全20話でしっかり描けるのが韓国ドラマの強み
──ドラマの前半は「ヘッドハンター殺人事件」が主軸となりますが、満島さんがこのドラマにグッと引き込まれた瞬間はありますか?
脚本の先の先まで想像しながら観るので、最初から全シーンに集中しっぱなしでした……。今ふと思い浮かんだのは第3話の序盤。主人公バルムが病院の待合室でニュースを観ていたら、少し離れたところにいた医師ソン・ヨハン(クォン・ファウン)がふと振り返って2人の目が合うんです。なんてことないシーンですけど、僕はあの瞬間にさまざまなストーリーが“見え”ました。
──満島さんが作品において重視するのは、やはり脚本でしょうか。
脚本です。主演がベテランでも、赤ちゃんでも、犬でも、脚本がいい作品はヒットするんです。「マウス」の脚本家のチェ・ランさんは、サイコパスに関するインタビューを読んだのがずっと気になっていたそうで。サイコパスに感情はあるのか? 感情を持たせたらどうなるんだろう?と、実際の事件から紐解いて脚本にしていくわけです。サイコパスにも生まれたときから現在までの人生があるから、今の姿だけ見せても何も伝わらない。だからこそ20話分のストーリーがないと描ききれないし、それだけの話数を使って作品作りできるのが韓国ドラマの強みですよね。
──韓国コンテンツの水準の高さは、改めて世界的に注目を集めていますよね。その中でも「マウス」が特に優れている部分はどこにあると思いますか?
先ほど話したキャスティングの絶妙さがまず1つ。あとはやっぱり脚本。「ちゃんと観なきゃいけない」と思わせるのが本作の持つ力だと思います。すべてに意味がありすぎてワンシーンも見逃せないんですよ(笑)。親だったり子だったり、観る人それぞれの立場でも物語の見え方が変わってくるんです。1本の糸に導かれているように見えて、実際はあらゆる糸が張り巡らされているので、その先を想像するのが楽しくて物語に没頭できました。
たくさん観るより、1本の作品と向き合う
──「マウス」は全20話に加えてスピンオフも2話あり、すべて補完してくれるので観賞後は満足感でいっぱいになりました。
だからこそ、DVDでいつでも好きなエピソードを観られるのはラッキーですよね。(本編20話)全話観たあとにスピンオフを観てもいいし、途中でスピンオフに行ったり順番を変えるのもめちゃくちゃ面白い気がします! メイキングドキュメンタリーを挟みつつ観るのもいいですね。(注:セルDVDでは本編第15話と16話の間にスピンオフ2話が収録される)
──韓国で放送された特別番組やメイキング映像も特典として収録されるので、キャストの仲の良さに癒やされて、シリアスな本編とバランスが取れそうです(笑)。
あと、この作品を通して“真剣に観る”ということに改めて向き合ってみるのもいいかもしれない。僕は流し見、ながら見をしたくないから、家でも気軽に作品を観れなくて。でもそれでいいんです。だってワンカットでも見逃すということは、その登場人物の人生という本から1ページ抜けたことになっちゃうんですよ。大切なことが書かれたページを見逃したのに「つまらない小説」という感想を持ったら作り手側に失礼だなと思うんです。僕自身も、作る側として釘付けにさせるものってなんだろうとよく考えますが、観る側としても釘付けになれる状態でなければ作品は成立しない気がします。
──コンテンツがあふれる中で、最後まで観るということ自体が少なくなっているかもしれません。
「はい次、はい次」と簡単に流し見できる今の時代、たくさんの作品に触れるという意味では悪くないとは思いますが、真剣に1本に向き合うことも忘れてはいけない。ドラマを観るという行為は、自分がどれぐらい真剣に向き合えるのか試す時間でもあると思います。たくさん観ることより、1本の作品から何をどれだけ感じられるか。最近できてないなという人は、一度このドラマとじっくり向き合ってみてもらいたいです。絶対夢中になれるし、たくさんの発見があると思います!
プロフィール
満島真之介(ミツシマシンノスケ)
1989年5月30日生まれ、沖縄県出身。2010年の舞台「おそるべき親たち」で俳優デビューを果たし、2012年に連続テレビ小説「梅ちゃん先生」で注目を集める。同年、若松孝二監督作「11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち」で第37回報知映画賞新人賞を受賞。近年は映画「花筐/HANAGATAMI」「君が君で君だ」「止められるか、俺たちを」「キングダム」「海辺の映画館―キネマの玉手箱」、大河ドラマ「いだてん ~東京オリムピック噺(ばなし)~」「青天を衝け」やNetflixシリーズ「全裸監督」などに参加した。現在、フジテレビ系ドラマ「ナンバMG5」に難破猛役で出演中。出演映画「キングダム2 遥かなる大地へ」が7月15日、「アキラとあきら」が8月26日に全国公開される。NHK Eテレの語学番組「テレビでハングル講座」では2020年度と2021年度の生徒役を務めた。
満島真之介 Official (@mitsushimax) | Twitter