「エル ELLE」のイザベル・ユペールと「キック・アス」シリーズのクロエ・グレース・モレッツが共演するスリラー「グレタ GRETA」が、11月8日に封切られる。ユペールが孤独に暮らす未亡人グレタ、モレッツが地下鉄に残されたバッグをグレタのもとに届けるフランシスを演じた。フランシスの友人・エリカ役で「イット・フォローズ」のマイカ・モンローも出演している。
この特集では、「クズの本懐」「レトルトパウチ!」で知られるマンガ家・横槍メンゴに「グレタ GRETA」を鑑賞してもらい、感想を聞いた。若い女性をターゲットにして自身の寂しさを埋めるグレタに共感はせずとも、同情の余地は感じたという横槍。「女の巨大感情を描くのが好き」と語る彼女が、“数値化できない寂しさ”や人間関係における依存などを通し、映画の魅力を説く。
取材・文 / ひらりさ
ほのぼの疑似家族ものかと思ったら…
──地下鉄で拾ったハンドバッグをきっかけに、女同士の息もつかせぬ関係性が繰り広げられる映画「グレタ GRETA」ですが、鑑賞後はどんな気持ちを抱きましたか?
いやー、本当にびっくりしました。私、一切の前情報を入れないで観たんですよ。年配女優であるイザベル・ユペールと、まだまだあどけなさの残るクロエ・グレース・モレッツの共演で、2人がひょんなことから知り合って……という流れを「寂しい女同士のほのぼの疑似家族ものかー」と思って観ていたので、中盤からの展開に衝撃を受けました。
──見事に術中にハマったんですね。
もともと、あんまり映画を観ない時期が長かったんです。マンガで育った私にとっては、映画は情報量が多すぎて、敬遠してたことがあって。でも数年前に「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」を観る機会があって、「あれ? すっきり観れる映画もあるんだな」と知り、そこからマーベル作品を全部観て、アメコミ映画にハマって、今はわりとなんでも観ます。「グレタ GRETA」は、今までの自分では手を出さないタイプの作品だったので新鮮でしたね。ストーリーとしてはシンプルなので、映画通ではない私にも安心感があって。疑似家族ものではなかったけれど(笑)。
──1年前に母を亡くし心に寂しさを抱えているウェイトレスのフランシス(クロエ・グレース・モレッツ)が、地下鉄で拾ったハンドバッグの持ち主・グレタ(イザベル・ユペール)と知り合い、心を通わせていくが、実は彼女はとんでもない狂気の持ち主で……。主要な登場人物はグレタとフランシス、そしてグレタのルームメイトであるエリカ(マイカ・モンロー)に絞られていますね。
クロエちゃんは、以前からファンなんですよ。彼女、4人お兄ちゃんがいて、誰かしらがボディガードのように付き添って歩いているプライベート写真がたくさんあるんです。それがめちゃくちゃ好き! いつまでもティーンのようなあどけない顔立ちで、お兄ちゃんにも守られているクロエちゃん演じるフランシスが、「もう大人だし」なんて言うと、強がっててかわいいー!とまた萌えました。部屋の中で自転車に乗って、ぐるぐる回っているのとかも、子供じゃん! かわいい!って思った(笑)。
──そんなフランシスが、上品な未亡人・グレタに母の面影を感じて仲良くするうちに、とんでもない目に遭ってしまう。
これで大オチかな?ってところから、何段階もひねりがあって、ビビリ倒していましたね……。
キーワードは「寂しさ」
──ホラーやスリラーは好きなんですか?
それが苦手なんですよ! 最近まで、「アダムス・ファミリー」と「ゴーストバスターズ」が限界だったくらい。でも私が好きなマンガ家さんがみんなホラー好きだから、自分の見識を広げるぞと思って、いきなり「ヘレディタリー/継承」を観たら……はちゃめちゃに恐ろしかった(笑)。でもそれ以上に奇妙なところやシュールなところが際立っていて興味深かったです。ホラーは嫌いというわけではなく心の中では好きで、感度が高くて怖がっちゃうんだと思う。お化け屋敷とかも超怖がるタイプなので。「怖いものを見たら思い切り怖がるのがストレス発散にいい」というネット記事を読んでからは、意識的に思い切り怖がるようにしています。アトラクションのようなものだと思って。
──「グレタ GRETA」で一番怖かったのは、どのシーンでしたか?
グレタにどんどん生活を侵食されたフランシスが、妄想と現実が入り交じってパニックになるシーンがあったじゃないですか。あそこは怖かったですね。曲も不穏で。ほかにもスリルあるシーンの連続でしたけど、それでも「グレタ GRETA」は、怖いというよりは悲しいなあって思って観ました。グレタが若い女の子たちを“娘”にすることを繰り返しているのは、一貫して、彼女が寂しいからじゃないですか。グレタやべえ!と思いながらも、かなり同情の余地を感じる作品でした。
──グレタのような感情、わかりますか?
私自身にはわからないんですよ。終盤で彼女が「カバンを置くだけで永遠の寂しさが埋められるなんて」と言っていたけれど、私からすると、ずいぶん労力割いている!と思いますもん(笑)。そんなに「寂しい」って思わないな。母や娘を求めたりする気持ちもあんまりわからなくて。
──寂しいときは自分で解決する?
そうですね。一人暮らしで喘息の発作が出て「あ、死ぬ」と思ったときでさえ、親の顔は浮かばなかったですよ。マンガとかだと、今際の際にみんな「母ちゃん……」とか言うのに! うちの母親が依存を許さないタイプだったから、こうなったのかなあ。私が生まれる前はおそらく家庭的な感じのイマジナリーな娘像を期待していたと思うのですが、いざ生まれた娘がそういうのにまったく向いていないのがわかり、あっさりあきらめた人で(笑)。母なりに葛藤はあったかもしれないですが、カラッと育てられたので、ウェットな母娘の感情には逆に関心がありますね。よしながふみさんの「愛すべき娘たち」とか大好きです。
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「なんでそこまで相手しちゃうの?」
- 「グレタ GRETA」
- 2019年11月8日(金)公開
- ストーリー
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ウェイトレスとして働くフランシスは、地下鉄内で置き忘れられたバッグを見つける。中に入っていた物から持ち主がグレタという女性であることを知ったフランシスは、彼女の自宅までバッグを届けることに。それをきっかけにして、未亡人のグレタと母親のいないフランシスは互いの寂しさを埋めるかのように交流を深めていった。しかしフランシスはある日、グレタの家の戸棚に自分が届けた物と同じバッグがいくつも並んでいるのを発見する。嫌悪感をあらわにするフランシスだったが、グレタによる付きまといは日に日にエスカレート。そして、フランシスの友人・エリカも巻き込んだ恐ろしい事態に発展する。
- スタッフ / キャスト
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監督・脚本:ニール・ジョーダン
配給:東北新社、STAR CHANNEL MOVIES
出演:イザベル・ユペール、クロエ・グレース・モレッツ、マイカ・モンロー、コルム・フィオール、スティーヴン・レイほか
- 「グレタ GRETA」公式サイト
- 【公式】映画「グレタ GRETA」 (@greta_jp) | Twitter
- 映画「グレタ GRETA」 (@greta.movie.jp) | Instagram
- 「グレタ GRETA」作品情報
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- 横槍メンゴ(ヨコヤリメンゴ)
- 1988年2月、三重県生まれ。2009年、マガジン・ウォーにて成人向けマンガでデビュー。2010年にCOMICすももにて、エロマンガ家と双子美少女の三角関係を描いたコメディ「はるわか」の連載を開始する。2012年に週刊ヤングジャンプにて掲載された、岡本倫原作「君は淫らな僕の女王」は、ヒロインが自制心を失うという設定と、かわいらしい絵柄とエロのギャップが人気を呼んだ。同年、月刊ビッグガンガンにて、高校生の純粋かつ歪んだ恋愛を描く「クズの本懐」の連載を開始。テレビアニメ化、実写ドラマ化も果たした。2018年に「クズの本懐」の最終9巻となる「クズの本懐 décor」が発売。インターネット上ではヨリのハンドルネームで活動し、ニコニコ動画などボーカロイドを使用した楽曲のイラストも手がける。イラストレーターとしても活躍中。