Aimer|守りたい思いを歌に込めて

Aimerがデビュー9周年を記念したニューシングル「SPARK-AGAIN」を9月9日にリリースした。

表題曲の「SPARK-AGAIN」は、テレビアニメ「炎炎ノ消防隊 弐ノ章」のオープニングテーマとしてオンエア中のロックチューン。カップリングには「iichiko NEO」のCMソングに採用されたバラード「悲しみの向こう側」と、新型コロナウイルス感染拡大後に制作したという「Ash flame」「Work it out」の3曲が収録されており、Aimerの“今”が詰まった作品に仕上がっている。

今回はAimerにリモートインタビューを行い、自粛期間中に考えていたことや、9年間の活動を経て感じる心境の変化、新曲に込めた思いなどを聞いた。

取材・文 / 廿楽玲子

自分の存在意義って?

──新型コロナウイルスの影響で激動の日々だと思いますが、どんなふうに過ごされていますか?

4、5月は家から一歩も出ないような生活だったんですけど、最近はレコーディングなどで少しずつ外に出ることも多くなってきました。私の場合、もともと音楽の制作や研究は家で1人、地味にやるほうだったので生活の形自体はそれほど何かが変わったという感じではなくて。それより、コロナの影響ですごい変化を強いられている人がたくさんいるんだろうなと思うんです。だから私は、おこがましいけれど発信者の端くれとして、どうしたらその人たちに少しでも貢献できるだろうかということをずっと考えていました。

──こういう状況になって、音楽を含めた文化芸術の意義を改めて考えた人も多いと思います。個人的には自分の中で音楽というものの存在感がどんどん増していった数カ月でした。音楽がなかったらどう過ごしていたのか想像もつかなくて。

すごく共感します。いろんな人がいるから一概には言えないし、音楽はある意味なくても生きていけるものかもしれない。でもだからこそ、今まで以上に音楽が必要になったと思ってくれる人に何かできたらと思いながら過ごしてました。やっぱり私ができることは、音楽を必要としている人に少しでも何か発信することだったり、今すぐにじゃなくても何ができるかを考えること。それが自分の存在意義だと感じています。

──気持ちとしては「よしやるぞ!」と燃えてる感じですか?

どうだったかな……もうちょっと冷静かもしれないです。基本的に私、変化が得意なタイプじゃないんです。例えば4月になると進学や就職などで新しい環境になったりするけど、そういう変化に自分では慣れたと思っても実は全然なじんでなかったということに1年くらい経ってから気付いたりする。今回、コロナの感染拡大によって世界中の誰もが少なからず変化を強いられたと思うんですけど、私は変化をすぐには受け入れることはできなくて。熟考しないとなかなか自分のエネルギーに変えられないんです。しかも情報が錯綜して何が本当なのかわからない中で、刻一刻といろんなことが変化して。何かを信じるためにはいろんな角度からものごとを見ないと決断ができない。だから日々材料を集めながら、自分の意見とか、あるいはこの場における哲学とかそういったものを一生懸命考えてるって感じですね。

みんなを守りたい

──ニューシングル「SPARK-AGAIN」には4曲収録されていますが、どの曲からも“今この気持ちを届ける”という意志を感じました。そこにはAimerさんの心情が映し出されているのかなと思ったのですが。

確かにそうかもしれない。今回のシングルに入ってる「Ash flame」と「Work it out」は6月くらいに制作したので、今の時代を一緒に生きている人たちに届けるという前提がありました。一方で「SPARK-AGAIN」と「悲しみの向こう側」は感染拡大前に作っていた楽曲なんですけど、どちらも今出しても遜色ないというか、こういう時代に発表する意味や可能性を感じています。それぞれ曲調がばらけた4曲ですが、どれも今受け取ってもらう意味があると思えた曲たちです。

──表題曲の「SPARK-AGAIN」はいつ頃から制作を?

去年の11月から今年の2月までツアーを開催したんですけど、それが始まる直前にタイアップのお話をいただいて。ツアー中に作って、ツアーが明けてすぐにレコーディングしました。確か最終公演の翌々日くらいだったかな。

──すごいスケジュール! それはツアーのテンションのまま歌えそうですね。

そうですね。ひさしぶりにアニメ作品のオープニングを担当するということで、「炎炎ノ消防隊」という作品のカラーに沿った、ノリのいい、ワクワクできるようなものを、というリクエストもいただいて。

──いつになくロックな曲ですよね。ギターソロもあるし。

私はこのシングルが出るタイミングでデビュー9周年を迎えるんですけど、デビューした頃からずっと、聴いてくれるみんなに寄り添いたいという思いを抱いてきました。だけど今はそれ以上に、なんて言うのかな……みんなを守りたいという気持ちがある。それくらい私の中で、私の歌を聴いてくれる人の存在が大きくなってるんです。だから今回この曲のお話をいただいたときに、みんなを守れるような曲にしようと思いました。「炎炎ノ消防隊」という作品の力も借りて、曲調も歌詞も自分の枠からはみ出たところへ行こうと。みんなのために曲を作るということを、こんなに振り切ってやったのは初めてかもしれないです。

ファンの人がいるから生きないと

──おそらくAimerさんはもともと、そこまで前のめりでいく性格ではなかったんじゃないかと思うんですけど。

そうですね(笑)。

──その“守りたい”という思いはライブなどでたくさんの人と出会って、その中から生まれてきた感情なんでしょうか?

そう思います。私にとって“守りたい”という気持ちはある意味、最上の愛情表現というか。例えばの話ですが、もしも自分が子供を産んだら、そのときはきっと、「その子を守るために絶対死ねない」って思うだろうなと想像したんです。新しい命を持つって、それほどの覚悟がいることなんだろうと。でも今、それに近い思いをファンの人に感じているというか……なんかちょっと気持ち悪いかもしれないですけど。

──いや、そんなことないです。

ファンの人がいるから、私は生きてないとだめだなあと思う。自分にとって1つの使命のようにも感じています。それはやっぱりライブを通して、そして、この9年間のいろんな出来事を通して、自然と芽生えた気持ちだと思います。

──大きな変化ですね。

「炎炎ノ消防隊 弐ノ章」キービジュアル ©︎大久保篤・講談社 / 特殊消防隊動画広報課

はい。ファンの人たちに出会わなければ、私はもっと生きることに対してネガティブなものを感じていたと思う。私自身も歌うことに救われているから、歌うということをますます大切にさせてくれるファンの人たちがいるということ、それだけで生まれてきた意味があったと思います。

──「SPARK-AGAIN」はAimerさんの中の変化を切り取った曲とも言えそうですね。

そうですね、歌詞もみんなへの愛をストレートに表してるし、音楽的にも今までそこまで踏み込めなかったことを思い切ってみんなのためにやろうと思いました。きっと自分のために作っていたら、こういう曲にはならなかった。もちろん「炎炎ノ消防隊」から受けた影響も大きくて、主人公の森羅くんは、自分が大切にしていたものをなくしてばかりだった過去を抱えて、もう何も失いたくないと思ってる人なんですね。彼は一見すごく前向きで光にあふれた人だけど、その土台には悲しみがあって、その上に立って誰かを守りたいと思ってる。それは自分とも通じるところがあるなと思ったので、森羅くんとシンクロする形で自分の中のポジティブを引きずり出して作りました。

──強さと弱さとか、光と影とか、どれも表裏一体というかセットなのかもしれないですね。

そうですよね、確かに。誰か大切な人がいるっていうことは、その人の強みであり、一番の弱さでもあるから。

──そこを両方歌い込むことが重要な気がするんですよ。もちろん「最強、無敵だぜ!」みたいな曲に元気をもらうこともあるけど、今この時期に響くのはネガティブも含んだ歌じゃないかと。

そう言っていただけるとすごくうれしいです。「SPARK-AGAIN」はシングルに先駆けて配信リリースしたんですけど、みんなと一緒にこの夏を乗り越えるための力になる可能性のある曲だなと思って。だからこのタイミングで出してもいいんだって思いました。