「パーム・スプリングス」|永遠のバカンスを大満喫! タイムループSF×ロマンティックコメディ

アンディ・サムバーグ(製作・主演)インタビュー

ずっとループに閉じ込められたままだったら?

──まず主演と製作を引き受けた理由を教えて下さい。最初に監督のマックス・バーバコウ、脚本のアンディ・シアラからシナリオが送られてきたそうですね。

「恋はデジャ・ブ」DVDパッケージ ©1993 COLUMBIA PICTURES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

タイムループだと「恋はデジャ・ブ」や「オール・ユー・ニード・イズ・キル」とか、すでに素晴らしい映画がいくつかある。そんな中で最初は正直「タイムループか……」ってちょっとナーバスになってしまう部分はあったんだよね。

──確かにSFの中でも定番のジャンルです。

でも「パーム・スプリングス」はちょっと違った。この映画は、これまでのループ映画のラストから始まるようなもの。言ってしまえば「恋はデジャ・ブ」のビル・マーレイが、ずっとループに閉じ込められたままだったら?という話なんだ。

──なるほど。あなたが演じたナイルズはループから出ることをあきらめて、すでに何万回と同じ1日を過ごしている孤独なキャラクターでした。

そしてナイルズだけじゃなくて、ループしているキャラクターを複数描くことで、とても深いレベルで人間関係を突き詰めて考えた作品なんだ。コメディ映画ではあまりないようなエモーショナルな部分がすごく気に入った。

──笑える部分とシリアスな描写が絶妙なバランスで保たれていますよね。ナイルズも毎日のバカンスを満喫しているようで「人間は誰もが1人」という人生観を語っていました。

そう、ギアが常に行ったり来たりしているところも好きなんだ。しかも、すごく自然な形でね。そういったすべての要素が魅力的に感じた。人生において自分が望む関係であれば、やっぱり相手を信じて飛び込まないといけない。この美しい物語が、そのことのメタファーにもなるんじゃないかって考えたんだよね。

「パーム・スプリングス」

──脚本家のシアラは、あなたから大きな助言があったとインタビューで語っていました。いったいどんなアドバイスを?

最初に、もっとスケールを大きくしようと励ましたんだ。もともとはまったくお金を掛けずに友達と砂漠でこっそり撮影できるような企画だった。

──完成した作品も低予算と聞いてますが、さらに小規模だったんですね。

大きなシークエンスが増えたり、爆発といった派手なショットが増えたり。マックスとアンディ(・シアラ)には「チャレンジすることを恐れない」と伝えた。この規模の予算で作りたいと思った理由は、クリエイティブな選択を全部自分たちでしたいと思ったから。だから僕が好きな要素もたくさんブレンドされている。コメディ、SF、自分と妻との幸せな結婚生活について。最初に読んだときから特別な脚本だったよ。

一番大変だったループの撮影は

──ループ映画の場合、やはり撮影はロケーションごとに進むんでしょうか。

そうだね。ロケーションごとに分けて、そこで起きることを脚本通りの順番に。キャラクターの感情をしっかり追いながら演じることができたから、とても助けになったよ。

──ループ作品だと同じキャストで同じ場面、同じ行動を何度も演じることが多いと思います。さらにテイクを重ねると思うと……。撮影で一番気が狂いそうになったシーンは?

一番大変だったのは……何度も目覚めるシーンだったかも。

「パーム・スプリングス」

──ナイルズの1日は、恋人のミスティと同じ部屋で目覚める場面から始まっていました。

セリフはないから、その前に何が起きたのか?を考えてそれを表情で示す必要があるんだ。飛行機が墜落したあとは「わーっ!」て起きたり、リセットの前がユーモアのあるシーンだと楽なんだよね(笑)。逆に、リセットの前にサラとの関係に何かがあったときは、もう少し微妙なニュアンスが必要で難しかったんだ。

──なるほど。

でも、みんなが同じ衣装、同じ場所にいて演じていると利点もあって。編集では、いろんな選択肢が生まれたみたいなんだ。あるつながりのために撮ったリアクションじゃなくても、ほかのところから持ってこれたりね。ある意味すごく助けになったよ。

──撮影ではセリフはかっちり決まっていたんでしょうか? それともアドリブが多め?

現場でのアドリブはほとんどなかった。いかんせんバジェットが大きくなかったし、今回はその余裕がなかったんだ。自由にカメラを回しながらアドリブで撮っていくのは、大好きなんだけどね。

──撮影は約22日間と非常にタイトだったと聞いてます。

だから撮影に入る前、脚本家とかなりいろんな話をしたんだ。そこで話したことがすでにセリフに反映されている。でも砂漠でのキャンプや2人が喧嘩する大事なシーンのリハーサルは重ねたよ。実はこの作品に限らず、怒りを表現するシーンがちょっと苦手なんだ。あんまり普段怒ったりしないもんだから、どのくらい怒ったらいいのかわからなくて。つい怒りすぎる演技をしてしまうことが多いんだよ(笑)。

「パーム・スプリングス」

何度でも味わいたい人生最高の1日

──あなた自身、孤独なループに陥った2人と似たような心境になったことは?

やっぱり、この1年のコロナ禍で、かな。自分が住んでいるエリアは、まだロックダウンが続いているような状態(※)。この映画は、人間が陥りやすいパターンや、つい何度もしてしまう選択について描いているけど、僕はなるべく、そういうループにはまらないようにしてる。だからこそ、この映画が好きなんだ。

※取材は2021年3月上旬に行われた。

──では、仮に自分がタイムループに入ってしまったとして、人生の中でもう二度と味わいたくない最低な日ってありますか?

一番最悪な日は……たぶん高校時代のある日じゃないかな。

──高校時代に何があったんでしょうか……?

まあいろいろ(笑)。屈辱的な日もたくさんあったよね(笑)。

──失礼しました。逆に何度でも味わいたい最高の日は?

最高の1日は……難しいね。例えば妻と結婚した日、あるいは娘が生まれた日は人生でも最高の1日。でも毎日経験したいか?って聞かれると、あまりにも強烈すぎるよね。たぶん何度も繰り返したら、娘が生まれても「はいはい。わかったわかった」ってなっちゃう(笑)。

「パーム・スプリングス」

──そうですよね(笑)。

だから1日を決めるとしたら、子供のときに家族でビーチに行った日かな。天気も、風の具合も、ランチもちょうどよくて。すべてがいい感じだったあの日だね。

「パーム・スプリングス」