ナタリー PowerPush - ACO
最高の仲間たちと描き出した、飾らない今の私
1995年のデビュー以来、メランコリックな世界の奥底で強さと優しさを歌い続けてきたACO。前作「LUCK」で打ち出したオルタナティブなバンドサウンドとともに、キャリアの新たなフェーズを幕開けた彼女が2枚のアルバムをリリースする。「悦びに咲く花」をはじめとするセルフカバーを中心に2曲の新曲とカバー3曲を収録したスタジオアルバム「TRAD」、そして前作「LUCK」の楽曲を軸に昨年4月に行ったパフォーマンスを収録したライブアルバム「LIVE LUCK」は、彼女のクリエイティビティがたどり着いた何度目かのピークを見事に捉えている。
取材・文 / 小野田雄
このバンドメンバーにはストレスを感じないんです
──今回のスタジオ盤「TRAD」と昨年4月のパフォーマンスを収めたライブ盤「LIVE LUCK」は、4年のブランクを経て2010年にリリースされたアルバム「devil's hands」以降の流れの集大成的な作品ですね。つまり、ACOさんのなかでよりバンド志向が強まると同時に、かつてのグランジやオルタナティブに通ずるロウなサウンドが高い完成度で結実した作品かと。
ありがとうございます。振り返ると、2000年代はずっと80年代リバイバルが続いていましたけど、そうなるとみんな、どうしてもその波に流されてしまいがちで。「devil's hands」では今言っていただいたような、私の方向性を当時のスタッフに説得するのがすごい大変だったし、自分の中でもその方向性にまだ迷いがあったんです。でも、去年リリースした「LUCK」でようやくバンドメンバーが定着したんですよね。みんな考え方がいやらしくないというか(笑)、真面目に音楽と向き合っているし、相性がいいんだと思うんですよ。年齢的にもドラムの柏倉(隆史 / toe)くんとキーボードの塚本(亮)くんは同い年で、憲ちゃん(中尾憲太郎 / Crypt City、younGSounds)は少し上で、(岩谷)啓士郞くんはちょっと下なんですけど、みんな同じ世代だったりするし。
──そのバンドメンバーについてですが、ドラムの柏倉さんは普段手数が多いのに、今回は音数を削ぎ落としながら感情を注ぎ込むようにドラムを叩いていますし、ベースの中尾さんは重厚なロック感にファンクのうねりを加えたプレイ。そしてキーボードの塚本さんも鍵盤の音色の選び方だったり、弾くところは弾いて、弾きすぎないさじ加減が本当に絶妙ですよね。
そう、みんないいミュージシャンだし、この面子が集まって、いい演奏をしてくれたら、そりゃいいアルバムになりますよね(笑)。音色だったり、細かなニュアンスだったり、私が事細かに説明しなくてもそれぞれ汲み取ってくれて。もし、そういうところから説明するとなるとものすごい時間と労力が必要になってくるので、そういう意味で今のバンドメンバーにはストレスを感じないんですよ。
──そしてギターの岩谷(啓士郎)さんは、「LIVE LUCK」ではあまり弾いていませんが2作品のエンジニアも務めていますね。
「LUCK」はギターがあまり入ってないアルバムなので。「TRAD」のほうではたくさんギターを入れてもらったんですけど、彼はエンジニアでもあるから、ギターに録音、ミックスまで、今回は全方面で大活躍だったというか、このプロジェクトの大黒柱的な存在ですね。彼には本当に感謝しています。
私にとって今は、無理なく真っ当に音楽がやれる状況
──岩谷さんの尽力もあって、ドキュメンタリー的なリアリズムが焼き付けられているライブ盤に対して、スタジオ盤はざらっとした、そしてしなやかな音の質感が耳に残りますね。
これは自分の経験上の話なんですけど、若い子と話してると、「アクのないきれいなものが好きなんだな」と思うことが多いんですね。でも私を含めて、今のバンドメンバーはそこまで曲を汚くするのはイヤだけど、ちょっと汚したいっていう価値観が共有できていたんです。だからざらっとした質感で録ろうと考えていた今回のレコーディングでも、マイクを立てるときに説明するまでもなく、勝手に調整してくれたり、本当に話が早かったんです。
──今回の作品は非常にシンプルなバンドアレンジですから、音の質感は作品の印象を大きく左右しますよね。
そう。飾り気はないかもしれないけど、聴きやすく、わかりやすいはずだし、歌詞もよく聞こえて、1つひとつの楽器が鳴らした音がそのままに鳴ってるはず。自分としてもやりたかったことが形になったなと思います。かつてはレコーディングにものすごい予算をかけたり、海外に行ったりしたのに、関わっていたたくさんの人の意見に耳を傾けたり、調整しながらの作品制作だったので、5年くらい寿命が縮まったんじゃないかって思うくらい疲労感や徒労感が強かったんですよ。でも前作、今作はすべてを自分でやらなきゃいけない大変さはあったにせよ、そこまでお金をかけずして、自分のやりたいことを徹底的に突き詰めて、いい音で演奏が録れたし、コーラスを重ねず1本で歌った歌もいいものが録れた。しかも、前作と今回は周りの反応もよくて、自分がこだわったところをみんながちゃんと聴いてくれてるんだなという手応えも感じているし、私にとって今の状況は無理がないというか、真っ当に音楽がやれているなと思います。
収録曲
- 真正ロマンティシスト
- メランコリア
- SPLEEN
- 悦びに咲く花
- TEARDROP
- 赤いよ
- Industrial Society
- Lover, You Should’ve Come Over
- Kiss
- 雨の日の為に
- 4月のヒーロー
- こわれそうよ
収録曲
- Showtime
- LUCK
- Holyman
- Yes
- Say It
- 正しい答え
- 砂漠の夢
- No
- Lonely Boy
- Innocent
- 悦びに咲く花
- Control
- 4月のヒーロー
アコースティック・ミニライブ&サイン会
- 2013年12月8日(日)
- 東京都 タワーレコード新宿店7F イベントスペース
START 15:00 - 2013年12月13日(金)
- 大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店 イベントスペース
START 19:00
TRAD live 2014
- 2014年1月31日(金)
- 東京都 Shibuya O-EAST
OPEN 18:30 / START 19:30 - <出演者>
ACO / toe(スペシャルゲスト) - 2014年2月2日(日)
- 京都府 京都磔磔
OPEN 17:00 / START 18:00 - <出演者>
ACO / toe(スペシャルゲスト)
ACO(あこ)
1995年にシングル「不安なの」でメジャーデビューした女性シンガーソングライター。1999年にDragon Ashのシングル「Grateful Days」にゲスト参加したことでその名を広めた。同年リリースされた砂原良徳プロデュースによるシングル「悦びに咲く花」がテレビドラマ「砂の上の恋人たち」の主題歌として話題になり、同曲を収めたアルバム「absolute ego」が大ヒットを記録。その後もエイドリアン・シャーウッドやMum、澤井妙治(portable [k]ommunity)、渋谷慶一郎などをプロデューサーに迎えてエレクトロニカに傾倒した作品を発表していく。2005年には澤井と新バンドGolden Pink Arrow♂を結成。その後再びソロ活動を開始し、2010年に4年半ぶりのオリジナルアルバム「devil's hands」を、2012年にフルアルバム「LUCK」を発表。2013年11月にはスタジオアルバム「TRAD」とライブアルバム「LIVE LUCK」を同時発売した。