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くるり / ダニエレ・セーペ La Palummella
“変化し続けるバンド”の新たな旅路
文 / 石井佑来
くるりほど変化し続けてきたバンドは存在しない。そう思い切って断言しても、異論の声はそれほど多く上がらないだろう。ささくれだったギターロックを鳴らしたかと思えば、快楽的なダンスミュージックに接近し、果てはクラシックと融和した大らかなポップミュージックを奏でてみせる。まるで固有の音楽性を獲得することを拒むかのような変化の仕方は、そんな活動初期から中期への歩みに止まらず、この数年間でさらに顕著になっているようにさえ感じられる。直近2作のアルバムを比べても、平均律を疑うところから制作がスタートした実験作「天才の愛」、バンドで音を鳴らす喜びにあふれた「感覚は道標」と、その制作アプローチや手触りはまったく異なるものだ。特定の音楽性を持たず、常に変化し続けること──それ自体がバンドをバンドたらしめる何よりのアイデンティティになる。そんな逆説的な現象を、くるりは身をもって体現してきた。そして新曲「La Palummella」もまた、その目まぐるしい変化の一端を存分に感じられる作品だ。
一聴しただけで遥か遠くの街に飛ばされるような、並外れた異国情緒に満ちたこの曲は、ナポリ民謡をもとにしたアリアをくるりと野村雅夫が和訳する形で制作された。プロデュースを担ったのは、イタリアの音楽家ダニエレ・セーペ。2001年に彼の作品に出会ったという岸田は、和声進行やリズムアプローチにおいて大きな影響を受けてきたことを公言している。つまり「La Palummella」は、くるりにとってある種の原点回帰。それでいて今まで誰も見たことのない、新たなくるりの姿が確かにそこにある。
リリースに際して発表されたテキストの中で、岸田は「これまでの人生において、何かを知りたい、分かりたいという欲求は決して止むことはありません。音楽家としてのキャリアをある程度積んだ現在も、何かを知ることを通して勇気や希望を得ることができます」と語っている。この言葉から見えてくるのは、変化を繰り返してきたくるりというバンドの本質だ。変化というものはいつだって、己の外側から訪れる。その“己の外側にあるもの”に出会うまでの道のりを“旅”と呼ぶのなら、「旅を続けるロックバンド」というキャッチコピーは、彼らにこれ以上なくふさわしい。そして何より「La Palummella」は、遠く離れた見知らぬ街への想像力を優しく刺激し、我々聴き手を旅路へ誘う。思えばくるりはこの二十数年間、言葉にせずともあのフレーズを繰り返し鳴らしてきたのかもしれない。「安心な僕らは旅に出ようぜ 思い切り泣いたり笑ったりしようぜ」。
くるり - La Palummella / Camel('Na Storia) | Trailer
- くるり / ダニエレ・セーペ「La Palummella」
- 2024年10月11日(金)配信開始 / NOISE McCARTNEY RECORDS
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訳詞 : 岸田繁、佐藤征史
訳詞協力:野村雅夫
編曲:Daniele Sepe
プロデュース:Daniele Sep
くるり
1996年に立命館大学の音楽サークル「ロック・コミューン」内で岸田繁(Vo, G)、佐藤征史(B)、森信行(Dr)により結成。1998年10月にシングル「東京」でメジャーデビューを果たす。2007年より主催イベント「京都音楽博覧会」をスタートさせたり、「ジョゼと虎と魚たち」「奇跡」といった映画作品の音楽を担当したりと、その活動は多岐にわたる。幾度かのメンバーチェンジを経て、2011年から岸田、佐藤、ファンファン(Tp)の3人編成で活動していたが、2021年3月にファンファンが脱退。岸田と佐藤の2人体制で活動していくことを発表した。2023年10月に、オリジナルメンバーで制作したアルバム「感覚は道標」をリリース。2024年9月に、メジャーデビュー時より在籍していたSPEEDSTAR RECORDSとの契約を満了したことを発表し、翌10月にイタリアの音楽家ダニエレ・セーペと制作した楽曲「La Palummella」をリリースした。