染井為人の同名小説を映画化する本作は、殺人事件の容疑者として死刑判決を受けた主人公・鏑木慶一が脱走したことから物語が展開。刑事・又貫は日本各地を潜伏する鏑木と出会った人物たちを取り調べるが、彼らの知る鏑木はそれぞれまったく別人のような姿だった。鏑木を横浜が演じたほか、吉岡里帆、
撮影は2023年の夏と2024年初頭の冬に分けて行われた。藤井は「短期間で撮影するよりは、時期を経て髪が伸びたり、体型が変わったりする部分をしっかり映像に残したいと思った。俳優によい芝居をしてもらうにはよい場を作らないといけない」と言及する。
2月上旬のこの日は東京・東映東京撮影所で実施。鏑木と、森本扮する日雇い労働者の同僚・和也が会話するシーンからスタートした。事前に丁寧な打ち合わせをし、常に真剣な表情を崩さない森本。少し離れた場所で待機する横浜は、壁に向かってじっくりと本番に備える。藤井はドラマ「だが、情熱はある」を視聴し森本の演技力に気付いたそうで「今回は、今まで彼自身が正しいと思ってやってきた芝居とは違うアプローチを要求しました。最初は苦労していた様子でしたが、今となっては“和也推し”のスタッフもいるほど人間らしい芝居をしてくれるようになりましたね」と明かした。
その後は又貫と鏑木の2ショット場面に。山田孝之は監督からの指示にも表情を崩さず淡々と対応し、間をためてゆっくりと発話するシーンではセット全体に緊張感があふれていた。山田孝之について「映画人のなかでも緊張する人」と語る藤井は、「『デイアンドナイト』にはプロデューサーで入ってくれて、今回は初めて役者でオファー。生き方とか、映画界への思いとかをずっと継承したいと思っていました」と言葉を紡ぐ。横浜も山田孝之に深く尊敬の念を抱いているそうで、藤井は「3人でごはんを食べにいったときも(横浜は)一言も発さなくて(笑)。そのぐらい彼も緊張していたんです」と打ち明けた。
そして警察署の取調室で鏑木が又貫に無実を訴えるシーンでは、藤井が横浜につかみ掛かる際の所作や力強さを指示。横浜はカット毎に感情のボルテージをあげていく。「流星とはお互いのことを知り尽くしているんです」と話す藤井は、本作での横浜を「さまざまな人格を持つキャラクターなので、まさに“横浜流星7変化”。最終形態に近い横浜流星が見れます」とアピール。脚本作りから横浜と一緒に行っていたと振り返り、「彼がどれだけ素晴らしいパフォーマンスをしてくれるのかもわかっていますから、お互いに妥協しないんです。『今の表現域は何ミリだから伝わらない』とかテクニカルな部分まで共有できた」と回想。加えて藤井は「改めて、彼の“人間になりきる力”はすごいなって。撮影で周囲のスタッフが『すげー』ってなってるのを見て『でしょ?』って思ってましたよ(笑)」と胸を張った。
本作は藤井にとって特別な思いがある作品だそうで、「もともとは、“自分の声が誰にも届かなくて助けを求めている1人の男が音楽を通して逃避行する”というまったく違う話を考えていましたが、『正体』の原作と出会って、その物語ともマッチしている部分があるなと思った」と述懐する。さらに「『正体』の物語に自分たちの哲学をいかに融合できるかが大事」と話し、「染井先生もラッシュ(未編集の映像)を観たあと『藤井さんの映画をたくさん観ていますが、たぶん考えていることとか普段感じていることが近いと思う』って言ってくれたのが本当にうれしかった」と胸を撫で下ろした。
2024年に「パレード」「青春18×2 君へと続く道」と監督作が立て続けに公開された藤井は、本作について「主演・横浜流星の最初の監督作になるはずだった」と告白。「『正体』はもともと僕の中で35歳までには撮っている想定でしたが、期せずして“第2章”にずれ込んでいる印象です」と胸中を述べる。続けて数々の作品でタッグを組んできた映画プロデューサーの河村光庸が2023年に死去したことに触れ、「『パレード』は一言で言うと“決別”、『青春18×2 君へと続く道』は“始まり”だと自分の中で定義しています。なので『正体』は一番脂が乗っている状態じゃないかな。『これは観たほうがいい』としっかり言ってもらえるような極上のエンタメ作品を流星と作れているような気がしますね」と言葉に力を込めた。
「正体」は11月29日より全国でロードショー。
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