佐々木亮介(a flood of circle)×田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)|目指したのは「アベンジャーズ」 AFOC全部盛り「ミッドナイト・クローラー」

目指したのは「アベンジャーズ」

佐々木 田淵さん、前から「フラッドの曲一緒に作ってみたい」って言ってくれてたんですよね。2度も3度も。

田淵 飲んでるときとかね。

佐々木 そうそう(笑)。で、一度共通の友達の結婚式のために一緒に曲を作ったことがあって、それがいい曲になった。

田淵 「Honey Moon Song」の原型になった曲ね。

佐々木亮介(a flood of circle)

佐々木 最初は平坦なリズムだったのを、田淵さんが「シャッフルにしよう」って言い出して。リズムを変えたらユニゾンっぽくなって面白かったんですよ。そのことがあって、「一緒になんかできそうだな」とずっと思ってた。で、今回のアルバムを作るにあたって、なんか新しくチャレンジしたいなと。さらに自分が最高に面白いことは何かなって考えたときに「TBCとやるしかないでしょ」ってなった。

田淵 ありがとうございます。

佐々木 俺の中で田淵さんと一緒にやるうえでイメージがあって。ちょっと参加してもらうという感じじゃなくて、ガッツリお互いのものを混ぜ合わせる感じにしたかったんですよね。映画で例えるなら「アベンジャーズ」みたいな。マーベルヒーローがたくさん同時に出てきて、同じ画面に映ってるみたいな曲。過剰なんだけど「これありなんだ!」ってワクワクするような曲にしたかった。

田淵 「アベンジャーズ」はいい例えだな。最初に弾き語りのデモを10曲ぐらいもらったんだよね。その中から1曲、一緒にやりたい曲を選んでくださいって言われて。1曲しか選べないのに、「俺がやるならこうする」「この曲は俺がやらないべきだ」とか全曲分書いて佐々木に送ったんだよね。で、一緒に作った「ミッドナイト・クローラー」は「これを任せてもらえるなら、テンポを上げるし、Aメロのここしか残さない」っていうことを書いた気がする。

佐々木 もともと今のテンポの半分ぐらいの速さでしたね(笑)。俺は、お互いのアイデアを混ぜ合わせたかったから、田淵さんの意見を受け入れたうえで、何が出てくるか試してみようっていう感じだった。あと俺の必殺技を田淵さんはたぶん理解してくれてるから、カッコいい部分を引き出してくれそうだなという思いがあった。

田淵 一緒に作れるのが1曲という制約があったので、俺の好きなフラッドの要素を全部盛りにした曲にしようと思って。

佐々木 「時間的に1曲しか一緒に作れない」って伝えたら、「佐々木、スタッフに内緒でタダでもいい。もう1曲やらせてくれ」って言ってきて(笑)。

田淵 ホントにもう1曲やりたかったんだけど……。

左から佐々木亮介(a flood of circle)、田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)。

自分だけじゃ想像できないことをやるんだ

佐々木 音源を聴かせたとき、エンジニアのザブ(ザビエル・ステーブンソン。前作「NEW TRIBE」のエンジニアも担当)がびっくりしてた。「すごい曲だな」って(笑)。

田淵 ああ、ホント? 展開が多いからかな。

佐々木 「あ、こんなのありなんだ」って思うような展開なんでしょうね。最初に田淵さんにメロディを聴かせたとき、シンプルなコードだったのに、「フラッドの得意なコード進行これでしょ?」「メロディは大筋これでいいけど2番はしゃべろう」とか言ってその場で考え出して。ホントすんごい早いんですよ、仕事が。5分悩んだら5時間分ぐらいの成果が出る(笑)。

田淵 そんなことない(笑)。

佐々木 マジで早かった。「これはどう? これはどう?」ってアイデアがいっぱい出てきて。ユニゾンの曲作りが普段からそうなのかはわからないけど、少なくとも田淵さんの脳内作業はこういう形なんだなって思った。

田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)

田淵 バンドをプロデュースするのがこれまで数回しかなかったから、何が正解かわからないんだよ。「好きにやっていいよ」って言ってもらったから、曲作りの流れとか、言葉の乗り方、メロディのつながり方、AメロとBメロのつながり方とか口を出させてもらった。ただ、それってもう作曲の域に入ってくるから、作った本人からしたらどうなんだろうってビビってた。だって嫌じゃない? 自分が作った物に「こっちのほうがよくない?」ってセンスないもん持って来られたら。

佐々木 いや、センスがいい、スーパー優しいプロデューサーでしたよ! メールを送ってくれるときも最初に「佐々木がまずやりたいことをやってくれ」「これは強制じゃない」って書いてあって。とにかく、俺の思いが最優先。そのうえで「けど思い付いちゃった」ってアイデアが山のように書いてある(笑)。

田淵 おこがましい話だけど、提案したくなっちゃう部分があって、いろいろ口出しをしてしまったなと思う。でも一番大事なのは、佐々木がちゃんと自分がやりたいものを選ぶっていうこと。意志がこもってないと楽曲ってよくならないから。

佐々木 俺、アメリカのメンフィスでソロミニアルバム(2017年8月リリースの「LEO」)を録ったんですけど、田淵さんってそのときのエンジニアのローレンス・ブー・ミッチェルとしゃべり方が一緒なんですよね。彼も最初に「As you like」って、「あなたの一番やりたいことをやればいいじゃん」って言うんです。そのうえで「僕はこう思う」って意見をくれる。ブーってジョン・メイヤーとかブルーノ・マーズと仕事をしてる人で、すごいミュージシャンというのは自分の我は持ってるんだけど、人のアイデアを全部1回聞き入れて試すんだって。全部1回試したうえで、「じゃあこれでやろう」ってみんなの前で選んでみせる。

田淵 へえ。

佐々木 要するにみんなで作ってることを、口で説明するんじゃなくて音楽で示すんだって。それを言われたときに「なるほど」と。そういう経験がなかったら、田淵さんがいろんな選択肢を見せてくれても、我を通そうとして提案を聞かないのがカッコいいって勘違いしてたかもしれない。今回、田淵さんとやり取りをしていく中で「一緒に作ることで、自分だけじゃ想像できないことを形にするんだ」って思ってたんです。自分の脳内設計図を再現するためじゃなくて、もっと音楽で面白いことがやりたいんだって改めて実感した。そういう経験を田淵さんがさせてくれた。実際「ミッドナイト・クローラー」はいい曲になったし。