家康は枯れた感じ
──織田信長、坂本龍馬に続く偉人役として徳川家康と最初に聞いたときの感想はいかがでしたか?
そうきたか!と。次の偉人について雑談したりするんです。紫式部とかが話に出たりね(笑)。家康は意外といえば意外でした。おこぼれ天下と言われてしまうような、信長や龍馬と比べるとカリスマ性では引けを取りますし。
──細川徹監督は「人気がない。地味だ」というのを逆手に取った物語を作ろうと家康を選んだそうですね。
どのように家康をアレンジするのか期待はありました。そうしたら、つまらない人をさらにつまらなくした(笑)。かわいそうな家康になりました。
──かわいそうな家康ですが、その性格が功を奏して結果的には長生きして平和に死ねます。
ドラマティックな生き方をした人はもちろんかっこいいとは思いますけど、最後に笑うのは長生きした人だともちょっと思いますね。結果的に、徳川家康はいい人生だったんじゃないかなって。主役にはなかなかなれなかったかもしれませんけど。
──なるほど。
なんだか役者も似てますね。バーンと売れてすぐ辞める人もいれば、ずっと息の長い方もいらっしゃるじゃないですか。生涯現役でずっとお仕事がある。そういう方もかっこいい。いろいろ相通ずるものがあるかも。
──織田信長や坂本龍馬と演技面で違いはありますか?
バイタリティのなさというか、枯れた感じというか。自分からどんどん行くぞという前のめりな感じはなくそうとしました。細川監督から「もっと枯れた感じで」「弱々しく」とは都度言われてますね。やってるのは僕なので似通っちゃう部分はあるかと思いますけど、2人と比べたら根本的に違います。
──撮影に入る前に、演じる偉人の参考文献を読まれたりするんでしょうか。
Wikipediaみたいなものと「マンガで読む家康」みたいなものを(笑)。ちゃんとした文献は読まないようにしてます、小河なので(笑)。
松平健さんがキュート
──松平健さんが時代劇の大物スタア・新様こと白川新太郎を演じられています。このキャスティングを最初に聞いたときは?
最初は松平さんが何かと間違えてオファーを受けたんじゃないかと思いました(笑)。僕にとっては本物の家康が出るみたいなものですからね。
──ドラマのビジュアルも松平さんの代表作である時代劇「暴れん坊将軍」に寄せてますね。
僕が本物の家康役なのに、劇中で家康を演じる松平さんを目の前にするとわからなくなります。スタッフから「松平さん、決まったよ」と聞いたとき、小河の世界をわかってくれる人なんだと安心しました。昨日ちらっと映像を観させてもらったんですが、松平さんキュートでしたよ(笑)。
──先ほどお二人の撮影シーンを見学したんですが、松平さんがとても大きく見えました。
本当に山のような方ですね。長年、立ち回りされたり、馬に乗られたりしてるせいか、体幹がものすごくしっかりしてらっしゃる。背も大きいですし、近くに行くともっと大きく見えますよ。
──撮影現場ではどんな会話を?
松平さんはあまりおしゃべりされない寡黙な方なんです。でも、2人で天ぷらを食べるシーンは直接お話したわけではないですけど、すごく通じ合えたとお芝居で感じましたね。あとから松平さんが「いいシーンができたね」とおっしゃっていたと伺って、涙が出そうになりました。
──改めて松平さんとの共演を振り返ってみていかがですか。
細川監督の演出に文句の1つも言わず、ご自身の要望も周囲に決して無理強いせず、演出通りに体現される。小河のバカバカしいことでもすごく真摯に「はい」と二つ返事でやられます。素晴らしい俳優さんだと改めて思いました。
偉人たちはドラえもん
──1月に、2023年の大河ドラマが家康を主人公にした作品「どうする家康」になると発表されました。偶然ではありますが、先んじて小河で演じられた立場から期待することはありますか……?
もう小河は別物ですから(笑)。だから、まあ単純に、単純にですよ。徳川家康を演じた人間として楽しみですよ。でも今までの大河で徳川家康を演じてきた阿部サダヲくんとか風間俊介くんとかとは、全然見方は違うと思いますよ(笑)。
──小河では家康が戦の恐怖のあまり脱糞したというエピソードも語られますが、本家にもあるかもしれないですね。
そんなのあるわけないじゃないですか(笑)。それやってしまったら小河になっちゃうでしょ! そういうどうでもいいエピソードを扱うのが小河ですから。それをやれる、やる誇りみたいなものはありますよ。小河でしか描けないですから。
──どうでもいいエピソードですけど、ちゃんとした史実で完全なフィクションではないのが小河の面白いポイントです。三宅さんが考える小河の意義とはなんでしょうか。
よく言えば偉人にもこんな一面もあるよ!という紹介とか……。
──精一杯よく言っていただいたわりに、意義が小さい気がします(笑)。
そうですね(笑)。でも、小河ってすごくバカバカしいし笑えるんですけど、どこか切ないしホロッとする。第1稿を読んだときは、ちょっと泣きましたもん。くだらないようで、よく観ると意外と深かったりする。
──後半、家康と白川の友情が軸になってきますね。
偉人たちが未来に帰っちゃうドラえもんみたいなんです。生きている時代は違うけれど、現代の人たちと一緒に過ごした濃い時間に思いを馳せる。細川監督のセンチメンタルな部分が出ているのは、小河のよさだと思います。
- 三宅弘城(ミヤケヒロキ)
- 1968年1月14日生まれ、神奈川県出身。1988年に劇団健康(現:ナイロン100℃)で初舞台を踏み、その後ナイロン100℃に所属する。舞台のみならず、映画、ドラマなど幅広く活躍。パンクコントバンド・グループ魂では石鹸としてドラムを担当しているほか、2009年からはNHK Eテレ「みいつけた!」にイスの応援団長“みやけマン”としても出演している。大河ドラマには「新選組!」「篤姫」「いだてん~東京オリムピック噺〜」へ出演。最近の主な出演作には、ドラマ「サ道」「監察医 朝顔」「俺の家の話」などがある。