大場はるか(ナナランド)×オカダトウイチロウ|メンバーだからこそ描けること、熱いこだわり形にした大場初監督MV

アイドルらしい要素は排除したかった

──演技のディレクションも大場さん自身が?

大場 はい。みんな演技の経験がないからか、カメラを向けられるとアイドルっぽい表情をしちゃうんですよ。全体的にアイドルらしい要素を排除したくてダンスシーンやリップシーンもなくしたんですけど、それをメンバーに染み込ませるのは大変でしたね。何テイクか撮っていくうちに自然とアヒル口になったり、歩くシーンでつま先が上がっちゃったりして。そのたびに「もうちょっと抑えて」と伝えました。アイドルらしいMVだったら100点なんですが。

オカダ とてもテンポよくディレクションしていましたよね。「こうしたらいいのに」と感じることも全然なく、ホントに上手で素晴らしかったです。役者さんに演技のことで「こうしてください」と伝えるのは難しいことなんですよ。

大場 撮影中も「決断が早いから助かった」と言ってくださいましたよね。たぶん、オカダさんとは気が合うんですよ。OKテイクだと思うタイミングが同じで、サクサク進みましたから。

──お二人の年齢が近いことも、気が合う要因の1つかもしれませんね。

オカダ そうかもしれないですね。1つしか年齢が離れていないので。このMVはシチュエーションが多いのに撮影の時間も限られていたし、モタモタしてると日が落ちて撮影が間に合わなくなるんですよ。サクサク進んだと言っても、実際は2日間の予定だったロケが3日間になりました。やっぱりメンバーは飾らない演技をすることに苦戦しているようでした。峰島こまきさんが泣くシーンがあったんですけど、笑っちゃったり照れちゃったりして。

大場 で、ホントに泣いちゃいました……美容師の役だったんですが、借りた部屋の退出時間も迫っていて大人がピリピリしているし、クラウドファンディングのリターンの施策で撮影見学をしに来たファンの方もいて、プレッシャーに押しつぶされそうになっていました。そのときも下唇を出して泣くアイドルっぽい仕草が出そうになり、「それだけはやめて……!」と言っていたらガチで泣いちゃったんです。

──では、あの泣きのシーンは演技じゃないんですね。

大場 かわいそうでしたが、それが結果としていい味になってました。

──ファンが撮影を見学するという状況もなかなかないですよね。

大場 自分が出演しない日もお客さんがいるので、朝起きて「メイクしたほうがいいのかな……」と悩んで(笑)、最終的にはすっぴんの上にマスクをして現場に行きました。ファンサービスはほかのメンバーに任せて私は監督に徹しよう、と。あと、OKテイクが出るたびに拍手が起きるんですよ(笑)。

オカダ そういう意味では明るい現場でしたね。何度も移動しなければならなかったんですが、どなたも文句を言わなくて。いいファンを持っているなと思いました。

大場 見学する方へのメールも自分で打って、冗談で“差し入れで欲しいものリスト”を書いたらホントに差し入れてくれる人もいたんです。おかげで撮影中の食費が浮きました(笑)。リターンとしてMVに出演してくださった方もいて、撮影の日までその方の演技指導をしました(笑)。

ねぎらいのクレジット

──大場さんは編集にも関わったんですか?

オカダ 編集は僕のほうで組み立てながら、「こんな感じで進めてますけど、どうでしょうか」と大場さんと打ち合わせしていきました。映像の色合いなどを決めてもらって。あと最初に決めていた字コンテがすごく綿密で。「この歌詞のときはこのシーン」と細かく決められていたんですけど、その通りにすると話の時系列がわかりづらくなってしまう部分もあった。そうならないためにどうするかを話し合いました。

大場 普通アイドルのMVだったら7人が1つのことに向かっていく構成になるかもしれませんが、このMVでは登場人物全員が違う時間軸で違うことをしているので、それをどう1本にするのかすごく悩みました。ドラマや映画みたいに長編の作品だったらもっと作りやすかったんでしょうけど、挫折して立ち直るという7人それぞれの流れを組み立てなきゃいけなくて。だから大変な部分をオカダさんに任せてしまいました。

──アイドルらしいMVだったら、バラバラだったメンバーが最後に集まるシーンなどがありそうですけど、そういうシーンはありません。

大場 私が演じている、シンガーソングライターとしてうまくいかずに悩んでいる女性が話の軸になっていて。その子が「あのときにああしていたら、今はどうなっていたかな」と想像したキャラクターをほかのメンバーが演じているんです。だから7人が集まるシーンは最初から考えていなかったです。

左からオカダトウイチロウ、大場はるか(ナナランド)。

──ドラマと違ってセリフがないということも、コンセプトやストーリーを表現しにくい要因なのかもしれませんね。

オカダ そこは確かに難しかったですね。めちゃくちゃ凝った物語にすると何が起きているか伝わりづらくなってしまうし、一方で、わかりやすくしすぎるとベタになってしまう。常にそのせめぎ合いがありました。

──MVが完成したときの心境はいかがでしたか?

大場 まず、冒頭に「大場はるか監督作品」というクレジットがあって驚きました。そんなこと頼んでないんですよ! だって図々しいじゃないですか、自分から監督させてくれとお願いしているし。「なんですかこれは!?」とオカダさんを問い詰めたら、「僕が入れたかったんだ」と。

オカダ 胸を張って「自分が監督した」と言えるくらいに動いてもらうことが監修としての仕事だと思っていましたが、大場さんは実際にいろんなことをやり遂げました。というか監督以上のことをやっていましたし……僕から大場さんへの労いですね。お飾りとしての監督だったら入れませんけど。

──映像に対してはどういう感想を抱きました?

大場 今の自分にとってベストなものができたなと感じましたけど、もうちょっと制作に日にちが欲しかったなとも思いました。スケジュールや天候は逆らえないものなので仕方ないんですけどね。

オカダ 全体的に絵のテイストが最近のMVじゃないというか、かわいければいいというアイドル的な要素が排除されていて、映像を通して監督のことが見える作品になったと思います。メンバーの演技を形に残せたし、すごくいい制作だったなと。今のナナランドの姿が飾らずに表現されていて、それをメンバーがディレクションしたことが素晴らしいなと改めて感じました。

アイデアはまだまだある

大場 私、クリエイターさんに聞きたいことがあるんです。今回使ったアイデアって、次は使えないじゃないですか。そのあたりってどうしてるんですか? 例えばこのMVでは冒頭にナレーションを入れましたが、次回作でも同じことをやったら「前作と一緒じゃん」と言われるかもしれない。

オカダ ああ、それは正直あきらめてますね(笑)。

大場 そうなんですね。 MVの中に、サラリーマンがお花屋さんでお花を買ったあと、戻ってきて店員にその花を渡すシーンがあって。その花が1本のバラで、花言葉が“一目惚れ”という。すごく好きな流れなのに、もう一生同じシーンを撮れないんだなと思っちゃったんですよね。

オカダ 確かにそこまで細かい設定になると、2回は使えないかな。

大場 監督業って大変だなと思いました。私は次また撮れるチャンスがあるかわからないから、浮かんだアイデアはできる限り使いたかったんですけど、盛り込みすぎたらゴチャゴチャになると思って悩みました。正直、アイデアはまだまだあるんですよ。

左から大場はるか(ナナランド)、オカダトウイチロウ。

──またMVを撮りたいという気持ちはあるんですか?

大場 うーん……ファンの人に「また次も作って」と言われたんですけど、これ以上のものを作れる気もしなくて(笑)。

オカダ 逆にめちゃくちゃアイドルっぽいものも作ってほしいですね。

大場 えー!

オカダ バッチリ歌って踊るシーンがあるMV。その中で大場さんっぽさを出してみたら面白いものになると思います。大場さんだからこそわかるメンバーのかわいい仕草を表現してもらって。すごく興味ありますね。

大場 そう言われると、確かにアイドルらしいものは撮れる気がします。でも、私はコレットプロモーションの異端児と言われるくらいアイドルらしいところがなくて……人と違ったことをしていたいタイプだし、ライブパフォーマンスもアイドルっぽくできないことが悩みなので、メンバーからアイドルらしさを学ばなきゃいけないですね。私、占い師の方に「裏方のほうが向いているよ」と言われたことがあるんです。

オカダ 確かにそうかもしれない(笑)。

大場 また撮ることがあったらぜひ協力してください!