたのでしょうか。

本当に言葉が素晴らしいので、私がこの言葉たちの邪魔をしちゃいけないなと思って、ここはもうテクニックとかを考えすぎず、無意識に出てくるもので挑もうと。それでほぼ一発録りでレコーディングしたんです。アレンジでは豪華な生のストリングスを入れていただいて、レコーディングの現場で自分でも感動しました。ライブに近いものがあったかもしれません。

──個人的に、ラストの「光と陰」のフレーズを繰り返すところが印象的でした。聴いているときの感情が光に傾くのか陰に傾くのか、そのときの自分のコンディションによっても変わる感じがします。それはAimerさんが1つの解釈に添いすぎることなく、無意識の境地で歌われているからなのかなと思いました。

歌のアプローチにおいて無意識とテクニックの割合はいつも難しいところなんですけど、この曲はただ歌ってるだけで、自然と言葉につられて表現が出てくる。それはもう本当に、それだけ楽曲が素晴らしいということなんですよね。

──とはいえレコーディングの現場において、無意識で歌うというのは相当難しいと思うのですが。

歌ってるときって、瞑想しているような感じなんです。瞑想は呼吸に集中しますが、歌も同じで、呼吸にすべてを懸けてる。どうしたらどこも力まずに息を吸えるか、どこからどうやって息を吐くか。それを一心に考える歌は、瞑想してるようなものだなと思います。

Aimer

Aimer

──歌と瞑想は呼吸に集中する点でよく似ている……そう考えたことはなかったですが、確かにそうですね。

実は私、去年の後半くらいから改めて自分の歌を見直して、向き合ってきたんです。最初に心と体のバランスについてお話しましたけど、やっぱり歌もそこに一番影響を受けるみたいで。私はわりと心の具合が呼吸に出てしまうタイプなので、切羽詰まったり、追い詰められたりして呼吸が浅くなってくると、歌も千切れてしまうんですね。だから今年は自分の1つの隠れた目標として、当たり前にやっているようでとても大切な呼吸を研究してるんです。

──きっとAimerさんにとって歌うこととは、誰もが無意識にやっている呼吸の1つひとつにいろんなものを込めていくという作業なんですね。

本格的に呼吸を意識するようになったのは今年に入ってからなんですけど、考えてみたら以前から私はそうしてきたんだと思います。そこに少しずつテクニックがついてきて、感覚をちゃんとテクニックで補えるようになってきた。自分でそのバランスを信頼できるようになってきたのは最近のことです。ただ、感情が動くという部分は何も変わってないと思います。素晴らしい曲に出会うと、そこにまだ歌詞がなかったとしても、ああ私はこの曲を歌うために生まれてきたなって思う。そういう出会いが何度もありました。

──「命にふさわしい」はほぼ一発録りと聞いて腑に落ちた部分があるんですけど、このカバーはレコード時代の作品ような緊張感と生々しさがあると思いました。

ありがとうございます。私も古いレコードが好きでよく聴くんですけど、多重録音ができなかった時代のレコーディングは一発で録ってるのに、すごくクオリティが高くて。相当すさまじいことだなと思います。だからこそプロデューサーの玉井さん(玉井健二 / agehsprings代表)とずっと話していることがあって、「極め続けていこう、そうすればきっと残るものになるよ」と。よくも悪くもいろんなことができる時代だから、「抜きん出たものを追い求めなきゃいけないんだ」という話をいつもしています。

──シングルリリース後にはアリーナツアー「Aimer Arena Tour 2023 -nuit immersive-」が始まりますね。

はい。今回のツアーは初めてストリングスと一緒にやります。以前オーケストラと歌ったことはあるんですが、ストリングスと一緒に息のコントロールをどれだけ緻密にやるかが課題というか、面白いところになってくると思うので、すごく楽しみです。

──呼吸を意識した、深いところへいくライブになりそうですね。

今回のライブは「nuit immersive(ニュイ イマーシブ)」というタイトルで、「夜に没入する」がテーマです。1人ひとりのお客さんと音楽にどれだけ没入できるかということをチームでいろいろ試行錯誤しているので、ぜひ楽しみにしていただきたいです。

Aimer「escalate」レビュー

文 / 廿楽玲子

Aimer「escalate」通常版ジャケット

Aimer「escalate」通常版ジャケット

Aimerの21作目となるシングル「escalate」の表題曲は、アニメ「NieR:Automata Ver1.1a」のオープニングテーマとして書き下ろされた。劇中では荒廃した未来の地球を舞台に、月に逃れた人間が送り込んできたアンドロイドと、エイリアンが生み出した機械生命体による熾烈な戦闘が描かれる。アンドロイドたちは「人間に栄光を」という絶対の指令をインプットされているが、戦闘の中で多くの意思決定を自ら下し、ときに葛藤する表情を見せる。Aimerはその葛藤に“人間らしさ”を見出したという。

「escalate」は何かに追われているような性急なイントロから、息もつかせぬ展開で走り抜ける。サウンドを手がけたのはAimerをデビュー時から支える玉井健二と、ギターサウンドに定評のある大西省吾。楽曲全体を通して戦闘の場面を描いているようにも思える。力と力がぶつかり合うシーンだけではなく、身を隠し、戦術を考え、そこで下した判断をもとに勝負に出ていくような瞬間もある。何を信じればいいのか、自分の判断は正しいのか、今は本当に勝負に出るべき瞬間なのか。消えない葛藤を押し込めて、サビのクライマックスへと向かう。Aimerが「escalateして」と音をすくい上げるように歌うとき、自分の中に隠れていた火種のような感情が増幅するような感じがしてゾクッとする。

考えてみればこうした心の動きは、私たちの日常の中にもある。進退を決するときや、人との関係を変えるとき、自分自身と向き合うとき、そこには無数の選択肢があって、心の内では迷いや葛藤が渦巻いている。だからこの歌は、自分が主人公となった人生のドラマにも当てはまる歌なのだと思う。

インタビュー中、Aimerが語った「無駄なガラクタみたいなものが自分になっている」という言葉が心に残った。ガラクタだなんて、彼女らしい謙虚な言葉だと思う。自分も今日1日を振り返ってみれば、やらなくていいことをいっぱいした。言わなくていいことも言った。うんざりすることもあるけれど、そのときの判断はその瞬間の自分しかできないし、精密な機械ではないのだから正しい方向ばかりは選べない。そう思うと、むしろ何かをやらかしたガラクタな自分こそ自分らしいな、とふと気分が軽くなる。

ライブ情報

Aimer Arena Tour 2023 -nuit immersive-

  • 2023年3月18日(土)愛知県 日本ガイシホール
  • 2023年3月19日(日)愛知県 日本ガイシホール
  • 2023年4月15日(土)神奈川県 横浜アリーナ
  • 2023年4月16日(日)神奈川県 横浜アリーナ
  • 2023年5月20日(土)大阪府 大阪城ホール
  • 2023年5月21日(日)大阪府 大阪城ホール

プロフィール

Aimer(エメ)

シンガーソングライター。幼少期よりピアノやギターでの作曲や英語での作詞を始め、15歳のとき声が一切出なくなるというアクシデントを経験し、それがきっかけとなり独特の歌声を獲得する。2011年から音楽活動を本格化させ、同年9月にシングル「六等星の夜 / 悲しみはオーロラに / TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR」でメジャーデビューを果たした。2021年よりSACRA MUSICに所属。2022年1月にテレビアニメ「鬼滅の刃」遊郭編のオープニングテーマおよびエンディングテーマを収録したシングル「残響散歌 / 朝が来る」をリリースした。2022年12月には「第73回NHK紅白歌合戦」に出場し、「残響散歌」を披露。2023年3月にアニメ「NieR:Automata Ver1.1a」のオープニングテーマ「escalate」をシングルとして発表した。