「百円の恋」「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」を手がけるなど、日本映画界の第一線で脚本家として活躍する足立紳。自身の夫婦生活をモデルに、売れない脚本家とその恐妻を“超”赤裸々に描いた監督作「喜劇 愛妻物語」が、9月11日に全国公開される。
本特集では、映画に心底惚れたという2人の著名人に登場してもらった。嘘のない自然体なコメントが多くの共感を呼ぶ女優のYOUが、キャラクターや見どころを独自の視点で紹介。また後半では、関西を中心に人気を博すお笑い芸人メッセンジャー黒田が足立とのオンライン対談に臨んだ。
取材・文 / 奥富敏晴
年収50万円ほどの売れない脚本家。生活費は結婚10年目の妻チカに頼り切りの甲斐性なし。人並みの性欲を失っておらず、レス気味のチカとセックスに持ち込むことを日夜考えている。
- 濱田くんじゃなかったら「死ね!」って思うような旦那かもしれない(笑)。本当に濱田くんが素晴らしかった! セコいし、ダラシないけど、悪いやつじゃない。どうしようもないけど、憎めなくて愛らしい。とにかく愛らしさが勝っちゃってる。
パートで家計を支える“一家の大黒柱”。毒舌で酒好き。若い頃は豪太の才能を信じていたが、生活力のない卑屈な夫にあきれ果て、口を開けば罵倒する毎日を送る。隙あらばセックスしたがる夫にもイライラ。
- 私の場合はどっかでかっこつけたり、取り繕ったり、嘘ついたり。だから、ありのままの自分を旦那に見せられるチカが心底うらやましい! 嫁が言うことはいつも正論なんです。あさみも普段からあけすけな性格ではあるけど、演技は見ていて気持ちがよかった。
本当にリアルな夫婦の性って、なかなか見聞きできない。結婚して何年か経ってる人とかセックスレスの夫婦に観てほしい。レスを重たく考えない明るい映画。変に話し合いを設けちゃうと、余計にやりづらい。お互いに寄り添えるとレスにはならないんだけど。普通の男子は豪太みたいに何度も拒絶されたら、もう手が伸びないですよね。トライする姿を観てると少し勉強になるし、男子は豪太みたいに図太く求め続けるのがいいと思う(笑)。なんか情けなくなるぐらい性欲強い人とか、笑っちゃうよね。たまに男で相手の鼻毛が出てるから萎えたとか言う薄っぺらいやついるじゃん。深いところでちゃんとセックスしてないんだよね。豪太みたいにチカのでっかいケツの赤パンを見て「ああ、ヤりたいなー」と思えるところまで付き合って、みんなでもっと楽しく貪欲にセックスしよー!
仲いい夫婦を描くのは、ずっとイチャイチャしてればいいから簡単。じゃなくて、喧嘩ばっかりしてるのに、なぜか離れられないセックスレスの夫婦の距離感って難しいよね。結局ズルズル続けて歳を取るとどうでもよくなる。それがリアルな夫婦。豪太とチカのような距離感は、なかなか出せない。その距離感は脚本の力だし、役者の人柄と技量。大成功してるし、大好き。2人が作り出す夫婦の空気感がすべて。ここまで人と向き合うことの大変さ、そのうらやましさを感じさせる作品はないですよ。夫婦の意味がわからない部分が、いいなあって思える。人とガチンコで向き合ってない人に、こういう明るいバイブルがあるといいかもね。タイトルに「喜劇」と入ってるのもいい。日曜の朝10時、夜19時でも観られる感じ。でもセックスの話が多いか(笑)。
- YOU(ユー)
- 東京都出身。女優、タレント。ドラマや映画、舞台、バラエティ番組、エッセイなど多方面で活躍する。2020年8月にはプレミアムリーディング「もうラブソングは歌えない」の1本として足立紳が脚本・演出を手がけた「大山夫妻のこと」にマキタスポーツとペアで出演した。
次のページ »
監督・足立紳×メッセンジャー黒田 対談
「生活」って揉めるんです。ただデートしてるだけのときは気にならなかった部分が、2人の生活になると急に気になり始める。豪太とチカはちゃんと夫婦喧嘩をする。もっと深刻になるところが、あさみと濱田くんのおかげで愛情が湧く。本当だったら笑えないこと、泣きながら怒ることも、「てめえ!」と罵り合って解消できる夫婦。そんなコミカルな2人を見てると、リアルな夫婦はちょっと勇気が湧いたり、自分たちの気持ちが和らいだりすると思う。喧嘩なんて途中でアホらしくなってやめちゃったりする。あんなにぶつかり合うことないですもん。だから2人はすごく愛情深いし、ちょっとうらやましい。チカが1人で泣いてるときも絶対あるけど、暗いところがないから軽快。それを感じ取れる人が観ると、逆に2人の絆の深さを感じるはず。