エンタメの新たな可能性秘める3Dイマーシブシアターとは?|ばっしょーメンバー参加の体験レポート&座談会 (2/2)

推しの風を浴びたい

杉本 立体音響のデモも体験させていただいて、確かにボリュメトリックビデオ技術と立体音響の相性はすごくいいんだなと感じました。ステレオ音声と立体音響の切り替えも試させてもらったんですけど、いかにステレオ音声が両耳だけで聴いているものなのかを実感させられたんですね。立体音響に切り替わった途端に“体で聴いている”感覚になって、よりその空間にいる感覚が強くなって。

瀬田 私も体験させていただきましたけど、例えば室内楽のデモではチェロに近付くとチェロの音がちゃんとそこから聞こえて。普通のコンサートでは絶対にそんな聴き方できないので、すごく面白かったです。

渡邊 ばってん少女隊のライブパフォーマンスのデモもあったじゃない? あれで言うと、例えば「推しの声だけを聴きたい」とかそういうこともできるんだよな。

上田 私たち、よく「自分たちのライブを客観的に観たい」と話しているんですよ。今まではそんなの叶うわけないと思ってたけど、この技術を使えばそれに近い体験ができますよね。「ああいう会場だとこういうふうに見えるんだ」とかを自分の目と耳で体験できたら、「もっとこういう工夫もできるな」とか、リアルのライブにも生かせそうだなと思いました。

──ライブDVDなどの映像で確認するのとは全然違いますよね。

上田 違いますね。現実感が全然。

杉本 あんなふうに「近付いたらその子の声がそこから聞こえる」となってくると、主旋律以外を歌う子に注目することもできるから、コーラスワークとかもすごく重要になってくるのかな。

上田 確かに! めっちゃわかりやすくなる。

上田理子

上田理子

杉本 ボリュメトリックに特化した、この形で効果的に聴かせる音作りが必要になってくるのかなと思いましたね。ステレオミックスと5.1chミックスで考え方が違うように、ボリュメトリックミックスという概念を1個新しく設定しないといけないのかも。

瀬田 そうなると「全体を聴くならこの場所で聴くのが一番キレイ」とかが出てくると思うから、立ち位置とかの考え方も変わってきそうですね。

杉本 そうだね。さらにダンスとの絡みまで考え始めたら、ものすごく複雑になりそう(笑)。

瀬田 さっきのデモではメンバーが踊っている間の位置とかに入った視点から聴くこともできたんですけど、例えばそこで風を感じられたりとか、足音も聞こえたりするとちょっとうれしくなっちゃうかもって思いました。「わあ、推しの風を浴びちゃった」みたいな(笑)。

上田 確かに、足音って一番臨場感があるかも。「このとき、こんなに足音がするくらいめっちゃ跳んでるんだな」とかが伝わると。

杉本 客席にはまず聞こえないけど、ステージに近いとわかるもんね。

希山 あとライブ中もさ、曲中にメンバー同士でちょっとわちゃわちゃしたりしてるじゃん。あれが、近付いたら聞こえるとか。

上田 それ、めっちゃいい! 「あれ、何言ってんだろ?」って思うもんね。

杉本 それが聞けたら、ファンの方もめっちゃ喜ぶね。

瀬田 実際、特典会とかでファンの方と直接お話しするような機会があると、毎回必ず「あれ何言ってたの?」と聞かれるんですよ。皆さん、気になってるんじゃないかな。

上田 私たちはその場のノリでやってるだけだからまったく覚えてないんですけど(笑)、それを実際に聞けたら喜んでもらえるかもしれないよね。

杉本 それが隠しコンテンツになっていたりしたら付加価値が付くかもね。近付いたら実は聞けますよ、みたいな。

──課金したら聞けるとか。

上田 あはははは(笑)。

渡邊 無課金のときはバリアみたいなのがあって、それ以上進めなくなってるとかね。「ここから先は有料です」みたいな(笑)。でも、それはそれで本当にいいと思いますね。

杉本 ちなみに、それはファンが聞いてもいいものなの?

上田希山 えへへへへ(笑)。

座談会の様子。

座談会の様子。

普段なかなか行けないてっぺんとか

──ボリュメトリックビデオシステムや立体音響システムを使って、「これをやってみたい」というアイデアは何かありますか? 現実味がなくてもいいので、ざっくばらんにお話しいただければと思います。

渡邊 例えば、曲の途中で衣装がパッと切り替えられたらいいなと思いますね。演出として変えることも考えられるし、ファンが好きな衣装にカスタマイズして楽しむ方向性もありだろうし。

上田 それ、めっちゃいいです!

瀬田 着せ替え人形みたいな。

渡邊 そうそう。

杉本 会場とかも自由に変えられることがわかったので、日本ではあまりライブが行われないような場所、例えば教会などでのコンサートも簡単に実現できるのは面白いなと思いましたね。あとはフェスとか、大自然の中で音楽を浴びる体験を自宅にいながら味わえるようにするのもよさそう。実際にはなかなかハードルが高いですから。

──興行としてやるだけでなく、「こういうところでやったらどうだろう?」のシミュレーションにも使えそうですね。

杉本 それもできますし。ばってん少女隊の最新アルバム「九祭」は、九州の各県をイメージした楽曲で構成されているんですね。それでMVも九州のいろんなロケーションで撮っているんですけど、そのロケーションを変えたりもできるってことですよね。「これは福岡の映像だけど、これの長崎バージョンが観たい」とか「佐賀のこの景色で観たい」とかが簡単にできるようになったら……。

上田 めっちゃいい!

希山 普段なかなか行けないようなところがいいですね。……てっぺんとか。

上田 てっぺん(笑)。

杉本 なんのてっぺん?(笑)

渡邊 なんらかのてっぺんだよね。すごくいいと思うな!

希山 ふふふ。

希山愛

希山愛

杉本 あと私がやってみたいのは、勝手にスタッフになれる体験とか。ステージスタッフの視点でリアルな3D映像と音声を楽しめたら、ファンとしての目線とは少し違う角度からアイドルを見ることができるかなと。私が一番心躍る瞬間って、ライブの日にみんなが楽屋で準備しているのとかを全部見届けたうえで、舞台袖からみんながワーッとステージに出て行くところを見送る瞬間なんですよ。あの感覚をリアルに味わってもらえたら、また新しい興奮がありそうだなと思ったりもしました。

──それで言うと、僕は個人的に「なりきりメンバー体験」ができたら楽しそうだなと思ったんです。例えばばってん少女隊の誰か1人を非表示にして、そこに自分が入って代わりに踊るみたいなことができたら面白いんじゃないかと。

杉本 なるほど、「今日は愛ちゃん役をやろう」みたいな。カラオケ的な発想ですね。

上田 しかも、それをリアルタイム通信でこっちのパフォーマンスと合わせられたら、すごいことになりそうですね。

渡邊 現状ではレイテンシーが3秒ということだけど、今後それももっと縮まっていくだろうし。今はネットを通じたジャムセッションとかもまだあまりうまくいってないんですけど、その技術が発展していくと、例えば世界とつないで「みんなで歌おう」とかね、それをこのボリュメトリックの世界に落とし込むのは面白いかもしれないね。自分も参加したいという人も多いと思うから、そういうコンテンツがあるといいですね。

──そういう利用法がもし可能になると、そのまま教材としても使えると思うんですよ。例えば振りVがこの形で来たら、めちゃくちゃ便利ですよね。

瀬田 確かに……! 私たちはダンスを覚えるときにお手本の動画を観ることが多いんですけど、それだけだとわからないことがやっぱりあって。細かい部分でメンバーによって認識が違ったりすることも多いから……。

杉本 例えば腕を斜めうしろに上げる振りとかだと、正面からの絵だけじゃ細かい角度とか曲げ方とかまでわからなかったりするしね。

瀬田 そうなんです! 3Dのお手本動画を好きな角度から自由に観ることができたら、みんなで認識を合わせやすいんじゃないかなって思いました。

渡邊 教材ね、確かになあ。エンタテインメントとして面白がるだけだと、人間はいずれ飽きますから。目新しい技術って最初はみんな飛び付くんだけど、それを定着させるにはプラスアルファの要因が必ず必要になってくるんですよ。そういう意味では、その教材という考え方は確かにすごく幅が広がりそうですよね。ダンスもそうだし、楽器にも使えるんじゃないかな。ギターなら細かい指使いまで見たいところだし、ピアノだったら映像にはなかなか映らないサスティンペダルの使い方まで重点的に見ることができるわけで。教材は深いですね。

お前もグリーンバックにしてやろうか!

渡邊 例えば、演者側も何かリアクションを受け取れる仕組みがあると本当はいいよね。今は提供しているだけじゃない? グリーンバックの部屋で動きを撮影しているだけだから、相互に干渉できる何かが欲しいというかね。それが何かは、僕はちょっとわかんないけど。

上田 確かに、これって観ている側の人は何もしなくても楽しめちゃうから、一方通行にはなっちゃいますよね。そこから「ライブに行こう」と思ってもらうために何かもうひと工夫みたいな、どっちも楽しめる何かが欲しいです。

渡邊 やっぱりライブに来てほしいもんね。あの体験は会場でしか味わえない。それ以外では全然無理だよね。

瀬田 難しいですね。

──「あなたたちは今後一生グリーンバックで踊ってもらいます」と言われたら、たぶん即アイドルを辞めますよね。

希山 あはははは、そうですね(笑)。

瀬田 それはさびしいです!

上田 でも、その両方の見せ方がちゃんとできるようになったら全然変わってくると思いますね。ライブではできないことをこっちではできるし、逆にこっちでできないことをライブではできるから。

瀬田 観てくださる方の層もそれぞれだと思うので。実際にライブに行くのが好きな方もいるし、アイドルには興味ないけどVtuberとかが好きな方もたくさんいるので、両方やっていけたらもっとアイドルの幅も広がっていくんじゃないかなと思います。

瀬田さくら

瀬田さくら

渡邊 あと僕がもう1個思ったのはね、例えばあのグリーンバックのスタジオがもっと広くなったら、お客さんごとまとめてキャプチャーしても面白いかもしれないなと。

──なるほど、ライブ会場ごとパッケージングしてコンテンツ化してしまおうと。

渡邊 そうそう。そうすると、実際にはそのライブに来られなかった人でもかなりリアルな追体験ができるっていう。逆にそこにいた人の場合は、“これ俺なんだぜ視点”みたいなのが楽しめるんじゃないかな。

上田 俺なんだぜ視点(笑)。

──それはいいですね。例えばですけど、The Beatlesの武道館公演とかがその形でコンテンツ化されたら僕は間違いなく買います。

上田 過去の映像とかでもできちゃうんだったら、確かにすごくいい!

瀬田 観たいのいっぱいあるね。

──もちろん現実的には過去のコンサートを今から丸ごとデータ化するのは不可能だと思いますけど、今後ばってん少女隊がそういう伝説のライブをやってパッケージにすれば、“ずっと体験できる伝説”として残せるわけです。

上田 確かに!

渡邊 しかも、そしたらお客さんも来るよね。伝説に参加できるわけだから。お客さんも一緒にグリーンの世界に入れちゃえば、みんなも寂しくないでしょ?

上田 寂しくないですね(笑)。

渡邊 「お前もグリーンバックにしてやろうか!」じゃないけどね(笑)。

3Dイマーシブシアター

キヤノン、日本IBM、ヤマハ、Qlonolinkの共同開発によって誕生した最新のVRテクノロジー。人物の位置や動きなどの空間全体をデータ化し、3D映像を生成できるボリュメトリックビデオ技術と、メタバース空間上での立体音響技術を融合させて生まれた。ボリュメトリックビデオ技術は、複数のカメラで撮影された映像をつないで切り替えるのではなく、3D空間データのため空間内の自由な位置、角度から映像コンテンツを生成することが可能。VRのヘッドセットとヘッドフォンを装着することで、臨場感あふれる映像と音響を楽しむことができる。

なおボリュメトリック映像の撮影はキヤノン川崎事業所内にあるボリュメトリックビデオスタジオ-川崎で行われており、これまでアーティストによるパフォーマンスのライブ配信や、テレビ番組、CM、プロモーション映像、日本の伝統芸能である能とのコラボレーションなど多数の実績がある。

プロフィール

ばってん少女隊(バッテンショウジョタイ)

希山愛、上田理子、春乃きいな、瀬田さくら、蒼井りるあ、柳美舞の6人からなるスターダストプラネット所属のアイドルユニット。福岡営業所のレッスングループ、通称F-girlsとして活動を始め、2015年6月にばってん少女隊としての活動を開始した。2016年4月にシングル「おっしょい!」でColourful Recordsよりメジャーデビューし、2017年6月には1stアルバム「ますとばい」をリリースした。2018年10月に「BATTEN×DANCE×MUSIC(BDM)」という音楽活動の指針を打ち出し、同年10月にシングル「BDM」を発表。2019年6月には2ndアルバム「BGM」をリリースした。2020年に自主レーベル・BATTEN Recordsを立ち上げ、同年10月にアルバム「ふぁん」を発表。中毒性の高いメロディや曲調が特徴のリード曲「OiSa」がロングヒットを記録した。2021年4月に蒼井、柳が新メンバーとして加入し、現在の6人体制に。最新のテクノロジーとのコラボを積極的に展開し、2022年6月にリリースした新曲「虹ノ湊」ではソニーの立体音響技術を使った新しい音楽体験「360 Reality Audio」バージョンの音源も配信した。2022年10月に最新アルバム「九祭」をリリース。12月に神奈川と福岡でトークをメインにしたイベント「リアルばってん放送局~2022大忘年会~ in横浜/福岡」、2023年春にワンマンでは初の台湾公演を含むツアー「想定の遥かナナメ上」を開催する。