「奥様は、取り扱い注意」|綾瀬はるか×西島秀俊が贈る史上最大の夫婦喧嘩 横川良明のコラム掲載 プロデューサー枝見洋子のコメントも

綾瀬はるかと西島秀俊が共演した映画「奥様は、取り扱い注意」のBlu-ray / DVDが8月18日に発売された。本作は、元特殊工作員の専業主婦・伊佐山菜美が実は公安エリートである夫・勇輝と結婚生活を送りながら、近所で起こるさまざまな事件を解決するさまを描いたドラマ版の続編にあたる作品だ。

映画ナタリーでは本作のソフト発売を記念し、ライター横川良明のコラムを掲載。劇場版の見どころ、そして“最強の女優が演じる最強のヒロイン”の魅力に迫っている。またプロデューサー枝見洋子のコメントも掲載。ともに作品を作った者が語る綾瀬と西島が多くの人に愛されるわけとは。

文 / 横川良明(コラム)

運命の苦さを味わえる、切ないアクションエンタテインメント

横川良明 コラム

連続ドラマから劇場版へ。今やこうしたメディアミックスはヒットコンテンツの方程式だが、その内容は作品によってさまざまだ。連ドラのカラーやテイストを受け継ぎ、愛しきキャラクターたちにまた会えたという再会の喜びを提供してくれるものもあれば、映画らしい迫力とスケール感で観客の度肝を抜くものもある。

では、劇場版「奥様は、取り扱い注意」はどうだったか。そこには、単純な続編ともまた違う、もうひとつの「奥様は、取り扱い注意」というべき世界が広がっていた。

これは、夫婦の愛の物語

まず連ドラと劇場版では設定が大幅に異なる。連ドラの舞台は、高級住宅街。一方、劇場版では海辺の地方都市。扱う題材も、連ドラではカルチャースクールで知り合った主婦たちの悩みやトラブルがメインだったのに対し、劇場版は新エネルギー源開発をめぐる住民間の対立、そしてその裏でうごめく国家レベルの陰謀と、まさに正反対。作品のまとう雰囲気も、ポップなコミカルさが持ち味だった連ドラとは対照的に、劇場版は行間をしみじみと味わうような静謐なつくりとなっている。

「奥様は、取り扱い注意」

連ドラからの熱心なファンにとっては、まったく別の作品を観ている感覚に陥るかもしれない。けれど、物語が進んでいくうちに、連ドラだけでは描き切れなかった、もうひとつの「奥様は、取り扱い注意」の世界が見えてくるはずだ。

「奥様は、取り扱い注意」

その最大のポイントは、劇場版が伊佐山勇輝(西島秀俊)の視点から見た物語であること。連ドラでは、元特殊工作員の伊佐山菜美(綾瀬はるか)がその正体を隠しながら次々と悪をなぎ倒す姿が爽快だった。が、劇場版ではあることから菜美が記憶喪失に。菜美は桜井久実、勇輝は桜井裕司と名前を変え、新しい町で再び夫婦として生活を送っているところから物語が始まる。

久実が記憶を失っている分、物語の軸は裕司が担うことに。このまま記憶が戻らなければ、夫婦として幸せに暮らすことができる。けれど、もし記憶が戻れば、久実を抹殺しなければならない。そんなあまりにも残酷すぎる葛藤を背負いながら、裕司は久実を見守り続ける。

連ドラでは、勇輝がエリート公安であると判明するのは終盤だったため、物語の構造上、勇輝がどういう気持ちで菜美の夫であり続けたのか。その詳細まではなかなか描き切れなかった。

けれど、劇場版では裕司視点がふんだんに盛り込まれているため、観客も自然と裕司に感情移入できるようになっている。連ドラのときから何度となく交わされた「今日は何してた?」という質問が、決して妻を監視するためのものではなく、ほんの少し手元が狂えば簡単に砕け散ってしまう硝子細工の夫婦生活を守りたい夫の愛の言葉だということが、劇場版を観るとよくわかるのだ。

「奥様は、取り扱い注意」

すやすやと眠る妻を見つめる眼差しや、働きに出た妻を車内で見守る表情から、裕司が久実をどれだけ大切に想っているかが伝わってくる。その愛の深さを知れば知るほど、クライマックスの決断に胸を衝かれる。

愛した女は、元特殊工作員だった。決して好きになってはいけない相手を妻にした夫の内面を深掘りした“勇輝(裕司)ルート”と言えるのが、劇場版「奥様は、取り扱い注意」だ。

ラスト30分が「奥様は、取り扱い注意」の真骨頂

「奥様は、取り扱い注意」

一方で、連ドラでも劇場版でも変わらない魅力ももちろんある。それが、アクションだ。特にラスト30分のアクションはスピード感たっぷり。観客のテンションを一気にトップギアへと引き上げる。

「奥様は、取り扱い注意」におけるアクションの見どころは、多彩な手だ。連ドラのときから単純な殴打はほとんどなく、両足で相手の首を絞め上げたり、衣服を手首に絡ませ武器代わりにしたり、敵に抱っこされる状態になって、そこからひっくり返って投げ飛ばしたり、意表を突いた格闘術の数々で観る者を楽しませてくれた。

劇場版では、夫婦2人のチームプレイとなることで、見応えも倍増。菜美は俊敏性を活かした連続攻撃、勇輝は腕力重視のダイナミックなアクションと、それぞれ個性の違いが見えるのも面白い。さらに連ドラでは肉弾戦のみだったが、劇場版では銃撃戦が加わることで、一層スリリングに。背中合わせになった2人が、取り囲む敵を一網打尽にするシークエンスはエキサイティングの一言。連ドラからおなじみのクイクイと敵を手招きするような挑発ポーズも、今回は2人で一緒に披露する。まさに劇場版ならではの名場面だ。

「奥様は、取り扱い注意」

最強の女優・綾瀬はるかが演じる最強のヒロイン

「奥様は、取り扱い注意」

もちろん俳優たちの好演も忘れてはならない。主演の綾瀬はるかは今年放送されたドラマ「天国と地獄」で正義に燃える女性刑事と、シリアルキラーの疑いをかけられた男性社長という2つの人格を演じ分け、その巧みな表現力に賛辞が集まったばかり。本作でもその実力を十分に発揮している。

連ドラのときから、面倒見は良いけど、ちょっととぼけたところのある主婦の菜美としての顔と、ただ立っているだけで殺気と威圧感を放つ元特殊工作員としての顔を鮮やかに切り替えて演じていたが、劇場版ではさらにそこに記憶を失った久実としての顔も加わり、実質1人3役状態。淑やかでミステリアスな雰囲気の久実を、愛らしさの中に憂いをまじえた笑みで表現している。また、菜美となった瞬間、久実とは発声がまるで違い、その自然な演じ分けに思わず鳥肌が立ってしまう。

演技力、身体能力、そして万人から愛される健やかさ。最強のヒロイン・菜美を演じる綾瀬はるかこそが最強の女優であると断言したくなるほど、本作の中に彼女の魅力がつまっている。

「奥様は、取り扱い注意」
「奥様は、取り扱い注意」

一方、西島秀俊も普段のソフトな物腰とは一転、公安の顔つきになった瞬間、獣のような眼光に。今や「日本でいちばん公安が似合う俳優」の呼び声が高いが、その評判通り、鍛え上げた肉体から放たれるパンチの重量感や、まっすぐに伸びた蹴りの美しさは特筆モノ。あからさまに感情を解放するタイプの俳優ではない分、その淡々とした語り口や、やるせない目元に、裕司の抱える哀切がにじみ出ている。

他にも、気品と知性をたたえた檀れい、屈託のなさで作品に軽やかな風を吹き込んだ岡田健史など俳優陣は充実。劇場版「奥様は、取り扱い注意」は、綾瀬&西島の最強タッグが贈る本格バトルと、互いに想い合いながらも平穏に暮らすことさえ許されない夫婦の運命の苦さを味わえる、切ないアクションエンタテインメントへと進化している。

横川良明(ヨコガワヨシアキ)
ライター。映像・演劇を問わずエンタテインメントを中心に広く取材・執筆。著書に「人類にとって『推し』とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた」「役者たちの現在地」がある。
プロデューサーから見た
綾瀬はるかと西島秀俊の魅力

枝見洋子 コメント

「奥様は、取り扱い注意」

綾瀬はるかが世の中の多くの人に愛されるわけ

綾瀬さんが現れた瞬間、その場の空気が明るくなるような柔らかな雰囲気と、全身全霊で作品を生きる、まっすぐな強さがあって、本当に内面からぴかぴかと輝いています。その美しさが私たちを魅了し続けるのだと思います。撮影の合間には“昨日食べた美味しかったゴハンの話”で盛り上がったりしながらも、カメラの前に立つと瞬時に表情を変え、ハードなアクションに取り組み、納得がいくまで何度でもトライする姿は圧倒的でした。

「奥様は、取り扱い注意」

西島秀俊が世の中の多くの人に愛されるわけ

いつも優しく穏やかでありながら、冷静に物事を見つめていて、作り手を信じ、全力でこたえてくださる方です。撮影中たびたび素晴らしく美味しい差し入れをくださるのですが、あるとき、撮影で使用したピザトーストがとても美味しいから食べてみて!と、渡してくださったことがありました。周りの人の幸せのために惜しみない、西島さんらしくて印象的でした。

「奥様は、取り扱い注意」

映画「奥様は、取り扱い注意」の見どころ

ドラマからスケールアップした映画ならではの見応えある世界観のなかで、愛する人と自分の宿命との間で揺れる男女二人の姿が描かれています。葛藤を抱えながらも愛のために闘う、綾瀬さんと西島さんの表情は凛としていて色っぽく、二人の共闘シーンには大興奮間違いなしです。究極の愛の物語をお楽しみいただけたら嬉しいです。

枝見洋子(エダミヨウコ)
2008年に日テレ アックスオンに入社し、2012年に映画「桐島、部活やめるってよ」でプロデューサーデビュー。 その後、ドラマ「永遠のぼくら sea side blue」「ゆとりですがなにか」、映画「アズミ・ハルコは行方不明」などでプロデューサーを務め、ドラマ「奥様は、取り扱い注意」で2018年にエランドール賞プロデューサー奨励賞を受賞した。