松坂桃李と仲里依紗が共演したNetflixシリーズ「離婚しようよ」が全世界独占配信されている。
全9話の「離婚しようよ」は、気持ちは冷めきったもののそれぞれの事情で別れられない1組の夫婦が「離婚」という目標に向かっていくホームコメディ。育ちはいいが女性関係にだらしないイケメン3世議員・東海林大志を松坂、“お嫁さんにしたいナンバーワン女優”で大志の妻・黒澤ゆいを仲が演じたほか、錦戸亮、板谷由夏、山本耕史、古田新太らがキャストに名を連ねた。
映画ナタリーでは、脚本家の宮藤官九郎と大石静にインタビューを実施。交換日記のように執筆した共同脚本の魅力や、「離婚」がテーマの本作に込めた“ときめき”についても語ってもらった。
取材・文 / 脇菜々香撮影 / 清水純一
Netflixシリーズ「離婚しようよ」予告編公開中
ここで尻込みするならもう脚本家として成長はない(大石)
──まずは、本作の制作に至った経緯を教えてください。
大石静 最初に宮藤さんとプロデューサーの磯山晶さんでこの話が始まってたんですよね。私のほうは磯山さんとドラマ「恋する母たち」をやっていて、その終わり頃に私が「これから何かやるんだったら“離婚に向かって”みたいなのがいいと思う」って言ったら、磯山さんが「それよさそうね」って。
──では大石さんの発案がもとになっている?
大石 いえ、発案は宮藤さんと磯山さんです。たまたま同じ頃、私も同じようなアイデアを口走ったので、磯山さんが2人を組ませることを思い付いたんじゃないでしょうか? 私が参加したとき、すでに「離婚しようよ」というタイトルは決まってましたよ。
宮藤官九郎 それが2021年の年明け。僕がドラマ「俺の家の話」をやっている頃とつながってるんですね。
大石 最初の打ち合わせのとき、宮藤さんは「俺の家の話」の8話を書かれてて、すごい疲れ果てた顔をされてました(笑)。私も「和田家の男たち」とか書きながらこっちもやって、2人ともふらふらのスタートでしたね。
──そんな多忙なスケジュールの中で、参加した決め手はなんだったのでしょうか。
大石 私は宮藤さんが大好きで作品もよく観てて、すごい才能だと思ってたから、比べられるのは怖いと思ったけど、ここで尻込みするんだったらもう脚本家としてはダメだな、成長はないなと。もう1人の自分に背中を押されて「やります」って言った感じです。
──宮藤さんは大石さんが入ると聞いてどう感じられたんですか?
宮藤 磯山さんから「大石さんがいいと思うんだ」って言われて「俺はいいけど大石さんやってくれるの?」っていう驚きがまず最初。
大石 私も磯山さんにまず聞いた。「宮藤さんは私でいいって言ってるんですか?」って。
──では、両片思いみたいなところから始まったと。
宮藤 そうですね(笑)。ただ、離婚するってことはやっぱり男側の話と女側の話になるので、女性のほうは女性が書いたほうがいいだろうと考えてました。2人で共同脚本っていうのはどうやるのかわかんないけど面白そうって思いましたね。
“離婚しづらい”ってもう昔の話なんですよね(宮藤)
──共同脚本と言っても、本作は1話ずつ担当する形式ではなく、数シーン書くごとに相手に渡す交換日記のような方法で執筆されたとお聞きしました。この書き方をしてみてよかった点はありますか?
宮藤 あまり煮詰まらなかったところかな。
大石 そうですね。1人だとどこかで必ず行き詰まりますけど、2人でやるとなったら、自分の担当シーン書いてイマイチでも、「んー、出しちゃえ」みたいな(笑)。
宮藤 「このあともっと面白くなるんだけど、今はここしかないんです」ってものはなかなか人に見せたことがなかったので新鮮でしたね。「じゃあ続きお願いします」って恥ずかしいですし、もちろん1人で書いたほうが執筆に掛かる時間は短かったと思うんですけど、やり取りがずっと続いて楽しかった。
大石 苦手なことは宮藤さんに投げていたので。自分の担当のところも「ここ一発面白いこと言いたいんだけど、浮かばないから宮藤さんお願い」って書いておいて先に進む、みたいな。
宮藤 台本の中にメッセージが入っているのを初めて見ました。
大石 宮藤さんは「僕はここできない」って一度も言わなかったですけどね。
──信頼関係があってこそですね。ドラマを書く際、宮藤さんは主人公の職業から考えることが多いとお聞きしました。本作はなぜ政治家と女優の組み合わせになったのでしょうか。
宮藤 “離婚したいのにできない”っていう設定を考えたときに、政治家はやっぱりイメージが大事で、奥さんがかいがいしくサポートして、家庭は円満で、家柄もあって、みたいにガチガチに固められてるから離婚できないだろうと。女優さんのほうはもっと現実的に、CMの契約があるからここまでは夫婦でいてくれとかあるじゃないですか。どっちも離婚に向けてのハードルがあるから、政治家と女優さんかなと思ったんです。“離婚しづらい”ってもう昔の話なんですよね。今はこういう設定でもなければ離婚しても別にいいっていう時代で。
大石 何分かに1組が離婚してるんだもの。女の人も、私たちの頃までは経済力がない人はなかなか離婚が難しかったけど、お金を稼げるんだったら(結婚生活が)嫌ならやめればいいものね。
──離婚へのハードルが低くなってきているからこそ、その設定が難しかったと。
宮藤 あんまり悩んではいないんだけど、離婚できない理由は常に考えました。大志とゆいには最初子供がいなかったんだけど、授かったところからまた違う展開になっていく。
──関係性が変化していくという点では、最初はいがみ合っていた大志とゆいが、ドラマの中盤には互いの不倫相手について友達のように話すシーンもありました。
宮藤 あのファミレスのシーンってドラマのちょうど真ん中ぐらいなんです。離婚するつもりでやってきた2人が、お互いが一番いいパートナーなんじゃないかと気が付く、みたいな展開は最初からやりたかった。すごくいいシーンですよね。
大石 外の男、外の女についての愚痴を言って笑い合って深夜にごはんを食べる2人なんて、実にしみじみしていました。
宮藤 もう峠を越えてる感じしますよね。