一緒にCDを出したら面白いんじゃないかな

──そうやってお2人ともニコ動に投稿を始めて、いつ頃出会ったんですか？

まふまふ　初めて会ったのは、4、5年前。僕がニコ動で活動を始めて1年も経たないくらいのとき、カラオケ屋さんでイベントがあったんですよ。ワンフロア貸し切って、歌い手さんとかボカロPさんが集まってわいわい楽しもうっていう。そこでそらるさんと知り合ったんですけど、僕は駆け出しで、そらるさんはすでに有名だったので、特に接点もなく。

──「これがあのそらるさんかあ」みたいな。

まふまふ　そんな感じですね。それが、別のイベントでまた会ったり、そらるさんの同人サークルの売り子を手伝ったりするうちにちょっとずつ仲良くなって。そらるさんは同人界隈にすごく詳しくて、僕も同人でCDを出したい人間だったから、いろいろ教えてもらってたんです。

──お2人は過去に“そらる×まふまふ”名義で、「アフターレインクエスト」（2014年）、「プレリズムアーチ」（2015年）という2枚の同人アルバムをリリースされていますが、そこに至った経緯は？

そらる　まあ偶然が重なったというか。ちょうどその頃まふまふも含めて何人かで一緒にニコ生をやったり、コラボCD（まふまふなど、さまざまなクリエイターが楽曲提供したそらる名義のアルバム「夕溜まりのしおり」）の企画が進んでたりとか、より距離が縮まってた時期だったんです。で、まふまふの曲も好きだったし、自分の今後にも悩んでて、一緒にCDを出したら面白いんじゃないかなって。

まふまふ　僕もその頃はすでに同人でCDを出してたんですけど、自分1人でやってたので、独りよがりなところもたくさんあると思ってて。そらるさんと一緒にやることでいろいろ学べるのかなって。

「もっと難しい曲を作ってくれ」

──そして、先の2枚の同人アルバムを経て、“After the Rain”というユニットとしてアルバム「クロクレストストーリー」を完成させたわけですが、楽曲制作において、これまでの作品と変わった部分はありますか？

そらる　ないですね。コンセプトにしても、同人で出した2枚のアルバムはRPG感や冒険感を打ち出しているので、今回も一応その流れを汲んだものにしようと。ひと言でいえば「ファンタジー」でしょうか。

まふまふ　「クロクレストストーリー」の「クロ」はクロック、つまり時計で、作詞面では「時間」を1つのテーマにしました。僕は死生観を書くことが多いのですが、この人生を1つのお話と捉えてアルバムにまとめたいなと思いました。コンセプトはファンタジーと言えども、そういったニュアンスに留めて作ったつもりです……。どうも暗い歌詞になりがちで、手を伸ばしても届かないとか、望んでいても得られないとか、そういった意味の詞が多いですね。なぜなのか（笑）。

──1曲目の「桜花ニ月夜ト袖シグレ」はアルバムのオープニングを飾るにふさわしいキャッチーでアップテンポな曲ですが、歌詞はだいぶ切ないですね。

まふまふ　これは「自分と異なる世界にいる人に恋をしてしまう」というような話です。わかりやすく例えるなら人間と幽霊とか。思いは届かないという前提あっての曲です。僕はいつも、身の回りで起こったことや実体験を書いてるんです。もちろん、実際に違う世界線の人に恋するとかではないんですけど、比喩表現として自分の思うことを書かせてもらいました。

──作曲に関しては、苦労した点などはありますか？

まふまふ　僕とそらるさんってやってきた音楽が違うし、好みも違うし、実は価値観も全然違うんですよ。だから、もし自分がソロでアルバムを作ったら、この「クロクレストストーリー」に収録された全16曲のうち、半分以上の曲は入っていないと思います。もっと攻撃的でアップテンポで、ロック色の強い曲ばかりになったと思うんです。だけど、このアルバムのテーマに沿った、ファンタジー感があったり変化球的な曲も欲しいとそらるさんに言っていただいたので、それを意識して。

そらる　まふまふはすごく難しい曲を書いてくるんですよ。

まふまふ　いや、むしろそらるさんが「もっと難しいのを作ってくれ」って。

そらる　まあ、そうなんだけど。人が歌える範囲で収めてしまうのではなくて、自由にメロディを展開させたものを歌ったほうが、曲としての可能性が広がるんじゃないかと思って。ボカロ畑から出てきた人間が、それを捨てて既存のポップスに合わせて曲を作るよりは、開けられる引き出しは全部開けて、無理くり歌で表現するのが自分たちには合ってるなと。

──そういう意味でも、名義が変わってもやり方を変えたりはしていないと。

まふまふ　してないです。

そらる　よりクオリティの高いものを。それだけです。