ナナランドが7月にリリースしたシングル「夏の夢 / キミから一番遠い場所」より、「キミから一番遠い場所」のミュージックビデオが公開された。このMVは、メンバーである大場はるかが自ら志願し、監督という立場で制作している。大場が映像作品をディレクションするのは初めてのことで、映像クリエイターのオカダトウイチロウのサポートのもと、“大切なものを失ったときの挫折とそこから立ち直る強さ”を描いたドラマ仕立てのMVを完成させた。音楽ナタリーでは渾身の“初監督作品”について、本人とオカダに話を聞いた。
取材・文 / 近藤隼人 撮影 / 前田立
絶対に監督をやりたかった
──「キミから一番遠い場所」のミュージックビデオを大場さん自ら監督しようと思ったきっかけはなんだったんですか?
大場はるか(ナナランド) 曲の冒頭に「あの映画のヒロイン真似て 河川敷 昼からのビール」という歌詞があるんですけど、音源をいただいたときに作詞した社長(コレットプロモーション代表の古谷完氏)から「今回は『ソラニン』(浅野いにおのマンガ)を裏テーマに歌詞を作ったんだよ」と教えてもらったんです。私は一番好きなマンガ家さんが浅野いにお先生で、「ソラニン」は劇場版のDVDを何回も観るくらい好きな作品なので、プレゼントをもらったような気持ちになりました。以前からナナランドを一番かわいく撮れるのはメンバー自身だと思っていて、「ショートムービーとか撮りたいな」と考えていたこともあって。それを実現させるために、「絶対にMVの監督をやりたいです」と社長に言いました。
──自身でがっつりディレクションしたいと。
大場 はい。普段一緒に過ごしている分、メンバーの仕草や表情も私が一番理解していると思いますし、観察力もずば抜けていると感じていて。もともと女優をやっていたからか、「このメンバーはこういう性格だから、この役をやったら映えるんじゃないか」という考えがあるんですよね。それをメンバーに伝えたかったんです。あと、裏方の仕事をやってみたいという思いもありました。
──大場さんとオカダさんがご一緒するのは、MVの制作が初めてですか?
オカダトウイチロウ そうですね。初めて打ち合わせしたときに、「しっかりしてそうな子だな」という印象を受けました。その段階でどのメンバーに何をさせたいかが決まっているし、「僕にやることがあるのかな」と(笑)。まあメンバーだからこそわかることがあるだろうし、それをちゃんと映像化しなきゃと思いましたね。
大場 しっかり“してそう”(笑)。
オカダ 今みたいに、ハキハキしゃべるし(笑)。
大場 私がバーッとしゃべったあと、オカダさんはパタンとパソコンを閉じて「僕はもう大丈夫です」って。あっという間に打ち合わせが終わりました。それまでは「私の考えたことを一緒に作ってくれる人なんているのかな?」と思っていたんですよ。アイドルって何をするにしてもなめられることが多いですし。そんな中、オカダさんはすぐにアイデアを飲み込んでくれました。私は普段は撮られる側だし、映像の学校を出ているわけもはないので、制作時の細かいことはわからなくて。そういう面ですごく助けていただきました。
オカダ 内容に関しては大場さんのアイデアを形にするだけだったんですが、機材やカット割りなど、技術的なことついてはこちらから提案していって。撮影中はお手伝いというか……監修って難しいんですよ(笑)。何もしないように意識して、でも出来上がったら大場さんが胸を張って「監督をしました」と言えるように。だから基本的にはお任せしていた感じです。
アイドルのすることじゃない
──「キミから一番遠い場所」は失恋ソングのような歌詞ですが、MVには恋愛の要素はなく、“大切なものを失ったときの挫折と、そこから立ち直る強さ”がドラマ仕立てで描かれています。
大場 どういう内容にするのか、かなり悩みました。アイドルのMVを恋愛ものにしてもリアリティがないというか、メンバーが役に入り込みにくいと思ったんです。それと「ソラニン」が裏テーマなので、メンバーの1人は死と向き合う役にしたんですが、基本は役を学生時代の思い出とかに置き換えて演じてもらったほうがリアルな表情になるかなと。そんなふうに、私の女優としての経験を踏まえて設定を考えていったんです。みんな演技の経験はゼロなので。
──MVは「人生におけるさまざまな可能性をメンバー1人ひとりが演じる」というコンセプトで、大場さん含むメンバー7人全員がそれぞれ違う設定のキャラクターを演じています。配役はどのように?
大場 先に役を考えてメンバーを当てはめたパターンもあれば、メンバーありきで考えた役もあります。例えば西嶋菜々子ちゃんのシーンは、ほかのメンバーより笑顔が多めなんですよ。彼女はホントに裏表がない明るい子なので、そういう面を表現したくて、お花屋さんというかわいらしい役にしました。「ソラニン」から引用した役もあります。薬局で働いている女の子とか。
オカダ 最初そのことを知らなくて、「なんで薬局なんだろう……」と不思議に思っていたんですが、「ソラニン」が裏テーマだと聞いて納得しました。
大場 あははは(笑)。MVの中で私が部屋で弾いているギターにもこだわったんですよ。「ソラニン」の種田(成男)が持っているギターと同じものを使いたくていろんなところに問い合わせたんですが、同じ色のピックガードが廃盤になってしまったらしく、まったく同じ型は見つからなくて。工場に電話したんですけど「ないです」と言われてしまい、結局、新たに作ってもらいました。
オカダ え! あれ、作ってもらったの?
大場 はい。板を切ってもらって。
オカダ ギターを見て「あ、同じ型だ。すごい」とは思ってたんですが、そこまでして用意したものだとは知らなかった。
大場 実はそのギター、クラウドファンディングのリターンにしたんですけど、絶対に私が欲しくて(笑)。「誰も申し込まないで」と思っていたら、値段が高すぎたのか余ってしまって、自分でゲットしました(笑)。
──MVに関する資料で「映像の中に、様々な仕掛けも用意して」とコメントしていましたが、それはそのギターなどの小道具や衣装のことですか?
大場 そうですね。実はみんなが同じブレスレットを付けているなど、よく観たら気付く部分があると思います。衣装も私が自分で用意したんですよ。原宿とかに探しに行って、リュックに14着ぐらい詰め込んで(笑)。
オカダ アイドルのすることじゃない(笑)。クレジットに「監督・衣装 大場はるか」って入れないと。
大場 私、洋服がすごく好きで。アイドルはステージ衣装で着飾っているほうがかわいくなるかもしれないけど、「リアリティを求めたらどうなるだろう」と考えたんです。結果、それぞれ担当カラーとは関係ない衣装にしました。
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アイドルらしい要素は排除したかった