グランジの遠山大輔がMCを務めるTOKYO MXの音楽トークバラエティ「69号室の住人」の放送時間が、この春、月曜深夜から水曜19時台スタートのゴールデンタイムにリニューアルした。「69号室の住人」は、音楽に造詣の深い遠山がゲストアーティストのさまざまな側面を掘り下げていくプログラム。2019年7月の放送開始以降、若手からベテランまで多岐にわたるゲストが登場してきた。
10年にわたって“とーやま校長”としてパーソナリティを務めたラジオ番組「SCHOOL OF LOCK!」では、本音を引き出すトークでゲストアーティストからもリスナーからも信頼されていた遠山。そんな彼がライフワークにしたいと語る「69号室の住人」に懸ける思いを聞いた。
取材・文 / 中野明子 撮影 / 関口佳代
「SCHOOL OF LOCK!」から引き継いだ本音でぶつかるスタイル
──「69号室の住人」ではこれまでに40組近いゲストを招いてトークをされてきたんですよね。
(ゲストの一覧を見ながら)こんなにやってるんだ!
──4月に「69号室の住人」はゴールデンタイムに引っ越しましたが、リニューアルの話を聞いたときどう感じました?
単純にたくさんの人に観てもらえる時間に変わるのはうれしかったです。これまでは月曜深夜の放送だったので、なかなか起きていられないような時間帯だったと思うんです。Twitterとかで「やべえ、寝落ちして観そびれた」みたいな書き込みもけっこう見かけて。
──放送時間以外にリニューアルにあたって変わったことは?
変わったことはまったくないんです。実はリニューアルに際して、内装や撮影スタジオを変えるというアイデアもあったんですよ。それで新しく提案されたスタジオがめちゃめちゃ広い部屋だったんです。でも、今のようなこじんまりとした部屋のほうが、アーティストの皆さんも素のトーンで話してくださると思ったんです。
──確かに部屋感のあるセットの雰囲気もあってか、出演されるゲストの方がリラックスしながら話している気がします。
そうなんです。
──先ほど台本を拝見したんですけど、かなりざっくりした内容で細かい指示がないことにちょっと驚きました。収録も拝見しましたが、カンペでの指示もあまりなく、ゲストの方と遠山さんが1時間強しゃべりっぱなしという。かなり自由度が高いんですね。
はい。スタッフにはそこもすごい感謝しています。もちろんアーティストの方にアンケートをしたうえで、放送作家さんに台本を書いてもらってるんですが、収録時はあまり台本を見ないようにしています。
──それは台本を意識すると話が予定調和になっちゃうからでしょうか?
そうですね。もし全部台本通りにやるんだったら、別に僕がMCでなくていいと思うし。ほかのトーク番組を観ていて、「明らかに今、司会者の人はカンペ読んでるな」とかわかると冷めちゃうんです。「これ、司会の人が聞きたくて聞いてるんじゃないんだよな」と。それと、これまで番組やってきた中で、台本から外れたところに面白さがあったんです。作家さんにはそこを信頼していただいて、「台本はありますが、思ったままを聞いてください」「遠山さんが感じたことを言ってください」と言ってもらってます。だから話が脱線して面白くなりそうなら、全力で脱線してます。もちろん事前にアーティストの皆さんと打ち合わせをした結果や、スタッフの意思が台本に込められているので、最後は台本の大筋に戻るようにしてます。
──「SCHOOL OF LOCK!」で10年間培ってきたものが番組に生かされている部分はありますか?
ありますね。「SCHOOL OF LOCK!」の校長に就任した30歳の頃は、「僕がどう思ったか」みたいなことを番組で伝えないといけないと思い込んでいたんです。でも、次第に僕の話はどうでもよくて、ゲストの方がどう感じているのかを伝えることが一番大事だということがなんとなくわかってきて。そういうことを「SCHOOL OF LOCK!」の現場で叩き込まれた感じがします。それと、作家さんやスタッフに台本を用意していただいても、本当に僕も疑問に思っていることでないと質問できない体になっちゃった感じはあります。特にラジオだと嘘がつけないんですよ。声のトーンとか、「本当にそう思ってないけど、次の話にいくためにしゃべってるな」とか、そういうことがバレるんです。そう思われるのが恥ずかしいし、ゲストの方にも失礼なので、「69号室の住人」でも台本にある言葉も台本にあるから言うんじゃなくて、自分が本当に思っていることを話すし、疑問に思っていることを聞くように心がけています。
ゲストの合図を見逃さないように
──これまでの中で一番緊張したゲストの方は?
ザ・クロマニヨンズの甲本ヒロトさん、マーシー(真島昌利)さんですね。収録はもちろん緊張したんですけど、現場は楽しくて。とにかくお二人が最高なんです。
──私もザ・クロマニヨンズのゲスト回のオンエアを拝見しましたが、ずっと爆笑してました。ライブだとストイックでカッコいいイメージなのに、トークになるとマイペースで、ヒロトさんに至っては夕方のチャイムが聞こえ始めたらいきなり歌い出すという。
自分でも何回も見返してます。ヒロトさんが言ったことに対して、マーシーさんがケラケラ笑いながら被せてきて……それにまたヒロトさんが畳みかけるという。お互いがボケだしお互いがツッコミだし。信頼とかそういう言葉では到底表すことのできないものでつながってるんだなと思いましたね。
──そういう一面を引き出すことができたのは、遠山さんの水の向け方や、質問の仕方もあると思います。
いや、あれはヒロトさんが「これを聞いてこいよ」とサインを送ってくれたからだと思ってます(笑)。例えば、マーシーさんが手品をやってるみたいな話から、僕が「どこでやってるんですか?」と質問したら、ヒロトさんが「ときどき隠し芸大会とか、そんなことやってんのかと思ってるかもしれないけど……」と被せてくるわけですよ。釣りで例えると、目の前にエサが垂らされている状態なので、僕はそれに食い付くしかない。何よりあのお二人のやりとりが面白すぎて。
──ヒロトさんとマーシーさんの回でもそうですけど、「69号室の住人」は「この人のこんなところは観たことがない」という意外な一面がたくさん出てきますよね。ご自身でMCをやっていて手応えはありますか?
めっちゃあります! 寡黙なイメージの凛として時雨のTKさんがあんなにしゃべってるのを見たことがなかったし、海外で恥ずかしくてヒッチハイクできないとか意外な話をガンガンしてくれるなんて思わなかったですから。そういうときはうれしいですね、心を許してくれた感じがして。そういう瞬間は「いくらでも僕のこと抱いてください!」って思います。あのときは、2人でラブホテルに入って、一緒にお風呂に入れた感じがしました(笑)。新しい扉が開いた感じがします。
──(笑)。あとバンド編成のアーティストが出演されたときは、本当にまんべんなく話を振っていて、それが知られざる一面を引き出す要因になっている気がします。
自分で言うのはちょっと恥ずかしいんですが、そこは気にしている部分ですね。大抵の番組はフロントマンや曲を作ってる人が話すことが多いですけど、どの方も面白いエピソードをお持ちなので、そういったところをしっかり聞いていきたいというのはあります。これはラジオで鍛えられたところですね。ラジオは声だけのメディアなので、しゃべらないと“いないこと”になっちゃうんです。だから誰かの発言に対して大きく頷いたり、やたらと僕と目が合ったりとかしたときは、「これは何かを発信したいんだな」という合図だと思って質問するようにしてます。
──そうでしたか。そのほかに、アーティストの方と話をするときに意識していることや心がけていることはありますか?
ゲストの方は、お話をしに番組に来てくれるわけですよね。だから迎える側として、ただ迎えるだけじゃなくゲストアーティストの方の作品を聴いて「自分はこう思った」という視点を持つようにしていますね。だって、アーティストだったら音楽のプロだし、表現したいことは曲の中で解決しているわけだから。そもそも曲を聴いたらわかるところ、それでも話しに来てくれるのなら、相応の意識で挑まないと失礼だと思うんです。
──取材の準備はどんな形でやってらっしゃるんですか?
当然のことながら、作品を聴いて、場合によってはYouTubeに上がっているミュージックビデオを観て……たぶんインタビュアーやMCの誰もがやっていることと一緒だと思います。あとは、直近のインタビューにも目を通すようにしていますね。例えばすでに公開されているインタビューと同じ話を聞いても番組として意味がないから別のことを聞こうとか。
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靴下にまで気を遣うように