阿部真央「マリア」インタビュー|その愛は誰のため?母親だからこそ生み出せた新曲を語る (2/2)

母親である阿部真央が紡ぐ、“母性の二面性に翻弄される子供”

──歌詞の内容的には、ドラマが持つ“歪んだ愛情”とも言えるテーマが、母と子という関係性に落とし込まれていますよね。

ドラマのタイトルが「ディアマイベイビー」、“私の赤ちゃん”という意味だし、「~私があなたを支配するまで~」という副題からは母性を感じたんです。なので、その母性がはらむ両面を書こうと思いました。母性的な愛を与えている母がいて、それに振り回されることもある子。そこで与えるほほえみや愛、それは結局誰のためのものですか?っていうところにつなげていけたらなと。とは言え、物語の展開がわかりすぎてもダメだし、私としても長く歌っていく曲にしたかったので、書き方としてはある種、抽象的に。あえて書き込まず、サウンドのアレンジや歌声で曲の主人公の思いが伝わるようにはしましたね。私がマリア側になって書くのもいいかなと思ったんですけど、今回は母性の二面性によって翻弄される子供側の視点で書いていきました。

──純粋に注いだ愛情が、相手にとっての支配になってしまう。それって親子はもちろん、人間関係を築くうえで起こり得ることですもんね。そうなると愛を受け取る側にも歪みが生まれてくることもあるというか。

そうそう。例えば愛が強すぎるゆえ、自分の都合で怒り出してしまう母親と、なぜ怒られたかわからない子供みたいな構図とかね。で、子供は「明日の朝にはママの機嫌が直っているといいな」「また笑ってくれるかな」と寂しい思いで眠るっていう。

阿部真央

──歌詞の中にも「朝になれば 許されるだろうか」「いい子になれば 愛されるだろうか」というフレーズがありますよね。

この歌詞の意味に共感できる人が少ない世の中であってほしいんですけど、実際そういう体験をしている人もいるわけで。支配される側というのは、支配する人の顔色や言動を敏感に察知するものですからね。歌詞には「鳥かご」というワードも出てきますけど、言ってしまえば、自分の意志でそこから出ていくこともできるわけですよ。牢屋ではないんだから。でも自分はそこにいる。捕らえられていると感じるのか、自らが望んでそこにいるのかはわからない。言葉数が少ない分、いろんな受け取り方がしてもらえると思うし、自分としてはある種、わかりづらい書き方をした歌詞を気に入ってますね。

──支配される、翻弄される子供側視点で歌詞を紡がれた阿部さんは、実生活では母でもあるわけじゃないですか。

そうです、そうです。そこはけっこう大きいですよ。

──自らのことをいろいろ考えながら言葉にしていったところもありそうですね。

母親になってからの10年くらい、自分の支配力の強さをずっと体感してきたんですよ。で、そんな私も子だった時期があったわけで。だからホントにめちゃくちゃいろんなことを考えました。あえて依存という言葉を使いますけど、子供は親に依存しないと生きていけないと思うんです。だからこそ親としての振る舞いや気持ちのあり方は、本当に気を付けなきゃいけないと私はずっと思っている。そんな時間を過ごしてきたからこそ……っていうと簡単に言いすぎだけど、こういう視点で曲を書いた1つの大きな要因にはなっているはず。「マリア」という曲が生まれた背景としては、自分が母親であるという立場が確実にあったと思いますね。

──阿部さんのレパートリーには「母である為に」(2017年発表の7thアルバム「Babe.」収録)と「母の唄」(未音源化曲)という曲があって。「マリア」はそこに加わる、新たな形で紡がれた母の曲かもしれないですね。

面白いですね、いろんなお母さんの歌があって。

最高難度のボーカルと10時間格闘

──先ほど阿部さんご自身もおっしゃいましたが、歌詞の言葉が少ない分、この曲の世界観を強く描き出しているのは、サウンドはもちろん、ボーカルの力が大きいと思います。

歌詞で具体的に説明するのではなく、声の響きでいい感じに持っていくアプローチもありなのかなと最近は思えるようになったところもあって。今回はドラマの世界に寄り添うという気持ちが大きかったですけど、歌詞の言葉数を減らせるようになったのは、そういった理由だと思いますね。自分の歌に自信があるからっていうよりは、それでも怖くなくなったっていう言い方が正しいのかもしれないです。

──ボーカルのレコーディングはどうでしたか?

いや、これがね。たぶん私が作った曲の中で、この「マリア」が一番難しい。10時間くらい歌ってましたからね。

──どういう部分の難しさなんでしょう?

細かいことなんですけど、裏声と地声で歌っている箇所が細かく入り乱れているんですよ。裏声で歌ったかと思えば、ここは一瞬だけ地声になるとか。プリプロの段階では私のピアノと歌だけだったので、ほぼ裏声で歌ってよかったんです。でも、アレンジされて、バンドさんの熱量が入ってくると、「ここは地声でいきたい!」っていうところが出てくるんです。その結果、予期せぬ地声と裏声の切り替えが生まれ、それに私の技術がついていかないという(笑)。しかも、ファルセットから地声に切り替えながらフェイクとかを入れちゃってるもんだから、「すっげー難しい!」と思って。「全然、歌えないんだけど!」ってなった瞬間が何度もあったので、現場の皆さんには待ってもらう時間が多くなって申し訳なかったですね。

阿部真央

──でも仕上がりはめちゃくちゃいいボーカルになっていますよね。ご自身で聴いても感じるんじゃないですか?

うん、めっちゃいい歌になりました! よかった。難しい部分をパワープレイで押し切らなくなった自分を褒めてあげたい(笑)。以前はね、困ったら最終的に声を張り上げて乗り切るってことをよくやってたんで。

──それができるのも1つの武器だとは思いますけどね。

まあね。1つの武器ではあるけど、それって諸刃の剣でもあって。大声を張り上げると、結局潰れてしまう部分が多かったりするんですよね。そうではなく、最後まであきらめず、繊細に歌い切れたのは自分としても成長だったなと思います。

──荘厳な美しさの中に、どこか狂気を感じさせる「マリア」。ドラマとともにじっくり堪能してほしいですね。

そうそう。狂気があるよね。怖い。聖歌や讃美歌もどこか怖さがあったりしますもんね。とてもお気に入りの曲になったので、皆さんにも楽しんでほしいです。

これまでとは違う畑での収穫をツアーに生かせたら

──すでに発表されている今後の予定もあります。まずは6月に開催される「ABE MAO Billboard Live Tour 2025」。ビルボードライブツアーはこれが2度目になりますね。

去年の1月に初めてやったビルボードライブツアーは、楽しかったんだけど、実はまったく声が出なかったんですよ。体調の問題かなと思って病院に行ってみても声帯はめちゃくちゃきれいで。なんで声が出ないのか、原因がわからない状態でやったライブだったんです。だから用意していた曲を歌えそうなものに変更したり、曲数を減らしたりもしたので、あのライブに来てくれたファンの皆さんには本当に申し訳ない気持ちで。みんなが私の代わりに歌ってくれたりもして、すごく感動もしたんですけど、自分としては悔しい気持ちがあったので、今回は改めてリベンジしたいと思っています。

──ラグジュアリーな空間で聴く阿部さんの歌もすごくいいですよね。

うれしいです。今の自分の年齢的に合っている会場だとも思うし、私と一緒に年齢が上がってきているファンのみんなにゆったり楽しんでもらえるのもいいなと思いますね。自分としては若干、コスプレ感があるなって感じてますけど(笑)。

──衣装やセトリも含め、会場に合わせておめかしする感じですか。

そうです、そうです。友人の結婚式とかで普段着けないパールを着けちゃう、みたいな。そんな雰囲気に似てる(笑)。

──そして10月からは、全5本のホールツアー「阿部真央 ホールツアー2025 -On My Way Home-」も。

楽しみですねー。実は今、制作モードで、いろんな曲を作っているんですよ。15周年のときとは違った形、思わぬ形で私の名前をいろんなとことで見てもらえるかもしれないので、それがまずとっても楽しみ。さらに4月はスキマスイッチの大橋卓弥さんとご一緒するイベントライブ「ZUTTOMOTTO」もあるし、これまでとは違った畑を探検することを経て、そこで収穫したものを6月のビルボードライブはもちろん、10月からのホールツアーにも生かしていけたらなと思っています。日々をより楽しく過ごすことを目標にここからもがんばっていきますよ。

──ホールツアーのタイトルもいいですね。

「On My Way Home」ね。これに決まった理由はいろいろあるんだけど、“私の帰る道で”という意味を、“みんなに会いに行く”という私の気持ちに重ね合わせた感じです。楽しいライブにしようと思っているので、皆さん遊びにきてください。ホールだからイスもあるしね。

阿部真央

公演情報

ZUTTOMOTTO 3

<出演者>
大橋卓弥(スキマスイッチ) / 阿部真央

  • 2025年4月8日(火)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
  • 2025年4月23日(水)愛知県 DIAMOND HALL
  • 2025年4月24日(木)大阪府 なんばHatch
  • 2025年4月26日(土)福岡県 電気ビルみらいホール

ABE MAO Billboard Live Tour 2025

  • 2025年6月7日(土)神奈川県 ビルボードライブ横浜
    [1st]OPEN 14:30 / START 15:30
    [2nd]OPEN 17:30 / START 18:30
  • 2025年6月14日(土)大阪府 ビルボードライブ大阪
    [1st]OPEN 14:30 / START 15:30
    [2nd]OPEN 17:30 / START 18:30
  • 2025年6月21日(土)東京都 ビルボードライブ東京
    [1st]OPEN 14:30 / START 15:30
    [2nd]OPEN 17:30 / START 18:30

阿部真央 ホールツアー2025 -On My Way Home-

  • 2025年10月11日(土)大阪府 オリックス劇場
  • 2025年10月13日(月・祝)福岡県 福岡市民会館 中ホール
  • 2025年10月18日(土)北海道 共済ホール
  • 2025年10月26日(日)愛知県 Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
  • 2025年11月3日(月・祝)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)

プロフィール

阿部真央(アベマオ)

2009年にアルバム「ふりぃ」でデビュー。同世代の女性を中心に幅広い層から支持され、圧倒的な存在感を伴ったライブパフォーマンスが高く評価されるシンガーソングライター。2023年7月にはポニーキャニオンIRORI Records内にプライベートレーベルKAGAYAKI RECORDSを設立し、2024年8月に11thオリジナルアルバム「NOW」をリリースした。2024年にデビュー15周年を迎え、全国5都市9カ所を巡るライブツアー「15th Anniversary Abe Mao Solo / Zepp Live Tour 2024」を実施。2025年1月26日には15周年のファイナルとして「阿部真央らいぶ2025 -15th ANNIVERSARY- at 東京ガーデンシアター」を行った。ライブの開催や楽曲のリリースのみならず、数々のアーティストとのコラボレーションや楽曲提供など精力的にキャリアを重ねている。