キーが高すぎて、最初はハモリかと思った

──本作ではアルバム「プレリズムアーチ」に収録された「セカイシックに少年少女」と「インソムニア」を再録していますね。しかも、もともとインスト曲だった「インソムニア」はボーカル入りにして。これにはどういう意図が？

まふまふ　これは2人で相談して決めたのですが……。僕らって、ずっと手作りの作品を身近な人たち、直接会いに来られるくらいの距離のリスナーさんにお渡しするということをやってきた人間なので、そのスタンスは崩したくないのです。同人でやってきたことをやめるつもりはないし、あの頃にこの2曲を作ることができたから、このアルバムも完成したのですということを言いたくて。僕らの成長は確実に今まで聴いてきてくれていた方々あってのものなので。

そらる　「インソムニア」はもともとインスト曲として完成していたので、隙間がないというか、そのままだと歌が乗せられないんですよ。だから結局、かなり音を崩して組み直したんですけど、一度自分の中でこうだという音が決まってると、改めてボーカル入りの曲として辻褄を合わせるのがすごく難しくて、ミックスでは特に苦労しましたね。なんべんやってもうまくいかなくて。

──ほかに、歌うにあたって大変だった曲はありますか？ そもそも「難しい曲が多い」とはおっしゃっていましたが。

そらる　「ネバーエンディングリバーシ」とか「アイスリープウェル」は特に難しかった。あと、最近ニコ動に投稿した「待ちぼうけの彼方」もすごい大変でした。

まふまふ　でも、「待ちぼうけ」はすんなり歌えてませんでした？

──後半にものすごいハイトーン＆ロングトーンのパートがありますよね。

まふまふ　よくあんなの歌えますよね。

そらる　最初に譜面を見たとき、上のキーはハモリだと思ってたので、「どこ歌えばいいの？」って（笑）。

まふまふ　「それがメロです」って（笑）。

そらる　でも、最初に2人でアルバムを出した2年前くらいの自分だったら、あれより3つか4つ低いキーじゃないと歌えなかったはず。だから、少しは成長できたのかな。結果としてけっこう気持ちよく歌えたんですけど、やっぱりまふまふの曲はかなりギリギリのラインを攻めてくるなと。

まふまふ　すごくいい歌をいただけて、「待ちぼうけ」はほんとに2人でやってよかったなと思いました。

「インスト曲を作らせてもらえませんか？」

──また前作を引き合いに出しますが、過去2枚のアルバムは1曲目と、真ん中の曲と、最後の曲の前にインスト曲を配置しています。で、本作は1曲目こそボーカル入りですが、真ん中とラスト前にはやはりインスト曲が入っている。これは何かこだわりが？

まふまふ　僕のワガママです。「インスト曲を作らせてもらえませんか？」って毎回相談させてもらって。そらるさん的には別になくてもいいんだろうけど、できるなら入れたくて。

そらる　なんでそんな卑屈なの？（笑）

まふまふ　もし全16曲のアルバムからインストの2曲を削って、1曲目から14曲目まで通して聴いたら、あまりにもカロリーが高い曲ばかりで疲れちゃう気がしますし、1曲1曲がゴテゴテしてて世界観も違うと思うのです。

──なるほど。

まふまふ　その間をつないだり、逆に切ってくれるのがインストの役割かなと。歌を乗せなくても、メロディと楽器の音だけでも世界観や情景を表現できるというか、むしろ歌がないほうがそういうものを伝えやすいんじゃないかくらいに思ってて。例えば最後の曲「アイスリープウェル」は「眠り」がテーマなんですけど、その導入的なイメージで、ピアノのインスト「[Aster]」を入れています。「[Aster]」はシオンのことなのですが、シオンの花言葉が「君のことを忘れない」なんです。で、「アイスリープウェル」の歌詞は、大切な人が亡くなるところからスタートするんです。詮ずるところ、君のことを忘れないために、何度だって夢を見て君に会いに行くよと。

──ストーリー的にもつながっているわけですね。もう1つのインスト曲「[Spica]」は、アルバムの真ん中に挿入されていることもあり、レコードでいうA面とB面を分けるような感じがします。

まふまふ　アルバムのうち数曲や、「[Spica]」に出てくるちょっとしたフレーズに不安定な旋律があるのですが、あれは調性を感じさせない音楽とか12音技法とかそういったもの……映画とかのちょっと不安になるようなときに出てくるような音の並びみたいなものを取り入れたくて……。

──現代音楽の技法ですよね。

まふまふ　そういった聴覚上の効果をイメージしたまねごとです。とにかく、不意をついたり、「[Spica]」に関してはアルバムの流れを一旦切ろうという意図があったんです。次の曲が「セカイシックに少年少女」という、冒頭がRPGキャラがライブしているような追加セクションから始まる曲なので、その前にリセットしてもらうみたいな。