連続ドラマ「北方謙三 水滸伝」特集|原作ファン・神田伯山が魅力を解説「今ドラマ化するから面白い!」 (2/2)

織田裕二さんの緻密さや繊細さが、宋江に合っている

──しかも主演は織田裕二さん、共演に反町隆史さんという布陣で。

いい座組みですよね。昔トレンディドラマで大人気だった俳優の方々が、50代になってこういう骨太な作品に挑むという。

──織田さんは梁山泊のリーダー・宋江を演じています。

宋江って武闘派じゃなくて、知性と人望で人を動かすタイプのリーダーですよね。梁山泊の“頭脳”。織田さんって尋常じゃないこだわりをお持ちの俳優さんのイメージですが、そういう緻密さや繊細さが、宋江に合っている。

連続ドラマ「北方謙三 水滸伝」場面写真。左から晁蓋役の反町隆史、宋江役の織田裕二

連続ドラマ「北方謙三 水滸伝」場面写真。左から晁蓋役の反町隆史、宋江役の織田裕二

──反町さん演じる晁蓋は、梁山泊のもう1人のリーダーです。

宋江とは対照的にエネルギッシュな役どころですけど、正直、反町さんと言われなければ気付かないくらい役と一体化していました。「ビーチボーイズ」や「GTO」のイメージが強い人はちょっと驚くんじゃないでしょうか。貫禄があって、オーラもすごい。

──亀梨和也さん演じる槍名人・林冲もキーマンですね。

亀梨さんも、完全に好漢でしたね。妻を奪われ、冤罪で流刑にされ、そこから梁山泊に至る。序盤は林冲にまつわる場面で、引き込まれました。林冲の妻役の方もよかったですね。

連続ドラマ「北方謙三 水滸伝」より、亀梨和也演じる林冲(写真中央)

連続ドラマ「北方謙三 水滸伝」より、亀梨和也演じる林冲(写真中央)

──張藍ちょうらん役の泉里香さんですね。

張藍って、原作だとかなり凄惨な目に遭うキャラクターなんですけど、ドラマはそこをうまく映像化しているので、女性でも見やすいと思います。そう、漢たちの物語ではあるんですけど、女性たちの美しさも際立っているのを感じましたね。楊志(演:満島真之介)の伴侶・済仁美さいじんび役・波瑠さん、スパイの馬桂ばけい役・松雪泰子さんもいい。というか、よくこれだけスターをそろえたなと。

ほとんどのエンタメがXに負ける中、北方先生の「水滸伝」は勝ってる

──ちなみに講談にも「水滸伝」にもとづく演目がありますよね。

ええ、まさに「宋朝水滸伝」という連続読み物があります。僕は六代目の伯山ですが、二代目の伯山がこれを得意ネタとしていたんですよ。代々の伯山はそれぞれ代名詞となるような演目があって、初代は「徳川天一坊」、三代目は「清水次郎長伝」。僕は今、それらに1つずつ挑んでいて、「宋朝水滸伝」のこともずっと頭の片隅に置いています。

──同じ「水滸伝」でも、講談となると内容が違うんですか?

有名なエピソードは、基本的に同じですね。武松ぶしょうという好漢が素手で虎を倒す「虎退治」とか。ただ、「これ現代で通じるかな?」という場面もやっぱり多くて。なので、今ちょっと考えてるのは、北方先生から許可をいただく前提ですが、“北方水滸伝”を一部下敷きにするのもいいかもな、と。

神田伯山

神田伯山

──確かに、すでに現代に通じる強度を持ってますからね。

ただ、小説と講談の違いもあって。例えば、先ほど言った武松の「虎退治」、北方版だと思い人を失ったショックがあって、その心理的な延長で虎と出会うんですね。小説では、そういうバックグラウンドが描かれることに意味がある。でも講談の場合、前触れもなく、いきなりドーンと虎が出てくるほうが面白い(笑)。

──理屈抜きのほうが。

そう、ベタなほうがいいんです。なのでキャラクターの深掘りとか、そういういいところを北方版からお借りしつつ、さらに自分でも再構築する必要があると思います。最近、そういう目線でも読み返したり、今回こうしてドラマ化されたものを観たりしても思いますが、北方先生の「水滸伝」はやっぱりすごいですよ。

──改めて思いますか。

北方先生は、絶対にこんな褒められ方をしてもうれしくないでしょうけど、Xに勝ってます(笑)。

──SNSの?

そう、イーロン・マスクのXに。だって、みんなXを見ちゃうじゃないですか、誰々が不倫したとか、誰々が炎上してるとか。正直しょうもないなとわかっていても、つい見てしまう。ほとんどのエンタメがXに負けてしまう。でも、北方先生の「水滸伝」は勝ってる(笑)。

神田伯山

神田伯山

──エンタメとしての強さがある、と。

何も知らない現代人に、昔の中国の古典を「面白い」と思わせるわけですからね。しかもこうやってドラマになれば、活字を読まない人にまで届く。ある意味、古典の入り口にもなっているんじゃないでしょうか。

“命は目的じゃなくて手段”というところにグッとくる

──伯山さんから見て、今「水滸伝」が現代人に響くとすれば、どのあたりだと思いますか。

北方先生が書いた宋江の名言で、「自ら死のうなどという気はない。しかし、志のために私は命をいとうべきでもない」という言葉があります。「わざわざ死のうとは思わないけど、志のために死ぬことがあっても躊躇しない」という。今の日本の世の中って、僕もそうですけど、生きてるんだか死んでるんだかわからないというか、妙な不安だけがずっと漂っている気がするんです。でも、命は目的じゃなくて手段だよねっていうドラマを観ると、危険な香りもしながら吸い込まれそうになります。まぁ、叛乱の本ですからね。そりゃたびたび禁書になるだろうなという、それを見事に表している部分だと思います。大義ある世界の言葉は響くかなと。

──なるほど、大義。

でも同時に大義って怖いですね。国際情勢も緊迫感しかなくて、いつの時代も暴走した大義や正義がなりふり構わない感じでやってきます。いろいろな立ち位置によって見え方は真逆ですから、「水滸伝」ってまさにそういう世界で、実は「あ、これもう地続きで現代じゃん」っていう。だからこそ、今ドラマ化するのが面白いんだと思います。

神田伯山

神田伯山

連続ドラマ「北方謙三 水滸伝」 公式サイト

プロフィール

神田伯山(カンダハクザン)

1983年6月4日生まれ、東京都出身。講談師。2007年11月、三代目神田松鯉に入門する。2012年6月に二ツ目昇進、2018年に第35回浅草芸能大賞新人賞を受賞。2020年2月に真打昇進と同時に六代目神田伯山を襲名する。古典講談、中でも連続物を得意とし、持ちネタは200以上。講談会や寄席のみならずテレビ・ラジオなどに幅広く出演し、講談普及の先頭に立つ活躍をしている。TBSラジオ「問わず語りの神田伯山」でパーソナリティを担当中。